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■ 駐車場運営のパーク24がカーシェアリング事業で業績拡大している様子から

管理会計(基礎編)

本稿は、筆者のKPI経営のセオリーを、事例を使って検証するものです。日本経済新聞電子版:すごい現場で紹介されていた、日経情報ストラテジー2016年8月号記事再構成版を元に説明していきます。

2016/8/15付 |日本経済新聞|電子版 KPIあえて1つ パーク24のカーシェア躍進

「時間貸し駐車場最大手のパーク24は、カーシェアリングサービスでも国内最大手。このカーシェア事業の躍進を裏で支えるのは、あえて1つに絞ったKPI(重要業績評価指標)だ。一般にKPIの数値はサービス提供の「結果」であると同時に、自分たちのサービスが今どのレベルにあるのか、顧客からどう評価されているのかを正確につかむ「指針」であるとも言える。何をKPIに定め、現場でどう運用していけば、数値が改善し、サービス品質は向上するのか。パーク24の取り組みを深掘りする。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

KPI経営の成功は業績成長に現われます。パーク24の直近の業績予想記事を下記に引用します。

 

2016/11/23付 |日本経済新聞|朝刊 パーク24営業益最高、今期240億円 カーシェア好調

「駐車場運営のパーク24の2017年10月期はカーシェアリング事業が収益をけん引しそうだ。拠点数は今期中に初めて1万を突破しそうで、会員数や利用率が順調に拡大する。本業の駐車場事業も拠点数の増加で成長が続く見込み。今期の連結営業利益は前期推定(215億円前後)に比べ1割増の240億円前後と過去最高になる見通しだ。」

(下記は、同記事添付の「平日昼間は法人のカーシェア利用が多く、クルマは出払っている(22日、都内)」を引用)

20161123_平日昼間は法人のカーシェア利用が多く、クルマは出払っている(22日、都内)_日本経済新聞朝刊

ブランド名「タイムズカープラス」で展開するカーシェア事業の部門営業利益は、14年10月期に黒字転換して以降好調で、今期、25億円前後になったとみられる前期の2倍近い水準に拡大する見通し。拠点数は10月末時点で東京都心を中心に約8600拠点あり、今期中には1万超を射程に入れている。カーシェア2位のオリックスカーシェアの約1400、レンタカー最大手のトヨタレンタカーの1200を大きく上回り、コンビニ大手のローソンの店舗数(約1万2000)に迫る規模です。

そのビジネスモデルの強みは、

「利用者は車体にカードをかざすだけで車を借りられる。15分単位で借りられ、給油せずに返却できる手軽さが特徴だ。拠点数の増加で「どこでも借りられる」という利便性が加わり、会員数の伸びが加速している。10月末時点で前年同月比31%増え約72万人になった。会員数ベースでの業界シェアは7割を超える。」

(下記は、同記事添付の「パーク24の連結業績」を引用)

20161123_パーク24の連結業績_日本経済新聞朝刊

いわゆる「関連多角化」による事業横展開。既存事業のビジネス基盤と組織内情報資源を十二分に活用できる、効率的な多角化戦略のひとつで見事狙いが当たり、成功を収めました。では、その新規事業の運営でどのようなKPI経営が実践されているのでしょうか。

 

■ 新規事業を軌道に乗せるためには、分かりやすい管理指標で担当者の気分を乗せること!

筆者の「KPI マネジメント成功のコツ」は次のとおり。

業績管理会計(入門編)_KPI マネジメント成功のコツとは

⇒「KPI経営入門(1)適切で分かりやすいKPIを設定する - 経営目標への達成水準と貢献度から経営ボトルネックを探る!

この4つの視点から、パーク24のカーシェアリングサービスにおけるオペレーション改善にてKPI経営がどのように実践されているかを見ていきます。

(1)分かりやすさ
カーシェア事業の躍進を裏で支えるのは、あえて1つに絞ったKPI(重要業績評価指標)。一般的にKPI数値はサービス提供の「結果」であると同時に、自分たちのサービスが今どのレベルにあるのか、顧客からどう評価されているのかを正確につかむ「指針」でもあります。何をKPIに定め、現場でどう運用していけば、結果数値が改善すると同時に、サービス品質も向上させることができるのか。その取り組みに秘密がありました。

その前にカーシェアリングビジネスの概要をご紹介。
「パーク24が提供するカーシェアリングサービス「タイムズカープラス」は、2009年5月にサービスを開始。現在までに車の台数は1万4000台を超え、国内シェアの約7割を握る最大手にまで成長。パーク24の業績向上に貢献している。
全国に約1万6500カ所ある時間貸し駐車場「タイムズ」に車を置くことで顧客の利便性を高めたうえ、ガソリン代と保険料込みで15分206円からという低料金で、日本では当時まだ珍しかったカーシェアを定着させてきた。会員数は約60万人と着実に増えている(いずれも2016年3月末時点の数字)。」

そんなカーシェアの躍進を裏で支えるのがKPI。同社はKPIの設定と追求を徹底することでサービス品質の向上を図り、持続的成長を可能にしてきました。主力の貸し駐車場なら「出庫当たりの入電数」を駐車場の入電率ととらえ、カーシェアとは別のKPIとして管理しています。

カーシェアリングサービスのコールセンターが追いかけるKPIは、『入電率』だけと宣言し、コールセンターでのサービス対応の全ての課題洗い出しとサービス品質向上の結果評価も、このKPIだけに頼ることにしました。

パーク24は、グループ会社(タイムズコミュニケーション)で電話応対業務を手がけており、同社が追求するKPIを1つに絞り、一点突破でサービス改善につなげようとしたのです。

『入電率』:カーシェアの利用件数当たりのコールセンターへの入電数
(1回のサービス利用で、顧客から何回電話がかかってくるかを見る指標)

「パーク24が入電率にこだわるのは「お客様が電話(コールセンター)に頼らないと困るような、ストレスの大きいサービスを提供していること自体が“悪”と考えているため。入電率が高いうちはお客様の評価は低い」(齊藤執行役員)。」

 

■ そもそも「顧客が電話に頼ることを「悪」と考える」ことからサービスを始める

(2)適切性
こうした一点突破のKPI管理は功を奏したのでしょうか? パーク24では、約3年半でこのKPIをほぼ半減し、それに比例して、パーク24が提供するカーシェアリングサービス「タイムズカープラス」は、2009年5月にサービスを開始した以降、現在までに車の台数は1万4000台を超え、国内シェアの約7割を握る最大手にまで成長。パーク24の業績向上に貢献しています。

(下記は、同記事添付の「パーク24がKPIに設定した「入電率」の推移」を引用)

20161123_パーク24の連結業績_日本経済新聞電子版

パーク24の最大の特徴は無人サービスを提供していること。駐車場には専用の装置がありますが、管理者はいません。そのため駐車場でもカーシェアでも、サービス現場で何か問題が起きれば、利用者は必ずと言っていいほど、電話を架けてきます。

特にカーシェアはまだまだ日本ではなじみが薄いサービスのため、不慣れな顧客が多く、今も電話は鳴り止まないそうです。サービスを始めて数年のパーク24自身も“勉強中”の部分が多とのこと。

「お客様に指摘を受けて気づくことがたくさんある。電話を“お腹いっぱい”受け止め、細かいところまで改善しながらKPIを引き下げていく」(タイムズコミュニケーションの中川寛智サービス推進部運用推進チームスーパーバイザー)。

しかし、ビジネス拡大に反比例して、その入電数が約3年半で半減したということは、簡明にサービス品質はもとより顧客満足度が向上した以外の何物でないことを証明しています。

 

■ 「入電率50%」からの苦い船出。正しい方向に頑張る担当者の努力を無駄にしない!

(3)達成感
KPIを「入電率」一つに絞って集中管理した結果は確実に出てきました。2012年11月を100としたときの入電率の相対比較では、2016年春までにほぼ半減。しかし、サービス開始から現在までの約7年間を振り返ると、最初はまさに手探り状態。

「当初は2回利用があると1回電話がかかってくるほどだった。つまり、入電率は50%。利用者の半数が電話をしなければ、スムーズに使えない“不完全”なサービスだった」(齊藤執行役員)。

このサービスはカーシェアをよく知らない人が、試しに1回使ってみたところから全てが始まります。当初、かかってきた電話の内容は次の通り。

「レンタカーとはどこが違うの?」
「車の返却時にガソリンは満タン返しでなくてもいいの?」
「車内にゴミが落ちているんだけれど、掃除はしないの?」など。

しかも、普段車を運転しない人がたまに利用するのもカーシェアの大きな特徴であるため、そもそも車に詳しくないため、駐車場サービスより多種多様な質問が出やすい傾向にあるそうです。

「電話を受けるオペレーターはカーシェアだけで顧客の声を100種類強に分類し、コールセンターのシステムに入力。オペレーターが対応しきれないものは、優先順位に沿ってスーパーバイザーや管理職などが対応に当たる。事故など急を要するものは即対応が必要だし、「汚れがひどい」との声が寄せられれば、現場に清掃にも駆け付けることがある。」

こうして、様々なお客様からの声を集めて蓄積し、ウェブサイトには「お客様の声」として掲載。メール配信も併用しながら、改善できた案件は内容をいち早く公開し、「お客様の声に基づく変更点を素早くお知らせすることに注力」しているのだそうです。

<ポイント>
「せっかく改善しても顧客にきちんと伝わらなければ、変更が加わったことがかえって混乱を招き、別のクレームにつながる。それではいつまでたっても顧客満足度は高まらず、入電率も下がらない。」

 

■ 「自動アナウンスで、ETCカードの取り忘れを防止」地道な創意工夫がビジネスを伸ばす!

(4)継続的改善
「入電率」という一つに絞ったKPIの低下(改善)は、カーシェアリングサービス改善の地道な積み上げの結果とも言えます。なかでも大きな成果を上げたものが2つあるそうです。

①「車内に忘れ物をした」ときの対応
②「ETCカードを取り忘れた」ときの対応

①「車内に忘れ物をした」ときの対応
この対応話にはそれなりのドラマがありました。
サービスを始めて分かったことは、返却時に車内に忘れ物をする人が非常に多いということ。そこでパーク24は車の返却が完了すると、利用者のスマートフォン(スマホ)に「返却証メール」を配信。そのメールの記載に従えば、1時間以内に限り、ドアをもう一度開けられるようにしていた。こうして忘れ物を利用者自身で取り出せるようにし、他社にはないサービスで顧客満足を向上させてリピート客の心を掴むのに成功します。

ところがこの仕組みが返って2次クレームにつながってしまいました。実は忘れ物の多くは顧客のスマホだったのです。返却証メールは見られないし、助けを呼びたくても、その場から電話がかけられないときもあります。当然、ドアを開けることもできないので顧客は途方に暮れてしまうのです。

その事実に気づいたパーク24は、忘れ物対応を変更し、会員カードをドアにかざせば、一度だけドアを開けられるようにシステムを修正したのです。これ以降、入電率は大きく減少したそうです。

(下記は、同記事添付の「車内に忘れ物をした人のために、返却後の車に会員カードをかざすと、一度だけドアを開けられるように変更。左下は、タイムズ24の亀田真隆タイムズカープラス事業部企画グループグループリーダー」を引用)

20160815_車内に忘れ物をした人のために、返却後の車に会員カードをかざすと、一度だけドアを開けられるように変更。左下は、タイムズ24の亀田真隆タイムズカープラス事業部企画グループグループリーダー_日本経済新聞電子版

②「ETCカードを取り忘れた」ときの対応
顧客の不注意と言えばそれまでですが、高速道路を利用した顧客がETCカードを車載器に差したまま返却するトラブルも後を絶たなかったそうです。そこで返却前に、車内に「ETCカード、ETCカード…」とアナウンスを連呼する仕組みを導入しました。これでETCカードに関する入電数が約70%(実施前1カ月と実施後1カ月の比較)減り、KPIが下がりました(改善しました)。

そこでまたドラマが。。。

それでもさらなる指摘が寄せられました。利用者から「車の返却間際は何かと慌しく、ETCカードのことを忘れてしまう」と言われました。そこでパーク24は次の改善に動きます。

「車が高速道路を下りて最初に停止したタイミング、つまり最初の信号停止を遠隔で自動認識できるようにし、そのときに「ETCカードをお忘れなく」とアナウンスを入れることにした。これなら落ち着いてETCカードを抜き取れる。これでETCカードに関する入電数が約25%減った。」

上記2例から、「入電率」というKPIを設定したら全ての課題が解決するわけではなく、「入電率」という適切な目標管理指標を設定したら、それをどうやって改善するか、担当組織に属する全従業員が、ただ一つの目標に向かって正しい努力や創意工夫をすることを組織内での通常行動に無自覚的にビルドインすることが大切です。特に、新規事業立ち上げの場合は、先例がないことの方が通常ですので、担当者レベルで、与えられたKPI改善のために、どういう工夫を思いつき、それをトライアンドエラーで実際にできるだけ数多く試すことができるのか、そういう職場の思考回路を通常装備で実装することが重要になってきます。

 

■ 「自前主義が改善スピードを上げる」 経営課題を我が事とするための知恵とは?

パーク24では、他にも、入電率を下げるため = 顧客が利用現場で困らないようにするため、次々とサービス仕様を顧客満足に合わせるように改善していっています。

① 車の予約時に目的地を設定しておけば、乗車時にあらかじめカーナビの目的地を事前設定しておく
② 利用者がガソリンの給油に協力してくれた場合、以前は電話で知らせてもらっていたが、自動検知の仕組みを導入することで、わざわざ電話をしなくてもいいように変えた

こうしたサービスの改良を矢継ぎ早に実践できる秘訣が2点、次のように紹介されていました。

(1)サービスの内製化
「「当社の強みはコールセンターやシステム、車両の清掃や点検などをグループ内で内製していること。だからお客様の声に素早く対応できる」と強調する。高速道路を下りたタイミングの把握や給油を自動検知する仕組みの開発は、遠隔管理システムを内製してきた賜物だ。」

(2)ヒートマップを使った改善活動
「最近は基本的なサービス改善は減ってきたので、より高度な改善で中・長期的にKPIと向き合えるようになった。2016年1月には「ヒートマップ委員会」を発足させ、齊藤氏や中川氏、亀田氏らが参加して、最も“ホット”な改善テーマを隔週で取り上げる会議を始めている。」

(下記は、同記事添付の「KPIを改善するため、中・長期的な施策を議論する「ヒートマップ委員会」を引用)

20160815_KPIを改善するため、中・長期的な施策を議論する「ヒートマップ委員会」_日本経済新聞電子版

継続的改善を話し合う場を設ける。その際にも議論の中心にあるのは、KPIとそれを可視化したヒートマップチャート。KPI経営の神髄ここに見たり!

業績経営会計(入門編)_KPI経営入門(3)KPIあえて1つ パーク24のカーシェア躍進 - 日経情報ストラテジー2016年8月号より

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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KPI経営入門(3)KPIあえて1つ パーク24のカーシェア躍進 - 日経情報ストラテジー2016年8月号よりhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/03/9313ed6460f7d58b8e62d9b27fdfc19d-e1428166718340.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/03/9313ed6460f7d58b8e62d9b27fdfc19d-150x150.jpg小林 友昭業績管理会計(入門編)KPI,カーシェア,タイムズカープラス,パーク24,ヒートマップ,入電率■ 駐車場運営のパーク24がカーシェアリング事業で業績拡大している様子から 本稿は、筆者のKPI経営のセオリーを、事例を使って検証するものです。日本経済新聞電子版:すごい現場で紹介されていた、日経情報ストラテジー2016年8月号記事再構成版を元に説明していきます。 2016/8/15付 |日本経済新聞|電子版 KPIあえて1つ パーク24のカーシェア躍進 「時間貸し駐車場最大手のパーク24は、カーシェアリングサービスでも国内最大手。このカーシェア事業の躍進を裏で支えるのは、あえて1つに絞ったKPI(重要業績評価指標)だ。一般にKPIの数値はサービス提供の「結果」であると同時に、自分たちのサービスが今どのレベルにあるのか、顧客からどう評価されているのかを正確につかむ「指針」であるとも言える。何をKPIに定め、現場でどう運用していけば、数値が改善し、サービス品質は向上するのか。パーク24の取り組みを深掘りする。」 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます KPI経営の成功は業績成長に現われます。パーク24の直近の業績予想記事を下記に引用します。   2016/11/23付 |日本経済新聞|朝刊 パーク24営業益最高、今期240億円 カーシェア好調 「駐車場運営のパーク24の2017年10月期はカーシェアリング事業が収益をけん引しそうだ。拠点数は今期中に初めて1万を突破しそうで、会員数や利用率が順調に拡大する。本業の駐車場事業も拠点数の増加で成長が続く見込み。今期の連結営業利益は前期推定(215億円前後)に比べ1割増の240億円前後と過去最高になる見通しだ。」 (下記は、同記事添付の「平日昼間は法人のカーシェア利用が多く、クルマは出払っている(22日、都内)」を引用) ブランド名「タイムズカープラス」で展開するカーシェア事業の部門営業利益は、14年10月期に黒字転換して以降好調で、今期、25億円前後になったとみられる前期の2倍近い水準に拡大する見通し。拠点数は10月末時点で東京都心を中心に約8600拠点あり、今期中には1万超を射程に入れている。カーシェア2位のオリックスカーシェアの約1400、レンタカー最大手のトヨタレンタカーの1200を大きく上回り、コンビニ大手のローソンの店舗数(約1万2000)に迫る規模です。 そのビジネスモデルの強みは、 「利用者は車体にカードをかざすだけで車を借りられる。15分単位で借りられ、給油せずに返却できる手軽さが特徴だ。拠点数の増加で「どこでも借りられる」という利便性が加わり、会員数の伸びが加速している。10月末時点で前年同月比31%増え約72万人になった。会員数ベースでの業界シェアは7割を超える。」 (下記は、同記事添付の「パーク24の連結業績」を引用) いわゆる「関連多角化」による事業横展開。既存事業のビジネス基盤と組織内情報資源を十二分に活用できる、効率的な多角化戦略のひとつで見事狙いが当たり、成功を収めました。では、その新規事業の運営でどのようなKPI経営が実践されているのでしょうか。   ■ 新規事業を軌道に乗せるためには、分かりやすい管理指標で担当者の気分を乗せること! 筆者の「KPI マネジメント成功のコツ」は次のとおり。 ⇒「KPI経営入門(1)適切で分かりやすいKPIを設定する - 経営目標への達成水準と貢献度から経営ボトルネックを探る!」 この4つの視点から、パーク24のカーシェアリングサービスにおけるオペレーション改善にてKPI経営がどのように実践されているかを見ていきます。 (1)分かりやすさ カーシェア事業の躍進を裏で支えるのは、あえて1つに絞ったKPI(重要業績評価指標)。一般的にKPI数値はサービス提供の「結果」であると同時に、自分たちのサービスが今どのレベルにあるのか、顧客からどう評価されているのかを正確につかむ「指針」でもあります。何をKPIに定め、現場でどう運用していけば、結果数値が改善すると同時に、サービス品質も向上させることができるのか。その取り組みに秘密がありました。 その前にカーシェアリングビジネスの概要をご紹介。 「パーク24が提供するカーシェアリングサービス「タイムズカープラス」は、2009年5月にサービスを開始。現在までに車の台数は1万4000台を超え、国内シェアの約7割を握る最大手にまで成長。パーク24の業績向上に貢献している。 全国に約1万6500カ所ある時間貸し駐車場「タイムズ」に車を置くことで顧客の利便性を高めたうえ、ガソリン代と保険料込みで15分206円からという低料金で、日本では当時まだ珍しかったカーシェアを定着させてきた。会員数は約60万人と着実に増えている(いずれも2016年3月末時点の数字)。」 そんなカーシェアの躍進を裏で支えるのがKPI。同社はKPIの設定と追求を徹底することでサービス品質の向上を図り、持続的成長を可能にしてきました。主力の貸し駐車場なら「出庫当たりの入電数」を駐車場の入電率ととらえ、カーシェアとは別のKPIとして管理しています。 カーシェアリングサービスのコールセンターが追いかけるKPIは、『入電率』だけと宣言し、コールセンターでのサービス対応の全ての課題洗い出しとサービス品質向上の結果評価も、このKPIだけに頼ることにしました。 パーク24は、グループ会社(タイムズコミュニケーション)で電話応対業務を手がけており、同社が追求するKPIを1つに絞り、一点突破でサービス改善につなげようとしたのです。 『入電率』:カーシェアの利用件数当たりのコールセンターへの入電数 (1回のサービス利用で、顧客から何回電話がかかってくるかを見る指標) 「パーク24が入電率にこだわるのは「お客様が電話(コールセンター)に頼らないと困るような、ストレスの大きいサービスを提供していること自体が“悪”と考えているため。入電率が高いうちはお客様の評価は低い」(齊藤執行役員)。」   ■ そもそも「顧客が電話に頼ることを「悪」と考える」ことからサービスを始める (2)適切性 こうした一点突破のKPI管理は功を奏したのでしょうか? パーク24では、約3年半でこのKPIをほぼ半減し、それに比例して、パーク24が提供するカーシェアリングサービス「タイムズカープラス」は、2009年5月にサービスを開始した以降、現在までに車の台数は1万4000台を超え、国内シェアの約7割を握る最大手にまで成長。パーク24の業績向上に貢献しています。 (下記は、同記事添付の「パーク24がKPIに設定した「入電率」の推移」を引用) パーク24の最大の特徴は無人サービスを提供していること。駐車場には専用の装置がありますが、管理者はいません。そのため駐車場でもカーシェアでも、サービス現場で何か問題が起きれば、利用者は必ずと言っていいほど、電話を架けてきます。 特にカーシェアはまだまだ日本ではなじみが薄いサービスのため、不慣れな顧客が多く、今も電話は鳴り止まないそうです。サービスを始めて数年のパーク24自身も“勉強中”の部分が多とのこと。 「お客様に指摘を受けて気づくことがたくさんある。電話を“お腹いっぱい”受け止め、細かいところまで改善しながらKPIを引き下げていく」(タイムズコミュニケーションの中川寛智サービス推進部運用推進チームスーパーバイザー)。 しかし、ビジネス拡大に反比例して、その入電数が約3年半で半減したということは、簡明にサービス品質はもとより顧客満足度が向上した以外の何物でないことを証明しています。   ■ 「入電率50%」からの苦い船出。正しい方向に頑張る担当者の努力を無駄にしない! (3)達成感 KPIを「入電率」一つに絞って集中管理した結果は確実に出てきました。2012年11月を100としたときの入電率の相対比較では、2016年春までにほぼ半減。しかし、サービス開始から現在までの約7年間を振り返ると、最初はまさに手探り状態。 「当初は2回利用があると1回電話がかかってくるほどだった。つまり、入電率は50%。利用者の半数が電話をしなければ、スムーズに使えない“不完全”なサービスだった」(齊藤執行役員)。 このサービスはカーシェアをよく知らない人が、試しに1回使ってみたところから全てが始まります。当初、かかってきた電話の内容は次の通り。 「レンタカーとはどこが違うの?」 「車の返却時にガソリンは満タン返しでなくてもいいの?」 「車内にゴミが落ちているんだけれど、掃除はしないの?」など。 しかも、普段車を運転しない人がたまに利用するのもカーシェアの大きな特徴であるため、そもそも車に詳しくないため、駐車場サービスより多種多様な質問が出やすい傾向にあるそうです。 「電話を受けるオペレーターはカーシェアだけで顧客の声を100種類強に分類し、コールセンターのシステムに入力。オペレーターが対応しきれないものは、優先順位に沿ってスーパーバイザーや管理職などが対応に当たる。事故など急を要するものは即対応が必要だし、「汚れがひどい」との声が寄せられれば、現場に清掃にも駆け付けることがある。」 こうして、様々なお客様からの声を集めて蓄積し、ウェブサイトには「お客様の声」として掲載。メール配信も併用しながら、改善できた案件は内容をいち早く公開し、「お客様の声に基づく変更点を素早くお知らせすることに注力」しているのだそうです。 <ポイント> 「せっかく改善しても顧客にきちんと伝わらなければ、変更が加わったことがかえって混乱を招き、別のクレームにつながる。それではいつまでたっても顧客満足度は高まらず、入電率も下がらない。」   ■ 「自動アナウンスで、ETCカードの取り忘れを防止」地道な創意工夫がビジネスを伸ばす! (4)継続的改善 「入電率」という一つに絞ったKPIの低下(改善)は、カーシェアリングサービス改善の地道な積み上げの結果とも言えます。なかでも大きな成果を上げたものが2つあるそうです。 ①「車内に忘れ物をした」ときの対応 ②「ETCカードを取り忘れた」ときの対応 ①「車内に忘れ物をした」ときの対応 この対応話にはそれなりのドラマがありました。 サービスを始めて分かったことは、返却時に車内に忘れ物をする人が非常に多いということ。そこでパーク24は車の返却が完了すると、利用者のスマートフォン(スマホ)に「返却証メール」を配信。そのメールの記載に従えば、1時間以内に限り、ドアをもう一度開けられるようにしていた。こうして忘れ物を利用者自身で取り出せるようにし、他社にはないサービスで顧客満足を向上させてリピート客の心を掴むのに成功します。 ところがこの仕組みが返って2次クレームにつながってしまいました。実は忘れ物の多くは顧客のスマホだったのです。返却証メールは見られないし、助けを呼びたくても、その場から電話がかけられないときもあります。当然、ドアを開けることもできないので顧客は途方に暮れてしまうのです。 その事実に気づいたパーク24は、忘れ物対応を変更し、会員カードをドアにかざせば、一度だけドアを開けられるようにシステムを修正したのです。これ以降、入電率は大きく減少したそうです。 (下記は、同記事添付の「車内に忘れ物をした人のために、返却後の車に会員カードをかざすと、一度だけドアを開けられるように変更。左下は、タイムズ24の亀田真隆タイムズカープラス事業部企画グループグループリーダー」を引用) ②「ETCカードを取り忘れた」ときの対応 顧客の不注意と言えばそれまでですが、高速道路を利用した顧客がETCカードを車載器に差したまま返却するトラブルも後を絶たなかったそうです。そこで返却前に、車内に「ETCカード、ETCカード…」とアナウンスを連呼する仕組みを導入しました。これでETCカードに関する入電数が約70%(実施前1カ月と実施後1カ月の比較)減り、KPIが下がりました(改善しました)。 そこでまたドラマが。。。 それでもさらなる指摘が寄せられました。利用者から「車の返却間際は何かと慌しく、ETCカードのことを忘れてしまう」と言われました。そこでパーク24は次の改善に動きます。 「車が高速道路を下りて最初に停止したタイミング、つまり最初の信号停止を遠隔で自動認識できるようにし、そのときに「ETCカードをお忘れなく」とアナウンスを入れることにした。これなら落ち着いてETCカードを抜き取れる。これでETCカードに関する入電数が約25%減った。」 上記2例から、「入電率」というKPIを設定したら全ての課題が解決するわけではなく、「入電率」という適切な目標管理指標を設定したら、それをどうやって改善するか、担当組織に属する全従業員が、ただ一つの目標に向かって正しい努力や創意工夫をすることを組織内での通常行動に無自覚的にビルドインすることが大切です。特に、新規事業立ち上げの場合は、先例がないことの方が通常ですので、担当者レベルで、与えられたKPI改善のために、どういう工夫を思いつき、それをトライアンドエラーで実際にできるだけ数多く試すことができるのか、そういう職場の思考回路を通常装備で実装することが重要になってきます。   ■ 「自前主義が改善スピードを上げる」 経営課題を我が事とするための知恵とは? パーク24では、他にも、入電率を下げるため = 顧客が利用現場で困らないようにするため、次々とサービス仕様を顧客満足に合わせるように改善していっています。 ① 車の予約時に目的地を設定しておけば、乗車時にあらかじめカーナビの目的地を事前設定しておく ② 利用者がガソリンの給油に協力してくれた場合、以前は電話で知らせてもらっていたが、自動検知の仕組みを導入することで、わざわざ電話をしなくてもいいように変えた こうしたサービスの改良を矢継ぎ早に実践できる秘訣が2点、次のように紹介されていました。 (1)サービスの内製化 「「当社の強みはコールセンターやシステム、車両の清掃や点検などをグループ内で内製していること。だからお客様の声に素早く対応できる」と強調する。高速道路を下りたタイミングの把握や給油を自動検知する仕組みの開発は、遠隔管理システムを内製してきた賜物だ。」 (2)ヒートマップを使った改善活動 「最近は基本的なサービス改善は減ってきたので、より高度な改善で中・長期的にKPIと向き合えるようになった。2016年1月には「ヒートマップ委員会」を発足させ、齊藤氏や中川氏、亀田氏らが参加して、最も“ホット”な改善テーマを隔週で取り上げる会議を始めている。」 (下記は、同記事添付の「KPIを改善するため、中・長期的な施策を議論する「ヒートマップ委員会」を引用) 継続的改善を話し合う場を設ける。その際にも議論の中心にあるのは、KPIとそれを可視化したヒートマップチャート。KPI経営の神髄ここに見たり! (注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します