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乾坤一擲の日本のAI・IoT戦略 春の陣 日本経済新聞まとめ

経営管理会計トピック テクノロジー
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■ それはシンギュラリティを政府が真剣に考え始めるところから始まった!

経営管理会計トピック

先日、日本のAIとIoTの開発戦略について、2つ小稿を書かせて頂きました。

IoTに関しては、ドイツ「インダストリー4.0」と米GE陣営「インダストリアル・インターネット」との合従連衡を取り上げました。
⇒「IoT三国志 インダストリー4.0とインダストリアル・インターネットの同盟締結で、日本のインダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブは栄光ある孤立!?

AIに関しては、アニメや音楽などのカルチャー産業とロボティクスへの応用を射程に入れる開発戦略を取り上げました。
⇒「人工知能で戦略組織 3省連携、企業と研究加速 -日本ならではの人工知能(AI)の開発戦略を考えてみる

今回、まずは日本政府の動向からお伝えしていきたいと思います。

2015/4/12付 |日本経済新聞|夕刊 AI活用で倫理指針 雇用への影響や自動運転の責任 政府が専門家会合

「島尻安伊子科学技術担当相は12日の閣議後の記者会見で、人工知能(AI)の悪用を防ぎ、正しい活用を求める倫理指針の検討に入ると表明した。2016年度中にも研究者や法律家、企業関係者らによる専門家会合を内閣府に設け、早期策定を目指す。自動運転車や医療現場で使う安全なAIの開発指針や、労働市場にAIが与える影響などを話し合う。」

「急速に進歩するAIは今世紀半ばには人間の知能を上回るとの予測もある。政府は健全な発展には研究開発や利用方法に一定のルールが必要と判断した。
 倫理指針づくりでは、自動運転車や病気の診断でAIにどこまで判断を委ねるのか、事故の責任は誰が負うのかなどが議論になりそう。様々な職種での人との役割分担も論点の一つだ。島尻科技相は「国民のAIに対する不安を払拭できるようにしたい」と述べた。海外でもAI活用を巡る議論は活発になっているが、自動運転車をはじめとした個別の事例にとどまる。AIが社会にもたらす広範な影響を国が議論する例はまれという。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

海外のAI研究は、国家の研究機関と民間企業が中心で、公共の研究機関といえども、研究テーマについて厳しく成果を出すことが義務付けられ、特に安全保障上の軍事利用への応用研究が主流である以上、そもそもの社会・経済へのインパクトを主導的に調査・考証に入るのは、逆に反政府側のNGOがその任を負っていたりします。

それにしても、上記の「「急速に進歩するAIは今世紀半ばには人間の知能を上回るとの予測もある」は、カーツワイル氏による「2045年のシンギュラリティ(技術的特異点)」を、日本政府はSF的な絵空事と考えていない証左であります。さすが、「鉄腕アトム」「攻殻機動隊」を生み出した国だけのことはあります。(^^;)

同様の日本政府の動向は次の記事でも取り上げられています。

2015/4/16付 |日本経済新聞|朝刊 AI・ロボット、30兆円市場に 政府、GDP600兆円へ目標

「政府は国内総生産(GDP)600兆円の実現に向け、先端技術や省エネルギーなどの分野別の目標値を固めた。人工知能(AI)やロボットといった成長分野を30兆円規模の市場に育てる。経済成長の新たなけん引役を重点的に支援する。」

(下記は、同記事添付の日本政府の重点産業育成分野表を転載)

20160416_GDP 600兆円に向けた重点分野_日本経済新聞朝刊

 

■ それはドイツ「インダストリー4.0」との連携から始まった!

続いて、IoTのお話し。独「インダストリー4.0」と米GE「インダストリアル・インターネット」連合に日本が産学とも取り残されるではとの危惧を大いに抱いておりましたが、、、

2015/4/13付 |日本経済新聞|朝刊 「IoT」日独連携へ 首相が表明 先進工場で国際標準

「安倍晋三首相は12日開いた官民対話で、あらゆる機器をインターネットでつなぐ「IoT」技術で、ドイツと連携する考えを示した。「2020年までにセンサーで集めた現場のデータを工場や企業の枠を超えて共有・活用する先進システムを全国50カ所で生み出す」と表明。「製造現場の強みを共有するドイツと、国際標準化を進める」と強調した。」

(下記は、同記事添付の日本の産官学の連携プランを転載)

20160413_次世代産業の育成に向け産官学の連携を強める_日本経済新聞朝刊

独米の連携に立ち遅れた感があった日本も、おっとり刀で三国同盟に何とか入れてもらえそうです。

「日独両政府は4月末にも「IoT」の分野で共通の規格をつくることをめざし、覚書を交わす方向だ。日本国内では企業ごとにばらばらに開発を進めてきたが、先行するドイツと連携することで今後進むとみられる国際標準づくりで主導権を得るねらいがある。
 ドイツと米国のIoT推進団体はすでに3月上旬にそれぞれ進めてきた実証実験の情報交換や標準化に向けた連携で合意した。日本が加われば国際標準がぐっと近づく。」

さらに、安倍首相は人工知能(AI)の開発ロードマップ作りにも指示を出しました。

「首相はさらに「縦割りを排した人工知能技術戦略会議」を創設すると言及した。人工知能の研究開発目標と産業化に向けたロードマップを2016年度中につくり、実現をめざす。また「企業の大学や研究開発法人への投資を今後10年間で3倍に増やす」とも発言。企業の研究施設を備えた大学などの戦略研究拠点を5カ所以上つくり、産学連携を強化する。」

 

■ ゴールドラッシュで一番儲けたのは酒場とバケツ売りだった!

これには2つの憂慮を感じざるを得ません。お上が適切な開発テーマを決めることが本当にできるのか? むしろ、AIの応用技術開発とその商用転換はそれこそ企業の裁量に任せた方が最適ではないかと思います。2つ目は、AI技術の基礎開発と商用化にばかり目が行き、基礎的なテクノロジー基盤はやっぱり、欧米に制せられるのではないかという不安感です。

2015/4/12付 |日本経済新聞|朝刊 (グローバルBiz)AI技術の黒子役 快走 米半導体大手エヌビディア ゲーム向け、自動運転に応用 50兆円市場を開拓

「画像処理半導体(GPU)大手の米エヌビディアが快走を続けている。大量のデータを同時に処理し、ゲームのCG(コンピューターグラフィックス)をスムーズに動かす技術を蓄積してきた同社に人工知能(AI)の研究者らが着目。自動運転など向けに、10年間で50兆円を超える事業機会をもたらすとされる最先端技術に欠かせない黒子役となりつつある。」

(下記は、同記事添付の新型GPU「テスラP100」を発表するファンCEOの写真を転載)

20160412_新型GPU「テスラP100」を発表するファンCEO(5日、サンノゼ)_日本経済新聞朝刊

「人間の脳をモデルにした深層学習は、膨大なデータからコンピューターが自ら特徴を抽出し、事象を認識したり分類したりする。自動運転や医師の診断支援などあらゆる分野に使われ、向こう10年間で5千億ドル(約54兆円)規模の事業機会を生み出すとの見方がある。
 大量のデータを処理するために頼りにされたのが、GPUの並列処理技術だ。ファン氏は「AI研究にビッグバンをもたらす」と確信し、深層学習分野への重点投資を決断。今月5日には初の深層学習向けというスパコン「DGX―1」を発表した。」

(下記は、同記事添付のエヌビディアの歴史を転載)

20160412_エヌビディアの歩み_日本経済新聞朝刊

この領域は、ものづくり大国日本といて、かつて、産業の米「半導体」で世界を席巻した日本企業がもう一度あだ花を咲かせられる数少ない技術領域だと思います。ここには、自動運転などのAIでは、半導体の巨人インテルや米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)も覇権を狙っています。ルネサステクノロジーの人事上の争いをしている場合ではないですぞ。

(参考)
2015/4/16付 |日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)ルネサス再生、車大手が主導 日産人脈の呉氏が新社長に くすぶる再編観測

そして最後に、「二位じゃダメなんですか?」「ダメなんです!」

 

■ それは個人情報保護とビッグデータの有効活用を天秤にかけた法制度の改革から始まった!

IoT・AIそのものの開発で立ち遅れたら、法整備を行い、ビジネス化・研究応用化の終盤で追い込めばよい、とするのもひとつの戦略です。

2015/4/13付 |日本経済新聞|朝刊 ビッグデータ、医療活用へ法整備 新薬開発を効率化

「安倍晋三首相は12日の官民対話で、ビッグデータの活用を促すため、名前を明かさないことを条件に医療機関が持つ患者データを患者の同意なしに集められる仕組みづくりも表明した。健康診断の検査結果や手術後の経過といった情報を集め、患者の年齢や居住地によって分析。過剰な治療や検査を防ぎ、効率的な新薬の開発に役立てる。
 今の改正個人情報保護法では、医療情報を患者の同意なしに集められない。政府は来年の通常国会に関連法案を提出。法改正し国の認定機関が医療目的でデータを使う場合に限り、同意がなくても収集できるようにする。大学や医師会が運営する機関がデータを集めると想定している。」

人権派の方々は眉をひそめるかもしれませんが、日本政府のなりふり構わぬ強権発動ぶりは、日本産業界の危機感の表れの一つとも言えます。

「個人に割り当てた番号で医療情報を管理する「医療番号制度」を使う。医療機関が別々に管理するデータをひも付けしやすいようにするためだ。2018年度から始める方針。当初は全国の2割に相当する2千の病院と2万の診療所からの収集を目指す。」

何度もこのブログで取り上げていますが、AIがその力を発揮できる膨大なデータを処理して最適解(ベイズ定理による統計的には確からしい確率論的正解)を導き出すには、まずAIにデータを喰わせないといけません。残念ながら、その大量データはいったんはデジタルデータに置き換えられたもの限定なのです。それゆえ、もはやバズワードから外れかかっている感もある「ビックデータ」の有効活用が欠かせないのです。

そして、日本政府の施策にはどこにでも中小企業の保護の文字が躍っています。そもそも、インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ(IVI)は中小企業の活力結晶を主意としています。そうした産業政策の必要性も理解しますが、国家間の競争でそれを前面に押し出しますか?まあ、ドイツの「インダストリー4.0」も同様の意図が含まれていることは否定しませんが、中小企業の保護とはいっていません。

 

■ それはクールジャパンを前面に押し出す著作権に対する意識改革から始まった!

2015/4/15付 |日本経済新聞|朝刊 人工知能作品に「著作権」 音楽や小説など 政府知財本部方針 法整備を検討

「政府の知的財産戦略本部(本部長・安倍晋三首相)は人工知能(AI)がつくった音楽や小説などの権利を保護する法整備を検討する。現行の著作権法では人による作品にしか著作権は認められないため、盗用されても差し止めや損害賠償を請求することができず、AIへの投資の妨げになる懸念があった。法整備の方針は5月にもまとめる知財推進計画に盛り込む。」

通常は、著作権法は音楽や小説、絵画などを作者に無断で使うことを禁じる法です。しかし、同法は著作物を「思想・感情の創作的な表現」と定義しており、人が創作意図をほとんど加えずにAIが作品を創作した場合は、現行の日本の著作権法では権利保護の対象にならないのです。

「知財本部は、AIの機能が進化しつつあることを踏まえた法整備が必要と判断。同本部内の委員会が今月18日に報告書を公表するのを受け、知財計画に方針を盛り込む。」

現在議論されている主な改正ポイントは次の通り。

1) 著作権に代えて、商標のようにAI創作物の権利を保護する新たな登録制度を設ける
2) 不正競争防止法改正などでAI創作物の無断利用を禁じる
3) 権利を得るのはAIを活用して作品を生み出す仕組みを作り出した人や企業とする
4) 無断利用の差し止めや損害賠償の請求権を認め、投資費用を回収できるようにする

「当面は、人間がごく簡単な指示をするだけで音楽を生成する自動作曲システムなどへの適用が想定される。ただAIは短時間で膨大な作品を生み出すため、保護対象は、人気を得るなど一定の市場価値を持ったものに限定する方向だ。」

さらに、日本のサブカルチャー隆盛の主要要素である「二次創作」保護にもつながる考え方も示されている所は大変心強いものがあります。

「知財本部は権利保護の一方で、AIを活用したコンテンツ制作を円滑にするための法整備も検討する。既存の多数の作品の特徴を抽出してAIが創作に生かす場合、基となる作品の権利者に許可を取らなくても済むような著作権法改正を検討する。データの収集・解析は既存作品の複製を伴うが、その都度利用許可を取っていては膨大な情報の処理が難しいためだ。」

(参考:バンダイナムコの事例)
⇒「オープンイノベーション、脱自前主義ビジネスモデルのメリットとは? -(後編)ダイキン、ソニー、仏トタル、アマゾン、バンダイナムコの事例を見る!

政策を評価するためには、比較分析が欠かせません。AI創作物の著作権保護について、諸外国の動向は一体どうなっているんでしょうか?

2015/4/15付 |日本経済新聞|朝刊 ITビジネス巻き返し 欧米は現行法で対応

「政府がAIによる創作物の保護に乗り出すのはネットビジネスの展開で欧米諸国に後れをとってきた日本が巻き返す手段としてAIの活用を重視するためだ。欧米は現行法で対応できるが、日本は国内法の整備を急ぐ必要があるとしている。」

どうして欧米の著作権は現行法だけで対処可能なのか?

「「海外ではAI創作物に特化した法整備の動きはない」(政府の知的財産戦略本部)が、英米では法解釈でAI創作物に対応する余地がある。」

<英国の場合>
「1988年の著作権法改正で、コンピューターによる作品の著作者は「創作に必要な手配をした者」と定めた。改正法を受けて、利用者が遊んだ結果に応じてゲームのプログラムが生成する画面の著作権の帰属を争った裁判で、ゲーム制作会社に著作権を認めた判決も出ている。」

<米国の場合>
「著作権法は日本法とは異なり、著作物の定義を人による作品に明示的には限定していない。事例ごとに創作性の有無などから判断しており、今年1月にはサルが自分を撮影した写真について、サルに著作権はないとする連邦地裁判決が出て注目された。」

「AIは労せず大量の著作物をつくり出せる。乱訴を防ぐ方策も必要になる。デジタル時代を迎え、著作物の制作や利用の様変わりに応じた法整備を進めることは日本の産業競争力向上に急務だ。」

という文章で新聞記事は締められていますが、英米法は原則として「判例法」。裁判で判例を積み上げて、それをコモンローとします。法体系が異なる訳で、英米と日本の法制度(成文法)の整備状況を単純比較はできません。それでも、新聞記事からは日本政府の必死さが伝わってきました。今回はその努力の実効度はひとまずおいて、政府の努力に賛意を送っておきましょう。

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