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限界利益と埋没原価を用いて一番儲かる方法を見つけます ① 意思決定構造の定義

意思決定会計 (入門)
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■ 意思決定会計は、計数面から最善策 = 一番儲かる選択 を探し出すための思考ツール

今回から、「意思決定会計」という分野のお話を始めたいと思います。「意思決定会計」とは企業内における様々な意思決定、例えば戦略構想、経営計画、施策選択、業務設計、を行う場面で、一番儲かる選択肢を会計的技法を用いて選び出すことを目的としています。

⇒「意思決定のための管理会計

手始めに、「限界利益」と「埋没原価(サンクコスト)」という会計用語を用いた損得計算の事例で説明していきたいと思います。

●限界利益
売上高から変動費だけを差し引いた利益。変動費は売上高の増減と比例して発生するコスト

⇒「限界利益の使い方の誤解を解く - 固定費があるから変動費がある。コストを固変分解する所に限界利益あり!
⇒「短期的意思決定

●埋没原価(サンクコスト)
複数の業務施策のいずれを選択しても、発生金額が変動することがないため、その選択肢のどれが一番儲かるかを決める際には、完全に無視できるコスト
その反対語が「差額原価」。経営判断により、とある選択をすると発生額が変動するコスト

⇒「(春秋)サンスクリット語ではマンジュシュリーというらしい。漢訳仏典が広く普及した日本では文殊(もんじゅ)菩薩(ぼさつ)と
⇒「長期的意思決定 CVP分析より(1)
⇒「長期的意思決定 CVP分析より(2)

さあ、これで最初歩の意思決定会計のための道具は揃いました。

 

■ 意思決定会計を用いるための土俵を設定する

経営判断を行う際に、短期的な視点による判断、長期的な視点による判断、という時間軸での分類をするときがあります。また、戦略的意思決定と戦術的意思決定という分類も存在します。今まで何となく使っていた用語。ここらで概念をきちんと整理しておきましょうか?(^^)

会計情報を用いた経営判断のフレームワークは下図の通り。

意思決定会計(入門編)意思決定会計を用いた経営判断の種類

①戦術的意思決定
個別業務の判断に伴うもので、セールスミックスやプロダクトミックスに関する販売意思決定、財務計画、その他諸処の個別施策に関わるコスト発生計画にひもづく意思決定です。それらの経営判断は、事業ドメインや製造設備の生産能力などは、所与の前提条件としておかれ、その枠の中での選択的行動しか採択できないという制約があります。

②短期利益計画
通常は年度予算管理として実施されるもので、通年の利益計画に紐づくものなら全ての経営活動を包含するものです。ただし、長期的視点に立った新規の設備投資や新製品開発のための先行投資、事業ドメインや商流を大幅に変化させるM&Aに伴う投資について、多額の一時的なキャッシュ・アウト・フローは発生しても、減価償却費やのれん償却費の形で、期間損益に関わる一部分だけが持ち込まれることに留意が必要です。

③戦略的意思決定
経営構造自体を大幅に変えること自体を経営判断の対象にする意思決定です。その影響は、長期的(通常は1年という会計期間を超える)、経営構造そのものに及ぶものです。経営構造は、組織的に、業務的に、これまでとは不連続となる抜本的で大掛かりなものになることが多く、過去トレンドのままでは済まされません。それゆえ、費用構造自体を変える強い変革力をもつため、従来の変動費や特に金額の大きい固定費に与える影響が大きなものになります。

従来の会計学がこの辺りのことを「原価計算基準」(日本で唯一の公式な管理会計を規定したもの)にてまとめております。

(参考)
⇒「原価計算基準(4)原価計算の目的 - ④予算管理目的と短期利益計画の盛衰
⇒「原価計算基準(5)原価計算の目的 ⑤基本計画設定目的 - そもそも経営計画は何種類あるのか?

そして、「戦略」とか「戦術」という軍事用語を転用した経営戦略用語。これについては、100人の論者がいたら、100通りの説明があるといっても過言ではありません。当然、筆者も、クラウゼヴィッツを引いて、下記過去投稿で言及していますのでそちらもご参考ください。(^^;)

(参考)
⇒「戦略論の古典 クラウゼヴィッツの『戦争論』における「戦略」

 

■ 経営判断と原価概念の関係

①戦術的意思決定
分かりやすく、この領域の経営判断業務として好例のセールスミックス(プロダクトミックス)を取り上げて説明してみます。あなたの会社は、X工場の製造設備を用いて、製品A、製品B、製品Cを製造・販売していると仮定します。X工場の生産能力の増強や更新投資などは、X工場という経営資源をどのように活用するか、経営構造自体を変えることになるので、それは本稿では戦略的意思決定に属する経営判断なので、ここでは除外されます。あくまで、その生産能力の中で製品A、製品B、製品Cの組み合わせで一番儲かる選択肢を選ぶこと、それが戦術的意思決定としての命題になります。

それでは、さらに仮定を厳しく設定してみます。あなたは、X工場の生産設備を使って、製品A、製品B、製品Cのいずれか一種類しか、同時に製造できません。その場合、製品Aを製造するときの製造コストと、製品Bを製造するときの製造コストは変わることが一般的です。材料費も異なるし、加工時間も異なりますので。このように、あなたがセールスミックス(プロダクトミックス)問題で製品Aか製品Bかを選ぶとき、変化する製造コストを「差額原価」と呼びます。

ただし、製品Aを選んでも、製品Bを選んでも、X工場にかかる減価償却費の総発生額は不変です。これを「埋没原価(サンクコスト)」と呼ぶのです。それゆえ、戦術的意思決定においては、埋没原価を用いて意思決定会計的にどの選択肢が一番儲かるか等と考えることはありません。さらに、この判断は比較的短期的な視点(つまるところ、X工場の生産能力の在り方自体は所与として受け入れているので)で行われるので、その採算性を評価する場合は、期間損益計算の視点からも、主に変動費 = 差額原価 と位置付けても問題ないのです。

②短期利益計画
期間損益計算は、通常は制度会計(財務会計)による外部開示を前提とした財務諸表(特にP/L)と有機的に関連させて考える必要があります。そこでは、制度会計の要請により、全部原価ベースの損益計算が必要になります。それゆえ、短期的な視点で埋没原価や固定費であっても、すべての原価要素を考慮して期間損益を計算する必要があります。それゆえ、損益分岐点分析(固変分解)であっても、差額趣旨計算であっても、すべての原価要素を集計して、期間原価として利益計画に反映しなければなりません。

③戦略的意思決定
この領域の典型的な経営判断として、大型設備投資、M&A、製品開発のための先行開発投資が挙げられます。それらは押しなべて、一時的に多額のキャッシュ・アウト・フローとなって、キャッシュフロー計算書に立ち現れてきます。ただし、損益計算としては、単年度予算(短期利益計画)の中では、全償却期間のうち、その会計期間に該当する部分だけが、償却費として考慮する対象となります。

それゆえ、この領域における意思決定会計は、以下の3段階に分けて対応されることが通常です。

1)会計期間ごとの期間損益計算のために毎期の「償却費」情報を提供
2)複数会計期間にわたる対象プロジェクトのネットキャッシュフロー(キャッシュインとキャッシュアウトの総額)情報を提供
3)上記2)のネットキャッシュフローの割引現在価値情報を提供

上記3)は、特にディスカウント・キャッシュフロー(DCF)と呼ばれるものです。これについては、別稿でさらに深堀していきたいと思います。

ふぅー。実際に数字を置いての説明は次回ということで、お楽しみに。(^^;)

意思決定会計(入門編)限界利益と埋没原価を用いて一番儲かる方法を見つけます ① 意思決定構造の定義

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