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■ 大学が経営の見える化を進めている報を受けて、とばっちりを受けている人を擁護する!

経営管理会計トピック

この記事を目にして、筆者自身は思わずのけ反りはしませんでしたが、「大学でもKPIの見える化経営を進めているのに、我が社の体たらくは何だ!」と、喝を飛ばした役員がいて、とばっちりを受けているコーポレートスタッフはどれくらいいるんだろうな、と苦笑いは思わずしてしまいました。(^^;)

2016/8/17付 |日本経済新聞|朝刊 偏差値・満足度・就職率…経営「見える化」広がる 関学大や早大 各部署が改革目標共有

「大学が経営の「見える化」を推し進めている。関西学院大学は重要業績評価指標(KPI)を画面で一目で確認できる仕組みを開発。早稲田大学は財務状況をリアルタイムに把握できる統合基幹業務システム(ERP)の導入を決めた。大学関係者の意思統一の手段として数値を有効活用することでマネジメントを改善、激化する大学間競争を勝ち抜く考えだ。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

本記事は、まさしく経営管理の仕組みとBI(Business Intelligence)システム構築を専門としてやらせて頂いている筆者の食指が思わず動いてしまう内容です。書き始めたら、あれこれ論点が出て収拾がつかなくなってしまいますので本稿では、次の3点にだけ言及していきたいと思います。

1.NPO(非営利団体)にこそ、BSC(バランスト・スコアカード)フレームワークに基づくKPIモニタリングが適しているわけ

2.経営モニタリング情報を収集するのにERPだけに頼るのには無理がある理由

3.経営管理目的の変化とダッシュボードの陳腐化

 

■ KPIとかBSCとか、まずは三文字熟語を何とかしてみましょう!

記事冒頭で、関西学院大学が野村証券と進めているKPIを一覧できるダッシュボード(コンピュータ画面で、KPIをいろんなグラフ化・チャート化して感覚的に見て分かるようにしたユーザインターフェース)を構築しているとありましたが、ここで見える化している対象は「KPI」と呼ばれるもの。それでは、KPIとはなんでしょうか?

経営管理会計トピック_KPIの定義とCSFとの関係

厳密に言えば、KPIとは目標達成度を測る水準器に過ぎず、経営のかじ取りをやるのに、みんなでまず共有すべきことは、経営の最終的目標(儲けを最大化するとか、社会に役立つ何かを提供してみんなの役に立つとか等)と、その目標達成のために一番有効な手段(顧客のお困りごとを一気に解決するような新しい機能を持った画期的な新製品を創り出すこと等)です。その手段/方法論の方は、CSF(重要成功要因)とか、KFS:Key Factor for Success 、 KSF: Key Success Factor と呼ばれるものになります。CSF/KFS/KSFと呼ぶ重要な施策(分かりやすく敢えてこう呼びます)が目標達成に向けてどれだけ効果を示したかチェックする時に見るのが、KPIです。

それゆえ、本記事にある、
「各指標は大学が重視する取り組みの進捗状況を表す。指標をクリックすれば経年変化を見たり競合校と比較したりできる。例えば偏差値なら「25年間でかなり上下しているのが分かる」(関学の小野宏総合企画部次長)といった具合だ。」

という記述はその通り、KPI経営そのものを体現する考え方に則っています。

ただし、
「画面左から「入学」「教育」「就職」「卒業後」という学生の4段階と「経営資源」の計5つのカテゴリーを設定。上部に中期での達成を目指す「戦略指標」、下部に基礎データとなる「基盤指標」を配置し個別指標を落とし込んでいる。」

という記述には、KPIモニタリング経営の落とし穴の匂いがプンプンします。
(断っておきますが、関学・野村証券の取り組みが失敗すると言っているわけでは決してありません。念のため)

下位のKPIを達成したらより上位のKPIが達成される、上位のKPI未達成の原因を未達成の下位KPIを探し当てることで要因を探り当てる。こういう文脈の範囲ならまだ大丈夫。

「大学は民間企業と同じ経営体の一つだが運営はより複雑だ。「人材育成」や「知の創出」は定量化しにくいうえ、目的も一義的に定めにくい。
 米国では、大学経営はゴールがいくつもある丸いサッカー場での試合に例えられる。専門の異なる教授や、財務や学生支援を手がける大学職員、学生などが各自のゴールを目指して思い思いにプレーするからだ。
 「利益や株価といったシンプルな経営指標を持たない大学の経営陣は、学内関係者のベクトル合わせに苦心しがち」。関学の取り組みを支援する野村証券の片山英治主任研究員はこう語る。」

(下記は、同記事添付の大学経営における目標/KPI設定のイメージ図を転載)

20160817_KPIモニタリングを進める大学経営イメージ_日本経済新聞朝刊

とあるように、いわゆる非財務の業績目標の設定や、財務目標(利益や売上)達成のためにまず手を付けなければならない非財務KPIの改善について、きちんと整理されている必要があります。その整理のためのフレームワークが、「BSC」なのです。しかし、そこに記述されているべき項目が、CSFなのか、その結果評価のための計量器に過ぎないKPIなのか、ここがKPI経営最大の落とし穴なのです。

「目標」「手段」「評価指標」の3つの混同は絶対避けるべきなのです。その辺の意識が薄いITベンダーと経営ダッシュボードを作ると、必ず、「手段(CSF)」と「評価指標(KPI)」をまぜこぜにしたBSCフレームワークに基づく経営ダッシュボードを作ってしまいます。

BSCが提供する4つの視点の整理に基づいて、CSFを整理するものは、「戦略マップ」と呼ばれるもので、同じ4つの視点で整理される「KPIツリー」とは似て非なるモノです。

下記は、ノートン、キャプラン著『戦略マップ』にあるチャートを筆者が一部修正して転載するものです。

経営管理会計トピック_戦略マップとBSCの関係

 

■ 大学などのNPOこそ、BSCの使用価値が高まる

まずBSCのフレームワークとは簡単に説明すると下記のようになります。

経営管理会計トピック_戦略マップとBSCの関係

そもそも、ノートン、キャプランがBSCのコンセプトを発表した90年代に、米国のNPOがこぞってこのフレームワークで目標管理をやり始めた頃からすでに25年ほど経過しています。日本においても、独立行政法人とか国立大学法人など、寄付金・助成金の授受の透明化や、研究成果の見得る化が求められるようになったことと、大学がこぞってKPI/BSCコンセプトに基づく経営ダッシュボード構築に走るようになったことは、何もIT企業のセールス攻勢に根負けしたわけでは決してないのです。時代がそれを要求するようになったのです。

BSCの構造を分かりやすくイメージ図に落としたのが下記チャートになります。

経営管理会計トピック_BSCフレームワークの特徴

営利企業の場合は、最終的には財務的目標(定量目標)が最上位に来ますが、原則は非営利である大学は、研究・教育機関としての、成果を出すことが最終目標となります。そのために、最短で目標達成に至るために、途中プロセスで、「偏差値」や「実就職率」という目標達成度を推し量る必要があるのでしょう。しかし、それらのKPI達成自体が本来的に研究・教育機関である大学の存在理由ではないのは明らかです。

財務的数値偏重に陥らない。むしろ非財務KPIの達成水準が重要。それら非財務KPIの相関関係が従来は分かりにくかった。こういう状況下では、営利企業よりNPOである大学の方が、BSCフレームワークによる経営ダッシュボードでKPI見える化に取り組む意義は大いにあるでしょう。

これが、

1.NPO(非営利団体)にこそ、BSC(バランスト・スコアカード)フレームワークに基づくKPIモニタリングが適しているわけ

の説明になります。

 

■ KPIモニタリングのための情報はERPが入ってないと本当に収集できない?

この章では、

2.経営モニタリング情報を収集するのにERPだけに頼るのには無理がある理由

について筆者の経験に基づく意見を述べさせて頂きます。これが筆者が属する業界の方が目にすると、お叱りを受けること必定の言説になっていますが、敢えて書きます。

記事によりますと、
「早大はかつて他校に先駆けて情報システムを導入した。ただ各現場の業務ニーズに沿って開発した結果、各システムが独立し、データを連動させることができなかった。
 各部局のデータを網羅的に扱うERPの導入で、事業コストなどをリアルタイムかつ精緻に把握する。理事会などで新規計画を立てたり事業評価をしたりするときも、必要な情報がすぐに手に入るようになるという。
 情報化を進めるにあたり、早大は総長直轄の事務局も立ち上げた。国際化の推進やイノベーションの創出など大学が社会から求められるものは今後ますます増える。情報化を担当する大野高裕理事は「ERPは改革を進めるための事業の基盤になる」と力を込める。」

とありますが、正直に申し上げて、KPIモニタリング経営を支えるためにはERP導入が大前提であるとか、ERPからKPI管理に有益な情報がたくさん得られるというのは幻想にすぎません。ここまでして業界人を敵に回してしまうかもしれない表現を何の遠慮もなく使うのには2つ理由(が正しいという自信)があるからです。

① そもそもERPはKPIモニタリングのために存在しているわけではない

ERPは、MRP(Material Requirements Planning:資材所要量計画)が発展したものです。つまり、生産計画を基にして部品や原材料の必要数量の計画を立て、実際のその部品や原材料の手配を効率的に行うために、営業-生産-購買の各部門の担当者間で、的確かつ迅速に、製品の需給調整のための情報共有を行う道具として生まれました。そこで取り扱われる情報は、そもそも、各部門間の伝言ゲームの効率化を図る道具で、「一方通行または双方向(一方の出荷はもう一方の受領なので)のデータのやり取りを前提としています。

ERPユーザは、みんな自分の部門の仕事を効率的に進めるために、関連する他部署と必要最低限のデータを自分の都合優先でやり取りしているだけです。だからなんですよ、ERP導入プロジェクトで必ず「全体最適」というスローガンが出てくるのは。それがいつもできないから、決まってプロジェクト目標に掲げられるに過ぎません。
(これはかなり皮肉が入っていますね、、、)(^^;)

② 本当に見たいデータはITの中に眠っていない

どんなに優秀なエンジニアがERPを実装しても、それが経営管理に役立つ情報を必ず備えている保証はどこにもありません。よく、ERPを導入してから、または基本設計が終わった頃合いから、BIシステム構築の依頼を受けることが多いのですが、クライアント企業の担当者が胸を張って、「今度ERPが入るから、何でも欲しいデータを集めることができます」と豪語されて、閉口することが度々あります。

経営管理者が見たいのは、各部門の活動実態を表す情報です。前述の通り、バリューチェーンプロセスを整斉と運用するために組まれたERPの中に、各部門の課題解決を図るための、活動施策情報や、課題解決レベルの決定度評価情報が潜んでいる可能性はほぼありません。それは、人間の仕事情報そのものだからです。だから、中間管理職が必要なんですよね。少人数からなるチームの活動状況をよく見知って、観察して、課題があったら上司に報告して、バリューチェーンに乗らない課題解決プロセスに乗っかった情報を処理しているのは生身の人間によるものなんですよ。

IT屋は、無理に、SFA(Sales Force Automation:営業支援システム)の類に全ての活動情報を入れ込もうとしますが、そのデータインプット作業は、現場担当者の仕事を邪魔することはあれ、その人の仕事を助けることは無いのです。そんなやらされインプット仕事、誰が望んでやりたいですか? しかも、SFAとかオフィス・コラボレーション製品の名を出した時点で、ERPの守備範囲ではとうに無くなっていますし。

一方通行でも双方向でもなく、ネットワーキング的に、創発的に、従業員のみんながアイデアを共有し、刺激し合い、課題解決を一緒にやるようなコミュニケーションツールとしてのITはこれからも必要ですし、そういったツールはどんどん進化していっています。そこは、もはやERPの仕事ではないのです。

 

■ BIシステムは構築している時点で既に陳腐化が始まっているのです!

最後に、

3.経営管理目的の変化とダッシュボードの陳腐化

のお話をします。

記事によりますと、
「「偏差値」「学生生活満足度」「大企業への就職率」「借入金残高比率」――。パソコンの画面に大学の評価につながる様々な項目が並ぶ。関学が現在、野村証券と開発を進めている「KPIダッシュボード」だ。」

「画面左から「入学」「教育」「就職」「卒業後」という学生の4段階と「経営資源」の計5つのカテゴリーを設定。上部に中期での達成を目指す「戦略指標」、下部に基礎データとなる「基盤指標」を配置し個別指標を落とし込んでいる。」

「KPIダッシュボードで関係者がデータを共有すれば、足並みがそろいやすい。関学の村田治学長は「学校法人と大学が一体となって人・モノ・金・情報を一体的に把握する」と意気込む。」

とありますが、「入学」「教育」「就職」「卒業後」という学生の4段階は、企業でいえば、バリューチェーン活動です。「経営資源」はその活動を実践するのに費消される経済的価値のことを意味します。これらは、これからも、大学が研究・教育機関である以上、普遍的でかつ不変的なのでしょうか?

2016/7/22付 |日本経済新聞|朝刊 大学ランキング、順位独り歩きに危機感 アジア、東大が1位→7位 評価は一面的 留学人気左右、無視できず

この記事に添付され紹介されていた、大学ランキング表とその配点の変化を下記に転載します。

(2016年アジア大学ランキング)

20160722_2016年アジア大学ランキング_日本経済新聞朝刊

(ランキング評価項目の点数配点)

20160722_ランキング評価項目の点数配分_日本経済新聞朝刊

外部の評価機関によるランキングは一切無視という強気の学長・理事長は無視しておいて、普通は、学生や寄付金を下さる企業や政府などの組織からの支持から無縁ではない大学としては、外部評価も一定の範囲で気にせざるを得ないでしょう。そして、KPIモニタリング経営を実践するというのですよね。とすれば、外部評価の視点や配点が変化すれば、それに対応するように大学経営のかじ取りを調整する必要が生じると考えるのが通常でしょう。

すなわち、なんか立派な、航空機のパイロットばりのコックピットのようなメータ・計器がびっしりと並ぶBI/ダッシュボードを作っても、世の中の変化、大学経営のCSFの変化に絶えず追随していく必要があるのです。BIは『不易流行』。変わらないものもあれば、すぐに変える必要があるものもある。その目利き力がKPIモニタリング経営にこそ必要なんです! 

お陰様で、その目利き力で何とかお仕事をさせてもらっています。(^^;)

最後を自我自賛で終わると、何とも気持ちが悪いものです。さて、筆者も世間の批判にさらされて、修行が成るというものです。そこで、筆者のこれでの経験から、財務分析テンプレートをExcelでこさえてみました。まあ、ベースはExcelですが、本質的にはBIダッシュボードと同じ効果を期待して作成したものです。

目下、下記にて、無償版のダウンロードサービス中です。興味がある人は、私の作品を味わってみてくださいませ。m(_ _)m

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(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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偏差値・満足度・就職率…経営「見える化」広がる 関学大や早大 各部署が改革目標共有 - KPIの見える化経営と使われないBIについてhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭テクノロジーKPI,バランスト・スコアカード,BSC,戦略マップ,CSF,KSF,KFS,重要業績評価指標,関西学院大学,早稲田大学,ERP,BI,Business Intelligence,NPO,ダッシュボード,ノートン,キャプラン,MRP,SFA,バリューチェーン■ 大学が経営の見える化を進めている報を受けて、とばっちりを受けている人を擁護する! この記事を目にして、筆者自身は思わずのけ反りはしませんでしたが、「大学でもKPIの見える化経営を進めているのに、我が社の体たらくは何だ!」と、喝を飛ばした役員がいて、とばっちりを受けているコーポレートスタッフはどれくらいいるんだろうな、と苦笑いは思わずしてしまいました。(^^;) 2016/8/17付 |日本経済新聞|朝刊 偏差値・満足度・就職率…経営「見える化」広がる 関学大や早大 各部署が改革目標共有 「大学が経営の「見える化」を推し進めている。関西学院大学は重要業績評価指標(KPI)を画面で一目で確認できる仕組みを開発。早稲田大学は財務状況をリアルタイムに把握できる統合基幹業務システム(ERP)の導入を決めた。大学関係者の意思統一の手段として数値を有効活用することでマネジメントを改善、激化する大学間競争を勝ち抜く考えだ。」 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 本記事は、まさしく経営管理の仕組みとBI(Business Intelligence)システム構築を専門としてやらせて頂いている筆者の食指が思わず動いてしまう内容です。書き始めたら、あれこれ論点が出て収拾がつかなくなってしまいますので本稿では、次の3点にだけ言及していきたいと思います。 1.NPO(非営利団体)にこそ、BSC(バランスト・スコアカード)フレームワークに基づくKPIモニタリングが適しているわけ 2.経営モニタリング情報を収集するのにERPだけに頼るのには無理がある理由 3.経営管理目的の変化とダッシュボードの陳腐化   ■ KPIとかBSCとか、まずは三文字熟語を何とかしてみましょう! 記事冒頭で、関西学院大学が野村証券と進めているKPIを一覧できるダッシュボード(コンピュータ画面で、KPIをいろんなグラフ化・チャート化して感覚的に見て分かるようにしたユーザインターフェース)を構築しているとありましたが、ここで見える化している対象は「KPI」と呼ばれるもの。それでは、KPIとはなんでしょうか? 厳密に言えば、KPIとは目標達成度を測る水準器に過ぎず、経営のかじ取りをやるのに、みんなでまず共有すべきことは、経営の最終的目標(儲けを最大化するとか、社会に役立つ何かを提供してみんなの役に立つとか等)と、その目標達成のために一番有効な手段(顧客のお困りごとを一気に解決するような新しい機能を持った画期的な新製品を創り出すこと等)です。その手段/方法論の方は、CSF(重要成功要因)とか、KFS:Key Factor for Success 、 KSF: Key Success Factor と呼ばれるものになります。CSF/KFS/KSFと呼ぶ重要な施策(分かりやすく敢えてこう呼びます)が目標達成に向けてどれだけ効果を示したかチェックする時に見るのが、KPIです。 それゆえ、本記事にある、 「各指標は大学が重視する取り組みの進捗状況を表す。指標をクリックすれば経年変化を見たり競合校と比較したりできる。例えば偏差値なら「25年間でかなり上下しているのが分かる」(関学の小野宏総合企画部次長)といった具合だ。」 という記述はその通り、KPI経営そのものを体現する考え方に則っています。 ただし、 「画面左から「入学」「教育」「就職」「卒業後」という学生の4段階と「経営資源」の計5つのカテゴリーを設定。上部に中期での達成を目指す「戦略指標」、下部に基礎データとなる「基盤指標」を配置し個別指標を落とし込んでいる。」 という記述には、KPIモニタリング経営の落とし穴の匂いがプンプンします。 (断っておきますが、関学・野村証券の取り組みが失敗すると言っているわけでは決してありません。念のため) 下位のKPIを達成したらより上位のKPIが達成される、上位のKPI未達成の原因を未達成の下位KPIを探し当てることで要因を探り当てる。こういう文脈の範囲ならまだ大丈夫。 「大学は民間企業と同じ経営体の一つだが運営はより複雑だ。「人材育成」や「知の創出」は定量化しにくいうえ、目的も一義的に定めにくい。  米国では、大学経営はゴールがいくつもある丸いサッカー場での試合に例えられる。専門の異なる教授や、財務や学生支援を手がける大学職員、学生などが各自のゴールを目指して思い思いにプレーするからだ。  「利益や株価といったシンプルな経営指標を持たない大学の経営陣は、学内関係者のベクトル合わせに苦心しがち」。関学の取り組みを支援する野村証券の片山英治主任研究員はこう語る。」 (下記は、同記事添付の大学経営における目標/KPI設定のイメージ図を転載) とあるように、いわゆる非財務の業績目標の設定や、財務目標(利益や売上)達成のためにまず手を付けなければならない非財務KPIの改善について、きちんと整理されている必要があります。その整理のためのフレームワークが、「BSC」なのです。しかし、そこに記述されているべき項目が、CSFなのか、その結果評価のための計量器に過ぎないKPIなのか、ここがKPI経営最大の落とし穴なのです。 「目標」「手段」「評価指標」の3つの混同は絶対避けるべきなのです。その辺の意識が薄いITベンダーと経営ダッシュボードを作ると、必ず、「手段(CSF)」と「評価指標(KPI)」をまぜこぜにしたBSCフレームワークに基づく経営ダッシュボードを作ってしまいます。 BSCが提供する4つの視点の整理に基づいて、CSFを整理するものは、「戦略マップ」と呼ばれるもので、同じ4つの視点で整理される「KPIツリー」とは似て非なるモノです。 下記は、ノートン、キャプラン著『戦略マップ』にあるチャートを筆者が一部修正して転載するものです。   ■ 大学などのNPOこそ、BSCの使用価値が高まる まずBSCのフレームワークとは簡単に説明すると下記のようになります。 そもそも、ノートン、キャプランがBSCのコンセプトを発表した90年代に、米国のNPOがこぞってこのフレームワークで目標管理をやり始めた頃からすでに25年ほど経過しています。日本においても、独立行政法人とか国立大学法人など、寄付金・助成金の授受の透明化や、研究成果の見得る化が求められるようになったことと、大学がこぞってKPI/BSCコンセプトに基づく経営ダッシュボード構築に走るようになったことは、何もIT企業のセールス攻勢に根負けしたわけでは決してないのです。時代がそれを要求するようになったのです。 BSCの構造を分かりやすくイメージ図に落としたのが下記チャートになります。 営利企業の場合は、最終的には財務的目標(定量目標)が最上位に来ますが、原則は非営利である大学は、研究・教育機関としての、成果を出すことが最終目標となります。そのために、最短で目標達成に至るために、途中プロセスで、「偏差値」や「実就職率」という目標達成度を推し量る必要があるのでしょう。しかし、それらのKPI達成自体が本来的に研究・教育機関である大学の存在理由ではないのは明らかです。 財務的数値偏重に陥らない。むしろ非財務KPIの達成水準が重要。それら非財務KPIの相関関係が従来は分かりにくかった。こういう状況下では、営利企業よりNPOである大学の方が、BSCフレームワークによる経営ダッシュボードでKPI見える化に取り組む意義は大いにあるでしょう。 これが、 1.NPO(非営利団体)にこそ、BSC(バランスト・スコアカード)フレームワークに基づくKPIモニタリングが適しているわけ の説明になります。   ■ KPIモニタリングのための情報はERPが入ってないと本当に収集できない? この章では、 2.経営モニタリング情報を収集するのにERPだけに頼るのには無理がある理由 について筆者の経験に基づく意見を述べさせて頂きます。これが筆者が属する業界の方が目にすると、お叱りを受けること必定の言説になっていますが、敢えて書きます。 記事によりますと、 「早大はかつて他校に先駆けて情報システムを導入した。ただ各現場の業務ニーズに沿って開発した結果、各システムが独立し、データを連動させることができなかった。  各部局のデータを網羅的に扱うERPの導入で、事業コストなどをリアルタイムかつ精緻に把握する。理事会などで新規計画を立てたり事業評価をしたりするときも、必要な情報がすぐに手に入るようになるという。  情報化を進めるにあたり、早大は総長直轄の事務局も立ち上げた。国際化の推進やイノベーションの創出など大学が社会から求められるものは今後ますます増える。情報化を担当する大野高裕理事は「ERPは改革を進めるための事業の基盤になる」と力を込める。」 とありますが、正直に申し上げて、KPIモニタリング経営を支えるためにはERP導入が大前提であるとか、ERPからKPI管理に有益な情報がたくさん得られるというのは幻想にすぎません。ここまでして業界人を敵に回してしまうかもしれない表現を何の遠慮もなく使うのには2つ理由(が正しいという自信)があるからです。 ① そもそもERPはKPIモニタリングのために存在しているわけではない ERPは、MRP(Material Requirements Planning:資材所要量計画)が発展したものです。つまり、生産計画を基にして部品や原材料の必要数量の計画を立て、実際のその部品や原材料の手配を効率的に行うために、営業-生産-購買の各部門の担当者間で、的確かつ迅速に、製品の需給調整のための情報共有を行う道具として生まれました。そこで取り扱われる情報は、そもそも、各部門間の伝言ゲームの効率化を図る道具で、「一方通行または双方向(一方の出荷はもう一方の受領なので)のデータのやり取りを前提としています。 ERPユーザは、みんな自分の部門の仕事を効率的に進めるために、関連する他部署と必要最低限のデータを自分の都合優先でやり取りしているだけです。だからなんですよ、ERP導入プロジェクトで必ず「全体最適」というスローガンが出てくるのは。それがいつもできないから、決まってプロジェクト目標に掲げられるに過ぎません。 (これはかなり皮肉が入っていますね、、、)(^^;) ② 本当に見たいデータはITの中に眠っていない どんなに優秀なエンジニアがERPを実装しても、それが経営管理に役立つ情報を必ず備えている保証はどこにもありません。よく、ERPを導入してから、または基本設計が終わった頃合いから、BIシステム構築の依頼を受けることが多いのですが、クライアント企業の担当者が胸を張って、「今度ERPが入るから、何でも欲しいデータを集めることができます」と豪語されて、閉口することが度々あります。 経営管理者が見たいのは、各部門の活動実態を表す情報です。前述の通り、バリューチェーンプロセスを整斉と運用するために組まれたERPの中に、各部門の課題解決を図るための、活動施策情報や、課題解決レベルの決定度評価情報が潜んでいる可能性はほぼありません。それは、人間の仕事情報そのものだからです。だから、中間管理職が必要なんですよね。少人数からなるチームの活動状況をよく見知って、観察して、課題があったら上司に報告して、バリューチェーンに乗らない課題解決プロセスに乗っかった情報を処理しているのは生身の人間によるものなんですよ。 IT屋は、無理に、SFA(Sales Force Automation:営業支援システム)の類に全ての活動情報を入れ込もうとしますが、そのデータインプット作業は、現場担当者の仕事を邪魔することはあれ、その人の仕事を助けることは無いのです。そんなやらされインプット仕事、誰が望んでやりたいですか? しかも、SFAとかオフィス・コラボレーション製品の名を出した時点で、ERPの守備範囲ではとうに無くなっていますし。 一方通行でも双方向でもなく、ネットワーキング的に、創発的に、従業員のみんながアイデアを共有し、刺激し合い、課題解決を一緒にやるようなコミュニケーションツールとしてのITはこれからも必要ですし、そういったツールはどんどん進化していっています。そこは、もはやERPの仕事ではないのです。   ■ BIシステムは構築している時点で既に陳腐化が始まっているのです! 最後に、 3.経営管理目的の変化とダッシュボードの陳腐化 のお話をします。 記事によりますと、 「「偏差値」「学生生活満足度」「大企業への就職率」「借入金残高比率」――。パソコンの画面に大学の評価につながる様々な項目が並ぶ。関学が現在、野村証券と開発を進めている「KPIダッシュボード」だ。」 「画面左から「入学」「教育」「就職」「卒業後」という学生の4段階と「経営資源」の計5つのカテゴリーを設定。上部に中期での達成を目指す「戦略指標」、下部に基礎データとなる「基盤指標」を配置し個別指標を落とし込んでいる。」 「KPIダッシュボードで関係者がデータを共有すれば、足並みがそろいやすい。関学の村田治学長は「学校法人と大学が一体となって人・モノ・金・情報を一体的に把握する」と意気込む。」 とありますが、「入学」「教育」「就職」「卒業後」という学生の4段階は、企業でいえば、バリューチェーン活動です。「経営資源」はその活動を実践するのに費消される経済的価値のことを意味します。これらは、これからも、大学が研究・教育機関である以上、普遍的でかつ不変的なのでしょうか? 2016/7/22付 |日本経済新聞|朝刊 大学ランキング、順位独り歩きに危機感 アジア、東大が1位→7位 評価は一面的 留学人気左右、無視できず この記事に添付され紹介されていた、大学ランキング表とその配点の変化を下記に転載します。 (2016年アジア大学ランキング) (ランキング評価項目の点数配点) 外部の評価機関によるランキングは一切無視という強気の学長・理事長は無視しておいて、普通は、学生や寄付金を下さる企業や政府などの組織からの支持から無縁ではない大学としては、外部評価も一定の範囲で気にせざるを得ないでしょう。そして、KPIモニタリング経営を実践するというのですよね。とすれば、外部評価の視点や配点が変化すれば、それに対応するように大学経営のかじ取りを調整する必要が生じると考えるのが通常でしょう。 すなわち、なんか立派な、航空機のパイロットばりのコックピットのようなメータ・計器がびっしりと並ぶBI/ダッシュボードを作っても、世の中の変化、大学経営のCSFの変化に絶えず追随していく必要があるのです。BIは『不易流行』。変わらないものもあれば、すぐに変える必要があるものもある。その目利き力がKPIモニタリング経営にこそ必要なんです!  お陰様で、その目利き力で何とかお仕事をさせてもらっています。(^^;) 最後を自我自賛で終わると、何とも気持ちが悪いものです。さて、筆者も世間の批判にさらされて、修行が成るというものです。そこで、筆者のこれでの経験から、財務分析テンプレートをExcelでこさえてみました。まあ、ベースはExcelですが、本質的にはBIダッシュボードと同じ効果を期待して作成したものです。 目下、下記にて、無償版のダウンロードサービス中です。興味がある人は、私の作品を味わってみてくださいませ。m(_ _)m ⇒ダウンロードはこちらから(DL先は本ブログサーバ内なのでご安心ください) 「9 Matrix Financial Analytics テンプレート(無償版)」← MS Excel 2010版 ⇒本ブログのダウンロードページへはこちらから 「財務分析テンプレート『9 Matrix Financial Analytics』(無償版)取扱説明とダウンロード」 (注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します