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IBMのAIとIoT戦略はどこに向かうのか? 2016年2月後半の日経新聞まとめ

経営管理会計トピック テクノロジー
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■ IBMのAIとIoT事業の向かう先を新聞記事からトレースしていきましょう!

経営管理会計トピック

2016年2月後半に、IBMのAI(みなさんご存知のワトソン)とIoTビジネスの報道が続き、ちょっと気になったので、記事を整理してみました。新聞はこういうタテ読みも時流を捉えるには有効です。時系列順ではなく、まずは日本IBM社長のポール与那嶺氏のインタビュー記事から、IBMの大きな方向性から見てみましょう。

2016/2/22付 |日本経済新聞|朝刊 (月曜経済観測)日本企業のIT投資戻るか 攻めを意識、右肩上がり 日本IBM社長 ポール与那嶺氏

「日本企業のIT(情報技術)投資は持ち直すのか。人工知能(AI)技術を活用した新型コンピューター「ワトソン」の展開を含め、日本IBMのポール与那嶺社長に聞いた。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の日本IBM社長 ポール与那嶺氏の写真を転載)

20160222_日本IBM社長 ポール与那嶺_日本経済新聞朝刊

Q:日本企業のIT投資は持ち直しますか。

「これから右肩上がりで増える。過去20年間システム構築を抑えてきたが、攻めのIT投資に入る、という意識に日本企業が変わってきた。運良く今のIT投資は効果が出るのがすごい早いので、経営者の意識さえあれば米国にすぐに追いつくことはできる」
米企業の場合、IT部門ではなくマーケティング、人事、財務・会計などの中に入るIT投資が伸びている。一般的に日本企業の動きはいつも米企業より3~5年遅れている。日本でもこれからIT部門以外のIT投資が伸びていく」

ちょっとIT導入の片割れのコンサルティングをしている身としては、「IT部門以外のIT投資」という表現が引っ掛かりました。そもそも、IBMが世の中の企業に、いわゆる「情報システム部」という部門が必要ですよ、とキャンペーンを張り、DSS:Data Support System(意思決定支援システム)、 SIS:strategic information system(戦略的情報システム)を売り込んできた歴史があります。最近のIBMの営業が相手にしているのはIT部門ではなくて、直接、現業部門にコンタクトする機会の方を増やしているのでしょうか。ITセールスの歴史から見ると、この回帰現象は大変興味深いものです。

Q:米国を中心に、金融にITを活用する「フィンテック」がブームになっています。

「投資家が新規株式公開(IPO)のにおいを感じ、フィンテック・ベンチャー企業に投資しているからで、マネーゲームの一環だ。いま出ているベンチャー企業の99%は失敗すると思う。米大手金融機関も同じ意見だ。しかし生き残る1%はすごいと思う。グローバルな動向を注視しながら、どこに資本参加するか、買収するかを金融機関の顧客に助言していく」

本物だけが残る。2000年のドットコムバブルもそうでした。これには100%同感です。

Q:ワトソン日本語版の活用方法が注目されています。

「劇的に増えてくるデータを解析して理解し、対応策を推薦できるようになる。金融機関のコールセンターでは将来、顧客の質問にすべて音声でこたえる計画をしている。社会貢献をしながらビジネスにもなるという点で、がん治療や病気の予防にも活用できるようになる」
「ワトソンを使った企業買収のアドバイスには私自身も驚いた。『自分はこういう企業の社長で、こんな企業に関心がある』と伝えると、40社ぐらいがバーッと出てきた。様々なサービスを段階的に日本企業に提供していきたい」

さあ、ここでワトソン(AI)登場です。これは次の章に別の記事が待っています。

■ IBMとソフトバンクが強力タッグ。ワトソン君の日本語対応でビジネス拡大!?

上のインタビュー記事が出る3日前、IBMがソフトバンクとワトソンの日本語版を使ったサービスを始める、といった記事がすでに出ていました。

2016/2/19付 |日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)ワトソン、会社を変える IBMとソフトバンクが日本語版提供 三菱UFJ、LINEで顧客応対

「人工知能(AI)技術を取り入れた米IBMの新型コンピューター「ワトソン」の日本語版が登場した。日本IBMとソフトバンクが18日から提供を始め、まず三菱東京UFJ銀行や第一三共など約10社が導入した。当初は顧客の応対や分析作業の効率化を担う。自らデータを読み込み、成長していくコンピューターは日本の会社にどんな変化をもたらすのか。」

(下記は、ワトソンの日本語版提供開始を発表するソフトバンクの宮内謙社長(右)と日本IBMのポール与那嶺社長の同記事添付の写真を転載)

20160219_ワトソンの日本語版提供開始を発表するソフトバンクの宮内謙社長と日本IBMのポール与那嶺社長_日本経済新聞朝刊

まずは開発の経緯とその特徴から。
「決まった計算処理を繰り返す従来のコンピューターと異なり、ワトソンは言葉や文章を理解し、経験をもとに自ら能力を高めていく。日本語を理解するワトソンの開発は2015年2月から進められてきた。
日本語版のワトソンはインターネット上でやり取りされる言葉、論文や判例といった難解な文章も読み込む。18日の記者会見で日本IBMのポール与那嶺社長は「ビッグデータを十分に活用できるようになり、日本企業の競争力向上に役立つ」と胸を張った。」

自然言語を理解し、適切な応答ができる。そういうアルゴリズムを積んだ人工知能(AI)。その自然言語への理解度を深めるための仕掛けはあの有名な「深層学習(ディープラーニング)」ということです。

では日本での活用事例を。まずは記事添付の活用事例を下記に転載します。

20160219_ワトソンはすでに幅広いサービスで活用されている_日本経済新聞朝刊

以下は、記事で紹介された事例。

● 三菱東京UFJ銀行
「無料対話アプリ「LINE」に持つ公式アカウント。「夫の名前で振り込みをする場合に持って行くものは何?」と打ち込むと、「問い合わせ内容に近いQ&Aが見つかったよ」と返ってくる。
続けて表示する「依頼人と来店者が異なる場合に必要な持ち物を教えてください」といったQ&A。求められる回答にふさわしい内容を選ぶ役割をワトソンが担う。18日から始めたサービスでは今後、やり取りのデータを蓄積し、より精度の高い対応を目指すという。」

● ソフトバンク
「さらに店頭での活用も視野に入れる。例えば、ヒト型ロボット「ペッパー」とワトソンをつなげば、来店客の顔認証や用件の聞き取り、担当営業員への案内といった業務を託すこともできる。」

● 第一三共
「自社で持つ100万件の化合物の日本語データと新薬候補物質の照合作業にワトソンを活用。新薬開発の効率化を目指す。」

● 技術者派遣大手のフォーラムエンジニアリング
「ワトソンを使った人材派遣システムを4月に稼働させる。経験や資格など技術者一人ひとりの膨大な情報を踏まえ、適材適所の人材を効率的に派遣する仕組みを整える。」

こうした取り組みは当然、各社ともにワトソン導入で採算が取れると判断したから。

「対話や文書変換、画像認識などワトソンが持つ約30の機能は無限に近い組み合わせが可能。実際のビジネスでどう活用できるかは日本IBMやソフトバンクも十分に把握できてはいない。一方、コンサルティングなども含めると導入費用は数億円規模とされる。費用に見合う投資効果をどう説明できるかが問われる。」

⇒「日本IBM、「ワトソン」分析をクラウドで提供 人工知能に質問、答え導く
⇒「IBMワトソン追い越せ 日立、AIで経営判断

次ではさらに踏み込んで、IBMがAIを用いて、どのようなビックピクチャーを描こうとしているのか。2つの事例を紹介します。

■ 日米のIBMの攻めどころとは? そもそもAIはどうやって賢くなるのだろう?

まずは、米国本社の動きから。

2016/2/19付 |日本経済新聞|夕刊 米IBM、医療データ会社を買収 3000億円で、「ワトソン」活用にらむ

「【ニューヨーク=稲井創一】米IBMは18日、医療データサービスを手掛けるトゥルブン・ヘルス・アナリティクスを26億ドル(約3000億円)で買収すると発表した。人工知能技術を活用したコンピューター「ワトソン」を医療分野で活用するサービスの普及に向け、約2億人分の治療データを新たに獲得する。」

ワトソンを活用するのに、データサービス会社を買収。これにはいったいどういう意味があるのでしょうか?

「ワトソンはデータを蓄積・学習する機能を持つ。データ量が多ければ多いほど、利用者の問いかけに適切に回答する可能性が高まる。既に医療分野では新薬開発や医療機関の経営改善などで活用されている。
今回の買収で一気に2億人分の患者データを追加し、累計で3億人分を確保。世界最大級の医療データベースを構築する。IBMは「ワトソン」の医療分野の展開に注力しており、医療データ会社の買収を繰り返し、トゥルブン・ヘルスも含めて累計で約4500億円投じてきた。
トゥルブン・ヘルスは米連邦政府や医療機関など8500以上の顧客を抱える。」

つまり、いくらアルゴリズムを鍛え上げても、今のAIにはある限界というか、制約条件があるということです。それは、ネット上に存在する「ビッグデータ」。ワトソンが、機械学習をするにも、どんな問いを考える際にも、AIが呑み込めるデジタルデータの形での膨大な情報にアクセスすることが絶対条件、ということなのです。ハコだけあってもダメ。十分な判断材料となる、また機械学習のネタになる膨大なデジタルデータ(繰り返しなり恐縮ですが、ビッグデータです)が用意されなければならない。これがポイントです。

皆さんの生活でも、ポイントカードビジネスや、ネットサービスを受ける際の個人情報入力に触れることがあるでしょう。これは全てが、AIを賢くするための関連企業の努力といっても過言ではありません。

■ そして日本IBMがホンダと組んでF1に挑む。見出しはIoTとなっているけど?

直接「ワトソン」の名が出てきませんが、当然その後ろにはAI技術が控えていることが自明である事例が次のホンダF1でのIoT利用のお話し。

2016/2/24付 |日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)つながるF1、挑むホンダ 日本IBMのIoT採用 レース中にデータ解析

「自動車レースの最高峰フォーミュラ・ワン(F1)に再参戦したホンダの2年目が始まった。23日発表した2016年の運営体制では4月から本田技術研究所のトップがF1を統括する。英マクラーレンにエンジンを供給し、7年ぶりに復帰した15年はパワーユニットに故障が頻発した。日本IBMのデータ解析システムも本格活用するなどし、課題解決のスピードを上げる。」

(下記の写真は、22日にはスペインで新型マシンの走行テストを始めた様子を移した記事添付の写真を転載)

20160224_22日にはスペインで新型マシンの走行テストを始めた_日本経済新聞朝刊

なんと、最高時速300kmを超えるF1を走らせながら、パワーユニットを制御、モニタリングしようというのです。

「パワーユニットの安定を支えるのはあらゆるものをインターネットでつなぐ「IoT」だ。車両に取り付けた150個前後のセンサーで集めるデータをIBMの最新システムで解析。リアルタイムで燃料の残量や故障の可能性を割り出す。
解析結果はホンダのF1開発拠点「HRD Sakura」(栃木県さくら市)、英国のマクラーレンの研究拠点、サーキットの3カ所で共有。最適な給油のタイミングなどレース本番の戦略立案に役立てるほか、蓄積したデータをホンダはシーズン中のパワーユニット改善にも生かす。」

(下記は、記事添付の日英拠点をリアルタイムにつなぐデータ解析の様子の解説図を転載)

20160224_サーキットと日英の拠点をリアルタイムにつなぐ_日本経済新聞朝刊

IoTは、大きな次のIT活用社会の一要素です。その全体図は、次の通り。

⇒「ビッグデータとIoTのどこで儲けるか(1)

経営管理トピック_ビッグデータとIOTのビジネス環境

IoTは、上図でいうところの「センサー」と「アクチュエーター」の部分に当たります。全てがインターネットに接続する。走行中のF1の稼働情報すらも。その仕組みは、IoT(センサー)で集めたデータをデジタル化してネットに流し、ビッグデータを活用したAIにデータ解析を行わせ、その結果を再びネットの先になる「モノ」に返し、「モノ」の挙動を制御する。そういう一連のしくみの中で、モノとの接点部分を一般には「IoT」というわけ。

さあ、ここまで、IBMの動向から、AIやビッグデータ、IoT関連のテクノロジーとビジネスの動向を見てきました。それではこのテクロロジーの進化には死角はないのか? 特に生身の人間の雇用に影響が出そうなAIの限界は?

気になる方は、このあとAIについての最新報道のまとめ記事もご参照ください。

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