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JX、1800億円の最終黒字 今期 原油安の在庫評価損が解消 減損損失も大幅減

経営管理会計トピック 実務で会計ルールをおさらい
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■ 「在庫評価益」の認識により今期のJXは収益改善

経営管理会計トピック

JXの決算がらみの新聞報道で、前期は在庫評価損と減損損失で赤字だが、今期は原油価格の持ち直しから、在庫評価益を計上して一転1800億円の黒字(純利益ベース)との記述があり、一斉に各雑誌やブログで、在庫評価「益」があたかも、通常の会計処理を通じて計上されるとの説明がありますが、皆さんはどのようなイメージをお持ちになっているのでしょうか。

石油元売り各社は、「石油備蓄法」により、70日分の石油備蓄(企業会計的には「在庫」「棚卸資産」となる)を義務図けられており、原油の市場価格に対する経営判断の如何に因らず、一定額の在庫を抱えなくてはいけません。その結果として、通常のビジネスの結果としての業績変動にプラスして、在庫の評価損益が会計上の利益を左右します。

と聞いて、「ふむふむ、原油価格が上昇すれば、在庫評価益が計上され、原油価格が下落すれば、在庫評価損が自動的に計上されるのだな」と理解されていると思いますが、実際はちょっとだけイメージが異なります。

2015/4/17|日本経済新聞|朝刊 JX、1800億円の最終黒字 今期 原油安の在庫評価損が解消 減損損失も大幅減

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「JXホールディングスの2016年3月期の連結最終損益は1800億円程度の黒字と、前期推定の3200億円の赤字から大幅に改善する見通しだ。原油価格の持ち直しを見込み、前期に計上した備蓄原油の在庫評価損がなくなる。原油や天然ガス、銅鉱山など海外の資源開発事業の減損損失も大きく減る。景気回復でガソリン販売も底堅い推移を見込む。」

「JXは前期、原油価格を当初1バレル=100ドル(ドバイ原油)と想定していたが、秋以降に価格は急落。最終的に1バレル=55ドルに想定価格を下げ、約4200億円の在庫評価損が発生した。
 16年3月期は原油価格が現在の水準に比べてやや高い1バレル=60ドル程度で推移すると想定、一転して約200億円の在庫評価益が発生する。前期からの改善額は4400億円になる。」

※ ちなみに、2014年3月末時点で、国家備蓄は110日分、民間備蓄は83日分あります

 

■ 「低価法」の強制適用により、一方通行の在庫評価方法

これまで、何となく筆者も期末在庫の評価損に関心があったのか、在庫評価損に関連する過去投稿記事が複数ありました。そして、おかげ様で読者の方々よりアクセスが多いジャンルのひとつになっております。(^-^)

⇒「会計初心者にでもわかる原油安による在庫評価損のカラクリ
⇒「JX、経常益3割減 今期 原油安で在庫評価損
⇒「神戸鋼、今期経常益 予想上回る850億円

カラクリ」の記事でも説明していますが、新聞報道というか、各企業がプレスリリースで公表している「在庫評価損」には概ね2種類あります。

① 「総平均法」で計算された「在庫評価単価」 > 「今期の仕入単価」
  だった場合に、管理会計上の仮計算で算出された評価損
  (財務諸表のどこを探してもこの損は計上されていません)

② 上記①で計算された「在庫評価単価」 > 期末時点の「時価」
  だった場合に、「低価法」により時価まで簿価を切り下げた時の評価損
  (財務諸表上、きちんと「在庫評価損」として計上される)

この時価までの簿価切り下げについては、JXの「2014年度第3四半期決算報告資料」に大変分かりやすいイメージ図(P5)がありましたので、下記に転載します。

経営管理会計トピック_JX_在庫評価損のイメージ

しかしながら、逆のパターンで、「在庫評価単価」 < 期末時点の「時価」
だった場合、この差額分だけ、「在庫評価益」が計上されることはないのです。

 

■ 「棚卸資産の評価に関する会計基準」から評価評価のポイントを2つご紹介

まず、在庫(棚卸資産)の帳簿価格を切り下げるパターン(理由)は3つあると考えらえています。

経営管理会計トピック_評価損の種類

この3パターンを必ず区別しなければならないとする義務は会計制度上ありませんが、企業側がある単位で在庫の評価をする際に、この区分を識別したい・できる場合は、この3つを区別することができます。

そして、区別した場合、「評価損」を帳簿に反映する手法が2つあるのですが、それぞれに別々の手法を選択適用することができます(在庫管理及び会計システムがそれを許容して、さらに業務プロセス的に煩雑でなければですが)。

その手法とは、

1.切り放し法
いったん帳簿価額を、「@100円」から「@80円」に切り下げたら、永遠に「@80円」のままにしておく方法です。
(ただし、「@80円」以下にさらに切り下げられる場合はその限りではありません)

2.洗い替え法
期末時点で「@100円」から「@80円」に切り下げた後、翌期首に再び「@100円」に戻して、次の期末時点(1年後)にもう一度時価評価をやり直す方法です。

「品質低下評価損」と「陳腐化評価損」は、「売価の回復可能性」が「なし」との判定なので、二度と元の評価額に戻りません。したがって、「切り放し法」でも「洗い替え法」でも結果は変わりませんし、理屈から言えば、「切り放し法」の方がふさわしいといえます。

しかし、「低価法評価損」は、需給バランスによっては、「売価」が元に戻ることも考えられるので、「切り放し法」を採用すると、永遠に切り下げ後の評価額ですが、「洗い替え法」を採用すると、最初の在庫評価額を上限にして、元の価額まで戻すことができます。

数字で実際に説明すると、
FYx1年に、「@100円」から「@80円」に帳簿価額を切り下げた後、
FYx2年に、時価が「@120円」となったので、「@100円」まで評価額を戻すことができ、「@80円」から「@100円」まで戻した差額の「@20円」を「在庫評価益」と制度会計上もカウントすることができる、ということです。

ここが一般の方が有する「時価主義会計」的な発想とのイメージのずれになります。普通の感覚だと「@120円」まで戻して(というか切り上げて)、「在庫評価益」を「@80円」から「@120円」への差額の「@40円」としたいところですが、元々の「取得原価」が「@100円」なので、それ以上の評価額を与えることができない、というのが現在の会計ルールの縛りなのです。

※ 「時価」と「公正価値」とは厳密には異なり、会計基準では「公正価値」という定義を用いるのが正式となります。まあ、ついでにそういうこともあると頭の片隅に置いといてください。

 

■ 「IFRS」や「税法」との関係もついでに整理しておきます

この最初の「取得原価」を上限とする縛りは、IFRS(国際財務報告基準)でも同様です。ただし、日本の会計基準との違いとして、IFRSの場合は、

・ 評価減する原因となった従前の状況がもはや存在しない
・ 経済的状況の変化により正味実現可能価額が増加したという明らかな証拠がある

時には、必ず元の「取得原価」に戻さなければならない義務がある、ということです。日本基準の場合、「洗い替え法」を採用している場合は、結果として、IFRSと同じになりますが、「切り放し法」を採用している場合は、簿価切り下げのままで放置されるので、IFRSとは処理結果が異なってしまいます。ん~、せっかく、IFRSとの「コンバージェンス」を目的として、2006年(改正は2008年)に「棚卸資産の評価に関する会計基準」を定めたのに中途半端な結果になりましたね。

ついでに、日本の税法を見てみると、平成23年(2011年)4月1日以降開始する事業年度より、「切り放し法」が廃止され、「洗い替え法」のみが認められています。

ここで、最初のJXの新聞記事に戻ります。新聞記事が記述している「一転して今期は約200億円の在庫評価益の発生が見込まれる」とする「在庫評価益」は、果たして「洗い替え法」によるものなのか、それとも管理会計上の「たられば評価益」なのか、まあ、新聞記事の具合から推察すると、後者でしょうね。実務的に「洗い替え法」は入りと出の2回、二重に在庫評価をしないといけないので、そんな在庫管理システムのロジックと会計実務処理は相当難しいでしょうから。では、税法にはどう対処しているのか? 「蛇の道は蛇」。無邪気に藪をつついては蛇が出てしまいます。「言わぬが花」とも申します。JXのIR担当者にでも聞いてみてください。

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