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原価計算 超入門(4)原価計算の目的と棚卸計算

原価計算(入門)
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■ 原価計算と聞くと、棚卸計算の悪夢が蘇る!

管理会計(基礎編)

原価計算の超入門その4は、前回予告した通り、「仕掛品(しかかりひん)」を含む、棚卸計算を原価計算目的に照らして説明します。尋ねる人によりますが、「原価計算 = 棚卸計算」と考えている人も多数いらっしゃいますし、原価計算が各種の経営管理や決算手続きで難関になっているのは、この「棚卸計算」によるところが大、といえましょう。

「棚卸計算」とは、貸借対照表(B/S)に計上される「棚卸資産」の金額を計算することです。「棚卸資産」を構成するものに、

① 原材料(製品をつくるために用意したもの、またはその使い残し)
② 仕掛品(つくりかけのもの)
③ 製品(つくったが売れ残ったもの)

があります。このほかに、商品、貯蔵品、工場消耗品、消耗工具器具備品、部品、半製品、半生工事(支出金)などがありますが、超入門なので、その細かい分類には、ここではひとまず目をつぶりましょう。

上記①~③は、その獲得に会社としてお金を出したものの、今期の売上には何ら貢献しなかったものです。売上に貢献しなかった支出は、売上原価、広く言うと、期間費用の仲間にすることができず、損益計算書(P/L)に入ることを許されません。そこで、貸借対照表(B/S)に残すのです。この、いったんお金を出して(時には買掛金かもしれませんが)購入・手配したものの、B/Sに残して、P/Lに行かないようにする会計手続きが「棚卸計算」というわけです。

筆者も、メーカーの経理部に在籍していた頃には、当然、工場に残る棚卸資産(在庫)の実査(じっさ)のため、小さな電子部品をひとつひとつ数えたものです。そういう膨大な手間をかけて棚卸計算(在庫計算)を行うため、会計実務者の中には、原価計算とか、棚卸計算と聞くと、身の毛がよだつ程、毛嫌いする方もいらっしゃるようです。

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■ 原価計算の目的をできるだけ簡素化して説明します!

下図は、筆者の現在可能な範囲で一番簡単な原価計算の目的の説明図になります。

原価計算(入門編)_最初歩の原価計算の目的

会計には、会社の内外のステークホルダーと経営実態に関する情報を共有するための「制度会計(財務会計)」と、経営者が経営管理するための数値データを用意・活用する「管理会計」という2大勢力が存在します。原価計算も、その2大巨頭の要請に従って、計算ロジックが組まれています。

制度会計の要請からは、期間損益計算を実施する上で、B/Sに残る「資産」と、P/L上で「収益」と相対させて「損益」計算に使う「費用」を峻別するため、原価計算を行うことになっています。そこでは、B/Sに残るものが棚卸資産、P/Lに向かうものが売上原価、その区別を行うのが「棚卸計算」というわけです。では、その計算根拠はいったいどこに求められば良いのか? IFRSなど、最近の会計学の理論は最近変わってきているので、様々な説明がなされているのですが、当期の売上獲得に貢献している支出を「売上原価」で、それ以外は「棚卸資産」ということにしておきます。

そして、製造業の工場にある膨大な「材料」「仕掛品」「製品」の山の中から、一体「いくら」を「売上原価」にするのか? それは、これまで有形の製品を大量に作ってきたハードウェア製造業を前提にお話すると、工場に残っているものをカウントすれば、目の前に無いものは、全てお客に売れて、売上に貢献したものと考えるのが普通です。

そこで、管理会計の要請から、原価を「単価 × 数量」に分解しておいたものから、目の前に存在する棚卸資産(いわゆる在庫)の数に、単価をかけて、棚卸資産額を計算します。そして、経営活動に投入された「総製造費用」から「棚卸資産額」を差し引いたものを、「売上原価」としておくのです。

ここが重要! 

制度会計上の原価計算は、売れたものをひとつずつカウントして、その売上原価を緻密に計算するのではなく、売れなかったものをカウントして、その評価額を計算し、総投入金額から差し引いて、売上原価なるものを計算するのです。それ故、「制度会計」が命、「財務決算」が必達の人からは、棚卸計算こそが、原価計算なのです。

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■ 原価計算の流れをB/S、P/Lとの関係を明示して説明します!

下図は、原価計算の流れを、財務諸表の関係を意識しながら表現したフロー図になります。

原価計算(入門編)_基本的な原価計算の流れ

1.費目別計算
原価計算を行う計算ロジックのかたまりをここでは「原価計算のハコ」と呼んでおきます。そのハコに、いくらの原価になるか、候補生が何人いるかを、クラス別にカウントするステップです。通常、会社がお金を出して、購入・取得してから、実際に使いきるまで、複数会計期間をまたがる可能性のある「材料費」は、ひとまず「資産性あり」として、取得時からB/Sに計上します。その他の、人件費(原価計算のハコに行くときは、「労務費」と名前が変わりますが)、一般経費(水道光熱費など)、建物や機械装置の減価償却費は、P/Lに計上されます。それらの各費目について、「原価計算のハコ」に呼ばれたら、いつでも投入できるように、ハコの手前で準備しておくのです。

2.製造原価計算
いわゆる「原価計算のハコ」に、費目別計算で今期の投入分が計算された原価要素を入れて、製品となって完成したものだけをハコから取り出してあげます。いまだ未完成のものは、「仕掛品(しかかりひん)」として、ハコの中にしまったままにしておきます。製造原価計算で、出てくるアウトプットは、

① 単価 × 数量
② 完成品 と 仕掛品

という情報です。上記①②の計算方法として、目の前にある有形物の数量をそのままカウントしてよいものを「材料費」、何らかの工夫をして数量をカウントする必要があるものを「加工費」という2つのグループに原価要素を分けておくケースが多数です。特に、「総合原価計算」で製品ひとつひとつの単価計算をしている場合には、このグルーピングは大きな力を発揮します。

3.売上原価計算
前のステップで明らかになった完成品の原価(製品ひとつひとつにとってみたら製造単価)から、売り上がったものを、「売上原価」に取り分けて、P/L上で売上と対比させる金額を算出します。製造工程が非常にシンプルで、製品単価が簡単に管理できるケースでは、

売れた数量 × 単価 

で、売上原価を計算すればよろしい。しかし、前章でお話した通り、複雑怪奇な製造プロセスで、販売対象が大量にある時は、在庫の方が、目に見えるし、圧倒的に数も少ない。よって、在庫金額を明らかにすることで、売上原価を求めるのが、制度会計流。つまり、

前期からの繰り越し分を含む投入された全ての経営資源 - 在庫 = 売上原価

では、上図から、在庫金額(棚卸資産額)がどこに存在するかを確認しておきましょう。

まず、費目別計算ステップのB/Sにある使い残しの材料費。
次に、原価計算のハコに残ったままの仕掛品。
最後に、売れ残った製品。

この3つだけ。膨大に売れた製品の原価をひとつずつ求めるより、間接的に在庫金額を求めた方が簡単というわけ。ただ、この簡単さのために、間接的に「売上原価」を求める会計手続きは、あくまで事務負担を考慮した簡便法で、期間損益を求めることを要請する制度会計に必要最小限度、応えるための回避策。経営管理のための意思決定に使える原価データとすうためには、どこまでいっても、売れたモノの、「単価 × 数量」を把握しておきたいものです。売れたモノの単価が分からずとも制度決算ができてしまう。。。ご存知でした?

この「単価 × 数量」の把握の必要の有無、在庫金額から間接的に期間費用を求めるアプローチから、制度会計と管理会計の原価データに乖離が生じやすく、「制管不一致」の原因のひとつにもなっています。おっと、「制管一致」の話題は、また改めてご説明しましょう。

次回は、このまま、「原価計算の流れ」を、この流れのまま説明していきます。(^^;)

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