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■ 為替変動(円安)による増益は真の収益力を表していない!?

経営管理会計トピック

グローバル製造業におかれましては、ここ近年の円安トレンドは企業業績回復の追い風となり、歓迎されるべきもののようです。しかし、円安頼みの業績回復は見かけ倒しとして、「真水」の実力、すなわち為替変動の影響を除外した真の収益力というもので完成車メーカー7社をランキングし、完成車メーカーの収益力を再評価している記事が目につきました。こうした評価が本当に適切か、筆者の見方を、皆さんの財務数字の見方のヒントとして、お役にたててればいいなと思い、解説を試みます。

2015/12/12付 |日本経済新聞|朝刊 為替除いた今期の「真水」の実力 トヨタは営業減益 増益率、マツダ首位

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「10日の東京外国為替市場で1ドル=121円台と一時1円超円高に振れ、企業の円安効果の縮小が懸念されている。こうした中、自動車7社を対象に2016年3月期の営業利益で為替の影響を除いた「真水」の実力を調べたところ、最高益を見込むトヨタ自動車が減益となるのがわかった。増益率ではマツダが3割を超え、首位に浮上する。明暗を分けるのは世界販売の伸びだ。
各社は対ドルやユーロ、新興国の為替影響を明らかにしており、それを除いて真水の営業利益を算出した。」

(同記事添付の為替影響を除いた営業増益率のランキング表を転載)

20151211_為替を除いてみると増益率は様変わり_日本経済新聞朝刊

こうした分析をもって、新聞記事では、次のようにグローバル製造業を評価するのだそうです。

「株式市場では「為替を除いた真水の収益力で投資先を決める」(独立系運用会社)との声もある。富士重やトヨタなどは戦略的に研究開発費を積み増し、増益率を抑えている面もあるが、為替変動に左右されない体質づくりが一段と重要になっている。」

「為替変動に左右されない体質」とは何か? その議論の前に、技術的な数字の算出方法について、まず論点を整理してみましょう。

為替リスク管理の教科書

■ 為替変動の影響を除いた輸出売上による業績をどう測るか?

まず、会社内の予実対比の為替影響の算出方法と、前年対比の為替影響の算出方法の違いを、日本で製造したものをドル建てで輸出するケースで示すと下記の通りです。

<予実対比>
(予算)
ドル建て売上高:20ドル
計画為替レート:90円/ドル
円建て売上高:1,800円

(実績)
ドル建て売上高:18ドル
当年実績為替レート:100円/ドル
円建て売上高:1,800円

円建てだと同額で予算達成ですが、「真水」評価というドル建て(外貨建て)だと、減収で予算未達になっています。これが、対前年比較だとどうなるでしょう?

<前年対比>
(前年)
ドル建て売上高:18ドル
前年実勢為替レート:120円/ドル
円建て売上高:2,160円

ドル建てだと、前年対比で成長率ゼロですが、円建てだと、1,800円-2,160円=▲360円の減収になります。新聞記事と同じ目線だと、「真水」の成長率はゼロなのに、円建てだと、▲16.7%(▲360円÷2,160円)のマイナス成長というのが実力値だ、ということになります。

しかしですね、投資家というのは、
① 現金配当としての還元
② 企業価値(要はキャッシュフロー創出力の割引現在価値)を最大化→株価の上昇
を期待して、TSR(Total Shareholders’ Return)の最大化を望むはずです。

さすれば、日本企業へは日本円で投資し、日本円での現金配当余力や、円貨建て(米国市場でのADRとか除くと、主要な上場先は東証だったりするから)の企業価値の最大化を歓迎するはずなのです。つまり、どの通貨でキャッシュを持っているか、どの通貨で株主還元額が最大値になるか、が問題なのです。

米国在住者が、日本企業(ここでは日本の株式市場に上場している企業という定義)に投資した際、投資額を米ドルで捻出し、株価を米ドルで評価するのは、米国在住の投資家の評価目線なだけです。円で株式投資の原資を捻出した投資家が、わざわざ米ドル建てで企業の収益力を評価するのは、筆者から見れば、理屈に合いません。そこは円建て評価でしょ!

外貨建取引会計の実務〈第2版〉 (会計実務ライブラリー)

■ 為替評価の摩訶不思議体験その2

では、今度は、日本で資本金を調達して、中国で製品を製造して、米国で製品を販売している企業は、どう評価されるべきなのでしょう?

<前年実績>
売上高:100ドル
売上原価:250人民元
100円/ドル
20円/人民元

円建て売上高:10,000円
円建て売上原価:5,000円
円建て売上総利益:5,000円
売上総利益率:50%

<当年実績>
売上高:120ドル
売上原価:300人民元
120円/ドル
25円/人民元

円建て売上高:14,400円
円建て売上原価:7,500円
円建て売上総利益:6,900円
売上総利益率:48%

ここで、当年実績をいわゆる「真水」評価してみると、

(真水)円建て売上高:12,000円
(真水)円建て売上原価:6,000円
(真水)円建て売上総利益:6,000円
(真水)売上総利益率:50%

あれれ、手取りの売上総利益額は減ったのに、比率指標の売上総利益率は上昇してしまいましたね。しかも、この売上総利益額はバーチャルな金額だし。。。

一見、世の中で正しいとされる評価法なんて、実際はこんなもんです。

筆者は、20年以上、為替管理を含むグローバル企業の業績評価をやってきています。読者の方で、筆者より卓越した為替影響考慮の業績評価法をご存知の方がいらっしゃったら、どうかご教授いただけないでしょうか?m(_ _)mヨロ!




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為替除いた今期の「真水」の実力 トヨタは営業減益 増益率、マツダ首位http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読む富士重,トヨタ,為替管理,マツダ■ 為替変動(円安)による増益は真の収益力を表していない!? グローバル製造業におかれましては、ここ近年の円安トレンドは企業業績回復の追い風となり、歓迎されるべきもののようです。しかし、円安頼みの業績回復は見かけ倒しとして、「真水」の実力、すなわち為替変動の影響を除外した真の収益力というもので完成車メーカー7社をランキングし、完成車メーカーの収益力を再評価している記事が目につきました。こうした評価が本当に適切か、筆者の見方を、皆さんの財務数字の見方のヒントとして、お役にたててればいいなと思い、解説を試みます。 2015/12/12付 |日本経済新聞|朝刊 為替除いた今期の「真水」の実力 トヨタは営業減益 増益率、マツダ首位 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「10日の東京外国為替市場で1ドル=121円台と一時1円超円高に振れ、企業の円安効果の縮小が懸念されている。こうした中、自動車7社を対象に2016年3月期の営業利益で為替の影響を除いた「真水」の実力を調べたところ、最高益を見込むトヨタ自動車が減益となるのがわかった。増益率ではマツダが3割を超え、首位に浮上する。明暗を分けるのは世界販売の伸びだ。 各社は対ドルやユーロ、新興国の為替影響を明らかにしており、それを除いて真水の営業利益を算出した。」 (同記事添付の為替影響を除いた営業増益率のランキング表を転載) こうした分析をもって、新聞記事では、次のようにグローバル製造業を評価するのだそうです。 「株式市場では「為替を除いた真水の収益力で投資先を決める」(独立系運用会社)との声もある。富士重やトヨタなどは戦略的に研究開発費を積み増し、増益率を抑えている面もあるが、為替変動に左右されない体質づくりが一段と重要になっている。」 「為替変動に左右されない体質」とは何か? その議論の前に、技術的な数字の算出方法について、まず論点を整理してみましょう。 為替リスク管理の教科書 ■ 為替変動の影響を除いた輸出売上による業績をどう測るか? まず、会社内の予実対比の為替影響の算出方法と、前年対比の為替影響の算出方法の違いを、日本で製造したものをドル建てで輸出するケースで示すと下記の通りです。 <予実対比> (予算) ドル建て売上高:20ドル 計画為替レート:90円/ドル 円建て売上高:1,800円 (実績) ドル建て売上高:18ドル 当年実績為替レート:100円/ドル 円建て売上高:1,800円 円建てだと同額で予算達成ですが、「真水」評価というドル建て(外貨建て)だと、減収で予算未達になっています。これが、対前年比較だとどうなるでしょう? <前年対比> (前年) ドル建て売上高:18ドル 前年実勢為替レート:120円/ドル 円建て売上高:2,160円 ドル建てだと、前年対比で成長率ゼロですが、円建てだと、1,800円-2,160円=▲360円の減収になります。新聞記事と同じ目線だと、「真水」の成長率はゼロなのに、円建てだと、▲16.7%(▲360円÷2,160円)のマイナス成長というのが実力値だ、ということになります。 しかしですね、投資家というのは、 ① 現金配当としての還元 ② 企業価値(要はキャッシュフロー創出力の割引現在価値)を最大化→株価の上昇 を期待して、TSR(Total Shareholders’ Return)の最大化を望むはずです。 さすれば、日本企業へは日本円で投資し、日本円での現金配当余力や、円貨建て(米国市場でのADRとか除くと、主要な上場先は東証だったりするから)の企業価値の最大化を歓迎するはずなのです。つまり、どの通貨でキャッシュを持っているか、どの通貨で株主還元額が最大値になるか、が問題なのです。 米国在住者が、日本企業(ここでは日本の株式市場に上場している企業という定義)に投資した際、投資額を米ドルで捻出し、株価を米ドルで評価するのは、米国在住の投資家の評価目線なだけです。円で株式投資の原資を捻出した投資家が、わざわざ米ドル建てで企業の収益力を評価するのは、筆者から見れば、理屈に合いません。そこは円建て評価でしょ! 外貨建取引会計の実務〈第2版〉 (会計実務ライブラリー) ■ 為替評価の摩訶不思議体験その2 では、今度は、日本で資本金を調達して、中国で製品を製造して、米国で製品を販売している企業は、どう評価されるべきなのでしょう? <前年実績> 売上高:100ドル 売上原価:250人民元 100円/ドル 20円/人民元 円建て売上高:10,000円 円建て売上原価:5,000円 円建て売上総利益:5,000円 売上総利益率:50% <当年実績> 売上高:120ドル 売上原価:300人民元 120円/ドル 25円/人民元 円建て売上高:14,400円 円建て売上原価:7,500円 円建て売上総利益:6,900円 売上総利益率:48% ここで、当年実績をいわゆる「真水」評価してみると、 (真水)円建て売上高:12,000円 (真水)円建て売上原価:6,000円 (真水)円建て売上総利益:6,000円 (真水)売上総利益率:50% あれれ、手取りの売上総利益額は減ったのに、比率指標の売上総利益率は上昇してしまいましたね。しかも、この売上総利益額はバーチャルな金額だし。。。 一見、世の中で正しいとされる評価法なんて、実際はこんなもんです。 筆者は、20年以上、為替管理を含むグローバル企業の業績評価をやってきています。読者の方で、筆者より卓越した為替影響考慮の業績評価法をご存知の方がいらっしゃったら、どうかご教授いただけないでしょうか?m(_ _)mヨロ!現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します