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■ アイリスオーヤマの競争戦略の原点を垣間見る!

コンサルタントのつぶやき

2016/3/18付 |日本経済新聞|朝刊 (私の履歴書)大山健太郎(18)世界へ羽ばたく 余った設備で米国進出 模倣品と競わず 新天地探す

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当社では現在毎年1000点の新商品を出し、取扱商品は1万6000点に上る。売上高の5割強を発売後3年以内の新商品が占める。ヒットが出ると他の模倣メーカーがすぐ似たものを作ってくる。

当社は全ての商品で単品での原価管理が徹底されており、原価割れのビジネスはやらないと決めている。たとえ自社開発したオンリーワンの商品でも、値崩れによって赤字になった場合、最初のうちこそコストを下げる努力をするが、限度を超えたら新しい商品開発に力を入れ売り上げ減をカバーする道を選ぶ。

1989年に発売し大ヒットした透明な衣装箱「クリア収納」も、人気を見て国内だけで30社が模倣品を出した。供給過剰で値崩れし、1個2000円で売っていたものが1500円、1000円、800円と下がる。こうなると材料費より安い。オイルショック後、主力商品だった農業用育苗箱が在庫過剰による乱売に陥ったのと同じだ。

収納ケースという市場を創造、独占していた当社は力で他社を追い払う手もあった。しかし私は「もうからない商売からは撤退する」という道を選んだ。倒産の危機を経て、私は「いかなる時代環境でも利益の出る会社」を目指すと決めていた。私たちの求める価格で仕入れてくれる店との取引だけを残し、生産量をぐっと絞った。

そうなると金型など生産用の設備が余る。私は米国でクリア収納を生産、販売することを思いついた。米国には商品買い付けの事務所はあるが工場や販売拠点はない。

「米国の家は広い。収納場所に悩む人はいない」と皆が言う。米国でも従来型のプラスチック製収納箱は安く、大量に売られている。リスクはあるが、やるしかない。私は考えた。「普通の収納ケースならそうだろう。しかし米国人にも『探す』面倒への不満は必ずある」。その課題を解決する透明ケースは受け入れられるはずだ。
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■ メーカーのジレンマ:終わりなきコストダウン競争に入るか、高付加価値製品に走るか?

どうしても高名なポーター教授による「競争の戦略」における「差別化」をどうしても想起せざるを得ません。価格競争か、機能差別化か? 筆者は後者の方が難易度が高く、高級で、常に正解とは限らないという見解に立っています。

そして、「原価割れ」という言葉にも慎重に対処します。というのは、そこで問われている「原価」の構成要素は何か、というのは、原価管理を突き詰めると大変難しいものがあることを知っているからです。そこで問われているのは「直接原価」でしょうか、それとも「全部原価」なのでしょうか。後者ならば、共通生産設備や工場建屋の減価償却費の負担ルールはどうなっているんでしょう?

また、期間原価だけを問うているでしょうか? 製品には、企画・設計フェーズから、量産・販売フェーズ、アフターサービスフェーズを経て、終売に至るまでのライフサイクルが必ずあります。製品ライフサイクルの全期間を通して、埋没原価(サンクコスト)と機会原価を考慮しながらのプライシングと撤退の意思決定、それは幾度となく危機を乗り越えてきた大山社長の野生の勘、一流経営者が経験の中で磨いてきた直観(または直感)によるものかもしれません。

 

■ 「競争しない競争戦略」と「余剰資源の多重利用」:これが海外進出の解

「国内での採算が取れない」と英断が下った商品は、果敢に生産停止とします。しかし、後にはまだ使える専用生産設備やコラムにも登場していた「金型」が手元に残されます。このまま廃棄すれば、全額廃棄損となり、期間費用(損失)となります。これを米国市場に持って行って、変動費を上回るプラスの限界利益(最初から利益と言っているからプラスのはずなのですが)を上げることが出来れば、過去に投資した資金を幾何かでも回収することができます。それは、製品ライフサイクル上での採算をプラスにする効果があります。

さらに、国内の過当競争を避けて米国市場に次の収益機会を見つけていく。イノベーションとは、何も製品機能・用途の新規性だけから成り立つものではありません。売り方、売る相手、商売のプロセスに新規性がある場合もイノベーションと言えます。最初は競争相手がいないから、高めの値付けでマージンを大きくします。これは「上澄吸収価格設定(skiming pricing)」という至って普通のマーケティング戦略です。

スキミングプライシングの3要素は次の通り。

必要条件:製品投入までに多大な初期投資があり、早急な回収が必要になる
前提条件:製品の差異化の大きさから市場での競争の心配が少ない
       価格弾力性が小さく、需要が価格の高低に左右されない
期待効果:プレステージ性の高いブランドイメージを確立できる
       市場の良質な顧客層を獲得でき、高い利潤が得られる

まさしく、アイリスオーヤマは、「クリア収納」を米国市場で上記マーケティングの教科書通りの定石で利を設けます。この教科書通りに「実行」することが一番難しいんですよね。そして、米国市場で、スキミングプライス戦略最大の欠点に直面します。それは、新規参入者を市場に呼び込んでしまうこと。だって、儲かる商材なら、誰でも参入したくなるし、そもそも利益率が高いので、多少の初期投資をしようと動機付けられ、必然的に回収可能性も高くなるため、そうした行動には経済合理性も伴っているんですね。

しかし、アイリスオーヤマはさらにその上を行きます。次の欧州市場の開拓です。次々と勝てる市場を創造して、「勝ち易きに勝つ(孫子)」を地で行きます。新市場創造には困難が付きまといますが、一旦成功すれば、そこから得られる利も大きいものになります。これは、アイリスオーヤマのSCMの仕組みを、最初から内製化しており、社内にノウハウも知見も経験豊富な人材もそろっているからできる芸当です。知っているだけでは「戦略」ではありません。それは「知識」にすぎません。「実行」まで持って行って初めて、「戦略」となるのです。言い換えると、実践力が伴わないと「戦略」とは言えません。もっと簡単に言うと、「やりたい」と「やれる」の間には、1万年光年の開きがあるということです。

また、競争相手のいない市場を常に探す。これはブルーオーシャン戦略の実践ともいえます。経営戦略の教科書を書く人たちにとってはケースを書くのに垂涎の的であることは間違いでしょう。

朝のちょっとした時間に読むコラム。朝から経営・ビジネスの要諦を思い起こさせる、とっておきのケーススタディとして今朝も楽しんで読むことが出来ました。(^^)

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(私の履歴書)大山健太郎(18)世界へ羽ばたく 余った設備で米国進出 模倣品と競わず 新天地探すhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/f2dde0c815f506d35f39301dbbb486e41-e1428166267398.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/f2dde0c815f506d35f39301dbbb486e41-150x150.jpg小林 友昭新聞記事・コラム私の履歴書,製品ライフサイクル,競争戦略,アイリスオーヤマ,大山健太郎,上澄吸収価格,スキミングプライシング,ブルーオーシャン戦略■ アイリスオーヤマの競争戦略の原点を垣間見る! 2016/3/18付 |日本経済新聞|朝刊 (私の履歴書)大山健太郎(18)世界へ羽ばたく 余った設備で米国進出 模倣品と競わず 新天地探す ---------------------------------------------------------------------------- 当社では現在毎年1000点の新商品を出し、取扱商品は1万6000点に上る。売上高の5割強を発売後3年以内の新商品が占める。ヒットが出ると他の模倣メーカーがすぐ似たものを作ってくる。 当社は全ての商品で単品での原価管理が徹底されており、原価割れのビジネスはやらないと決めている。たとえ自社開発したオンリーワンの商品でも、値崩れによって赤字になった場合、最初のうちこそコストを下げる努力をするが、限度を超えたら新しい商品開発に力を入れ売り上げ減をカバーする道を選ぶ。 1989年に発売し大ヒットした透明な衣装箱「クリア収納」も、人気を見て国内だけで30社が模倣品を出した。供給過剰で値崩れし、1個2000円で売っていたものが1500円、1000円、800円と下がる。こうなると材料費より安い。オイルショック後、主力商品だった農業用育苗箱が在庫過剰による乱売に陥ったのと同じだ。 収納ケースという市場を創造、独占していた当社は力で他社を追い払う手もあった。しかし私は「もうからない商売からは撤退する」という道を選んだ。倒産の危機を経て、私は「いかなる時代環境でも利益の出る会社」を目指すと決めていた。私たちの求める価格で仕入れてくれる店との取引だけを残し、生産量をぐっと絞った。 そうなると金型など生産用の設備が余る。私は米国でクリア収納を生産、販売することを思いついた。米国には商品買い付けの事務所はあるが工場や販売拠点はない。 「米国の家は広い。収納場所に悩む人はいない」と皆が言う。米国でも従来型のプラスチック製収納箱は安く、大量に売られている。リスクはあるが、やるしかない。私は考えた。「普通の収納ケースならそうだろう。しかし米国人にも『探す』面倒への不満は必ずある」。その課題を解決する透明ケースは受け入れられるはずだ。 ----------------------------------------------------------------------------   ■ メーカーのジレンマ:終わりなきコストダウン競争に入るか、高付加価値製品に走るか? どうしても高名なポーター教授による「競争の戦略」における「差別化」をどうしても想起せざるを得ません。価格競争か、機能差別化か? 筆者は後者の方が難易度が高く、高級で、常に正解とは限らないという見解に立っています。 そして、「原価割れ」という言葉にも慎重に対処します。というのは、そこで問われている「原価」の構成要素は何か、というのは、原価管理を突き詰めると大変難しいものがあることを知っているからです。そこで問われているのは「直接原価」でしょうか、それとも「全部原価」なのでしょうか。後者ならば、共通生産設備や工場建屋の減価償却費の負担ルールはどうなっているんでしょう? また、期間原価だけを問うているでしょうか? 製品には、企画・設計フェーズから、量産・販売フェーズ、アフターサービスフェーズを経て、終売に至るまでのライフサイクルが必ずあります。製品ライフサイクルの全期間を通して、埋没原価(サンクコスト)と機会原価を考慮しながらのプライシングと撤退の意思決定、それは幾度となく危機を乗り越えてきた大山社長の野生の勘、一流経営者が経験の中で磨いてきた直観(または直感)によるものかもしれません。   ■ 「競争しない競争戦略」と「余剰資源の多重利用」:これが海外進出の解 「国内での採算が取れない」と英断が下った商品は、果敢に生産停止とします。しかし、後にはまだ使える専用生産設備やコラムにも登場していた「金型」が手元に残されます。このまま廃棄すれば、全額廃棄損となり、期間費用(損失)となります。これを米国市場に持って行って、変動費を上回るプラスの限界利益(最初から利益と言っているからプラスのはずなのですが)を上げることが出来れば、過去に投資した資金を幾何かでも回収することができます。それは、製品ライフサイクル上での採算をプラスにする効果があります。 さらに、国内の過当競争を避けて米国市場に次の収益機会を見つけていく。イノベーションとは、何も製品機能・用途の新規性だけから成り立つものではありません。売り方、売る相手、商売のプロセスに新規性がある場合もイノベーションと言えます。最初は競争相手がいないから、高めの値付けでマージンを大きくします。これは「上澄吸収価格設定(skiming pricing)」という至って普通のマーケティング戦略です。 スキミングプライシングの3要素は次の通り。 必要条件:製品投入までに多大な初期投資があり、早急な回収が必要になる 前提条件:製品の差異化の大きさから市場での競争の心配が少ない        価格弾力性が小さく、需要が価格の高低に左右されない 期待効果:プレステージ性の高いブランドイメージを確立できる        市場の良質な顧客層を獲得でき、高い利潤が得られる まさしく、アイリスオーヤマは、「クリア収納」を米国市場で上記マーケティングの教科書通りの定石で利を設けます。この教科書通りに「実行」することが一番難しいんですよね。そして、米国市場で、スキミングプライス戦略最大の欠点に直面します。それは、新規参入者を市場に呼び込んでしまうこと。だって、儲かる商材なら、誰でも参入したくなるし、そもそも利益率が高いので、多少の初期投資をしようと動機付けられ、必然的に回収可能性も高くなるため、そうした行動には経済合理性も伴っているんですね。 しかし、アイリスオーヤマはさらにその上を行きます。次の欧州市場の開拓です。次々と勝てる市場を創造して、「勝ち易きに勝つ(孫子)」を地で行きます。新市場創造には困難が付きまといますが、一旦成功すれば、そこから得られる利も大きいものになります。これは、アイリスオーヤマのSCMの仕組みを、最初から内製化しており、社内にノウハウも知見も経験豊富な人材もそろっているからできる芸当です。知っているだけでは「戦略」ではありません。それは「知識」にすぎません。「実行」まで持って行って初めて、「戦略」となるのです。言い換えると、実践力が伴わないと「戦略」とは言えません。もっと簡単に言うと、「やりたい」と「やれる」の間には、1万年光年の開きがあるということです。 また、競争相手のいない市場を常に探す。これはブルーオーシャン戦略の実践ともいえます。経営戦略の教科書を書く人たちにとってはケースを書くのに垂涎の的であることは間違いでしょう。 朝のちょっとした時間に読むコラム。朝から経営・ビジネスの要諦を思い起こさせる、とっておきのケーススタディとして今朝も楽しんで読むことが出来ました。(^^)現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します