イノベーション百態(1)(こころの玉手箱)NEC会長 遠藤信博(4) 衛星携帯電話での挫折

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■ イノベーションとは何か?「プロダクトイノベーション」と「プロセスイノベーション」

経営管理会計トピック

本シリーズは、イノベーションに絡む実例を取り上げ、教科書的なイノベーションの類型が様々な形態をとってリアルビジネスに組み込まれている実態を明らかにするものです。様々な企業が新規的な取り組みをして、なぜそれが新規的なのか、そして、どうしてそれが成功をもたらしたのか、個々の市場環境・経営環境だけを見ていてはよく分からないことがあります。それを「イノベーション」というたった一つの視点で炙り出そうという試みです。

実例に入る前に、教科書的な整理から。

経営管理会計トピック_イノベーションとは

一般に「イノベーション」は何か新規性のある新発明がもたらす、テクノロジーの進化によるものというイメージがあります。その要素の影響が非常に大きいことは認めますが、誰も思いつかない新アイデアで全く新たなサービスの提供方法や、誰も発見できなかった新市場(新需要)を掘り起こすことも含まれています。

特に、「プロセスイノベーション」は、別名「オペレーショナルエクセレンス」とも呼ばれることがあります。業務改善プロセスが現場に定着し、業務オペレーションが磨きあげられ、競争上の優位性にまでなっている状態を指します。

その特徴は、
① 常により良い業務オペレーションを追求しようという考え方が現場の末端まで浸透し、継続的なオペレーションの進化を可能にする仕組みができている
② 生産、企画、研究、開発、サプライチェーン、等企業を構成するあらゆる機能・業務において達成し得るものである
③ 競合企業に対してスピードやコストで打ち勝っていくことを目指し、品質、価格、購買の簡便性、サービスなどを含む総合力によって優位性を維持する

 

■ 「シーズ」と「ニーズ」。新技術のタネは「イノベーション」の魅力的な構成要素だが、、、

2017/1/19付 |日本経済新聞|夕刊 (こころの玉手箱)NEC会長 遠藤信博(4) 衛星携帯電話での挫折

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「NECでは20年あまり、無線機器の開発に携わった。衛星地球局アンテナから始まり衛星携帯電話、携帯の基地局まで手がけた。
無線技術がもたらす素晴らしい可能性を最初に意識したのは1963年11月23日、10歳の時だ。日米間で通信衛星を介したテレビ中継の実験が初めて実施された日、ケネディ大統領がダラスで暗殺されたニュースがテレビに映し出された。地球の裏側の映像が衛星を通じて伝わるのを見て、世界をリアルタイムで理解できるすごさに驚いた。」

(下記は同記事添付の「秘密裏に開発していたがお蔵入りとなった」を引用)

20170119_秘密裏に開発していたがお蔵入りとなった_日本経済新聞夕刊

遠藤氏は大学で電磁波論を専攻し、日米衛星通信実験の翌年開催された東京五輪で、NECが衛星通信技術開発に積極的に携わり、海外へのテレビ中継に大きく貢献したことを知り、NECに就職することを決めます。意志が通り、入社早々に衛星通信用のアンテナ開発部門に配属されました。しかし、入社後まもない80年代半ばに、大きな転換点を迎えます。光ファイバー通信が実用化され、海底ケーブルとして国際通信の主役に躍り出たのです。これにより通信衛星の需要は限定され、衛星での無線技術の新たな活用法を模索する必要に迫られたのです。

ここまでの文脈で既に、2択から選択肢をひとつに絞ったことが分かります。イノベーションを起こすためには、その種火となる技術的シーズを如何に有効活用するか(シーズ的発想)、あるいは、とことん顧客ニーズに応えようとする工夫を続けるか(ニーズ的発想)に臨戦態勢をどう取るかが分かれます。遠藤氏は、光ファイバーによる海底ケーブルの登場によって、国際通信市場での衛星通信技術の活用の道が閉ざされた危機に直面します。そこで、前者のシーズ的発想でそのまま技術開発を進めることを選択するのです。

 

■ ユーザの声を聴く「マーケットイン」と「イノベーション」の関係性とは?

遠藤氏は通信衛星技術を生かして、携帯電話市場を開拓する道を選びました。

「私は衛星携帯電話の開発チームを率いることになった。全世界をカバーできると期待された衛星携帯電話を展開する英ICOグローバルコミュニケーションズ向けだ。他社よりも小さい端末を秘密裏に開発した。だが、開発を始めて2年後の99年、製品化直前でICOは突然経営破綻する。」

ここで大きな誤算が生じます。自分たちが手掛けていた技術開発が遅延も行き詰まりもせずに、外部からそのショックがもたらされます。

「原因は国際ローミング(相互乗り入れ)技術の実用化だった。携帯電話会社が組むことで、世界中普通の携帯電話で通話できるようになった。衛星携帯電話は太刀打ちできないと判断され、ICOは投資家から見放されてしまったのだ。」

遠藤氏はここで大いに反省した心情を次のように吐露されています。

「この挫折で「シーズ(技術の種)を育てれば、顧客にメリットを提供できる」という技術志向の発想は通用しないことを学んだ。「普段使っている携帯電話をどこでも使いたい」という消費者の欲求の強さに気づかなかった。開発した衛星電話の模型を見るたびに、市場の、そして人間の本質的欲求の理解こそビジネスの本質だと心新たにする。」

 

■ 「イノベーション」の類型化の整理と遠藤氏の新たな決意!

この衛星通信技術のケースに関する事例を、冒頭のイノベーションの類型化に沿って振り返るとどうなるでしょうか。シュンペーターの類型化だと「①新しい財貨すなわち消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産」、現代の実務的な2分法ならば「A:プロダクトイノベーション(製品革新)」に当てはまります。

この種のイノベーションは、その新技術・新製品の新規性はもとより、消費者の生活全般に対して、大いに付加価値を提供するものでないと、受け入れられることはありません。新しいだけでなく、生活を変える効用がとても大切になってきます。この点で、従来からある携帯電話のローミング技術の方が、消費者にとって生活をよりよく変えてくれる効用が大きかったということで、市場での顧客選択にさらされる前にその可能性の芽が迅速かつ適正に摘まれたのです。

このコラムの最後は遠藤氏の訓戒の言葉で締められています。

「顧客目線で「ベタープロダクツ、ベターサービス」を追求できているか。自問しながらの経営である。」

まさしく、「イノベーション」における至言だと思います。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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