KPI経営入門(5)りそな銀、顧客満足度で支店評価 収益中心から転換 - 先行指標(KLI)と結果指標(KGI)、中長期目標管理と短期業績評価

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■ 地銀の支店評価体系の変更に見るKPI経営の要諦とは?

管理会計(基礎編)

KPI経営は、おどろおどろしいKPIを並べて、こけおどしをかけるのではなく、きちんと使い方や設定目的を評価される従業員と評価するマネジメントとの間で意思疎通を図っておかなければなりません。

2017/4/25付 |日本経済新聞|朝刊 りそな銀、顧客満足度で支店評価 収益中心から転換

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「りそな銀行は今年度から半年に1度実施する支店の評価で、顧客満足度を優先する新たな評価体系を導入する。融資や貸出金の実績など収益に関わる項目を中心に据えてきた従来の方針を転換する。顧客の要望にあった金融商品を提案できるかどうかに重点を置き、中長期目線で顧客を獲得できる体制を築く。」

支店評価のためのKPIを再設定するということは、

① 新たに提示されたKPIは、マネジメントから支店への業務活動方針の伝達である
② 支店で働く行員(従業員)にとって、自己評価を上げるための目標としてKPIが解釈される

①について
地銀のトップマネジメントは自行が置かれている外部環境の変化への対応を迫られており、それを全行員、特に最前線で顧客に対応してもらっている支店で働く従業員に浸透させることを意図しています。上から示された評価指標は、下への行動指針そのものです。

今回、りそな銀が意図している行動指針は次の通り。

1)「フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)」の徹底
フィデューシャリー・デューティーとは
他者の信認を得て、一定の任務を遂行すべき者が負っている幅広い様々な役割・責任の総称(金融庁「平成26事務年度金融モニタリング基本方針」)
他者の信認を得て一定範囲の任務を遂行すべき者を指す「fiduciary(フィデューシャリー):受託者」が負う様々な「duty:責任」のことを意味する。元々は、信託の受託者が委託者および受益者に対して負う義務を指す概念。英米法において、広範な裁量権を有し、財産の処分や管理を行う信託の受託者が受益者の利益を第一に考え、裁量権の濫用を防止する法理として発展し、今日では、信託の受託者以外にも、弁護士や会計士、医師など高い専門能力と裁量権をもって他者のために働く者にまで拡張されている職業倫理となっている

2)マイナス金利および少子高齢化と地方の過疎化による市場競争力の劣化対応
「人口減や地方経済の低迷で銀行間の競争は激化しており、短期的に収益が落ちるリスクを覚悟で長い目で顧客と強い関係を築く。従業員の残業時間減や有休取得などの働き方改革や、生産性向上も重点項目に置く。」

いわゆる目の前の利益を追わずに、短期的な収益の伸びを犠牲にしてでも、顧客基盤をしっかりと築くことで、中長期的な市場競争力の強化が経営基盤の健全化・安定化につながると判断したことを示しています。

②について
与えられたKPIで人事考課が行われるハズであると動物的直感で捉えるのがヒトの性(さが)ですから、自らのKPI改善が行員の行動様式を決定、あるいは方向づけます。

しかも今回は、どのように店頭で顧客対応すべきか、方法まで具体的な指示が出ていますので、ある意味、いたせりつくせり、といった観があります。

「出張所を除く全国267店で実施する。投資信託や保険販売の際にタブレット端末で顧客にアンケートに答えてもらう。資産規模や家族構成に応じた商品提案や、市場環境の変化に応じた見直しが提案できているかなどを聞き取り、それらを重点項目とする。収益でトップの成績を収めた店でも重点項目で一定基準を満たさないと表彰されない仕組みで、従業員の意識改革を促す。」

KPIを示して目標を与えて、同時にその目標達成のための行動様式まで具体的に示す。これは大変理想的なKPI経営の形といえます。

⇒「KPI経営入門(1)適切で分かりやすいKPIを設定する - 経営目標への達成水準と貢献度から経営ボトルネックを探る!

 

■ KGIだけを与えられても、ヒトは効果的に行動することが難しい

りそな銀のトップマネジメントが果たした効能は、KPI経営の定石から見ても、大層大きなものがあります。

その企業にとって、ビジネスで成功するために注視すべき「重要成功要因(CSF/KFS)」を明確にし、この重要成功要因の実践のための行動様式へのヒントを与え、同時に、その行動が結果として重要成功要因の達成度合いを評価するためにKPIで定量的に表示される基準値を斟酌することになります。

経営管理会計トピック_KPIの定義とCSFとの関係

そして、そのKPIの体系は、キャプラン、ノートンの「バランスト・スコアカード(BSC)」でモデリングされた、4つの視点の連鎖で整理されることが効果的でしょう。

最終的な財務的な収益目標を達成するためには、
①従業員満足を高める ⇒ 高い業務品質を担保する
②高い業務品質 ⇒ 顧客満足度を向上させる
③顧客満足度の向上 ⇒ 顧客基盤の強化が高い収益性をもたらす
という経路を寄り道せずに一番近道で到達した企業に高収益性が継続的にもたらされます。

手っ取り早く、最後の「財務KPI」で、売上高や利益額、およびその比率指標や成長率を示して、従業員に頑張れ、と大号令をかけた場合、目先の販売機会を前倒しで食い散らかして好業績を装い、自転車操業で高収益に見せかけるフロント組織(この場合は支店)の短期主義的行動を刺激するだけで、中長期の業績目標の達成からは却って遠ざかる結果となるでしょう。数年単位で支店間の転勤が予定されている行員としては、短い在任中の結果業績だけを追いがちになりますから。

「財務KPI」は、企業活動の最終的な結果として、その良否を判断するものであって、いわゆる「結果指標(KGI:Key Goal Indicators)」とも呼ばれるものです。いきなりヒトにKGIだけを示しても、どう行動するかのヒントを示さなければ、ヒトは自己勝手流に仕事をしてしまいますので、ヒトの集合体である企業としては、それではどうして群れて(個人事業主として活動しているわけではないという意味)仕事をしているのか、協働の利益を享受できなくなってしまう傾向が強く出てしまう懸念があります。

⇒「(やさしい経済学)ROE重視と企業価値創造(3)当期純利益は目的でなく結果 小樽商科大学准教授 手島直樹 - KPI経営の基本とは KPI・CSF・KGIの関係から
⇒「偏差値・満足度・就職率…経営「見える化」広がる 関学大や早大 各部署が改革目標共有 - KPIの見える化経営と使われないBIについて

 

■ KLIとKGIとCSFによるストーリーで説明し、中長期目標管理を行って短期業績の改善の果実を得る方法

KPI体系は、企業活動の中から「重要成功要因(CSF/KFS)」を見つけ出し、そのための活動指針としてKPIを設定していくのですが、そのKPI自身にも、BSCの4つの視点以外の整理法も同時に適用した方が業績管理にもっと役立てることができます。それは、KPI達成の因果関係に沿って、「先行指標(KLI:Key Lead Indicators)」と「結果指標(KGI:Key Goal Indicators)」に意識的に並べることです。

原因 ⇒ 結果
KLI ⇒ KGI

傾向として、KLIには、業務的KPI(非財務KPI)が来ることが多く、KGIには財務KPIが来ることが多いのが特徴です。また、KLIは、中長期的な取り組みの後に達成できることが多く、KGIは、短期的な業績目標も取り入れられていることが多いのも特色になっています。

また、原因と結果の連鎖は、単連鎖ではなく、いくつもの数珠つなぎで形成されているのが普通です。

顧客ニーズに適合した商品開発 → 客単価の向上
作業リードタイム短縮 → 客回転率の上昇

客単価の向上・客回転率の上昇 → 売上高の増加

売上高の増加 → 顧客認知度の上昇とブランド価値向上

顧客認知度の上昇とブランド価値向上 → 営業利益額の増大

必ずしも「財務的KPI」=「KGI」とは限りません。上記の複連鎖の途中に位置する「売上高の増加」は顧客活動の一環として、認知度・ブランド価値上昇の「KLI」ともなり得るからです。

業績管理会計(入門編)_KPIの分類と連鎖関係

上図から分かることは、このチャートの縦軸と横軸の配置において、「くの字型モデル」になっていることです。短期的な財務KPIの向上を図るために、短期的な業務KPI(KLI)を目先の評価向上を目的として改善を行っても、小幅でかつ一時的なものに終わるでしょう。中長期的な財務KPI(KGI)の改善を企図しならば、そのための取り組みは中長期なものに自然となり、意図した効果が発現すれば、圧倒的な業績改善がKGIに見られるでしょう。

小さく短期的に業績向上を図るか、大きく中長期的に構えて経営の継続性と健全性に配慮するか? 経営実務では単純な二者択一ではないかもしれません。短期業績を追いかけることと、中長期的な経営基盤構築のバランスが重要で、例えば、製品リーダーシップ戦略を採用している企業ならば、「売上高R&D比率」がそのバランス指標たり得ます。

大事なことは、この「くの字型モデル」になっていることを理解した上で、長短のKGIとそれを実現するKLIをCSFに着目した成功ストーリーに沿って設定することが肝要であるという気づきなのです。

小さく叩けば小さく響き、大きく叩けば大きく響く。

それが、KLIとKGIの関係なのでした。

業績管理会計(入門編)_KPI経営入門(5)りそな銀、顧客満足度で支店評価 収益中心から転換 - 先行指標(KLI)と結果指標(KGI)、中長期目標管理と短期業績評価

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