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KPI経営入門(6)広島大、教員に達成度指標 世界ランクトップ100入り狙う 論文数・人材育成、チャートで明示 ‐ミッションマネジメントの重要性

業績管理会計(入門)
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■ 広島大学が推進するKPI経営とは?

本ブログにて大学運営とKPI経営の関連について語るのはこれが2回目となります。

⇒「偏差値・満足度・就職率…経営「見える化」広がる 関学大や早大 各部署が改革目標共有 - KPIの見える化経営と使われないBIについて

前回投稿の主旨は、
① NPO(非営利団体)にこそ、BSC(バランスト・スコアカード)フレームワークに基づくKPIモニタリングが適している
② 業績目標と目標達成手段と業績評価指標の3つは厳格に区別して用いられるべきである
③ ERPやBIなど、ITだけに頼って計測可能で且つ有用であり続けるKPIは取得できない
というものでした。

今回は、広島大学の「AKPI」の成り立ちと構成をみながら、KPI経営の目的と、それに関連する「ミッションマネジメント」についての理解を深めていきたいと思います。

2017/4/26付 |日本経済新聞|朝刊 広島大、教員に達成度指標 世界ランクトップ100入り狙う 論文数・人材育成、チャートで明示

「世界大学ランキングでの順位向上を目指し、広島大が導入した教員の個人業績指標が注目を集めている。トップ100校入りに必要な5つの要素ごとに、一人ひとりの目標達成度を数値で表して「見える化」した。日本の大学の国際順位が低迷する中、画期的な取り組みと評価する声がある一方、教員の戸惑いや反発は強く、現場に浸透するかどうかは見通せない。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

広島大が教員の個人業績評価指標として導入した「AKPI」とは、「目標達成型重要業績指標(Achievement – motivated Key Performance Indicator)」の略称になります。

(下記は同記事添付の「広島大が導入したAKPI」を引用)

20170426_広島大が導入したAKPI_日本経済新聞朝刊

● 評価尺度
複数の著名な世界大学ランキングで勘案される5つの指標
● 目標値(KPI)の選択規準
「ランキング100位入り」から逆算して設定
● 評価対象
広島大に勤務する教員個人
● 評価目的
「教員の活動が大学の競争力を高めているかどうかを常時示し、自己改革を促す狙い」
● 達成度評価手法
各教員に2023年度を期限に1000ポイント到達
(参考)2012年度平均:440ポイント、2015年度平均:500ポイント強

広島大学ホームページ:徹底した大学のモニタリング

本稿では個々のKPI設定の巧拙についてのコメントは差し控えさせて頂きますが(だって、有償で依頼を受けたわけでもないので(^^;))、外部評価機関からの世界大学ランキングという外部評価を上げることを目的として、それも教員個人に対する目標設定、という2点がこれまでにない特徴となっています。

 

■ 広島大学がAKPI制度を導入した背景にあるものとは?

株式会社に代表される私企業において、中期事業計画などで、業績目標を20XX年までに、売上高:●●億円、営業利益:●●億円、ROE:●●%、という達成されるべき目標値として置いて、投資家や社内外のステークホルダーに向けて公約を掲げることが一般的になってきました。それと同時に、そうした公約としての定量目標値の達成手段として、事業戦略や具体的な施策も開示されます。ただし、なぜそうした達成目標を設定したか、その達成度水準がどうして妥当かについては、あまり明らかにされていません。

しかし、公開会社にとっての外部評価機関である株式市場からの「株価」「時価総額」という外部評価を勝ち得るために、

● 業績評価指標の達成水準 同業他社比較や敵対的買収防止を意図した目標株価
● 業績評価指標の選択理由 目標株価達成のためにIRでアピールできる財務指標
● 業績目標達成の方法論  自社のCSF/KFSに対応した各種戦略や施策

といった3要素が理路整然と説明されている中計は市場でも評価されやすくなります。

翻って、広島大学の「AKPI」ですが、非営利組織である大学のKPI経営として、自主的に目標設定と業績評価を行い、教育の質を高めるといった教育論の理想家が嬉しがる状況下で生み出されたというよりは、株式会社が投資家というスポンサーの方を向いてKPI経営を実践するのと同様に、本来は非営利組織であるはずの大学も、補助金を出してくれる政府・公共機関というスポンサーの方を向いてどうもKPI経営を推進しているようです。

「広大は13年に研究大学強化促進事業、14年にはスーパーグローバル大学創成支援事業と、文部科学省の大型補助金の対象に相次ぎ採択された。国は今後10年間でトップ100校に入る大学を10校以上にする目標を掲げている。広大はAKPIにより、国が求める国際競争力の向上やガバナンス強化に取り組む体制を整えたことが採択の一因になったとみている。」

同記事にあるように、広島大学の現状はその目標からほど遠い模様です。
「英誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションの世界ランキング(16~17年)で広大は501~600位だ。」

それでは、参考までに、冒頭の関連投稿でも触れた過去の日経記事からタイムズ・ハイヤー・エデュケーションのランキングの模様を引用して皆さんに紹介します。

2016/7/22付 |日本経済新聞|朝刊 大学ランキング、順位独り歩きに危機感 アジア、東大が1位→7位 評価は一面的 留学人気左右、無視できず

(2016年アジア大学ランキング)

(ランキング評価項目の点数配点)

 

■ KPI経営と「ミッションマネジメント」の関係性とは?

「ミッションマネジメント」とは?
通常、経営学において、「ミッション(Mission)」とは、「社会に果たすべき使命」と翻訳されます。「●●医療分野の発展に寄与する」「高齢者が多い●●地域の買い物難民をなくす」など、その会社が社会の公器として存立する基盤を、経営者が意思表明したものであり、特に「ミッションマネジメント」の領域では「経営の意思(Will)」として表現されることも多い概念です。

ミッションマネジメント」は、そうした経営の意思を頂点に、会社全体がWill実行の一体的機構といて機能するために、部署や個人に対して体系的な行動指針と業績達成度目標値が与えられ、組織構成員の意識と行動の結果が経営の意思の実現につながるように、目標管理と戦略提示が行われる社内外を含むコミュニケーションです。

その中で、KPIを明確に定義することで、組織が抱える問題点(「経営の意思」実現に向けた障害)の所在とそのハードルの高さを点検し、改善活動の良否を事後的に評価し、次の改善施策の立案につなげるためのマネジメントサイクル(一般的にはPDCAサイクルと呼ばれるもの)を循環させようというのがKPI経営といえます。

こうしたプライベート企業の経営管理手法が大学機関にも援用されて、より質の高い大学教育サービスの提供につながり、将来的には日本国の将来を支える人材を豊富に排出したり、留学生との連帯・絆を強めたりすることで、諸外国との友好を深めることに貢献すればいいなと個人的には大いに関心を持つものであります。

しかし、外部機関のランキングを上げるための目標設定は、それに所属する構成員の士気を上げ、そもそもその組織の「ミッション」が正しく示されているのか、「ミッション」達成のための方策が体系立てて説明されているのか、私企業・教育機関を含めて、昨今の動向を観察するに、大変憂える事態が多く観察されるところでもあります。

(参考)
⇒「(経済教室)企業統治改革の論点(上)経営の「質」高め低収益打破 伊藤邦雄 一橋大学特任教授
⇒「踊り場のROE経営(後編)- リキャップCBと資本コスト、結局は財務レバレッジの話しかできないの巻
⇒「(会社研究)大還元の先へ(1) アマダホールディングス M&Aで稼ぐ力底上げへ
⇒「アマダHD、 成長投資重視に転換 今期、100%還元→「50%以上」に 年間投資5割増やす - ROE経営への過剰反応を軌道修正中

2014年1月6日:「JPX日経インデックス400」の算出が開始されました。
2014年8月:「伊藤レポート」の最終版が公表され、「ROE=8%」が示されました。

JPX日経インデックス400の採用銘柄に残るための定量基準は次の3つ。
・3年平均ROE
・3年累積営業利益
・選定基準日時点における時価総額

ROEが基準値未達ということで、JPX400選出漏れした大企業の経営者が、株主還元100以上を打ち出し、その後、冷静になった経営陣が軌道修正を図るようになったことは周知のとおりです。この件が与えてくれる教訓は、安易に外部評価の目を気にして、ミッションをないがしろにしたKPIの提示は経営を混乱させるばかりか、組織の存立基盤によらない目標設定は何ら意味をなさないことも示唆しています。スポンサーシップの獲得を目標にしたKPIと、本来の高等教育機関のミッションに基づいたKPIと、いずれなら教員は職務に忠実でありつつ、誠意をもって若者の教育と高度な研究に邁進できるのでしょうか。

 

■ KPI経営と「業績評価」の関係性とは?

この領域における「業績評価」ほど、曖昧にされがちな用語はありません。

広島大の記事に戻りますと、
「教育経済学が専門の渡辺聡副学長は「国際的な論文を出せる人はどんどん出してもらい、教育に熱心な先生はそちらで頑張ってもらう。最適な人材配置のための仕組みでもある」と説明。達成できなくても、処遇などには影響しないという。」

一方で、付属記事においては、

2017/4/26付 |日本経済新聞|朝刊 「議論足りない」現場には戸惑い

「AKPIについて教員からは戸惑いや不満の声が聞かれた。人文社会系の50代教員は「文系では逆立ちしてもSCI論文を出せない分野がある」と指摘。工学系の教員も「理系でも分野により論文の多寡に差がある」と違和感を口にする。」

「大学執行部も対応に動き、2015年には病院での診療や地域貢献、著作の刊行なども評価する補完的な指標を設けた。それでも国文学を研究する60代教員は「自分の分野で権威ある論文誌は(評価対象に)含まれていない」と漏らす。」

「執行部側は処遇に影響しないとするが、「給与査定に使われなくとも昇進に影響するのは明らか」という声も複数の教員から聞かれた。ある教員は「作成過程でオープンな議論が足りなかった。理解を得る努力も不十分」と批判する。」

といった批判的な声も掲載されています。

ミッションマネジメントにおいて、KPIとか業績評価指標というものは、経営陣と組織構成員の十分な対話によって組織に浸透し、十分な納得性を持たないと、十二分の目標達成をもたらす努力が払われないことは明らかです。また、目標達成が、単純な現金報酬に限らない、処遇改善や権限拡大で公正に報いられることがなければ、「motivated」の名が泣きます。

管理会計の世界では、社内外の利害関係者に「動機付け」を与える計数を提示することを使命としています。正しい「動機付け」の結果は、正しい業績向上と正しいやり方でのミッションの達成をもたらせます。広島大の世界ランキングが早く100位入りすることを願ってやみません。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

業績管理会計(入門編)_KPI経営(6)広島大、教員に達成度指標 世界ランクトップ100入り狙う 論文数・人材育成、チャートで明示

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