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内製化とアウトソーシング(外注)、そしてアライアンスを峻別する戦略眼はどこに定めるべきなのか?

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 会社が事業・商品ポートフォリオ選択と業務プロセス設計をする際の着眼点とは?

経営管理会計トピック

大企業という名で呼ばれる企業は、得てして複数事業を営み、業務プロセス(バリューチェーン)も多岐にわたっています。機能軸で統合化すれば「垂直統合」、機能軸で得意分野に特化すれば「水平分業」と理解するのが通常です。何故、どの企業(産業・業界)が「垂直統合」を目指すのか、はたまた「水平分業」を選択するのか、いくつかのサンプルをつまみ食いして考えていきたいと思います。象牙の塔に籠って、我田引水的な説明に終始しないために、、、

2017/1/31付 |日本経済新聞|朝刊 (GLOBAL EYE)米半導体企業 変わる勢力図 大手顧客が自社開発

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「米国で半導体・通信機器関連企業の勢力図が変わり始めた。アマゾン・ドット・コムやアップルというビッグデータを扱うユーザーが、半導体の自社開発を加速している。この結果、インテルやクアルコム、シスコシステムズといった半導体・通信機器大手は価格の引き下げ圧力にさらされるなど、事業環境が悪化している。」

(下記は同記事添付の「通信機器用半導体を自社開発したと公表するアマゾンのジェームス・ハミルトン副社長(米ラスベガス)」を引用)

20170131_通信機器用半導体を自社開発したと公表するアマゾンのジェームス・ハミルトン副社長(米ラスベガス)_日本経済新聞朝刊

半導体業界では、特に「垂直統合」「水平分業」は次のように定義されています。

「垂直統合」:
仕様化から量産まで一括して受託するような開発形態

「水平分業」:
それぞれの開発ステージにおいて、様々な企業が協業し、半導体の開発を行う形態

双方のメリットとデメリットは下表のとおり。

経営管理会計トピック_半導体産業における「垂直統合」と「水平分業」

 

■ 米半導体会社で起きている地殻変動とは?

同記事によりますと、

アマゾン
・データセンター内の通信機器から、それらをつなぐ大陸間横断専用超高速光ファイバーケーブル網まで自社で整備する巨大インフラ企業となった
・同社の設備はいずれも半導体と通信機器を多用し社内需要は拡大しているため、内製化でも規模の経済は失われないと判断
・むしろ、特定需要向けの半導体開発を主体的に計画することができるメリットも享受できる(ロボットやIoT端末向けの半導体開発など)

● アップル
・スマートフォン(スマホ)など携帯端末で設計の「モジュール化」を加速
・機能別にいくつかの部品をまとめて規格化し、各モジュールは自社開発の半導体に最適化して生産する
・外部に半導体の設計を任せるより模倣が難しくなり、知的財産の保護につながる効果を見込む

両社は、共通した「垂直統合」によるメリット享受が狙いのよう。
① 開発工程の管理の容易さ(量産化までの時間軸の管理の主導権を握る)
② 特定需要に特化した半導体開発スケジュールの自主権確保
③ 技術流出のリスク回避

それらは、「規模の経済」の恩恵を被れるはずとして、半導体を大量に必要とする大市場を押さえている自信から来るものです。それ程、IoT、AIにより半導体市場がもっと拡大し、大手ユーザの自社開発戦略が十分にペイする見込みを2社が持っていることの証左です。

 

2017/1/31付 |日本経済新聞|朝刊 半導体装置を共同開発 日立ハイテク、フィンランド企業と

「日立ハイテクノロジーズとフィンランドのピコサンは30日、半導体製造装置を共同開発すると発表した。ピコサンの装置に日立ハイテクの技術を組み合わせ、高品質の半導体を生産できる装置をつくる。今秋頃までに技術開発にメドをつける。」

同日、それも同じ紙面で様相が異なる記事がありました。こちらは、半導体製造装置メーカー―同士の共同開発の提携話。

その要因は、高い製造技術が要請されていること。
「最先端の半導体はますます複雑になっている。スマートフォンや高速サーバー向けに、記憶素子を立体的に積み上げて容量を拡大する「3次元メモリー」が登場。演算処理用の半導体では微細化が数ナノ(ナノは10億分の1)メートル単位に達した。」

ピコサンの半導体製造装置が持つ特徴は、原子レベルで少しずつ膜を形成する仕組みで、複雑な構造でも精密な加工ができるのが強みです。しかし、高温でないと膜の質が低下するのが課題でした。そこに、日立ハイテクのプラズマ技術を組み合わせれば、低温での処理が可能になると、お互いの得意分野を持ち合わせて、ユーザのより高い要求に応えようとするもの。技術的ハードルをクリアするためのアライアンスなのです。

従来、スマイルカーブで表現されていたように、製造工程はコストメリットが出やすい大量生産によるビジネスモデル構築が大前提。それゆえ、半導体産業を代表として、電機・ハイテク産業などにおける、加工組立企業は、EMS(electronics manufacturing service)に代表されるように、高い生産技術に基づく低コストかつ大量生産をこなすことが必然。そのために、より高精度の生産設備が必要。上記の共同開発はその一端を示すものです。

 

■ 高い技術力を持ち寄って共同開発するだけがアライアンスの動機ではない

同日の日経新聞から下記連載がスタートしています。

2017/1/31付 |日本経済新聞|朝刊 (迫真)瀬戸際の物流(1)「このままではパンク」

「「アマゾン・ドット・コム」や「楽天市場」などネット通販の普及で宅配便の取扱数は増加が続く。2016年12月は最大手のヤマト運輸だけで2億3000万個を超え、過去最高を更新した。10年前に比べ4割増える一方、労働力不足で人材確保は苦戦する。」

(下記は、同記事添付の「荷物の増加で運転手不足が深刻化」を引用)

20170131_荷物の増加で運転手不足が深刻化_日本経済新聞朝刊

こうした状況下でどうやって物流インフラを維持するか。運送会社は競争関係を超えて連携に乗り出しました。

「「荷物のお届けに参りました」。ヤマト運輸で神奈川県藤沢市の配達を担当する加藤渚(26)が住民に渡したのは、実はヤマトの「宅急便」ではない。同社は昨年11月、パナソニックが開発するスマートタウン内の住宅に対して、西濃運輸や福山通運など7社の荷物を一括配送するサービスを始めた。エリア内の配送をまとめて担い、人手不足を乗り越える狙いだ。」

 

2017/2/1付 |日本経済新聞|朝刊 (迫真)瀬戸際の物流(2)「ムダな競争はやめよう」

同記事では、「呉越同舟」的な共同運送のプラットフォームが次々と構築されている様を説明しています。

● アサヒグループホールディングスとキリンホールディングス(同業同士)
・鉄道を活用した関西から北陸へのビール系飲料の共同配送の枠組み

● イオンと花王(メーカーと小売)
「荷物を中継地で交換して運ぶ「リレー方式」を昨年6月に導入したのはイオンと花王だ。イオンは千葉県市川市から三重県四日市市まで、花王は愛知県豊橋市から川崎市までアパレル商品や化粧品類を積んだ車を運行。静岡で荷台を取り換える。」

希少資源(ここではトラック運転手)の有効活用を図って、競合同士、商流上の取引先同士、企業の枠を超えて、サービス品質の維持に伴う顧客満足の最大化、その実現のためのコスト低減の同時に達成するためのアライアンスの目的がここに見て取れます。

 

■ 再び技術目線のアライアンスのお話。知財のオープン/グローズ戦略は難しい

最近脚光を浴びているのが、オープンイノベーション戦略。

(参考)
⇒「オープンイノベーション、脱自前主義ビジネスモデルのメリットとは? -(前編) 知財権のオープン&クローズ戦略の復習。トヨタと日立の事例から
⇒「オープンイノベーション、脱自前主義ビジネスモデルのメリットとは? -(後編)ダイキン、ソニー、仏トタル、アマゾン、バンダイナムコの事例を見る!
⇒「(やさしい経済学)日本企業のオープンイノベーション 東京大学教授 元橋一之 日本経済新聞まとめ

 

2017/1/30付 |日本経済新聞|朝刊 IoT・AIで変わる電機の知財戦略 日立、契約交渉に担当者 三菱電機、重点技術仕分け

「大手電機メーカーの知的財産戦略が変わり始めた。日立製作所は知財担当者がデータの取り扱いに関する契約交渉に参加。三菱電機は技術を知財の観点から仕分けして活用する方法を探る。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」の普及などで、ビジネスの付加価値が製品・技術から提供するサービスに移る中、技術の普及や営業底上げにつながる戦略を打ち出す。」

(下記は、同記事添付の「新たな知財戦略に注力する」を引用)

20170130_新たな知財戦略に注力する_日本経済新聞朝刊

産業の核の移り変わりとして、「労働集約産業」から「資本集約産業」。そして「知識集約産業」へ、事業のコアとなる要因は時と共に変容していきます。

本記事における日立の取り組みは、

「2016年5月にIoTのサービス基盤「ルマーダ」を立ち上げた。機器のセンサーなどの情報を統合・分析し、生産性向上やコスト削減などにつなげるシステムだ。途中過程では、人工知能(AI)に大量に情報を読み込ませて賢くした「学習済みモデル」を含むデータや解析方法などを構築。戸田裕二知的財産本部副本部長は「利用・活用できれば事業を横に展開しやすくなる」と指摘、知財担当者を重要案件の契約交渉に参加させている。」

これは、AI・IoTによるプラットフォームにより多くのプレイヤーを呼び込み、「エコシステム」を成立させて、他社と共存共栄を図ろうとする試みが背景にあります。

もうひとつ、本記事より、三菱電機の戦略については、

「16年4月に知財専任の執行役を新たに置いたほか、17年度からの3年間で戦略によって重点技術を仕分けする。これまでは主に(1)特許化するもの(2)営業秘密として非公開とするもの――に区分けしていたが、(3)ライセンスとして開放するもの(4)他社との連携を目指し限定開示するもの――を含む4つに分類し直す。曽我部靖志特許企画部長は「競争力強化に向けて整理し、IoT技術などの普及に備える」

従来は、①特許で囲い込むか、②営業秘密として非公開とするかの2択だけ。これは、知財権を自社リソースとして、自社ビジネスにどう活用するかに立脚した戦略。これに加え、③ライセンスとして開放、④限定開示というオープン戦略も選択可能にしました。こうしたオープン戦略を選択可能にした理由は、「エコシステム」による市場拡大メリットの方が、知財囲い込みより収益性が高いとの判断によるものです。それに加え、「セレンディピティ」による思わぬ発明からの利益を期待してのこと。

「観察の領域において、偶然は構えのある心にしか恵まれない」
(フランスのルイ・パスツールのリール大学学長就任演説より)

「構えのある心」を養うためにも、技術者がより多くの知財権にアクセスできる権利を有する方が、社会的利益も最大になり、私企業の利益も同時に達成することができる。筆者はそう信じている訳であります。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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