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(なるほど投資講座)管理会計の基礎(下) 損益分岐点、事業の採算を分析 – またの名をCVP分析。長期では損益分岐点も移動する理由まで解説

管理会計(基礎)
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■ 損益分岐点売上高の求め方

日本経済新聞夕刊に「管理会計の基礎」という全3回連載のコラムが掲載されました。こういうお題を示されて管理会計オタク魂に火がつかないはずがありません。

2017/11/24付 |日本経済新聞|夕刊 (なるほど投資講座)管理会計の基礎(下) 損益分岐点、事業の採算を分析

「管理会計で最も著名なのが損益分岐点分析です。損益分岐点とは売上高と総費用が同じになる水準をいいます。売上高がこの水準を上回れば利益が発生し、下回れば損失が出ます。目標とする利益をあげるのに、どのくらいの売上高が必要なのか分かります。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「損益分岐点のイメージ」を引用)

20171124_損益分岐点のイメージ_日本経済新聞夕刊

損益分岐点分析はまたの名をCVP分析とも言います。
C:Cost
V:Volume
P:Profit

Volume(経営活動量や操業度をしめし、生産高や売上高を使う)の変動に応じて、コストと利益がどのように推移するかを分析するツールです。この3つのパラメータだけで業績予測するので、どれか2つのパラメータを決めてあげると、残りのひとつが決まる一次関数で表されます。

売上高 = 変動費 + 固定費 + 利益
売上高 = 変動費比率×売上高 + 固定費 +利益
利益 = (1-変動費比率)売上高 + 固定費

損益分岐点売上高は、利益がゼロになるので、上式にあてはめると、

損益分岐点売上高 = 変動費 + 固定費
損益分岐点売上高 = 変動費比率×損益分岐点売上高 + 固定費
(1-変動費比率)損益分岐点売上高 = 固定費
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ (1-変動費比率)

というふうに赤字と黒字の分水嶺となる売上高を求めることができます。

CVP分析については、本ブログでも全9回の連載で丁寧に説明してあります。
(いささか、下記初回は理屈っぽいですが、2回目以降は実務的に記述してあります)

⇒「CVP分析/損益分岐点分析(1)イントロダクション - CVP短期利益計画モデル活用の前提条件について

 

■ 損益分岐点売上高を何のために求めるか?

損益分岐点売上高を求めることができれば、短期利益計画とか単年度予算編成の範囲において、この売上高を上回るように、経営活動をコントロールする目安とすることができます。

このシンプルな計算式は、企業が利益を上げるための行動様式も協力に示してくれます。

① 損益分岐点売上高を上回る販売金額を稼ぐ
② 変動費比率を下げる
③ 固定費を下げる

ちなみに、前章の計算式における(1-変動費比率)は、「限界利益率」を意味しています。それゆえ、「② 変動費比率を下げる」は、「②′限界利益率を上げる」と読み替えることもできます。

安全余裕率 = (売上高 - 損益分岐点売上高) ÷ 売上高 × 100 (%)

損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高 ÷ 実際売上高

という指標で、実際売上高や目標売上高(予算売上高)がどれくらい損益分岐点売上高を上回って利益獲得に貢献しているか、あるいは損益分岐点売上高に到達するまでにあとどれくらいかを数値で示してくれる便利な指標があります。

これらを使うことで、値引きして売上数量を伸ばした方がいいのか、選別受注して注文当たりのマージンを高めた方がいいのかの判断材料にすることができるのです。

 

■ 損益分岐点売上高も長期では動く

冒頭で紹介した記事に関連した同じく日経新聞の「きょうのことば」でも「損益分岐点」が紹介されています。

2017/11/15付 |日本経済新聞|朝刊 (きょうのことば)損益分岐点 利益出る売上高の分かれ目

●損益分岐点
「企業活動で利益が出るかどうかの分かれ目となる売上高の水準のこと。企業活動の費用には固定費と変動費の2つがある。固定費は人件費や工場の減価償却費といった一定額が必要なもの、変動費は原材料費や光熱費など生産量や販売量に応じて変わる費用を指す。売上高が固定費と変動費の合計と一致する状態で利益がゼロとなり、この水準を損益分岐点売上高と呼ぶ。」

●損益分岐点売上
「損益分岐点売上高を実際の売上高で割った数値が損益分岐点比率。この比率が低いほど利益が出やすい収益構造であることを示す。比率を下げるためには(1)固定費を減らす(2)利益率の高い製品を増やして変動費比率を抑える(3)売上高を増やす――などの対応が必要になる。」

(下記は同記事添付の「損益分岐点比率(四半期ベース)」を引用)

20171115_損益分岐点比率(四半期ベース)_日本経済新聞朝刊

どうでしょうか。何十年というスパンで見れば、損益分岐点売上が60~95%の範囲で小刻みに移り変わっていく様が見て取れます。

同記事では次のように解説が付されています。

「日本では2008年秋のリーマン・ショック後に急激な需要減少と円高が進み、日本企業の収益性は大きく悪化。損益分岐点比率も高まった。ただその後は固定費の削減や高付加価値製品の開発に取り組むなどして売上高を増やし、比率はおおむね低下する傾向にある。法人企業統計をもとに資本金10億円以上の損益分岐点比率を算出すると、最近は60%前後で推移している。」

この説明はふっと聞くと、当たり前のように聞こえるのですが、実は構造的な問題を抱えているのです。そもそも、損益分岐点はどのように計算されるのだったでしょうか。

売上高と変動費と固定費の3つのバラメータで利益を表現したから。そして、コストを変動費と固定費に分類したからではなかったでしょうか。このコストを変動費と固定費に分けることを「固変分解」といいます。

⇒「限界利益の使い方の誤解を解く - 固定費があるから変動費がある。コストを固変分解する所に限界利益あり!

冒頭のチャート「損益分岐点のイメージ」をもう一度ご確認下さい。固定費は横軸の数量(生産量でも販売数量でも理屈は同じ)に対して水平線で描かれています。つまり、売上高(販売数量)がどれだけ変動しようと、ぶれずに一定額となる。だからこそ「固定」費という命名なわけです。

ところが、「損益分岐点比率(四半期ベース)」を見ると、とても実売上高の変動幅だけの要素で推移していないことが分かります。さらに、解説文の中に「固定費を減らす」とまで記述されています。

固定費は『固定』ではなかったのか?

 

■ 固定費の「固定」たる理由に対する世の中の誤解

長期では固定費が変動費化する。このことが、損益分岐点分析やCVP分析が使えないツールと断罪する人が挙げる現象です。また、最小二乗法を使えばExcel等を使って容易に、固変分解をすることもできるのですが、大抵の場合、固定費がマイナスになります。これも、損益分岐点分析やCVP分析が使えない理由として挙げられることがあります。

これは「アキレスと亀」級の難問ですが、原点に戻って素直に考えれば解けます。

つまり、「固定費」とは、同じ費目によるコストであっても、その発生をコントロールすることができない短期においてのみ存在し得る、ということです。

簡単な例で説明します。あなたは、市場における需要予測を行い、向こう5年間で売上高が2倍になる分析結果を得ました。工場を見ると、操業度100%いっぱいいっぱいで生産設備が稼働しているのでもう余力がありません。そこで、設備投資(増産投資)を経営陣に提案します。耐用年数5年の機械設備:100億円の投資を提案します。それは年間20億円の減価償却費を発生させる投資案です。

この時、向こう5年間、単年度の予算編成において、この20億円の減価償却費は、その期の売上高が予想通りに倍増せずに、逆に減少してしまい、設備の稼働が止まったとしても、期間費用としてP/Lへの計上を回避することはできません。その意味では、この減価償却費は「固定費」なのです。

しかし、5年スパンで設備投資の意思決定を行う立場で、5年間の推移P/Lに基づく利益管理を行う立場からすれば、この100億円の設備投資の意思決定、そしてそれがもたらす年間20億円の減価償却費は、予想売上高に比例して発生が認められる変動費であって、決して発生回避不可能ではないのです。

つまり、同じ機械設備の減価償却費であっても、それを扱う期間と立場次第で、固定費にも変動費にもなり得る、ということなのです。

 

■ キャパシティ・コスト、マネジド・コスト、そして裁量固定費

別の例でも固定費の性質を検証してみます。正社員の人件費とか、広告宣伝費とかも「固定費」というカテゴリで扱われることがあります。確かに、年度予算期間中に、リストラもできないし、広告代理店との契約も解除できない立場にあれば、それらは固定費です。しかし、会社の中における立場がもっと上になれば、リストラをして人件費圧縮もできるし、広告代理店との契約も若干のペナルティ(違約金など)を支払って解除できるかもしれません。

これらは、厳密には、売上高の変動とリンクした費用発生が観察されないだけであって、そのコストの発生の仕方がいわゆる「固定費」として一定額の発生が不可避であるわけではないのです。

経営の構えのために必要とされる費用は、「キャパシティ・コスト」と呼ばれます。そのうち、減価償却費のように、一定期間の間、拘束的・既決的に発生回避ができない費用を「コミテッド・コスト」といいます。また、広告宣伝費のように、マネジメントの裁量,判断で発生管理可能な費用を「ポリシー・コスト」または「マネジド・コスト」といいます。
(厳密には違いがあるのですが、それは基礎編では同じということで)

筆者は、管理者の都合で、単年度予算管理期間内でもその発生多寡を調整できる固定費を特に「裁量固定費」と呼んでいます。この「裁量固定費」がある存在する以上、単年度であっても、事後的には損益分岐点、あるいは損益分岐点売上高は操作可能なのです。

⇒「意思決定のための管理会計

減価償却費は? 物理的には不可能でも論理的には調整可能です。その対象設備の売却益で損失補てん(期間利益の足し)するのです。

損益分岐点は、「固変分解」の決め事の中でのお話。最終的には神のごとく、すべてのルールをご破算にすることが可能ですが、とりあえず、決められたCVP相関の中で、販売量、コストを調整して目標利益達成のための施策を考えるヒントとして活用するのです。

⇒「(なるほど投資講座)管理会計の基礎(上) 意思決定などに活用  - 一般的に認知されている管理会計が持つイメージと本質のGAPを語ってみた
⇒「(なるほど投資講座)管理会計の基礎(中) 原価計算、方法は複数 – 管理会計の中央に鎮座する原価計算について

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です

管理会計(基礎編)(なるほど投資講座)管理会計の基礎(下) 損益分岐点、事業の採算を分析 - またの名をCVP分析。長期では損益分岐点も移動する理由まで解説

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