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「接続機能を持つスマート製品」が変えるIoT時代の競争戦略 マイケル・ポーター(2) HBR 2015年4月号より

経営管理会計トピック テクノロジー
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■ 接続機能を持つスマート製品とは何か?

経営管理会計トピック

今回は、Harvard Business Review 2015年4月号「IoTの衝撃」で掲載された、

「接続機能を持つスマート製品」が変えるIoT時代の競争戦略」著:マイケル E. ポーターハーバード・ビジネス・スクール ユニバーシティ・プロフェッサー、ジェームズ E. ヘプルマンPTC 社長兼CEO

の解説の第2回目となります。「IoTがすべてを変える」というのはポーター氏によると物事を単純視しすぎているとのこと。まずは、IoTとしてネットにつながる「接続機能を持つスマート製品(smart, connected products)」の本質を今回は深掘りしていきましょう。

(過去関連記事)
⇒「「接続機能を持つスマート製品」が変えるIoT時代の競争戦略 マイケル・ポーター(1) HBR 2015年4月号より

※ IoTの進展によるITを起点とする市場競争の変化を解説しています。

接続機能を持つスマート製品は、

① 物理的要素
② 「スマート」な構成要素
③ 接続機能

という3つの構成要素から成り立っています。

物理的要素は、機械部分と電気部分(いわゆるメカトロ部分)を指し、自動車を例にすると、エンジン・ブロックやタイヤ、バッテリーなどがこれにあたります。
「スマート」な構成要素は、センサー、マイクロプロセッサー、データ・ストレージなど、いわゆるIT的なハードウェアおよびソフトウェア、そして洗練度の高いユーザインタフェースも含まれます。
接続機能は、有線ないし無線通信を介してインターネットに接続するためのポート、アンテナ、プロトコルを含みます。

各要素の関連や特徴で特記すべき点は3つ。
1.スマート部分が、物理的要素の性能や価値を高める作用を有すること
2.スマート部分の性能や価値は接続機能によって高められ得ること
3.接続機能は、一部機能をネット上で提供することから製品本体の機能以上の価値を出せる可能性があること

次に、接続形態に3つのスタイルがあります。
1.1対1:
個別製品がポートなどのインターフェースを介して、利用者・メーカー・他製品と
つながる
例)自動車が診断用機器に接続される
2.1対多:
中枢システムが多数の製品に同時的・連続的・断続的に接続される
例)テスラ製のクルマの多くは、性能のモニタリング、サービス、アップグレードの遠隔操作目的により、製造元が運用する同一システムに接続される
3.多対多:
複数の製品が、種類の異なる他製品、または外部のデータ源に接続される
例)様々な種類の農機具・農耕機械が、農業管理システムを調整・最適化するために相互接続される

■ 接続機能の高い機能性発揮と「新しいテクロノジー・スタック」

「接続機能を持つスマート製品」が高い機能性を発揮するには、前章の3つの接続形態のすべてが必要になります。この時、接続機能は二重の役割を果たすことになります。

① スマート製品と、動作環境、製造元、利用者、他製品やシステムとの情報交換
② 製品機能の一部を物理的な機器の外、いわゆる「製品クラウド」上に展開

スマート製品単体では発揮できない性能や追加サービスを、他とつながる、情報を伝えることで可能にする、それが「接続機能を持つスマート製品」の特徴となります。

では、その接続性を担保する技術とは? 

・センサーやバッテリーの高性能化、小型化、省エネ化
・プロセッサーの内蔵化を促進する小型化、低コスト化
・安価な接続ポートとどこでもつながる低使用料のワイヤレス接続
・ソフトウェアの迅速な開発を可能にするツール類
・ビッグデータの解析手法の数々
・340兆の1兆倍ものアドレス空間を有する、IPV6プロトコル などなど。

接続機能を有するスマート製品に対応するには、企業はいくつもの階層からなる「テクロノロジー・スタック」と呼ばれる、新しい技術インフラを築く必要に迫られています。

(下図は、論文からの抜粋)

図表1_新しいテクノロジー・スタック

① 製品
製品内蔵の改良型ハードウェア、ソフトウェア・アプリケーション、OS
② 接続機能
スマート製品のデータを他の業務アプリに引き継ぐためのツール
③ 製品クラウド
メーカーあるいはサードパーティのサーバー上で動くソフトウェア
④ ID管理とセキュリティ機能
ユーザ認証とアクセス許可
⑤ 外部の情報源とのゲートウェイ
製品機能に活用する情報を外部から取り込む機能
⑥ 業務システムとの統合
各スマート製品から収集したデータを業務システムと統合する機能

こうした新たな技術の集積の必要性が意味するところとは?

製品アプリケーションの迅速な開発・運用だけでなく、製品の中長期的な使用段階で生み出される膨大なデータを収集・分析・共有する技術も提供企業に必要になることです。

具体的には、
・ソフトウェア開発
・システム・エンジニアリング
・データ解析
・オンライン・セキュリティ
などといった新技術が、従来のメカトロ技術以外に必須となります。こうした技術を既存の社内リソースだけで何とかするのはかなり困難といえましょう。この分野の人材を新たに採用するか、こうした技術を持っている企業と連携(買収も含む)しないと、テクロノジー進展のスピードにもはや追い付けないでしょう。

 

■ 接続機能を持つスマート製品は何ができるのか?

インテリジェント性と接続機能の恩恵によって、スマート製品には、まったく新しい機能や性能を持たせることができるようになります。それらは、次の4つです。

① モニタリング
② 制御
③ 最適化
④ 自律性

これら各機能は、それ自体が有用であると共に、次のレベルの土台としての役割も果たします。この①から④は、数字の小さいものが大きいものの前提条件となります。

(下図は、論文からの抜粋)

図表2_接続機能を持つスマート製品のケイパビリティ

① モニタリング
スマート製品はこの機能を有すると、センサーと外部からのデータを使って、製品の状態、稼働状況、製品が置かれている外部環境をモニタリングできるようになります。このモニタリング情報を元に、環境や性能の変化について利用者に注意喚起も可能になりますし、メーカーや利用者は製品の稼働の特性や履歴を追跡することで、この製品の使われ方を深く知ることができます。

このデータ・経験は、企業活動の様々な局面で活かすことができます。
・製品設計:オーバースペックを防止
・市場セグメンテーション:顧客種類ごとの利用パターン分析
・アフターサービス:修理・補修の初動行動のヒット率の向上

② 制御
この機能を有するスマート製品は、製品機器あるいは製品クラウド上の遠隔コマンドやアルゴリズムによって制御可能になります。
適用例としては、
→圧力が高くなりすぎたらバルブを閉める
→駐車場ビル内の交通量が一定水準に達したら、天井の照明を点灯(消灯)する

従来は、組み込みソフトウェアや製品クラウドによる製品制御は高くつくものでした。さらに、この種の技術は大いに進展しており、パーソナライズを可能に模しています。例えば、スマートフォンで家の照明を制御できるサービスについては、侵入者を検知したら赤色を点滅させる、夜間は少しずつ暗くする、外出から一定時間経ったら自動消灯する、など。

③ 最適化
スマート製品がもたらす潤沢なモニタリング・データを、製品の動きを制御する機能と組み合わせると、数々の方法による製品性能の最適化が可能になります。現在および過去のデータにアルゴリズムやアナリティクスを適用して、産出量、稼働率、効率を劇的に向上させることができます。

例えば、風力発電の場合、風力を最大限にする狙いから、風車が一回転するたびに最寄りの超小型制御装置が各回転翼の回転数を調整する。そのうえ、各風車に対して、それ自体の発電効果を高めるだけでなく、近くの風車の効率を妨げないように調節を加えることも可能になっています。

④ 自律性
モニタリング、制御、最適化の各機能がスマート製品に備わると、今度は自律性を与えることが可能になります。好例がお掃除ロボット。センサーとソフトウェアの力により、様々な形状の部屋で床の状態を探って掃除をすることができます。

この種の洗練された製品では、環境がどうなっているかを把握し、必要な修理内容を自己診断し、利用者の嗜好に合わせて対応できるようになります。このことは、機器の操作者が不要になる例が増えるだけでなく、危険な環境下での操作を不要にしたり、遠隔操作をたやすくしたりして、人間の労働の安全性を高めることに寄与します。

「モダンタイムス」ではありませんが、「人間疎外」「労働疎外」につながりやすくなるので、この辺は人間が働くという意味を再考する上でも、十分に吟味しなければならないポイントではないかと思います。

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