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■ 企業業績を公正妥当な方法で測定するはずの会計基準を選択する自由とは?

経営管理会計トピック

現在、日本企業は、①日本基準、②米国(SEC)基準、③IFRS(国際会計基準)、④JMIS(修正国際基準)、の4つの会計基準の選択を許容されています。いうまでもなく、企業の真実の業績と財政状態についての事実は一つしか存在しえないのですが、それを開示するルールが4つもあれば、報告結果も4つになってしまう、これが現状です。ともすれば、企業経営者が自社に有利な会計基準を、それぞれの思惑で選択しているのが実態です。何を持って自社に有利かは、その経営者の思いひとつでどうにでも変わり得るのですが。。。

どの会計基準を採用するか、企業経営者の裁量に任されているのですが、そこに定見はあるのでしょうか。それぞれのケースを順に見ていきたいと思います。

 

■ 事業展開に有利なIFRS採用は、「のれん」を減損テスト対象にせざるを得ない新日鐵住金のジレンマ

2016/3/19付 |日本経済新聞|朝刊 新日鉄住金、会計基準19年までに変更 国際基準か修正基準

「新日鉄住金は2019年までに会計基準を変更する方針だ。現在の日本基準から、国際会計基準(IFRS)か、IFRSと中身はほぼ同じだが「のれん」の定期償却を認める修正国際基準(JMIS)に変える。会計基準の見直しで海外企業との提携戦略を進めやすくする狙いがある。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼国際会計基準IFRSが変える(上)グループ経営のインフラに 共通モノサシ、内需企業もることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

だから、社名は新日「鐵」住金なのですが、ここでは「鉄」の字を使います。(^^;)

新日鉄住金は、現在「①日本基準」を採用しており、これを、企業のグローバル化(資本の世界市場での調達やM&A等を使った事業の海外展開など)に有利として、「③IFRS(国際会計基準)」か、「④JMIS(修正国際基準)」の採用を検討しています。③④への変更は、海外企業との提携やM&Aでの煩雑なデューデリ作業などを考慮すれば、同じ形式・ロジックの会計基準同士の方が円滑に作業を進めるメリットを感じているからです。また、筆者は効果の程は信じていないのですが、経営統合した海外拠点について、国ごとに同じ(日本を含む)会計基準での横並びの業績評価がしやすくなる、というメリットも想定しているはずです。

(参考)
⇒「国際会計基準IFRSが変える(上)グループ経営のインフラに 共通モノサシ、内需企業も

それでは、前述の新日鉄の意図からすれば、迷いなく、「③IFRS(国際会計基準)」の一択になるはずですが、実は、③と④とで迷いが生じる論点があるのです。

「IFRSとJMISの中身はほぼ同じだが、M&A(合併・買収)で発生するのれんの償却方法が異なる。IFRSはのれんの価値が下がった時点で損失を一括処理するのに対し、JMISは日本基準と同様に定期的に償却する。どちらを選ぶかは、今後の会計基準を巡る議論を踏まえて決める。
 新日鉄住金は「のれんの会計処理は国際的な議論があり、定期償却が望ましい」(幹部)との考えを変えていない。一方、グローバル展開を加速するには海外企業と財務諸表を簡単に比較できるようにして、提携時の手続きを円滑に進める必要がある。このため日本基準からは変える見通し。」

企業買収の際に、自社に受け入れた買収先企業の時価再評価された資産・負債を自社の連結貸借対照表に受け入れる際に、時価以上の現金(または自社株式)を対価と支払った際、その差額を「のれん」として認識します。ここまではどの会計基準を採択していようと同じ会計処理。その後、「①日本基準」と「④JMIS」だけが、のれんの定期償却(20年)を義務化していているのです。

ものづくり企業は、比較的安定した毎期の期間業績の開示に腐心する傾向があります。それゆえ、②③のような、「減損テスト」により、特定の会計期間に特別損失を一気に表出させるやり方を嫌うのです。新日鉄住金は日本を代表するものづくり企業の一つ。その逡巡の気持ち旗編よく理解できます。

 

■ 減損テストのメカニズムとは!? 分かっているようで分からない基本をおさらい

ちょうど、日経新聞夕刊にIFRSとのれんに関する復習に最適な記事が掲載されました。

2016/3/22付 |日本経済新聞|夕刊 (なるほど投資講座)決算短信を読み解く(5) 資産価値の毀損が減損損失

「貸借対照表項目の中で、評価が難しい作業の一つに、有形固定資産やのれんがあります。固定資産の取得や企業買収の際、当初に認識する金額や、定期償却後の未償却残高の認識は比較的、容易ですが、有形固定資産やのれんは著しく価値が毀損することがあります。その価値毀損額を一定の前提で測定・認識する作業が減損損失の計上です。貸借対照表での資産価値を引き下げ、引き下げ額を損益計算書で特別損失に計上します。」

ちなみに、日本基準によるのれんの定期償却分は、販管費に計上されるので、経常利益にヒットします。

「日本の会計基準の場合、減損手続きは2段階に分かれます。まず、有形固定資産や買収企業から得られる将来キャッシュフロー(CF)を見積もり、割引「前」の将来CFと資産の帳簿価格とを比較します。前者が後者より低下していた場合、今度は回収可能価額を計算し、その価額まで帳簿価格を引き下げます。
回収可能価額は、割引「後」将来CFと市場価値のいずれか高い金額を指しており、市場価値の存在を立証することが難しい場合は、割引「後」将来CFを使います。国際会計基準の場合には、最初のステップが省略され、常に、回収可能価額までの引き下げが要求されます。」

(下記は、記事添付の減損損失認識フローの2ステップの解説図を転載)

20160322_資産価値の毀損が減損損失_日本経済新聞夕刊

ここで争点になるのは、将来CFの算定です。減損テストの対象となる資産が将来にわたってどれくらいのCFを生み出すのか、事前に定量的に分かるものなのか、さらにそれを事業運営の途中経過で評価していいものなのか、議論が(主に日本国内なのですが)まだ沸騰中なのです。

 

■ 会計基準の選択次第で企業業績が変わってしまう別のケースも見ておこう!

企業業績を測るモノサシを変えるだけで、測定結果の企業業績が変わってしまうその不思議。

2016/3/18付 |日本経済新聞|朝刊 アサヒ、営業利益率8%台に上昇 今期、国際会計基準導入で

「アサヒグループホールディングスは2016年12月期の通期決算から国際会計基準(IFRS)に移行するが、これに伴い売上高営業利益率が8%台と日本基準の前期実績に比べ約1ポイント上昇する見通しだ。過去のM&A(合併・買収)に関するのれん償却の必要がなくなり、約100億円利益が押し上げられる。」

ここでも、のれんの償却負担が無くなり、採用する会計基準を変えるだけで、100億円の増益結果を生み出すことができます。

「第3四半期までは日本基準で決算を発表し、通期の業績予想も日本基準で出している。営業利益は前期比1%増の1370億円と発表している。営業利益率は7%台で、前期とほぼ同水準。競争が激しい国内ビール類で販促費などが重い。
IFRSに替わると今期の営業利益は8%増の1455億円程度になる計算。のれん償却の分だけ、過去にM&Aが多かった国際事業を中心に利益がかさ上げされる。
今期の売上高は1兆7000億円前後と、前期から1割近く減りそうだ。日本基準では1%増収だが、販売費・一般管理費に計上していた流通業者などに支払う販売奨励金を、会計基準の変更で売り上げから差し引く。」

ちなみに、念のため、「のれん」償却相当額がP/Lではなく、B/Sに残ったままとなるだけなので、アサヒのキャッシュフローまたはキャッシュ残高自体は、細かい税務処理以外の要素では、ほぼ不変であることを付け加えておきます。

 

■ 激震が走った! 総合商社1位2位の突然の数千億円単位の赤字決算

資源権益に頼り切った総合商社が、今度は資源の市況悪化により、大型減損損失の計上を余儀なくされ、商社大手5社で1兆円規模となると、今度は手のひらを反して資源ビジネスのリスクをはやし立てています。

2016/3/25付 |日本経済新聞|朝刊 商社「資源頼み」曲がり角 5社減損1兆円 価格変動リスク大きく

「一時は総合商社の屋台骨を支えた資源ビジネスが曲がり角を迎えている。2016年3月期に大手5社が計上する減損損失の合計は1兆円規模と前期(約7000億円)を上回る見通し。減損額が大きい三菱商事と三井物産は初の連結赤字に転落する。資源ビジネスの変調は業績でみた業界の序列に変化をもたらし、株式市場では時価総額の逆転現象も起きている。」

「三菱商事の今期は1500億円の連結最終赤字の見通し。単独赤字の00年3月期も連結では黒字だった。三井物産も23日、2800億円の減損損失が出るため今期は700億円の最終赤字になると発表。1959年に今の会社になってから初の赤字だ。」

(下記は、同記事添付の三菱商事と三井物産の業績グラフを転載)

20160325_資源安が業績を直撃_日本経済新聞朝刊

さあ、このいきなりの大型赤字決算を受けて、本ブログの昔からの読者なら、鬼の首をとったかのように筆者がのれんの定期償却推奨を主張するのだろうと思われているでしょうが、ここでは軽く期待を裏切りたいと思います。

次の同記事添付の、各社が資源権益を高値で手に入れた時期と資源価格の推移グラフをご覧ください。

20160325_2011~12年に参画した案件で減損_日本経済新聞朝刊

たった4,5年前に手に入れた鉱山・油井権益について、のれん部分を20年定期償却していたとしても、P/L上での費用化については、全額の5分の1か4分の1しか先に費用認識できないのです。つまり、のれんの定期償却を実施していても、この突然の減損損失計上の大半は回避できなかったのです。これは、「のれん」の定期償却の適否の問題というよりは、「期間損益の安定性」に基づく会計報告と産業構造に根付く問題になるのです。

産業革命以降、大型金融資本による工業製品を提供する第2次産業に属する製造業が産業の中核となりました。そこでは、大型の初期投資による大工場の設立や、膨大な研究開発投資が、当該ビジネスのマネタイズ前に行われることになり、一時に多額のキャッシュアウトを伴います。そうすると、継続企業(ゴーイングコンサーン)を前提に、来年も再来年も初期投資の効果によって製品を提供し続ける工場の、各会計期間の期間損益が凸凹してしまい、投資家による製造業に対する経常的な収益力の分析を迷わすことになります。そこで、「減価償却」という初期投資が効果を及ぼす年限に渡って、初期投資に係る支出を期間配分することにしたのです。これを「費用収益対応の原則」といいます。

 

■ 総合商社の権益ビジネスについても、定期償却する必要がある!? 会計報告の質の違いを見極めよう!

筆者は、「のれん」に限らず、固定資産について、減損テスト実施による減損損失の計上は、資産の含み損をいつまでも抱えているよりは健全な会計処理であるとして、これを歓迎します。それは有形無形固定遺産は、減価償却計算をしたうえで、減損テストを受けるので、厳格に資産の資産たる資格を保持していると誇れるものになっていると考えるからです。にもかかわらず、「のれん」のみ、定期償却対象としないというのは、片手落ち、依怙贔屓(えこひいき)というものです。さらに、企業会計ルールでは、厳しく「自家創設のれん」の計上を律しています。企業が勝手に、「のれん」をB/Sに計上できないよう一方で縛っているのに、M&A時の高値での買収時に発生した「のれん」をそのまま取得原価のまま放置しているのです。その場合、「のれん」を使って事業をしている中で、当該事業の収益力が買収後に高まった分(=これが自家創設のれん相当額)は、しれっと取得時の「のれん」評価額に紛れ込み続けます。これが他の資産評価との不公平でかつ不適切な資産価値評価法だと考える所以です。

(参考)
⇒「(経済教室)国際会計基準の展望(下) 「のれん」処理、日本型は妥当 西川郁生 慶応義塾大学教授
⇒「「のれん」残高24兆円に拡大 7年連続最高に 今年度5%増 潜在的な減損リスクも

総合商社は、口銭ビジネスから、人、モノ、金、情報を有機的に結びつけるハンズオンの事業投資ビジネスをする企業となりました。そういう企業は、安定的な業績報告が必要な製造業型の会計報告ではなく、投資ファンド張りの時価評価に基づく会計報告が必要なのです。会計は、その企業の生業を正しく表現してこその道具立てなのですから。

読者の方々、ゆめゆめ、いきなりの減損損失計上がなされるから、のれんを定期償却すべき、という安易な結論に飛びつかないでください。総合商社はハンズオンの投資ファンドになったから、その時々の市場価値で時価評価された方が、リスク・リターンを正しく把握できるのです。製造業とはそもそも会計報告の質が違うのです。

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会計基準の選択に翻弄される企業と投資家 -新日鐵住金、アサヒ、三菱商事、三井物産、それぞれのケースを追う! そして「のれん」を語らざるを得なくなる!http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭実務で会計ルールをおさらい三菱商事,M&A,減損損失,費用収益対応の原則,IFRS,国際会計基準,三井物産,のれん,減損テスト,修正国際基準,自家創設のれん,日本基準,米国基準,SEC基準,JMIS,減価償却費,新日鉄住金,アサヒホールデングス■ 企業業績を公正妥当な方法で測定するはずの会計基準を選択する自由とは? 現在、日本企業は、①日本基準、②米国(SEC)基準、③IFRS(国際会計基準)、④JMIS(修正国際基準)、の4つの会計基準の選択を許容されています。いうまでもなく、企業の真実の業績と財政状態についての事実は一つしか存在しえないのですが、それを開示するルールが4つもあれば、報告結果も4つになってしまう、これが現状です。ともすれば、企業経営者が自社に有利な会計基準を、それぞれの思惑で選択しているのが実態です。何を持って自社に有利かは、その経営者の思いひとつでどうにでも変わり得るのですが。。。 どの会計基準を採用するか、企業経営者の裁量に任されているのですが、そこに定見はあるのでしょうか。それぞれのケースを順に見ていきたいと思います。   ■ 事業展開に有利なIFRS採用は、「のれん」を減損テスト対象にせざるを得ない新日鐵住金のジレンマ 2016/3/19付 |日本経済新聞|朝刊 新日鉄住金、会計基準19年までに変更 国際基準か修正基準 「新日鉄住金は2019年までに会計基準を変更する方針だ。現在の日本基準から、国際会計基準(IFRS)か、IFRSと中身はほぼ同じだが「のれん」の定期償却を認める修正国際基準(JMIS)に変える。会計基準の見直しで海外企業との提携戦略を進めやすくする狙いがある。」 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼国際会計基準IFRSが変える(上)グループ経営のインフラに 共通モノサシ、内需企業もることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます だから、社名は新日「鐵」住金なのですが、ここでは「鉄」の字を使います。(^^;) 新日鉄住金は、現在「①日本基準」を採用しており、これを、企業のグローバル化(資本の世界市場での調達やM&A等を使った事業の海外展開など)に有利として、「③IFRS(国際会計基準)」か、「④JMIS(修正国際基準)」の採用を検討しています。③④への変更は、海外企業との提携やM&Aでの煩雑なデューデリ作業などを考慮すれば、同じ形式・ロジックの会計基準同士の方が円滑に作業を進めるメリットを感じているからです。また、筆者は効果の程は信じていないのですが、経営統合した海外拠点について、国ごとに同じ(日本を含む)会計基準での横並びの業績評価がしやすくなる、というメリットも想定しているはずです。 (参考) ⇒「国際会計基準IFRSが変える(上)グループ経営のインフラに 共通モノサシ、内需企業も」 それでは、前述の新日鉄の意図からすれば、迷いなく、「③IFRS(国際会計基準)」の一択になるはずですが、実は、③と④とで迷いが生じる論点があるのです。 「IFRSとJMISの中身はほぼ同じだが、M&A(合併・買収)で発生するのれんの償却方法が異なる。IFRSはのれんの価値が下がった時点で損失を一括処理するのに対し、JMISは日本基準と同様に定期的に償却する。どちらを選ぶかは、今後の会計基準を巡る議論を踏まえて決める。  新日鉄住金は「のれんの会計処理は国際的な議論があり、定期償却が望ましい」(幹部)との考えを変えていない。一方、グローバル展開を加速するには海外企業と財務諸表を簡単に比較できるようにして、提携時の手続きを円滑に進める必要がある。このため日本基準からは変える見通し。」 企業買収の際に、自社に受け入れた買収先企業の時価再評価された資産・負債を自社の連結貸借対照表に受け入れる際に、時価以上の現金(または自社株式)を対価と支払った際、その差額を「のれん」として認識します。ここまではどの会計基準を採択していようと同じ会計処理。その後、「①日本基準」と「④JMIS」だけが、のれんの定期償却(20年)を義務化していているのです。 ものづくり企業は、比較的安定した毎期の期間業績の開示に腐心する傾向があります。それゆえ、②③のような、「減損テスト」により、特定の会計期間に特別損失を一気に表出させるやり方を嫌うのです。新日鉄住金は日本を代表するものづくり企業の一つ。その逡巡の気持ち旗編よく理解できます。   ■ 減損テストのメカニズムとは!? 分かっているようで分からない基本をおさらい ちょうど、日経新聞夕刊にIFRSとのれんに関する復習に最適な記事が掲載されました。 2016/3/22付 |日本経済新聞|夕刊 (なるほど投資講座)決算短信を読み解く(5) 資産価値の毀損が減損損失 「貸借対照表項目の中で、評価が難しい作業の一つに、有形固定資産やのれんがあります。固定資産の取得や企業買収の際、当初に認識する金額や、定期償却後の未償却残高の認識は比較的、容易ですが、有形固定資産やのれんは著しく価値が毀損することがあります。その価値毀損額を一定の前提で測定・認識する作業が減損損失の計上です。貸借対照表での資産価値を引き下げ、引き下げ額を損益計算書で特別損失に計上します。」 ちなみに、日本基準によるのれんの定期償却分は、販管費に計上されるので、経常利益にヒットします。 「日本の会計基準の場合、減損手続きは2段階に分かれます。まず、有形固定資産や買収企業から得られる将来キャッシュフロー(CF)を見積もり、割引「前」の将来CFと資産の帳簿価格とを比較します。前者が後者より低下していた場合、今度は回収可能価額を計算し、その価額まで帳簿価格を引き下げます。 回収可能価額は、割引「後」将来CFと市場価値のいずれか高い金額を指しており、市場価値の存在を立証することが難しい場合は、割引「後」将来CFを使います。国際会計基準の場合には、最初のステップが省略され、常に、回収可能価額までの引き下げが要求されます。」 (下記は、記事添付の減損損失認識フローの2ステップの解説図を転載) ここで争点になるのは、将来CFの算定です。減損テストの対象となる資産が将来にわたってどれくらいのCFを生み出すのか、事前に定量的に分かるものなのか、さらにそれを事業運営の途中経過で評価していいものなのか、議論が(主に日本国内なのですが)まだ沸騰中なのです。   ■ 会計基準の選択次第で企業業績が変わってしまう別のケースも見ておこう! 企業業績を測るモノサシを変えるだけで、測定結果の企業業績が変わってしまうその不思議。 2016/3/18付 |日本経済新聞|朝刊 アサヒ、営業利益率8%台に上昇 今期、国際会計基準導入で 「アサヒグループホールディングスは2016年12月期の通期決算から国際会計基準(IFRS)に移行するが、これに伴い売上高営業利益率が8%台と日本基準の前期実績に比べ約1ポイント上昇する見通しだ。過去のM&A(合併・買収)に関するのれん償却の必要がなくなり、約100億円利益が押し上げられる。」 ここでも、のれんの償却負担が無くなり、採用する会計基準を変えるだけで、100億円の増益結果を生み出すことができます。 「第3四半期までは日本基準で決算を発表し、通期の業績予想も日本基準で出している。営業利益は前期比1%増の1370億円と発表している。営業利益率は7%台で、前期とほぼ同水準。競争が激しい国内ビール類で販促費などが重い。 IFRSに替わると今期の営業利益は8%増の1455億円程度になる計算。のれん償却の分だけ、過去にM&Aが多かった国際事業を中心に利益がかさ上げされる。 今期の売上高は1兆7000億円前後と、前期から1割近く減りそうだ。日本基準では1%増収だが、販売費・一般管理費に計上していた流通業者などに支払う販売奨励金を、会計基準の変更で売り上げから差し引く。」 ちなみに、念のため、「のれん」償却相当額がP/Lではなく、B/Sに残ったままとなるだけなので、アサヒのキャッシュフローまたはキャッシュ残高自体は、細かい税務処理以外の要素では、ほぼ不変であることを付け加えておきます。   ■ 激震が走った! 総合商社1位2位の突然の数千億円単位の赤字決算 資源権益に頼り切った総合商社が、今度は資源の市況悪化により、大型減損損失の計上を余儀なくされ、商社大手5社で1兆円規模となると、今度は手のひらを反して資源ビジネスのリスクをはやし立てています。 2016/3/25付 |日本経済新聞|朝刊 商社「資源頼み」曲がり角 5社減損1兆円 価格変動リスク大きく 「一時は総合商社の屋台骨を支えた資源ビジネスが曲がり角を迎えている。2016年3月期に大手5社が計上する減損損失の合計は1兆円規模と前期(約7000億円)を上回る見通し。減損額が大きい三菱商事と三井物産は初の連結赤字に転落する。資源ビジネスの変調は業績でみた業界の序列に変化をもたらし、株式市場では時価総額の逆転現象も起きている。」 「三菱商事の今期は1500億円の連結最終赤字の見通し。単独赤字の00年3月期も連結では黒字だった。三井物産も23日、2800億円の減損損失が出るため今期は700億円の最終赤字になると発表。1959年に今の会社になってから初の赤字だ。」 (下記は、同記事添付の三菱商事と三井物産の業績グラフを転載) さあ、このいきなりの大型赤字決算を受けて、本ブログの昔からの読者なら、鬼の首をとったかのように筆者がのれんの定期償却推奨を主張するのだろうと思われているでしょうが、ここでは軽く期待を裏切りたいと思います。 次の同記事添付の、各社が資源権益を高値で手に入れた時期と資源価格の推移グラフをご覧ください。 たった4,5年前に手に入れた鉱山・油井権益について、のれん部分を20年定期償却していたとしても、P/L上での費用化については、全額の5分の1か4分の1しか先に費用認識できないのです。つまり、のれんの定期償却を実施していても、この突然の減損損失計上の大半は回避できなかったのです。これは、「のれん」の定期償却の適否の問題というよりは、「期間損益の安定性」に基づく会計報告と産業構造に根付く問題になるのです。 産業革命以降、大型金融資本による工業製品を提供する第2次産業に属する製造業が産業の中核となりました。そこでは、大型の初期投資による大工場の設立や、膨大な研究開発投資が、当該ビジネスのマネタイズ前に行われることになり、一時に多額のキャッシュアウトを伴います。そうすると、継続企業(ゴーイングコンサーン)を前提に、来年も再来年も初期投資の効果によって製品を提供し続ける工場の、各会計期間の期間損益が凸凹してしまい、投資家による製造業に対する経常的な収益力の分析を迷わすことになります。そこで、「減価償却」という初期投資が効果を及ぼす年限に渡って、初期投資に係る支出を期間配分することにしたのです。これを「費用収益対応の原則」といいます。   ■ 総合商社の権益ビジネスについても、定期償却する必要がある!? 会計報告の質の違いを見極めよう! 筆者は、「のれん」に限らず、固定資産について、減損テスト実施による減損損失の計上は、資産の含み損をいつまでも抱えているよりは健全な会計処理であるとして、これを歓迎します。それは有形無形固定遺産は、減価償却計算をしたうえで、減損テストを受けるので、厳格に資産の資産たる資格を保持していると誇れるものになっていると考えるからです。にもかかわらず、「のれん」のみ、定期償却対象としないというのは、片手落ち、依怙贔屓(えこひいき)というものです。さらに、企業会計ルールでは、厳しく「自家創設のれん」の計上を律しています。企業が勝手に、「のれん」をB/Sに計上できないよう一方で縛っているのに、M&A時の高値での買収時に発生した「のれん」をそのまま取得原価のまま放置しているのです。その場合、「のれん」を使って事業をしている中で、当該事業の収益力が買収後に高まった分(=これが自家創設のれん相当額)は、しれっと取得時の「のれん」評価額に紛れ込み続けます。これが他の資産評価との不公平でかつ不適切な資産価値評価法だと考える所以です。 (参考) ⇒「(経済教室)国際会計基準の展望(下) 「のれん」処理、日本型は妥当 西川郁生 慶応義塾大学教授」 ⇒「「のれん」残高24兆円に拡大 7年連続最高に 今年度5%増 潜在的な減損リスクも」 総合商社は、口銭ビジネスから、人、モノ、金、情報を有機的に結びつけるハンズオンの事業投資ビジネスをする企業となりました。そういう企業は、安定的な業績報告が必要な製造業型の会計報告ではなく、投資ファンド張りの時価評価に基づく会計報告が必要なのです。会計は、その企業の生業を正しく表現してこその道具立てなのですから。 読者の方々、ゆめゆめ、いきなりの減損損失計上がなされるから、のれんを定期償却すべき、という安易な結論に飛びつかないでください。総合商社はハンズオンの投資ファンドになったから、その時々の市場価値で時価評価された方が、リスク・リターンを正しく把握できるのです。製造業とはそもそも会計報告の質が違うのです。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します