イノベーション百態(3)(ビジネスTODAY)星のやモデル、アジアへ 初の海外、バリで宿泊施設開業 現場の創意で独自プラン - ホテル業のKPI、GOP等も見てみよう!

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■ イノベーションとは何か?「プロダクトイノベーション」と「プロセスイノベーション」

経営管理会計トピック

本シリーズは、イノベーションに絡む実例を取り上げ、教科書的なイノベーションの類型が様々な形態をとってリアルビジネスに組み込まれている実態を明らかにするものです。様々な企業が新規的な取り組みをして、なぜそれが新規的なのか、そして、どうしてそれが成功をもたらしたのか、個々の市場環境・経営環境だけを見ていてはよく分からないことがあります。それを「イノベーション」というたった一つの視点で炙り出そうという試みです。

実例に入る前に、教科書的な整理から。

経営管理会計トピック_イノベーションとは

一般に「イノベーション」は何か新規性のある新発明がもたらす、テクノロジーの進化によるものというイメージがあります。その要素の影響が非常に大きいことは認めますが、誰も思いつかない新アイデアで全く新たなサービスの提供方法や、誰も発見できなかった新市場(新需要)を掘り起こすことも含まれています。

特に、「プロセスイノベーション」は、別名「オペレーショナルエクセレンス」とも呼ばれることがあります。業務改善プロセスが現場に定着し、業務オペレーションが磨きあげられ、競争上の優位性にまでなっている状態を指します。

その特徴は、
① 常により良い業務オペレーションを追求しようという考え方が現場の末端まで浸透し、継続的なオペレーションの進化を可能にする仕組みができている
② 生産、企画、研究、開発、サプライチェーン、等企業を構成するあらゆる機能・業務において達成し得るものである
③ 競合企業に対してスピードやコストで打ち勝っていくことを目指し、品質、価格、購買の簡便性、サービスなどを含む総合力によって優位性を維持する

 

■ これぞ「プロセスイノベーション」。プロセス革新は働き方の意識改革から

2017/1/21付 |日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)星のやモデル、アジアへ 初の海外、バリで宿泊施設開業 現場の創意で独自プラン

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「星野リゾート(長野県軽井沢町)は20日、インドネシアのバリ島で新宿泊施設「星のやバリ」を開業した。「星のや」ブランドでは初の海外進出。スタッフ一人ひとりが清掃やフロントなど複数業務をこなし、自ら新しいサービスを生み出す。国内で培った高収益のビジネスモデルがアジアを舞台に進化する。」

(下記は同記事添付の「「星のやバリ」は別荘風の客室から運河を模したプールに直接入れる」を引用)

20170121_「星のやバリ」は別荘風の客室から運河を模したプールに直接入れる_日本経済新聞朝刊

前章で掲載したチャートでは、シュンペーターによるイノベーション5類型のうち、「⑤ 新しい組織の実現」に該当すると考えられます。それは、宿泊施設で働く人の意識を変えてしまう働き方そのものの仕組み。星野リゾートは経営再建案件を手掛けることも多く、そういう場合には、元々働いていた従業員をなるべく解雇せずに継続雇用するように努めます。そういう元従業員が、新たに同僚となった星野リゾートの従業員や、マネージャー・支配人からのトレーニングメニューで、見る見る間に、見違えるほどの働きぶりを示すことが知られています。

そういう星野リゾートの働き方意識改革を促す秘密は、同記事によると次の通り。

① マルチタスク:1人で複数業務をこなす
「通常のホテルは1つの仕事に専念するが、星野リゾートのスタッフはチームを組んで日によってフロントや清掃など担当する仕事が変わる」

② ロールプレイング研修
「宿泊者一人ひとりの好みに合うサービスを提供できるように、スタッフが模擬演習する」その目的は、マニュアルに頼らずに、自ら考えて動く人材として育て上げること。

(下記は同記事添付の「スタッフは日によって担当が変わる」を引用)

20170121_スタッフは日によって担当が変わる_日本経済新聞朝刊

そうしたトレーニング方法による効果とは、

① 顧客目線のサービス提供
マルチタスクで顧客サービスの品質だけでなく、顧客がどう感じるかという「気づき」を得る機会が増えます。星野代表は「スタッフはクリエーターだ」とまで言い切っています。

 ② 魅力ある宿泊プランの提供
星野リゾートでは、各施設で季節ごとに地域特性に合ったプランを提供しているのですが、基本的に現地スタッフの提案がベースとなっています。星野やバリでも、日本と同様の研修を受けた現地スタッフが信仰に使う供え物「チャナン」の手作り体験プランを考え出しました。こちらは、「プロダクトイノベーション」の類ですね。

HOSHINOYA Bali 星のやバリ | リゾート【公式】

聖なる川のほとりに

星のやバリ | 星野リゾート【公式】

星のやバリ星のやバリ

 

■ これぞ「プロセスイノベーション」。プロセス革新はビジネスモデルをも変革する!

管理会計屋としては、星野リゾートの経営スタイルにも着目するところです。星野リゾートでは、日本でいち早く、資産を持たずに運営に特化する欧米の手法を導入しました。日本はまだまだ不動産(宿泊施設など)の所有と宿泊施設の運営の両方を手がけるホテルが中心です。所有と運営が一体型のビジネスモデルでは、経営者やマネージャーは、アセットマネジメント(Asset Management=AM)にも目配せする必要があり、不動産の収益管理に手をかけすぎれば、当然、施設運営への目配せが少なくなります。

最近では、不動産投資における所有と経営の分離という考え方から、不動産オーナーに代わり、専門スタッフ(プロパティマネ-ジャー)が、所有する個別の収益不動産の資産価値を最大限に高め運用していくプロパティマネジメント(Property Management=PM)を進めていくという分業体制が広く一般的になりつつあります。

星野リゾートでは、現在、国内35カ所で施設を運営するまでになり、星野佳路代表は「資産を所有しないことでスピード感が生まれる」と話しています。このことは、PMに特化する中で、特にサービススタッフの働き方意識改革を中心に、ホスピタリティと宿泊企画の人気を高めることで、他社との差別化を図ろうとしています。

 

■ ホテル業の一番主要と思われるKPIをざっと見てみよう!

同記事に気になる箇所がありましたので下記に要約・抜粋します。

「星野リゾートが運営する施設の取扱高は2015年に441億円だった。「GOP」と呼ぶホテルの代表的な収益指標の比率で、軽井沢の星のやは、都市部のホテルの水準を10ポイント以上上回っているとみられる。」

「米系調査会社J・D・パワーアジア・パシフィックが実施した16年の日本ホテル宿泊客満足度調査によると、1泊3万5千円以上の部門で帝国ホテル、ザ・リッツ・カールトンに次ぎ、星のやは3番目の高評価だった。効率運営とサービス開発力が集客力向上につながる好循環ができた。」

GOPとは、「Gross Operating Profit(営業粗利益)」という制度会計ではお目にかからない管理会計的な段階利益指標です。ホテルの運営能力に関する代表的経営指標という意味付けになります。ホテル事業における部門別利益(宿泊・料飲・物販・テナント等)の合計から非配賦営業費用(部門毎の営業費用に含めることのできない人件費などの管理費や水道光熱費などの共通費・間接費)を控除した利益です。

GOP = 部門別利益{Σ(全収入額-原価-人件費+その他諸経費)} - 間接部門費

GOPを全収入で割り算すれば、営業粗利益率が求められます。通常、都市型ホテルでは、20%が最低ラインとされています。この指標が重要視されているのは、世界中に展開している国際ホテル管理企業が、運営会社との委託経営契約の際に、GOP率を何%という風に契約書に記載、または経営方針に定めていることが背景にあります。

所有と経営が分離している海外のホテル業においては、運営側が、GOPまでの利益責任を負い、不動産オーナー側は、GOPから、減価償却費、銀行への支払利息など、不動産投資コストを差し引いた分を自らの負担分として、GOPから控除して、その不動産の最終的な利益を求めます。GOPが運営側とオーナー側との利益責任の分水嶺として機能しているのです。

ちなみに、運営受託側の取り分は一般的にはどうなっているのでしょうか。
売上高リンク・・・総収入の3%前後
・利益額リンク・・・GOPの10%前後
となっているそうです。

では最後の最後に、GOPのような利益を上げるための売上高を評価するための、営業施策KPIとして、「客室稼働率」と「定員稼働率」の違いを簡単に説明して本稿を締めたいと思います。

「客室稼働率」:販売客室数合計÷販売可能客室数

「定員稼働率」:のべ宿泊人数÷総収容人数

よく、「客室稼働率」の方は新聞報道でも目にしますが、2人部屋に1人だけ泊まっても、その客室はまるごと売れたことになります。しかし、キャパシティは2分の1しか埋まっていません。キャパシティに対する宿泊者の比率を示したのが「定員稼働率」。こっちの方が、不動産の収益性を測るにはより正確です。しかし、客室単位での販売成績を見るには、「客室稼働率」の方。営業施策と収益性管理施策とに使い分けが肝要かと。

最後はKPI、管理会計のお話となりました。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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