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■ 相次ぐ提携解消話に、日本の消費財市場のノーマライゼーションを考える

経営管理会計トピック

ここ最近、外資の消費財ブランドと日本のメーカー・販売店との提携解消のニュースが続いております。そこで、1件1件の経緯を新聞報道レベルで振り返り、あぶりだされた共通項で、日本の消費財市場のノーマライゼーションがどれくらい進展していると思われているのかについて考察してみたいと思います。

(それぞれの提携解消話の裏話は一切しませんのであしからず。そういうゴシップはそういうソースでお楽しみください)m(_ _)m

取り上げる商材は、バーバリー、メントス、イソジン、ナビスコ、どれもこれも日本の消費者にとって馴染深いものばかりのはずです。

P&Gウェイ: 世界最大の消費財メーカーP&Gのブランディングの軌跡

■ 英バーバリーが三陽商会とのライセンス契約を打ち切り、日本は直営店で

2014/4/24付 |日本経済新聞|朝刊 バーバリー、日本を直営に 三陽商会 契約見直し調整

「英バーバリーは高級ブランド「バーバリー」のライセンス契約を巡り、三陽商会と最終調整に入った。英社は契約を打ち切り、2015年7月から日本で直営店の展開を本格化する方針。主力ブランドの契約見直しとなれば、三陽商会は経営戦略の見直しを迫られる。三陽商会は英社と共同開発した紳士服「バーバリー・ブラックレーベル」など派生の2ブランドの継続を求めているもようだ。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

これまでの経緯は以下の通り。
「英バーバリーは自社生産したトレンチコートなどを直営店で世界展開している。日本では1970年代から三陽商会、三井物産とライセンス契約を結び、企画、生産、販売を認めてきた。
 日本ではこれまで14店の直営店を運営してきたが、来年の契約終了に備えて出店を拡大する準備を始めた。」

(三陽商会とバーバリーのライセンス契約の経緯は同記事添付表を転載)

20140424_グローバル商品を販売するバーバリーの直営店(東京・中央)_日本経済新聞朝刊

20140424_三陽商会の「バーバリー」を巡る経緯_日本経済新聞朝刊

バーバリーが直営店中心の販売に切り替えるに至った理由は次の通り。
「三陽商会がライセンス販売しているバーバリーのトレンチコートやスーツ、ワンピースなどは英社が世界展開する商品とはデザインや素材などが異なり、直営店で扱う商品よりも価格帯は低い。英社は世界展開する商品に品質や価格などを統一することにより、ブランドイメージの再構築を目指す。」

「英バーバリーは09年、従来は20年まで結んでいたライセンス契約を5年間短縮することで三陽商会と合意した。これまでにも英社はスペインなどで展開していたライセンス契約を終了し、直営に切り替えてきた。」

ブランドイメージのグローバル統一というバーバリーの世界市場戦略的には、三陽商会と協同で進めてきた、「ブラックレーベル」「ブルーレーベル」という2つの派生ブランドイメージが世界戦略にはっきり言って邪魔になってきたこと、三陽商会が日本市場で手掛ける商材がデザイン・素材、価格帯全てにおいて日本ローカル仕様で製造販売してきたことの必然性が薄れてきたこと、などの判断によるものと思われます。

戦略的顧客満足活動と商品開発の論理―消費財における方法論と仕組み作り

■ クラシエフーズの海外ブランド販売権取得戦略は功を奏するのか?

クラシエフーズが相次いで海外の菓子ブランドを取得しているというお話。

2015/7/20付 |日本経済新聞|朝刊 ソフトキャンディー「メントス」 クラシエフーズが国内販売権を獲得

「クラシエフーズは10月から、オランダ、ペルフェッティ・ヴァン・メレ社のソフトキャンディー「メントス」シリーズ=写真=の輸入販売を始める。現在扱っているモンデリーズ・ジャパン(東京・品川)が9月30日で日本での販売権を手放すのに伴い、後継企業となる。新商品も発売する方針で、年間30億円の売り上げを目指す。」
「同社は前身のカネボウフーズだった1992年からペルフェッティ社の「フリスク」を日本で扱っており、この実績が評価されたとしている。総合スーパー(GMS)や量販店に張り巡らせた販売網を生かし、10代後半から20代前半の若者層に売り込む。」

(同記事添付のメントス写真を転載)

20150720_メントス_日本経済新聞朝刊

(全くの余談ですが、メントス×コーラ、いわゆるメントスガイザーは危険ですのでおやめ下さいね(^^;))

 

2016/1/6付 |日本経済新聞|朝刊 「チュッパチャプス」国内販売権 クラシエフーズ取得

「クラシエフーズは3月からキャンディー「チュッパチャプス」の輸入販売を始める。同商品はオランダの菓子メーカー、ペルフェッティ・ヴァン・メレ社が供給する。日本では森永製菓が1977年から持っていた販売権を2月末に手放すため、クラシエフーズが引き継ぐ。2016年度に20億円強の売り上げを目指す。
クラシエフーズはペルフェッティ社の代表的な錠菓「フリスク」やソフトキャンディー「メントス」の国内販売権を持つ。フリスクは前身のカネボウフーズだった1992年から販売。15年10月にはモンデリーズ・ジャパン(東京・品川)に代わってメントスの国内販売権を取得するなど、有力ブランドをそろえてきた。
チュッパチャプスはキャンディーの世界的なブランドで、各国で100種類以上の商品を販売している。クラシエフーズは3月以降、主力のコーラ味など8商品を販売する計画だ。」

クラシエフーズは、フリスクに加え、メントス、チュッパチャップスの日本での販売権を得ました。しかしながら、これらの商品は全て、ペルフェティ・ファン・メレ社(欧州)の方で製造しており、クラシエフーズは日本での販売権を持っているだけです。

世界で勝てるブランディングカンパニー―――ブランド力でマネジメントを強化する日本企業の挑戦

■ 日本市場での「イソジン」ブランド価値は相当高い!?

皆さんもよくご存じでお世話になった方も多いとおもわれる、うがい薬の「イソジン」。最近この「イソジン」周辺の動きも慌ただしくなっています。

2015/12/9付 |日本経済新聞|朝刊 明治「イソジン」手放す うがい薬ブランド 米系製薬との契約切れ

「明治は「イソジン」のブランドで販売してきたうがい薬などを別ブランドで販売する。開発元の米系製薬会社ムンディファーマが日本で自社販売することになり、明治に対しブランドの使用契約を更新しない方向になったため。明治はうがい薬そのものは継続して販売するが、30年以上親しまれてきたブランドを手放すことになる。
 イソジンの名称はうがい薬のほか、手指の消毒液、傷用の軟こうなど一般用医薬品に使用している。また、Meiji Seikaファルマが販売する医療用の消毒剤などにも冠してきた。明治は今後、自社ブランドで展開する。
 ムンディファーマはヨウ素を使った消毒液としてポビドンヨードを開発。日本では1961年に明治製菓(当時)と提携し、販売してきた。最近は痛みやがんなどの領域に特化した製薬会社として、相次ぎ製品の販売権を買収するなど、アジア地域で業容の拡大を急いでいる。「イソジン」ブランドでの自社販売を含め、日本での事業戦略を見直す。」

Meiji Seikaファルマとしては、製造から自社で手掛けており、もはや「イソジン」は一般消費者に浸透していたブランドとしてのみ活用していました。そこで、米ムンディファーマが日本を含むアジア圏での自社販売網拡充のため、ブランド買戻しに動いたというわけです。ちなみに、契約解消後もイソジン商標以外の成分、容器・包材などは、引き続き明治も使用でき、すでに製造販売承認を得ています(これがのちの争いの火種になるのですが。。。)

 

東洋経済ONLINE
「イソジン」が、カバくんに別れを告げた理由 明治、看板商品を襲うライセンス解消の衝撃
http://toyokeizai.net/articles/-/97450

「一般用医薬品のうがい薬の国内市場規模は2014年度で81億円で、明治のシェアは約5割。2016年3月期のイソジン製品(一般用医薬品)の売り上げは35億円を見込み、明治の一般用医薬品部門の主力製品の一つだ。」
「ムンディが一見唐突に契約解消を求めてきたのには、理由がある。同社は慢性腰痛やがんに伴う痛みの治療薬などを欧米中心に販売してきたが昨年から日本を重点地域に定め、積極投資を開始している。その一環で、日本市場に浸透したイソジンブランドの自社展開を決断した。」

明治が育てた「イソジン」ブランドはライセンサーの元に戻るわけです。しかも、ムンディファーマもバーバリーに比べて、日本市場では販売力がいまいちなので、塩野義製薬を販売パートナーとして選び直します。

「ムンディは国内の自社の販路がまだ充実していないため、来年4月からイソジン製品を販売するパートナーとして、塩野義製薬を選んだ。
塩野義はムンディと技術提携して、1989年に国内初のがんの麻薬性鎮痛薬「MSコンチン」、2003年にもう一つのがんの麻薬性鎮痛薬「オキシコンチン」を開発・発売。ムンディとのかかわりは長い。
塩野義にとって、うがい薬などのイソジン製品は、強みの一つである感染症領域のラインナップ増強になる。
塩野義は4月に一般用医薬品事業を「シオノギヘルスケア」として分社化し、さらなる強化を図ろうとしていたところ。すでに地位が確立したイソジンブランドは強力な援軍だろう。」

上記の塩野義製薬との動きは日経新聞では翌日にほぼ同様の内容で報道されました。

 

2015/12/10 |日本経済新聞|朝刊 塩野義「イソジン」販売 来春、米系製薬と契約

(記事内容省略)

 

米ムンディファーマのアジア圏市場戦略も進展を見せます。

2016/1/8 |日本経済新聞|朝刊 米製薬ムンディ、インフル薬も「イソジン」 ブランド展開、売上高100億円へ

「米系製薬のムンディファーマはインフルエンザやエイズウイルス(HIV)などの感染症の予防薬を「イソジン」ブランドで展開する。のどや皮膚の消毒液などを投入し、新たに提携先になる塩野義製薬を通じて販売する。提携先の切り替えを機にブランド戦略を自ら主導し、イソジン製品の売上高を早期に2014年度の2倍の100億円に引き上げたい考えだ。
 ムンディはまず2016年4月から、皮膚やのどに塗ってインフルエンザなどの感染を防ぐスプレータイプの消毒液などを投入する。医療用医薬品と大衆薬(一般用医薬品)をあわせて「ベタダイン」名で海外で扱う200品目以上の製品から、日本未販売品を売り出すことも検討する。
 開発中のHIVや重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)などの予防薬もイソジンブランドで投入する考えだ。」

具体的に、日本の一般消費市場で、「イソジン」ブランドが、清潔、風邪・感染症予防、うがいという強いイメージを持っていることを処方薬・大衆薬双方で活用しようという狙いのようです。

「知名度のある「イソジン」ブランドを活用し、感染症治療薬に強い塩野義が持つ販路を生かすことで、予防薬市場の拡大が見込める日本での顧客開拓につなげる。あわせて、市場の成長が見込める日本以外のアジア地域などでも拡販し、日本を含むアジアや新興国地域の売上高を15年推計の約5億ドル(600億円)から、16年に6億5000万ドルに増やす。」

米ムンディファーマが、感染症治療薬を塩野義の販売網を活用して日本で販促する。その際の強力なブランド「イソジン」を合わせて相乗効果を出したいという意図が見えます。

 

2016/2/10 |日本経済新聞|朝刊 塩野義系が販売の新イソジン「カバくんにデザイン類似」 明治、使用差し止め申し立て 米社側「予定通り4月に発売」

ここにきてついにゴシップが出ました。

「明治ホールディングス傘下の明治は9日、うがい薬のパッケージを巡り4月から新たに「イソジン」ブランドで販売する塩野義製薬の子会社と開発元の米系製薬ムンディファーマ(東京・港)に対し、デザインが似ているとして使用差し止めを求める仮処分を東京地裁に申し立てた。」

「カバくん」の意匠権の帰属はきちんと話し合わなかったのか???
まったく、知的財産を巡る争いはプロの仕事が完全ではない証拠ですよね。

(同記事から、明治と塩野義双方のうがい薬のパッケージ写真を転載)

20160210_明治のうがい薬パッケージ_日本経済新聞朝刊20160210_塩野義のうがい薬パッケージ_日本経済新聞朝刊

「イソジンのうがい薬は50年以上、明治側が日本国内で独占的に製造・販売していた。開発元のムンディファーマとの契約終了に伴い、4月から明治は独自のうがい薬を販売する=写真上。独自商品には1980年代から使ってきたカバのキャラクター「カバくん」を使う予定。
 ところが、ムンディファーマが4月以降の販売契約を結んだ塩野義製薬側が販売する新たなイソジンに「カバくん」に似たデザインが描かれており=同下、消費者が混同する恐れがあるという。
 ムンディファーマは「検討中のデザインに自信を持っている。友好的な承継に向けて専門家と準備をしてきた。消費者が混乱しないように予定通り4月に発売する」と話している。」

日本をアジア圏の市場の一つで特異な市場ではなくなった。製品戦略的には。しかし、パッケージキャラクターの浸透度については、「日本」市場を特別視する必要があったという所でしょうか。おそらく契約交渉の後でその重要性に気づいたんでしょうね。

知的財産法入門 (岩波新書)

■ 本当にM&Aに巨大再編がライセンス契約解消の原因なのか?

2016/2/13 |日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)山パン「ナビスコ」46年で幕 「オレオ」「リッツ」契約解消 食品再編で提携先変遷、戦略見直しに不信

「山崎製パンは12日、子会社のヤマザキ・ナビスコが「ナビスコ」ブランドを保有する米モンデリーズ・インターナショナルと結ぶライセンス契約を8月末で終了すると発表した。これにより、同ブランドのビスケット菓子「オレオ」や「リッツ」など4ブランドの国内での製造・販売を打ち切る。消費者になじみ深いブランドを巡る契約解消の背景には世界の食品業界の再編の動きがあった。」

(下記年表は、同記事添付のヤマザキ・ナビスコの歴史を転載)

20160213_ヤマザキ・ナビスコの歴史_日本経済新聞朝刊

1970年の提携から46年。米ナビスコ社のブランドを引き継いだモンデリーズ社は、9月から自社の日本法人が販売を手掛ける計画です。

交渉の経緯は次の通り。
「「下請けとして製造だけやってくれという内容だった」。12日の記者会見で山崎製パンの飯島延浩社長はモンデリーズ社側から、日本での販売権返上を要求され、製造だけを委託したい旨の打診があったと明かした。」
「ブランドを日本に根付かせてきたとの自負もあり、「下請けに」との要求は受け入れがたいものだった。」

山崎製パンでは、下請け製造では納得いかず、ライセンス契約はご破算となりました。

「モンデリーズ社側はグローバル戦略の中で日本のような「ライセンス契約という形は異例」(モンデリーズ・ジャパン)だったとするが、山崎製パン側の不信感は以前から芽生えていた。改定のたびに「契約期間が5年から2年、1年になり、ライセンス料も上がった」(飯島社長)。背景にあるのは世界の食品大手の再編だ。
当初のパートナーだったナビスコ社は米クラフト・フーズに統合され、さらに分社化でモンデリーズ・インターナショナルとなった。山崎製パンは相手が変わるたびに契約内容が大きく見直されることに不満を抱くようになった。
 だが、巨大化が進む世界の食品産業では買収や事業分離などに伴う戦略見直しは日常的だ。英国で菓子大手と飲料大手が統合して発足したキャドバリー・シュウェップスは後に飲料のシュウェップスを北米、オセアニア、欧州に分けて上場させたり日本企業に売却したりした。」

当時のナビスコ社としては、日本市場特殊論があり、現地企業(山崎製パン)にライセンスを与えた方が、もうけが出ると踏んだハズ。日本人の「食」は日本人にしか分からないと。しかし、記事にある契約見直しが、世界の食品企業の巨体化を伴う企業再編にその理由を見出すのはちょっとロジック的に難があると思います。特異と思われていた日本市場への参入障壁が低くなり、高いライセンスフィーは不要との計算によるものだと推察します。

これは、直販に切り替えても、現地法人(日本から見れば日本国内の販売法人)が普通にセールス&マーケティングしても十分に勝算がある、そして、現地法人で現地人(日本人)も、雇用市場の流動化の進展から優秀な人材を採用できると踏んだ、ということにすぎません。

つまり、日本市場は、消費財市場としても、労働市場としても、普通の市場になったということ。そして、少子高齢化で市場規模が飛躍的に拡大することが望めなくなった日本市場は、経済成長著しいアジア商圏のひとつに、数えられるようになった、ということです。

単純に販売だけ任せるなら、より強固な販売網を持っている企業にライセンス契約を切り替えるだけ(メントス、チュッパチャップス)、世界ブランドの統一に日本独自のブランド戦略はかえって邪魔(バーバリー)、日本はあくまでアジア市場の一つにすぎない(イソジン)、自社の販売網でも人材はそろう見込みが立った(モンデリーズ、ナビスコ)。

普通の国、日本。これが、世界の消費財企業が等しく持つ認識となりつつあるようです。

そして、攻守所を変えて、日本企業の新興国市場攻略はどうなのでしょうか? 「グローカル」とか「BOP:Base of pyramid」といったキャッチフレーズ、スズキのインド市場での動向など、わが身を振り返って、日本企業も他国市場をどう攻めるのが得策か。真剣に考えてみてはいかがでしょうか。

ネクスト・マーケット[増補改訂版]――「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略 (ウォートン経営戦略シリーズ)

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日本の消費財市場はノーマル化したのか? - バーバリー、メントス、イソジン、ナビスコで考える 日経新聞まとめhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭経済動向を会計で読むBOP,Meiji Seikaファルマ,イソジン,クラシエフーズ,グローカル,スズキ,チュッパチャップス,ナビスコ,ノイーマライゼーション,バーバリー,ペルフェッティ・ヴァン・メレ,ムンディファーマ,メントス,モンデリーズ,三陽商会,塩野義製薬,山崎製パン,消費財市場■ 相次ぐ提携解消話に、日本の消費財市場のノーマライゼーションを考える ここ最近、外資の消費財ブランドと日本のメーカー・販売店との提携解消のニュースが続いております。そこで、1件1件の経緯を新聞報道レベルで振り返り、あぶりだされた共通項で、日本の消費財市場のノーマライゼーションがどれくらい進展していると思われているのかについて考察してみたいと思います。 (それぞれの提携解消話の裏話は一切しませんのであしからず。そういうゴシップはそういうソースでお楽しみください)m(_ _)m 取り上げる商材は、バーバリー、メントス、イソジン、ナビスコ、どれもこれも日本の消費者にとって馴染深いものばかりのはずです。 P&Gウェイ: 世界最大の消費財メーカーP&Gのブランディングの軌跡 ■ 英バーバリーが三陽商会とのライセンス契約を打ち切り、日本は直営店で 2014/4/24付 |日本経済新聞|朝刊 バーバリー、日本を直営に 三陽商会 契約見直し調整 「英バーバリーは高級ブランド「バーバリー」のライセンス契約を巡り、三陽商会と最終調整に入った。英社は契約を打ち切り、2015年7月から日本で直営店の展開を本格化する方針。主力ブランドの契約見直しとなれば、三陽商会は経営戦略の見直しを迫られる。三陽商会は英社と共同開発した紳士服「バーバリー・ブラックレーベル」など派生の2ブランドの継続を求めているもようだ。」 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます これまでの経緯は以下の通り。 「英バーバリーは自社生産したトレンチコートなどを直営店で世界展開している。日本では1970年代から三陽商会、三井物産とライセンス契約を結び、企画、生産、販売を認めてきた。  日本ではこれまで14店の直営店を運営してきたが、来年の契約終了に備えて出店を拡大する準備を始めた。」 (三陽商会とバーバリーのライセンス契約の経緯は同記事添付表を転載) バーバリーが直営店中心の販売に切り替えるに至った理由は次の通り。 「三陽商会がライセンス販売しているバーバリーのトレンチコートやスーツ、ワンピースなどは英社が世界展開する商品とはデザインや素材などが異なり、直営店で扱う商品よりも価格帯は低い。英社は世界展開する商品に品質や価格などを統一することにより、ブランドイメージの再構築を目指す。」 「英バーバリーは09年、従来は20年まで結んでいたライセンス契約を5年間短縮することで三陽商会と合意した。これまでにも英社はスペインなどで展開していたライセンス契約を終了し、直営に切り替えてきた。」 ブランドイメージのグローバル統一というバーバリーの世界市場戦略的には、三陽商会と協同で進めてきた、「ブラックレーベル」「ブルーレーベル」という2つの派生ブランドイメージが世界戦略にはっきり言って邪魔になってきたこと、三陽商会が日本市場で手掛ける商材がデザイン・素材、価格帯全てにおいて日本ローカル仕様で製造販売してきたことの必然性が薄れてきたこと、などの判断によるものと思われます。 戦略的顧客満足活動と商品開発の論理―消費財における方法論と仕組み作り ■ クラシエフーズの海外ブランド販売権取得戦略は功を奏するのか? クラシエフーズが相次いで海外の菓子ブランドを取得しているというお話。 2015/7/20付 |日本経済新聞|朝刊 ソフトキャンディー「メントス」 クラシエフーズが国内販売権を獲得 「クラシエフーズは10月から、オランダ、ペルフェッティ・ヴァン・メレ社のソフトキャンディー「メントス」シリーズ=写真=の輸入販売を始める。現在扱っているモンデリーズ・ジャパン(東京・品川)が9月30日で日本での販売権を手放すのに伴い、後継企業となる。新商品も発売する方針で、年間30億円の売り上げを目指す。」 「同社は前身のカネボウフーズだった1992年からペルフェッティ社の「フリスク」を日本で扱っており、この実績が評価されたとしている。総合スーパー(GMS)や量販店に張り巡らせた販売網を生かし、10代後半から20代前半の若者層に売り込む。」 (同記事添付のメントス写真を転載) (全くの余談ですが、メントス×コーラ、いわゆるメントスガイザーは危険ですのでおやめ下さいね(^^;))   2016/1/6付 |日本経済新聞|朝刊 「チュッパチャプス」国内販売権 クラシエフーズ取得 「クラシエフーズは3月からキャンディー「チュッパチャプス」の輸入販売を始める。同商品はオランダの菓子メーカー、ペルフェッティ・ヴァン・メレ社が供給する。日本では森永製菓が1977年から持っていた販売権を2月末に手放すため、クラシエフーズが引き継ぐ。2016年度に20億円強の売り上げを目指す。 クラシエフーズはペルフェッティ社の代表的な錠菓「フリスク」やソフトキャンディー「メントス」の国内販売権を持つ。フリスクは前身のカネボウフーズだった1992年から販売。15年10月にはモンデリーズ・ジャパン(東京・品川)に代わってメントスの国内販売権を取得するなど、有力ブランドをそろえてきた。 チュッパチャプスはキャンディーの世界的なブランドで、各国で100種類以上の商品を販売している。クラシエフーズは3月以降、主力のコーラ味など8商品を販売する計画だ。」 クラシエフーズは、フリスクに加え、メントス、チュッパチャップスの日本での販売権を得ました。しかしながら、これらの商品は全て、ペルフェティ・ファン・メレ社(欧州)の方で製造しており、クラシエフーズは日本での販売権を持っているだけです。 世界で勝てるブランディングカンパニー―――ブランド力でマネジメントを強化する日本企業の挑戦 ■ 日本市場での「イソジン」ブランド価値は相当高い!? 皆さんもよくご存じでお世話になった方も多いとおもわれる、うがい薬の「イソジン」。最近この「イソジン」周辺の動きも慌ただしくなっています。 2015/12/9付 |日本経済新聞|朝刊 明治「イソジン」手放す うがい薬ブランド 米系製薬との契約切れ 「明治は「イソジン」のブランドで販売してきたうがい薬などを別ブランドで販売する。開発元の米系製薬会社ムンディファーマが日本で自社販売することになり、明治に対しブランドの使用契約を更新しない方向になったため。明治はうがい薬そのものは継続して販売するが、30年以上親しまれてきたブランドを手放すことになる。  イソジンの名称はうがい薬のほか、手指の消毒液、傷用の軟こうなど一般用医薬品に使用している。また、Meiji Seikaファルマが販売する医療用の消毒剤などにも冠してきた。明治は今後、自社ブランドで展開する。  ムンディファーマはヨウ素を使った消毒液としてポビドンヨードを開発。日本では1961年に明治製菓(当時)と提携し、販売してきた。最近は痛みやがんなどの領域に特化した製薬会社として、相次ぎ製品の販売権を買収するなど、アジア地域で業容の拡大を急いでいる。「イソジン」ブランドでの自社販売を含め、日本での事業戦略を見直す。」 Meiji Seikaファルマとしては、製造から自社で手掛けており、もはや「イソジン」は一般消費者に浸透していたブランドとしてのみ活用していました。そこで、米ムンディファーマが日本を含むアジア圏での自社販売網拡充のため、ブランド買戻しに動いたというわけです。ちなみに、契約解消後もイソジン商標以外の成分、容器・包材などは、引き続き明治も使用でき、すでに製造販売承認を得ています(これがのちの争いの火種になるのですが。。。)   東洋経済ONLINE 「イソジン」が、カバくんに別れを告げた理由 明治、看板商品を襲うライセンス解消の衝撃 (http://toyokeizai.net/articles/-/97450) 「一般用医薬品のうがい薬の国内市場規模は2014年度で81億円で、明治のシェアは約5割。2016年3月期のイソジン製品(一般用医薬品)の売り上げは35億円を見込み、明治の一般用医薬品部門の主力製品の一つだ。」 「ムンディが一見唐突に契約解消を求めてきたのには、理由がある。同社は慢性腰痛やがんに伴う痛みの治療薬などを欧米中心に販売してきたが昨年から日本を重点地域に定め、積極投資を開始している。その一環で、日本市場に浸透したイソジンブランドの自社展開を決断した。」 明治が育てた「イソジン」ブランドはライセンサーの元に戻るわけです。しかも、ムンディファーマもバーバリーに比べて、日本市場では販売力がいまいちなので、塩野義製薬を販売パートナーとして選び直します。 「ムンディは国内の自社の販路がまだ充実していないため、来年4月からイソジン製品を販売するパートナーとして、塩野義製薬を選んだ。 塩野義はムンディと技術提携して、1989年に国内初のがんの麻薬性鎮痛薬「MSコンチン」、2003年にもう一つのがんの麻薬性鎮痛薬「オキシコンチン」を開発・発売。ムンディとのかかわりは長い。 塩野義にとって、うがい薬などのイソジン製品は、強みの一つである感染症領域のラインナップ増強になる。 塩野義は4月に一般用医薬品事業を「シオノギヘルスケア」として分社化し、さらなる強化を図ろうとしていたところ。すでに地位が確立したイソジンブランドは強力な援軍だろう。」 上記の塩野義製薬との動きは日経新聞では翌日にほぼ同様の内容で報道されました。   2015/12/10 |日本経済新聞|朝刊 塩野義「イソジン」販売 来春、米系製薬と契約 (記事内容省略)   米ムンディファーマのアジア圏市場戦略も進展を見せます。 2016/1/8 |日本経済新聞|朝刊 米製薬ムンディ、インフル薬も「イソジン」 ブランド展開、売上高100億円へ 「米系製薬のムンディファーマはインフルエンザやエイズウイルス(HIV)などの感染症の予防薬を「イソジン」ブランドで展開する。のどや皮膚の消毒液などを投入し、新たに提携先になる塩野義製薬を通じて販売する。提携先の切り替えを機にブランド戦略を自ら主導し、イソジン製品の売上高を早期に2014年度の2倍の100億円に引き上げたい考えだ。  ムンディはまず2016年4月から、皮膚やのどに塗ってインフルエンザなどの感染を防ぐスプレータイプの消毒液などを投入する。医療用医薬品と大衆薬(一般用医薬品)をあわせて「ベタダイン」名で海外で扱う200品目以上の製品から、日本未販売品を売り出すことも検討する。  開発中のHIVや重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)などの予防薬もイソジンブランドで投入する考えだ。」 具体的に、日本の一般消費市場で、「イソジン」ブランドが、清潔、風邪・感染症予防、うがいという強いイメージを持っていることを処方薬・大衆薬双方で活用しようという狙いのようです。 「知名度のある「イソジン」ブランドを活用し、感染症治療薬に強い塩野義が持つ販路を生かすことで、予防薬市場の拡大が見込める日本での顧客開拓につなげる。あわせて、市場の成長が見込める日本以外のアジア地域などでも拡販し、日本を含むアジアや新興国地域の売上高を15年推計の約5億ドル(600億円)から、16年に6億5000万ドルに増やす。」 米ムンディファーマが、感染症治療薬を塩野義の販売網を活用して日本で販促する。その際の強力なブランド「イソジン」を合わせて相乗効果を出したいという意図が見えます。   2016/2/10 |日本経済新聞|朝刊 塩野義系が販売の新イソジン「カバくんにデザイン類似」 明治、使用差し止め申し立て 米社側「予定通り4月に発売」 ここにきてついにゴシップが出ました。 「明治ホールディングス傘下の明治は9日、うがい薬のパッケージを巡り4月から新たに「イソジン」ブランドで販売する塩野義製薬の子会社と開発元の米系製薬ムンディファーマ(東京・港)に対し、デザインが似ているとして使用差し止めを求める仮処分を東京地裁に申し立てた。」 「カバくん」の意匠権の帰属はきちんと話し合わなかったのか??? まったく、知的財産を巡る争いはプロの仕事が完全ではない証拠ですよね。 (同記事から、明治と塩野義双方のうがい薬のパッケージ写真を転載) 「イソジンのうがい薬は50年以上、明治側が日本国内で独占的に製造・販売していた。開発元のムンディファーマとの契約終了に伴い、4月から明治は独自のうがい薬を販売する=写真上。独自商品には1980年代から使ってきたカバのキャラクター「カバくん」を使う予定。  ところが、ムンディファーマが4月以降の販売契約を結んだ塩野義製薬側が販売する新たなイソジンに「カバくん」に似たデザインが描かれており=同下、消費者が混同する恐れがあるという。  ムンディファーマは「検討中のデザインに自信を持っている。友好的な承継に向けて専門家と準備をしてきた。消費者が混乱しないように予定通り4月に発売する」と話している。」 日本をアジア圏の市場の一つで特異な市場ではなくなった。製品戦略的には。しかし、パッケージキャラクターの浸透度については、「日本」市場を特別視する必要があったという所でしょうか。おそらく契約交渉の後でその重要性に気づいたんでしょうね。 知的財産法入門 (岩波新書) ■ 本当にM&Aに巨大再編がライセンス契約解消の原因なのか? 2016/2/13 |日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)山パン「ナビスコ」46年で幕 「オレオ」「リッツ」契約解消 食品再編で提携先変遷、戦略見直しに不信 「山崎製パンは12日、子会社のヤマザキ・ナビスコが「ナビスコ」ブランドを保有する米モンデリーズ・インターナショナルと結ぶライセンス契約を8月末で終了すると発表した。これにより、同ブランドのビスケット菓子「オレオ」や「リッツ」など4ブランドの国内での製造・販売を打ち切る。消費者になじみ深いブランドを巡る契約解消の背景には世界の食品業界の再編の動きがあった。」 (下記年表は、同記事添付のヤマザキ・ナビスコの歴史を転載) 1970年の提携から46年。米ナビスコ社のブランドを引き継いだモンデリーズ社は、9月から自社の日本法人が販売を手掛ける計画です。 交渉の経緯は次の通り。 「「下請けとして製造だけやってくれという内容だった」。12日の記者会見で山崎製パンの飯島延浩社長はモンデリーズ社側から、日本での販売権返上を要求され、製造だけを委託したい旨の打診があったと明かした。」 「ブランドを日本に根付かせてきたとの自負もあり、「下請けに」との要求は受け入れがたいものだった。」 山崎製パンでは、下請け製造では納得いかず、ライセンス契約はご破算となりました。 「モンデリーズ社側はグローバル戦略の中で日本のような「ライセンス契約という形は異例」(モンデリーズ・ジャパン)だったとするが、山崎製パン側の不信感は以前から芽生えていた。改定のたびに「契約期間が5年から2年、1年になり、ライセンス料も上がった」(飯島社長)。背景にあるのは世界の食品大手の再編だ。 当初のパートナーだったナビスコ社は米クラフト・フーズに統合され、さらに分社化でモンデリーズ・インターナショナルとなった。山崎製パンは相手が変わるたびに契約内容が大きく見直されることに不満を抱くようになった。  だが、巨大化が進む世界の食品産業では買収や事業分離などに伴う戦略見直しは日常的だ。英国で菓子大手と飲料大手が統合して発足したキャドバリー・シュウェップスは後に飲料のシュウェップスを北米、オセアニア、欧州に分けて上場させたり日本企業に売却したりした。」 当時のナビスコ社としては、日本市場特殊論があり、現地企業(山崎製パン)にライセンスを与えた方が、もうけが出ると踏んだハズ。日本人の「食」は日本人にしか分からないと。しかし、記事にある契約見直しが、世界の食品企業の巨体化を伴う企業再編にその理由を見出すのはちょっとロジック的に難があると思います。特異と思われていた日本市場への参入障壁が低くなり、高いライセンスフィーは不要との計算によるものだと推察します。 これは、直販に切り替えても、現地法人(日本から見れば日本国内の販売法人)が普通にセールス&マーケティングしても十分に勝算がある、そして、現地法人で現地人(日本人)も、雇用市場の流動化の進展から優秀な人材を採用できると踏んだ、ということにすぎません。 つまり、日本市場は、消費財市場としても、労働市場としても、普通の市場になったということ。そして、少子高齢化で市場規模が飛躍的に拡大することが望めなくなった日本市場は、経済成長著しいアジア商圏のひとつに、数えられるようになった、ということです。 単純に販売だけ任せるなら、より強固な販売網を持っている企業にライセンス契約を切り替えるだけ(メントス、チュッパチャップス)、世界ブランドの統一に日本独自のブランド戦略はかえって邪魔(バーバリー)、日本はあくまでアジア市場の一つにすぎない(イソジン)、自社の販売網でも人材はそろう見込みが立った(モンデリーズ、ナビスコ)。 普通の国、日本。これが、世界の消費財企業が等しく持つ認識となりつつあるようです。 そして、攻守所を変えて、日本企業の新興国市場攻略はどうなのでしょうか? 「グローカル」とか「BOP:Base of pyramid」といったキャッチフレーズ、スズキのインド市場での動向など、わが身を振り返って、日本企業も他国市場をどう攻めるのが得策か。真剣に考えてみてはいかがでしょうか。 ネクスト・マーケット――「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略 (ウォートン経営戦略シリーズ)現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します