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「攻めのIT経営銘柄」みずほやIHI選定 経産省・東証 - 2016年度版

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 去年に引き続き、2回目の選定。当然2年連続選定企業もあります

経営管理会計トピック

今年も「攻めのIT経営銘柄」として、26社が選ばれました。何を持ってIT経営とするか、そしてIT経営度が業種平均より直近3年平均ROEを高くする理由づけがいまいち不明瞭なのですが、とにかく選定された26社の関係者の皆様方、おめでとうございます。普段はあまり脚光を浴びないIT部門の方の努力が社外機関から評価されたということで、これは全体的には大変良いお話だと思います。

2016/6/10付 |日本経済新聞|朝刊 「攻めのIT経営銘柄」みずほやIHI選定 経産省・東証

「経済産業省と東京証券取引所は9日、「攻めのIT(情報技術)経営銘柄」としてIHIやみずほフィナンシャルグループ(FG)など26社を選んだ。ITを使った革新的なサービスを提供する企業を有望銘柄として投資家に紹介する。米国などに後れを取るIT活用を日本企業に促す。
 東証上場の約3500社のうち、IT活用に関するアンケートに答えた347社が対象。IHIは納品した航空機エンジンの稼働状況をITで監視し、故障を事前に検知するサービスが評価された。みずほFGはインターネット上で資産運用ロボが投資信託のポートフォリオを提案するサービスを手がけている。
 選定は2015年に続き2回目。今回初めて選ばれた14社は次のとおり。大和ハウス工業、花王、新日鉄住金、IHI、コニカミノルタ、東京ガス、日本郵船、日本航空、ヤフー、三菱商事、Hamee、日本瓦斯、みずほFG、セコム。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

 

■ 去年に引き続き、2回目の選定。当然2年連続選定企業もあります

ここはまず、関連サイトのリンクからご紹介しておきます。筆者の引用・解説が煩わしい方は、いきなりここのリンク集にある資料に目を通して、ご自身のレビューを済ませてくださいませ。

● 経済産業省
(1)ニュースリリース
「攻めのIT経営銘柄2016」を発表しました~企業価値の向上に向け「攻めのIT経営」に取り組む上場会社26社を選定!!~

(2)発表資料
「攻めのIT経営銘柄2016」を発表しました~企業価値の向上に向け「攻めのIT経営」に取り組む上場会社26社を選定!!~(PDF形式:202KB)PDFファイル
「攻めのIT経営銘柄2016」(PDF形式:2,990KB) …A

● 東京証券取引所
(1)マーケットニュース
「攻めのIT経営銘柄2016」の公表について

(2)添付資料(上記Aと同じ)
「攻めのIT経営銘柄2016」レポート 

筆者の1年間の2015年度選定の際の過去投稿記事はこちら
⇒「攻めのIT経営銘柄18社 日産や大阪ガスなど、経産省と東証が選定(1)

お待たせしました、これが選定企業一覧になります。
(以下の資料は全て「攻めのIT経営銘柄2016」レポートからの抜粋・転載になります)

20160620_攻めのIT経営企業_2016

上記新聞記事では、初ランキング会社を掲載していましたが、こっちは2年連続選定を受けた栄えある企業(12社)を列挙します。
・積水ハウス
・アサヒグループホールディングス
・東レ
・エフピコ
・ブリヂストン
・JFEホールディングス
・日立製作所
・日産自動車
・トッパン・フォームズ
・東日本旅客鉄道(JR東日本)
・三井物産
・東京センチュリーリース

そうですか、IT企業からはヤフーだけが選出され、KOMTRAXで有名なコマツは選から漏れたんですね。

 

■ レポートから、IT経営企業の実像に迫っていきます

まず、経済産業省のホームページより、そもそもこうした企業選定の目的と趣旨から。

● 目的
経済産業省は、我が国企業の戦略的IT利活用の促進に向けた取組の一環として、平成26年度から、東京証券取引所と共同で「攻めのIT経営銘柄」を選定し、長期的な視点からの企業価値の向上を重視する投資家にとって魅力ある企業として紹介することを通じ、「攻めのIT経営」の取組を促進することを目指しています。
本日、第2回目として、「攻めのIT経営銘柄2016」選定企業26社を発表しました。

● 攻めのIT経営銘柄について
東京証券取引所の上場会社の中から、中長期的な企業価値の向上や競争力の強化といった視点から経営革新、収益水準・生産性の向上をもたらす積極的なIT利活用に取り組んでいる企業を「攻めのIT経営銘柄」として、業種区分ごとに選定して紹介するものです。
ITの急速な進展により、産業構造やビジネスモデルがかつてないスピードで変革する中、我が国企業が国際競争を勝ち抜いていくためには、従来の社内業務の効率化・利便性の向上を目的としたIT投資にとどまることなく、中長期的な企業価値の向上や競争力の強化に結びつく戦略的な「攻めのIT投資」が重要です。

● 選定手順
①「アンケート調査」
前回(2015年度)は、回答企業が210社で、今回(2016年度)は、347社(内新規回答:258社)と、まずは立候補制だということです。

20160620_攻めのIT経営企業_アンケート_2016

② 攻めのIT経営のスコアリング評価
集まったアンケート調査情報から、次のフレームワークに従って、アンケート結果をスコアリングします。

Ⅰ.経営方針・経営計画における企業価値向上のためのIT活用
Ⅱ.企業価値向上のための戦略的IT活用
Ⅲ.攻めのIT経営を推進するための体制及び人材
Ⅳ.攻めのIT経営を支える基盤的取組み
Ⅴ.企業価値向上のためのIT投資評価及び改善のための取組み

20160620_攻めのIT経営企業_評価フレームワーク_2016

③ 財務スクリーニング
スコアリング評価を元に選定された候補企業について、ROEの直近3年間平均が、業種平均以上、または8%以上化を確認するスクリーニングを実施しました。

ちなみに参考まで、選定された企業で投資ポートフォリオを組成すると、日経平均に勝てます、というチャートが添付されています。

20160620_攻めのIT経営企業_運用パフォーマンス_2016

これについては、IT経営度が進んでいるから、ROEが高いのか、ROEを高い企業を選んだから株価パフォーマンスが高いのか。IT経営度で株価水準を直接評価できないため、間にROEをはさむロジックで企業選定をしています。

実は、2015年度の経済産業省のホームページ(今でも消されていないので確認することができます)では、上記でも紹介した本選定の目的を、

「経済産業省は、我が国企業の戦略的IT利活用の促進に向けた取組の一環として、東京証券取引所と共同で、「攻めのIT経営銘柄」を選定し、本日公表しました。
「攻めのIT経営銘柄」は、長期的な視点からの企業価値の向上を重視する投資家にとって魅力ある企業を紹介するものであり、今後、多くの企業が「攻めのIT経営」の取組を推進するインセンティブとなることを目指します。」

と、露骨に政府機関上げての推奨銘柄です、という風の目的説明がなされていました。今年はご覧の通り、その辺は微妙に表現をマイルドにしています。

ちなみに、経済産業省は今年から、この「IT経営」について大きく取り上げ、中小企業についても同様の主旨の選定リストを公表しています。

● 経済産業省
「攻めのIT経営中小企業百選」の選定企業を発表します

 

■ レポートから、IT経営企業の本質とは、について再考して頂きたいと思います

同レポートには、冒頭に、「IT経営銘柄(そこは「企業」じゃないのね)」の定義があります。

20160620_攻めのIT経営企業_攻めのIT経営銘柄とは_2016

重要なところなので、書き出して比較してみます。

「守りのIT経営」
社内業務の効率化、利便性の向上を目的

「攻めのIT経営」
新事業への進出や既存ビジネスの強化など企業価値を向上させる

言いたいことは実は理解しているつもりですが、それは日本企業の強みがどこにあるのか、まずそこからの思いの違いから語る必要があります。

トレーシーとウィアセーマの『ナンバーワン企業の法則』(1995年)によれば、企業が競争優位に立つための方策として、
①「業務の卓越性(オペレーショナル・エクセレンス)」
②「製品リーダーシップ(プロダクト・イノベーション)」
③「カスタマー・インティマシー」(顧客新密度向上)
の3つの戦略のうち、どれか1つに集中・選択・実行する必要があるとしました。

長年、筆者は製造業を中心にコンサルティングをさせて頂いておりますが、圧倒的に日本企業は上記①の強みでグローバルに競争してきました。それは、業務の改善に次ぐ改善。現場の努力そのものが競争力の源泉でした。それは、マイケル・ポーターに「日本企業には戦略が無い」と揶揄される程の徹底ぶりで、藤本隆宏教授によれば、「現場は一流、本社は三流」と言わしめるほど。日本企業の強みはどこか。それは「守りのIT」がカバーしている所だと思うんですがね。それを自覚したうえで、「攻めのIT」(筆者流に言わしてもらうと、顧客基盤の強化)に打って出る、それはこれまでの日本企業の勝ちパターンからの脱却なのだと、そこまでの覚悟の上で実践してもらいたい、そう心から願うところです。

本ブログは特定の銘柄を推奨する無責任な投資ブログではないので、個別企業に対するIT経営度と株価パフォーマンスの相関分析には言及しませんが、ITと経営管理を生業としているコンサルタントとしては、ここに挙げられた26社のIT先進企業の取り組み自体には大変興味があります。時間があれば、この後、個別企業のIT経営への取り組み内容を分析し、皆様にもお届けしたいのですが、他の仕事の繁忙期でそれが叶うかどうか。(そういえば、前年も個別企業の分析をしますと言って、その後ほったらかしになった実績がありますが)(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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