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■ 株価指標面で「割安」だそうです。本当?

経営管理会計トピック

約一年前にプレスリリースされた郵政3社の親子上場が、とうとう現実のものとなってきました。9月10日に売り出しの仮条件が公表され、バリュエーションについて関係各所からいろいろな分析や見解が表明されています。その中でも一番信用ならないのが、セルサイドの情報なのですが。。。

2015/10/8|日本経済新聞|朝刊 郵政3社株 評価は… 売り出し価格の仮条件発表 証券各社、個人対応を強化

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「11月4日に上場する日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の3社は7日、上場時の売り出し価格を決めるための仮条件を発表した。証券会社は8日から、仮条件に基づいて投資家の需要を調べる作業に入る。大型上場だけに証券各社は販売体制を拡充している。販売の中心となる個人投資家の間で、郵政3社株への評価がどこまで浸透するかがカギを握る。」

郵政3社の上場までの流れは、記事添付の下表通りです。

郵政3社の上場までの流れ_日本経済新聞朝刊_20151008

「仮条件は9月10日に公表した想定価格を軸に決めた。投資家の需要を踏まえ、最終的な売り出し価格を決める。」ということで、その内容が記事添付の下表になります。

株価指標面では割安感も_日本経済新聞朝刊_20151008

「株価指標面(PBR)」では「割安感」があるのだそうです。ここで「PBR:Price Book-Value Ratio(株価純資産倍率)」のおさらいです。

PBR = 株価 ÷ 一株あたり純資産額  または、
   = 時価総額 ÷ 純資産

PBRが「1」の時、会社が所有する財産で株主のものとされる簿価上の金額と、株式市場で出回っている株式の合計額が一致していると考えます。したがって、「1」を下回っているケースは、さっさと会社をたたんで、残った財産を株主に配った方が株主の手取り額が増える、ということで、「PBR = 1」は、株価が解散価値を示していると言われています。

ということで、郵政3社の売出価格は、3社ともPBRが1を下回っているので、会社に十分信用がある場合は、その会社の株式はお買い得と一般的に言われているので、新聞でもそのようなニュアンスで説明されています。

「証券会社がアピールするのが「割安さ」と「配当利回りの高さ」だ。仮条件によると、割安度を示すPBR(株価純資産倍率)は、日本郵政が0.32~0.41倍。ゆうちょ銀は0.4倍台、かんぽ生命は0.6倍前後だ。3社とも東証1部平均(1.3倍)を大きく下回る。配当利回りは2~3%台と東証1部平均(1.85%)より高い。」

日本郵政: JAPAN POST

■ 親子上場からPBRの水準を検証してみる

PBRを見るときに、今回の売り出しのスキームが親子同時上場であることを忘れてはいけません。ただでさえ、金融機関の株式指標は、通常の事業会社のそれと乖離して、常識が通じない上に、今回は親子上場というバリュエーションの難易度がどれだけ高いんですか、という大変興味深いケースとなっています。

親子上場の問題は過去投稿もご参考下さい。
⇒「日本郵政、来年9月上場 郵貯・簡保と3社同時 ドコモに匹敵、大型公開

それでは、順に、郵政グループの財務諸表と時価総額の相場観を見てみましょう。

経営管理会計トピック_FY2014 日本郵政グループ 連結BS

(その1)日本郵政グループは金融業の会社である
日本郵政グループの連結財務諸表を見た時に、純資産が約15兆円と、総資産:296兆円に対して、5.2%しかありません。会社の総資産の5%余りしか占めない純資産をベースに、PBRを基準に株式が割安か割高か、議論して本当に正しい結果が得られるものなのか、まず疑問を呈させていただきます。さらに、ハイブリッド債など、負債か純資産か扱いがグレーな金融商品で資金調達している会社は、そもそもPBRを計算する純資産の額自体が怪しいのですが、、、

参考までに、他の金融機関のPBR(2015/10/9終値時点)は以下の通り。
● みずほフィナンシャルグループ:0.72
● 三菱UFJフィナンシャル・グループ:0.72
● 三井住友フィナンシャルグループ:0.72
● りそなホールディングス:0.91
● 野村ホールディングス:0.96
● 大和証券グループ本社:1.13
● 第一生命保険:0.71
● 東京海上ホールディングス:0.95

軒並み「1」割れを起こしています。それでも、日本郵政グループの仮PBRがその中でも断トツに低いので、これをもって「割安」といえるでしょうか?

(その2)親子上場により企業価値は、金融2社でほぼ説明がつく
FY2014決算では、グループ各社の資産構成を、単体財務諸表の構成比で表わすと下表の通りです(日本郵政は、持ち株会社なので、単体B/Sの総資産から所有する子会社株式を除いています)。

経営管理会計トピック_FY2014 日本郵政グループ資産構成

ここから分かるように、親子上場と言っても、その資産価値=企業価値=株式価値は、「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命保険」2社の合計でほぼ説明がつくということです。すなわち、銀行と生命保険会社に100を株式投資したら、その2社の持ち株会社(日本郵政)に追加的に株式投資する余地はもうない、とするのが通常の考え方なのです。

しかし、ここで、低PBRが効いてきます。次のチャートをご覧ください。左から順に、日本郵政グループの「純資産」、「PBR」、「時価総額」を並べています。

経営管理会計トピック_FY2014 日本郵政グループ純資産構成と想定時価総額

① 純資産
日本郵政、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の4社の単体B/Sを単純合算すると、14.8兆円(日本郵政の純資産からは、子会社株式持分を控除後)となります。一方で、日本郵政グループの連結B/Sの純資産は、15.3兆円となります。その差額は、連単の会計処理の違いなどによる誤差といえましょう。

② 日本郵政グループ全体の真のPBR
上場3社の純資産に、新聞発表のPBRの上限値をそれぞれかけると、時価総額(仮)が算出されます。その単純合計額:13.1兆円を、日本郵政グループの連結B/Sの純資産で割ると、真のPBR = 0.85 が計算されます。どうですか? 上記、他の有名どころの金融機関の直近PBRと比較しても遜色なく、取り立てて割安とは思えませんよね。逆に、極めて収益性の悪い日本郵便を抱えているため、メガバンク3行より高い数値というのは、ちょっと購入に慎重になるべき水準かもしれません(投資指南ブログではないので、これ以上は具体的な突っ込みはしません)。

“まやかしの株式上場”で国民を欺く 日本郵政という大罪

■ おまけ - ついでに配当利回りも見ておきましょう

個人投資家への誘い文句に、「低PBR」と「高配当利回り」でお得な株式投資だ! とあったので、前者についてはさんざん疑問を呈してきました。後者については、将来の見込みのことなので、筆者も本来は解説に責任が持てないので書くべきではないのですが、ある程度のあたりだけ、読者の皆さんに開陳しておきます。

週刊東洋経済 2015年 9/5号[雑誌]

⇒「日本郵政グループ中期経営計画 ~新郵政ネットワーク創造プラン2017~」
http://www.japanpost.jp/financial/index05.html

この中計には、
① 2015年~2017年の投資総額:1兆9,600億円
② 2017年の連結当期純利益:4,500億円
③ 連結配当性向:50%以上
とあります。

中計から、2014年の見込み投資額:3,900億円、
連結P/Lから、この年の減価償却費:1,806億円、当期純利益:4,827億円、
連結S/Sから、この年の現金配当額:435億円(配当性向:9.0%)なので、

①を3年等分発生と仮定して、6533億円/年の投資と、FY14の投資と減価償却費比が、2.2:1より、2017年の追加的投資額による減価償却増額分は、約1200億円なので、連結当期純利益目標額の4500億円は、現在水準(4827億円)から減益目標ではなく、

4500億円 - 4827億円 + 1200億円 = 872億円 の実質増益目標なのです。

さらに、4500億円の50%を配当すると、2250億円/年が現金配当分。前章で計算した時価総額(仮)が、13.1兆円なので、

配当利回り = 2250億円 ÷ 13.1兆円 = 1.72%

となります。新聞記事では、東証1部平均が1.85%とあるので、おやっ、これでは高配当企業とは言えなくなりますね。

なによりも、数字はご自身で確認された方が無難です。しかも、株式投資をする際には、セルサイド(株式を売っている人たち)の情報は決して鵜呑みにしないように! 彼らの得はこちらの損。そう考えていた方が安全ですよ!

日本郵政の闇 (別冊宝島 2378)

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郵政3社株 評価は… 売り出し価格の仮条件発表 証券各社、個人対応を強化http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読むPBR,日本郵政グループ,親子上場,配当利回り,配当性向■ 株価指標面で「割安」だそうです。本当? 約一年前にプレスリリースされた郵政3社の親子上場が、とうとう現実のものとなってきました。9月10日に売り出しの仮条件が公表され、バリュエーションについて関係各所からいろいろな分析や見解が表明されています。その中でも一番信用ならないのが、セルサイドの情報なのですが。。。 2015/10/8|日本経済新聞|朝刊 郵政3社株 評価は… 売り出し価格の仮条件発表 証券各社、個人対応を強化 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「11月4日に上場する日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の3社は7日、上場時の売り出し価格を決めるための仮条件を発表した。証券会社は8日から、仮条件に基づいて投資家の需要を調べる作業に入る。大型上場だけに証券各社は販売体制を拡充している。販売の中心となる個人投資家の間で、郵政3社株への評価がどこまで浸透するかがカギを握る。」 郵政3社の上場までの流れは、記事添付の下表通りです。 「仮条件は9月10日に公表した想定価格を軸に決めた。投資家の需要を踏まえ、最終的な売り出し価格を決める。」ということで、その内容が記事添付の下表になります。 「株価指標面(PBR)」では「割安感」があるのだそうです。ここで「PBR:Price Book-Value Ratio(株価純資産倍率)」のおさらいです。 PBR = 株価 ÷ 一株あたり純資産額  または、    = 時価総額 ÷ 純資産 PBRが「1」の時、会社が所有する財産で株主のものとされる簿価上の金額と、株式市場で出回っている株式の合計額が一致していると考えます。したがって、「1」を下回っているケースは、さっさと会社をたたんで、残った財産を株主に配った方が株主の手取り額が増える、ということで、「PBR = 1」は、株価が解散価値を示していると言われています。 ということで、郵政3社の売出価格は、3社ともPBRが1を下回っているので、会社に十分信用がある場合は、その会社の株式はお買い得と一般的に言われているので、新聞でもそのようなニュアンスで説明されています。 「証券会社がアピールするのが「割安さ」と「配当利回りの高さ」だ。仮条件によると、割安度を示すPBR(株価純資産倍率)は、日本郵政が0.32~0.41倍。ゆうちょ銀は0.4倍台、かんぽ生命は0.6倍前後だ。3社とも東証1部平均(1.3倍)を大きく下回る。配当利回りは2~3%台と東証1部平均(1.85%)より高い。」 日本郵政: JAPAN POST ■ 親子上場からPBRの水準を検証してみる PBRを見るときに、今回の売り出しのスキームが親子同時上場であることを忘れてはいけません。ただでさえ、金融機関の株式指標は、通常の事業会社のそれと乖離して、常識が通じない上に、今回は親子上場というバリュエーションの難易度がどれだけ高いんですか、という大変興味深いケースとなっています。 親子上場の問題は過去投稿もご参考下さい。 ⇒「日本郵政、来年9月上場 郵貯・簡保と3社同時 ドコモに匹敵、大型公開」 それでは、順に、郵政グループの財務諸表と時価総額の相場観を見てみましょう。 (その1)日本郵政グループは金融業の会社である 日本郵政グループの連結財務諸表を見た時に、純資産が約15兆円と、総資産:296兆円に対して、5.2%しかありません。会社の総資産の5%余りしか占めない純資産をベースに、PBRを基準に株式が割安か割高か、議論して本当に正しい結果が得られるものなのか、まず疑問を呈させていただきます。さらに、ハイブリッド債など、負債か純資産か扱いがグレーな金融商品で資金調達している会社は、そもそもPBRを計算する純資産の額自体が怪しいのですが、、、 参考までに、他の金融機関のPBR(2015/10/9終値時点)は以下の通り。 ● みずほフィナンシャルグループ:0.72 ● 三菱UFJフィナンシャル・グループ:0.72 ● 三井住友フィナンシャルグループ:0.72 ● りそなホールディングス:0.91 ● 野村ホールディングス:0.96 ● 大和証券グループ本社:1.13 ● 第一生命保険:0.71 ● 東京海上ホールディングス:0.95 軒並み「1」割れを起こしています。それでも、日本郵政グループの仮PBRがその中でも断トツに低いので、これをもって「割安」といえるでしょうか? (その2)親子上場により企業価値は、金融2社でほぼ説明がつく FY2014決算では、グループ各社の資産構成を、単体財務諸表の構成比で表わすと下表の通りです(日本郵政は、持ち株会社なので、単体B/Sの総資産から所有する子会社株式を除いています)。 ここから分かるように、親子上場と言っても、その資産価値=企業価値=株式価値は、「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命保険」2社の合計でほぼ説明がつくということです。すなわち、銀行と生命保険会社に100を株式投資したら、その2社の持ち株会社(日本郵政)に追加的に株式投資する余地はもうない、とするのが通常の考え方なのです。 しかし、ここで、低PBRが効いてきます。次のチャートをご覧ください。左から順に、日本郵政グループの「純資産」、「PBR」、「時価総額」を並べています。 ① 純資産 日本郵政、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の4社の単体B/Sを単純合算すると、14.8兆円(日本郵政の純資産からは、子会社株式持分を控除後)となります。一方で、日本郵政グループの連結B/Sの純資産は、15.3兆円となります。その差額は、連単の会計処理の違いなどによる誤差といえましょう。 ② 日本郵政グループ全体の真のPBR 上場3社の純資産に、新聞発表のPBRの上限値をそれぞれかけると、時価総額(仮)が算出されます。その単純合計額:13.1兆円を、日本郵政グループの連結B/Sの純資産で割ると、真のPBR = 0.85 が計算されます。どうですか? 上記、他の有名どころの金融機関の直近PBRと比較しても遜色なく、取り立てて割安とは思えませんよね。逆に、極めて収益性の悪い日本郵便を抱えているため、メガバンク3行より高い数値というのは、ちょっと購入に慎重になるべき水準かもしれません(投資指南ブログではないので、これ以上は具体的な突っ込みはしません)。 “まやかしの株式上場'で国民を欺く 日本郵政という大罪 ■ おまけ - ついでに配当利回りも見ておきましょう 個人投資家への誘い文句に、「低PBR」と「高配当利回り」でお得な株式投資だ! とあったので、前者についてはさんざん疑問を呈してきました。後者については、将来の見込みのことなので、筆者も本来は解説に責任が持てないので書くべきではないのですが、ある程度のあたりだけ、読者の皆さんに開陳しておきます。 週刊東洋経済 2015年 9/5号 ⇒「日本郵政グループ中期経営計画 ~新郵政ネットワーク創造プラン2017~」 (http://www.japanpost.jp/financial/index05.html) この中計には、 ① 2015年~2017年の投資総額:1兆9,600億円 ② 2017年の連結当期純利益:4,500億円 ③ 連結配当性向:50%以上 とあります。 中計から、2014年の見込み投資額:3,900億円、 連結P/Lから、この年の減価償却費:1,806億円、当期純利益:4,827億円、 連結S/Sから、この年の現金配当額:435億円(配当性向:9.0%)なので、 ①を3年等分発生と仮定して、6533億円/年の投資と、FY14の投資と減価償却費比が、2.2:1より、2017年の追加的投資額による減価償却増額分は、約1200億円なので、連結当期純利益目標額の4500億円は、現在水準(4827億円)から減益目標ではなく、 4500億円 - 4827億円 + 1200億円 = 872億円 の実質増益目標なのです。 さらに、4500億円の50%を配当すると、2250億円/年が現金配当分。前章で計算した時価総額(仮)が、13.1兆円なので、 配当利回り = 2250億円 ÷ 13.1兆円 = 1.72% となります。新聞記事では、東証1部平均が1.85%とあるので、おやっ、これでは高配当企業とは言えなくなりますね。 なによりも、数字はご自身で確認された方が無難です。しかも、株式投資をする際には、セルサイド(株式を売っている人たち)の情報は決して鵜呑みにしないように! 彼らの得はこちらの損。そう考えていた方が安全ですよ! 日本郵政の闇 (別冊宝島 2378)現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します