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■ 「配当性向」引き上げや「DOE」採用など

経営管理会計トピック

株主に配当を中心に、利益に分配にて厚く報いるため、各種の指標が採用されています。今回は、その指標を活用した株主還元政策自体の悪さ加減を強調するまでもなく、それぞれの指標の解説に徹したいと思います。

(筆者自身のスタンスは、バフェット氏と同様、企業の現金配当は『悪』- 経済的に不合理というものです。だって、株主の手元には、法人税と所得税のダブルでキャッシュアウトされてから届きますから)

2015/6/13|日本経済新聞|朝刊 多様化する株主還元策 配当性向引き上げなど 成長戦略に合わせ変更

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「株主還元の目安を設定したり、従来の方針を変更したりする動きが企業に相次いでいる。資金の使い道への投資家の関心が高まり、納得のいく説明をする必要があるためだ。財務や事業戦略に応じた還元策の採用など手法も多様になってきた。」

「大和証券によると主要200社で配当性向や総還元性向の目標値を掲げる企業は5月末で106社。2月末より約10社増えた。「資本戦略を明確にし、市場の信頼を高める動きが広がっている」(大和の山崎徳司氏)」

(下図は新聞記事掲載のチャートを転載)

上場企業の株主還元推移_日本経済新聞朝刊2015年6月13日

株主還元方針を変更した主要企業_日本経済新聞朝刊2015年6月13日

従来は、「安定配当」が重要視されて、企業業績がどれくらい変動しようが、極論を言うと、当期純損失を計上しようが、配当は継続されてきました。右肩上がりの経済成長を経験してきた企業経営者と株主は、一時的に業績が悪化しても、景気循環に従っておればきっと巡航速度に戻った時企業業績は回復する、と信じていましたし、経営者も過重に経営責任を株主に負いたくなかったので。どうせサラリーマン社長で、社内規定の期間が終われば、会長職や顧問になり、生活費には困らない老後が約束されていましたから。

 

■ 機動的に業績連動する株主還元政策の台頭

長期のデフレを経験したため、株主・経営者ともに、右肩上がりの企業成長が一時的な不調をすべて覆い隠してくれる、というユートピアが成立している時代は終焉を迎えたことに気付きました。さらに、海外投資家の積極的な日本市場への参加という素因も同時進行で発生し、毎期毎期の業績に連動する株主還元政策の提示の重要性が高まってきました。

1.「配当性向」
この指標の特徴は、当期純利益の何%を現金配当に回すかの比率を示すものです。
事前に、「利益の数%を配当に回す」というお約束を株主と取り交わすわけです。これまでは、「1株何円の(安定的)配当額」をお約束していました。これでは、企業業績の良否を問わず、一定額のキャッシュアウトを会社側に義務付けてしまいます。キャッシュフロー的には、何ら借入金と経済的意味的には変わりがありません。株主との交渉次第では、「無配」を引き出せるので、債権者に「返済繰り延べ」を飲んでもらうことと、経済的にはほぼ同義です。

これは、後の2つの指標にも共通して、言えることですが、企業が1年間に得た『儲け』のうち、何%を資金の出し手に還元して、残りの何%を将来の企業成長のための投資に振り向けるか、その分水嶺となるものです。したがって、企業の高い成長率と、成長後に得られるビックマネーが、自分が還元してもらって手元に戻ってくる配当金を自分で運用するより、現在価値が大きい、と信じるなら、目先の株主還元策など、しかも数%の配当性向の多寡で企業の良しあしなど簡単に判断できるものではないと思います。

2.「総還元性向」
これは、当期純利益が分母になることは、配当性向と同じですが、分子に配当金だけでなく、自己株取得額を含めたものになります。配当金は、種類株を発行していない限り、度の株主にも公平なインカムゲインが約束されています。自社株取得は、限定された株券提供者がキャピタルゲインを得た上、将来の1株あたり利益(ひいては配当性向)を残った株主に平等に分け与えることになります。

これは、「配当性向」より、相対的に長期の株式保有をしていないとその果実にあずかることができません。したがって、「配当性向」より株主構成の安定や長期保有へのインパクトが大きくなります。ただし、会社が買い取る株式を誰が提供するのか? 市場で顔の見えない一般株主から取得するのか、顔が見えているある大口所有者(機関投資家など)から買い取るのか、自己株取得方法の選択次第で、最初に恩恵を被るのは誰なのか、気にする必要はあります。

3.「DOE:Dividend on equity ratio(株主資本配当率)」
これは、「配当性向」と「ROE」のかけ算で算出される計算式なので、財務指標としては、計算要素が多い(それを包含する)という意味で、「配当性向」の上位に位置づけられるものです。指標の性質として、「株主資本」が計算要素に組み込まれているので、「配当性向」Onlyより、安定的な中長期的な指標として採用・運用するのに適しています。なにせ、配当性向は短期(1年)の業績変更によって大きく上下しますから。

この意味で、「DOE」は、その昔の中長期所有を前提としていた「安定配当」と、短期の業績にフォーカスした(そしてそれに注目した短期所有者)「配当性向」の両者のいいとこどりをしようとするもの、と考えることができます。

経営管理会計トピック_株主還元の各指標

結論として、どの指標も、会社の1年間のビジネスの果実である「配当可能利益」「業績評価利益」というパイをどのように切り分けるか。今年食べてしまうか、来年以降のパイを大きくするために使うか?

最後に、新聞記事から、やっぱり自分で考えて! というコメントを抜粋して本稿終わりにしたいと思います。

「日本では配当性向で30%を目安にする企業が多いが、米国では業種や成長段階によって配当性向に差があるとされる。大和住銀投信投資顧問の門司総一郎氏は「株主還元策を評価するには成長投資など総合的な資本戦略との兼ね合いを考えるべきだ」と指摘している。」

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多様化する株主還元策 配当性向引き上げなど 成長戦略に合わせ変更http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭とことんROEDOE,ROE,株主還元,総還元性向,配当性向■ 「配当性向」引き上げや「DOE」採用など 株主に配当を中心に、利益に分配にて厚く報いるため、各種の指標が採用されています。今回は、その指標を活用した株主還元政策自体の悪さ加減を強調するまでもなく、それぞれの指標の解説に徹したいと思います。 (筆者自身のスタンスは、バフェット氏と同様、企業の現金配当は『悪』- 経済的に不合理というものです。だって、株主の手元には、法人税と所得税のダブルでキャッシュアウトされてから届きますから) 2015/6/13|日本経済新聞|朝刊 多様化する株主還元策 配当性向引き上げなど 成長戦略に合わせ変更 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「株主還元の目安を設定したり、従来の方針を変更したりする動きが企業に相次いでいる。資金の使い道への投資家の関心が高まり、納得のいく説明をする必要があるためだ。財務や事業戦略に応じた還元策の採用など手法も多様になってきた。」 「大和証券によると主要200社で配当性向や総還元性向の目標値を掲げる企業は5月末で106社。2月末より約10社増えた。「資本戦略を明確にし、市場の信頼を高める動きが広がっている」(大和の山崎徳司氏)」 (下図は新聞記事掲載のチャートを転載) 従来は、「安定配当」が重要視されて、企業業績がどれくらい変動しようが、極論を言うと、当期純損失を計上しようが、配当は継続されてきました。右肩上がりの経済成長を経験してきた企業経営者と株主は、一時的に業績が悪化しても、景気循環に従っておればきっと巡航速度に戻った時企業業績は回復する、と信じていましたし、経営者も過重に経営責任を株主に負いたくなかったので。どうせサラリーマン社長で、社内規定の期間が終われば、会長職や顧問になり、生活費には困らない老後が約束されていましたから。   ■ 機動的に業績連動する株主還元政策の台頭 長期のデフレを経験したため、株主・経営者ともに、右肩上がりの企業成長が一時的な不調をすべて覆い隠してくれる、というユートピアが成立している時代は終焉を迎えたことに気付きました。さらに、海外投資家の積極的な日本市場への参加という素因も同時進行で発生し、毎期毎期の業績に連動する株主還元政策の提示の重要性が高まってきました。 1.「配当性向」 この指標の特徴は、当期純利益の何%を現金配当に回すかの比率を示すものです。 事前に、「利益の数%を配当に回す」というお約束を株主と取り交わすわけです。これまでは、「1株何円の(安定的)配当額」をお約束していました。これでは、企業業績の良否を問わず、一定額のキャッシュアウトを会社側に義務付けてしまいます。キャッシュフロー的には、何ら借入金と経済的意味的には変わりがありません。株主との交渉次第では、「無配」を引き出せるので、債権者に「返済繰り延べ」を飲んでもらうことと、経済的にはほぼ同義です。 これは、後の2つの指標にも共通して、言えることですが、企業が1年間に得た『儲け』のうち、何%を資金の出し手に還元して、残りの何%を将来の企業成長のための投資に振り向けるか、その分水嶺となるものです。したがって、企業の高い成長率と、成長後に得られるビックマネーが、自分が還元してもらって手元に戻ってくる配当金を自分で運用するより、現在価値が大きい、と信じるなら、目先の株主還元策など、しかも数%の配当性向の多寡で企業の良しあしなど簡単に判断できるものではないと思います。 2.「総還元性向」 これは、当期純利益が分母になることは、配当性向と同じですが、分子に配当金だけでなく、自己株取得額を含めたものになります。配当金は、種類株を発行していない限り、度の株主にも公平なインカムゲインが約束されています。自社株取得は、限定された株券提供者がキャピタルゲインを得た上、将来の1株あたり利益(ひいては配当性向)を残った株主に平等に分け与えることになります。 これは、「配当性向」より、相対的に長期の株式保有をしていないとその果実にあずかることができません。したがって、「配当性向」より株主構成の安定や長期保有へのインパクトが大きくなります。ただし、会社が買い取る株式を誰が提供するのか? 市場で顔の見えない一般株主から取得するのか、顔が見えているある大口所有者(機関投資家など)から買い取るのか、自己株取得方法の選択次第で、最初に恩恵を被るのは誰なのか、気にする必要はあります。 3.「DOE:Dividend on equity ratio(株主資本配当率)」 これは、「配当性向」と「ROE」のかけ算で算出される計算式なので、財務指標としては、計算要素が多い(それを包含する)という意味で、「配当性向」の上位に位置づけられるものです。指標の性質として、「株主資本」が計算要素に組み込まれているので、「配当性向」Onlyより、安定的な中長期的な指標として採用・運用するのに適しています。なにせ、配当性向は短期(1年)の業績変更によって大きく上下しますから。 この意味で、「DOE」は、その昔の中長期所有を前提としていた「安定配当」と、短期の業績にフォーカスした(そしてそれに注目した短期所有者)「配当性向」の両者のいいとこどりをしようとするもの、と考えることができます。 結論として、どの指標も、会社の1年間のビジネスの果実である「配当可能利益」「業績評価利益」というパイをどのように切り分けるか。今年食べてしまうか、来年以降のパイを大きくするために使うか? 最後に、新聞記事から、やっぱり自分で考えて! というコメントを抜粋して本稿終わりにしたいと思います。 「日本では配当性向で30%を目安にする企業が多いが、米国では業種や成長段階によって配当性向に差があるとされる。大和住銀投信投資顧問の門司総一郎氏は「株主還元策を評価するには成長投資など総合的な資本戦略との兼ね合いを考えるべきだ」と指摘している。」現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します