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目標かなえる自分に変わる 米スタンフォード大心理学者 マクゴニガルさんに聞く - AIでない感情を持つ人間ならではの目標設定方法とは

新聞記事・コラム
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■ 来年の目標設定はもうお済みですか? 自分を見つめ直す好機到来!

日本には都合がよく、年末と年度末(学校や3月期決算会社など)の2回、今年の反省と来年の目標設定ができるチャンスが到来します。今回は、年末の反省と目標設定のためのコツが日本経済新聞にて、心理学の大家のインタビュー記事が紹介されていたので、ちょっと筆者風のアレンジを加えてご紹介したいと思います。

2016/12/6付 |日本経済新聞|朝刊 目標かなえる自分に変わる 米スタンフォード大心理学者 マクゴニガルさんに聞く

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「いよいよ年の瀬。皆さんは年初に掲げた目標を達成できただろうか。目標通りにいかなかった人は「準備」が足りなかったのかもしれない。米スタンフォード大学の心理学者で「スタンフォードの自分を変える教室」などの著書を持つケリー・マクゴニガルさんに、どうすれば「目標をかなえる自分」になれるか、その方法を聞いた。」

(下記は同記事添付の「ケリー・マクゴニカル氏」の写真を引用)

20161206_ケリー・マクゴニガル氏_日本経済新聞朝刊

専門は健康心理学。健康や成功に役立つ実践的方法を提供する講義が人気。著書に「スタンフォードの心理学講義 人生がうまくいくシンプルなルール」など。

氏が唱える「自分を変えられる人」には3つの特徴があるそうです。

①「成長に対する健全な考えを持っている」
②「周囲のサポートをちゅうちょなく求める」
③「過去の振り返り方」

①「成長に対する健全な考えを持っている」
氏によると、自分を変えることに成功している人は、「自分は絶対に変わることができるのだ」という信念を持っているというのです。

(信念 = 成長型マインドセット = 拡張的知能観)

自分は変わることができるという信念が、様々な経験やそこから得られる教訓をポジティブにとらえて明日の自分の糧にすることができます。努力の結果、仮に途中経過の目的達成に挫折したとしても、その挫折を乗り越えて、たゆまずにゴール目指して前進することができます。

②「周囲のサポートをちゅうちょなく求める」
「自分を変えることは可能である」という信念を持つ人は、同時に、「自分一人の力で自分を変えるのは難しい」という信念も併せ持っているのだそうです。それでも自分を変えたい場合はどういう手段に出るのが効果的か? そういう人は、自分を変革しようとする取り組みを、「ソーシャルプロジェクト」:周囲の人を自分の味方やメンター、ゴールを共有する同士に仕立て上げて上手に巻き込むのです。

嫌な気がしないまま、なぜか協力してしまう。そういう経験をしたことはないでしょうか。そういう人は、このような人種に悪く言うと利用されているということになります。でも、それでお互いの目標達成に近づけるなら、「Win-Win」でハッピーじゃありませんか。

③「過去の振り返り方」
自分を変えられる人は、自己分析に大層な時間をかけるそうです。過去に起きた出来事について「なぜ自分はあんなことをしたのか」、過去の判断・行動が間違いと認められたら「本当はどうしたらよかったのか」と自分に対する好奇心を最大限に発揮して、十分に深い所にまで自分を掘り下げて自己分析をします。

ちなみに、筆者は、周期的な習慣として、未だに学生時代の様々なディシジョンポイントのことを思い起こし、どうすればよかったかなと度々考えることが常です。例えば、高校一年生の時の後夜祭のキャンプファイヤーの時に、自分が好きな女の子と、自分のことが好きな女の子が友達で、二人が連れ立って、フォークダンスのお誘いを受けた時に、どっちと踊ることを選ぶのが正解だったかとか。。。(^^;)

 

■ 過去の振り返り方にもコツがある!

マクゴニカル氏によりますと、上記③「過去の振り返り方」にもうまい方法があるそうで、これが自分自身に問う4つの質問の型に分かれます。

(下記は同記事添付の「自分へ問う「4つの質問」」を引用)

20161206_自分へ問う「4つの質問」_日本経済新聞朝刊

①「褒めるべきことは何か」
人は、自分の過去を振り返るときの習性として、「何を間違ったか」「どうして失敗したか」とネガティブなことだけが頭の中をよぎりがち。それではポジティブに前向きな改善策を思いつくのは難しいので、できるだけ、「褒めるべきことは何か」「何に成功したか」という自己賞賛視点の思い起こしをした方がよいそうです。よかった点をさらに伸ばそうという作戦です。

マクゴニカル氏はこのようにご説明されていますが、これでは課題解決アプローチの施策や来年の目標設定の材料は出てこないかもしれません。ポジティブ思考で前向きな目標設定が成った後、ダメだった(もう少し頑張りが足りなかった)点についても、「こうすればもっとうまくできる」という思考法で迫って頂けるとさらにいいのではないでしょうか。

②「どんなことに驚いたか」
過去1年に受けたサプライズの中に、思わぬ教訓やフィードバックが隠れていることがあります。

③「1年を象徴する感情・体験は何だったか」
「1年を象徴する感情・体験は何だったか」を自問自答します。この場合も、ネガティブな後悔や失望の念が思い起こされるかもしれません。そのときは、「後悔や失望は、この機会を逃してしまったからだ」「こう間違ったからだ」と客観的に分析することを氏は勧めています。

④「「羨ましい」と思った人は誰か」
あなたが嫉妬を感じる周囲の人(できればマスコミ等で間接的に知ることができる人より身近な人の方がベター)を想像してみてください。そして、自分の中にはなくて、あなたが欲しいと思っているもののうち、その人が何を持っているのか、持っているものを使ってどういう成功を収めたか、について深堀してみて、自分がそれを備えたらどういうハッピーなことが身の上に起きるのか想像してみてください。

 

■ 心理学は人間の感情を相手にする学問。こういう手法はAI全盛時代にも有効か?

冒頭に紹介した記事にて、マクゴニカル氏がまとめの文章と自身の体験を語ってくださる箇所があります。
(1)
「目標が決まったら、今年の12月31日に「来年の12月31日はどんな気持ちか」を想像します。来年の年末の振り返りを今年のうちにするのです。「来年1年間で自分が目標達成に向けて取り組んだこと」を、来年末のあなたは心地よく感じているでしょうか。」

あなたが心地よく感じることが大切です。来年1年間のあなたの努力とその努力がもたらす結果にあなたの感情が満足するのなら、嬉しく感じることができるなら、その目標設定は間違っている可能性は非常に少ないでしょう。

(2)
「想像は「自分が欲する未来」を生み出す力を持っています。来年末を振り返る行為を、私は「将来の記憶」を生み出す作業と考えています。はっきりした内容であるほどパワフルなやる気が引き起こされることが研究で証明されています。」

より具体的な想像であればある程、そのために必要な努力や手段や今の自分に足りないものがより具体的に把握することができます。人は、どうやればいいか分からないから途方に暮れるのです。やり方が分かれば、正しい努力の方向が分かれば、その道に向かって邁進するやる気も漲ってくるというものです。

「個人的な体験を例に挙げると、書籍を初めて書いた時は「読者と私が話している」という将来の記憶を持っていました。読者が「この本に助けられました」「○ページのくだりをこんなふうに解釈しました」と言ってくれるシーンを想像し、やる気が出たのを覚えています。本を出版するという目標設定だけでは引き出せなかったでしょう。」

(3)
「想像しても将来の記憶が出てこない場合は、設定した目標が間違っているのかもしれません。違う目標を選んで、将来の記憶を改めて考えてみてください。」

せっかく1年度のあなた自身の姿を想像しても全く何も具体的なビジョンが出てこないとしたら、その想像の過程で、目標値が高すぎて、内心ではできっこない、と思って諦めているか、それとも、そもそもあなた自身にはその課題やアプローチは不適切なのかもしれません。人は、自分自身が想像できる範囲でしか、創意工夫をし、行動に移すことはできません。

これは、筆者の経験ですが、マスメディアを含めた、視覚・聴覚等で得た知識や経験の枠の外で「夢」を見ることは出来ない、と考えています。不思議な夢を見て、それが不思議と思える段階で、あなたの脳が過去に得た情報を元に、あなたの夢が構成されていることは明らかです。あなたの脳内に蓄えられている情報(過去の体験やその体験に起因する感情)の有効活用度が、将来のあなたの成功の度合いを左右するのです。

 

■ (蛇足)今年の単語「ポスト・トゥルース」に見る「感情」の重要性とは?

同日夕刊コラムに次のような記事がありました。

2016/12/6付 |日本経済新聞|夕刊 (十字路)ポスト・トゥルース

「オックスフォード英語辞典が毎年この時期に決める「今年の単語」で、2016年は「ポスト・トゥルース(post―truth)」が選ばれた。客観的な事実が世論形成にあまり力を持たず、むしろ感情や個人的信条への訴えかけの影響が大きい、という事態を指す。英国の欧州連合(EU)離脱や米大統領選挙にまさに当てはまる言葉だ。」

米大統領選で、歯に衣着せぬ共和党候補トランプ氏が勝利したことは、

「所得格差拡大への不満が積もり、自由貿易による国際競争や移民の受け入れで職を奪われている、という人々の感情が背景にある。」

と言われていますが、

「加えて人種、宗教、性別などに関する建前的な平等主義に、疲弊感が生じている面もあるだろう。例えば米国では、キリスト教以外の宗教への配慮として「メリー・クリスマス」と言わず、「ハッピー・ホリデーズ」と言い換えることが奨励される。「そこまでしなくてはいけないのか」との思いが本音だろう。」

と説明されている「ポリティカル・コレクトネス」についての有権者の感情の発露が、暴言王とも揶揄されるトランプ氏への共感票につながったとも言えなくもありません。

ポリティカル・コレクトネス(英: political correctness、略称:PC)とは、政治的・社会的に公正・公平・中立的で、なおかつ差別・偏見が含まれていない言葉や用語のことで、職業・性別・文化・人種・民族・宗教・ハンディキャップ・年齢・婚姻状況などに基づく差別・偏見を防ぐ目的の表現を指す。(WiKiより)

(筆者も、学生時代、「Miss.」「Mrs.」の違いを習いましたが、職業人になってからは、「Ms.」しか使ったことはありません。)

多くの政治学者は、これが「ポピュリズム」に向かう悪しき傾向だ、と警鐘を鳴らします。同じことは長い民主主義の歴史のずっと先の時代にもありました。アテナイのペリクレスが弁説爽やかで、民衆の支持も高く、その演説は現代の政治家も未だにお手本のひとつにしているぐらいです。そのペリクレスが政界から去った後、クレオンをはじめとする「デマゴーグ」が扇動的な演説を繰り返し、衆愚政治に陥った、と歴史学や政治学で学んだことがあります。

何が正しいか、を決めるのは、論理的帰結だけでなく、感情的納得感もあります。筆者の生業としているコンサルティングサービスでも、経営改革プランを決める際には、利害関係者の「感情」抜きにして、物事は決まらないことを前提に提案を進めます。

判断の結果が思わしくないからといって、「ポピュリズム」の一言で片づけてほしくはない。「感情」を無視した客観的に正しいとされる政策判断は本当に正しいのか?この世は多くの人間か等構成される様々な中小集団のあつまりです。その構成員ひとりひとりの人間の意思(=感情)抜きで物事の判断はできないと思います。

経営学の世界でも、テイラー主義とメイヨー主義の対立がありました。筆者は、ホーソン工場の実験は、その大いなる示唆を与えていると思っています。

⇒「経営戦略概史(4)メイヨーと「人間関係論」

 

■ (蛇足)AI全盛時代に考える「感情」の重要性とは?

筆者は、「感情」に訴えることは、ディープラーニングをベース技術とする現世代クラスのAIになら断然生身の人間が勝負してまだ勝てると確信しています。マクゴニカル氏が、人間が持つ「感情」を重視した目標設定の効果的な手練手管を紹介してくれたように、人間の脳でおきる思考プロセスから「感情」回路を完全に外すことはできません。むしろ、「感情」回路だけで判断する人種となんと多いことか。。。

合理的な判断(といっても、ベイズ定理に基づく仮説検証アプローチに従い、機械学習/強化学習でビッグデータを効率的に活用して、あくまで確率的な正答を仮提示するにすぎませんが)に特化したAIは、感情を持ち得ません。現在、多くの研究者・開発者がAIに「感情」を持たせることに努力し、ペッパー君は、「内分泌型多層ニューラルネットワーク」を備えて、外界からの刺激に応じて、ホルモンバランスが変化して、感情を創り出しています。

Pepperが感情を持つのはなぜか – ソフトバンク孫社長がざっくりメカニズムを解説

その開発手法はチームそれぞれでしょうが、機質的な脳内ニューロンをいくら研究しても、人間の感情が生み出す人情の機微を現段階の価額の水準ではすべてを再現することはできません。これについては、いつかは全容が解明するというスタンスにありますが、それは2045年までに到来するとは、科学の専門家ではありませんが、そうは思っていません。それは、とある事故で脳の半分を消失した人が、その後、外科的な外傷を克服しただけでなく、残りの半分の脳で健常者が備える脳機能を全て回復した症例が米国にあるからです。

つまり、医学的な研究が進み、やがては全容解明されるかもしれませんが、そのすべてのメカニズムを人造的なAIロジックに乗せるには、まだいくらか猶予期間が数十年単位であると思われます。その間は、生身の人間の「感情」回路でこの世の問題解決をしなければならない場面がまだまだあるということです。

心理学者であるマクゴニカル氏の「感情」を使った来年の目標設定の方法論から、ポピュリズムやAIにまで話が飛んでしまいました。(^^;)

しかし、これらは、「人間とは何か?」「幸福に人生を過ごすにはどうしたらいいか?」「その一部を構成する仕事をうまくこなす方法論はなにか?」それらの命題を考える上で、共通して大事なこと、「生身の人間が持つ『感情』をゆめゆめ疎かにしない」この1点が全ての課題の根底にあると言っても過言ではないこと、これを読者の皆様に是非知ってもらいたいからの駄文でした。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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