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時代にあらがう、信念の金融 ファンドマネージャー・新井和宏 2015年5月11日OA NHK プロフェッショナル 仕事の流儀

TV番組レビュー
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■ 徹敵的に市場を読まない!

コンサルタントのつぶやき

マネーと闘う男。
その男の仕事は託されたお金を殖やすこと。
お金をいくら殖やしても全然幸せにならなかった!

新井氏は、徹底的に市場を読まない。彼曰く、予測しても当たらないから。
彼の投資法は次の通り。
1.資金はすべての投資先に均等に投資(50社)
2.売買益は保有投資銘柄間で均等に配分(各社への投資比率は常に一定)
3.応援する会社はポートフォリオを構成する全体(50社)として考える

ある株に上がる兆しが見えても買い増しすることはない。応援する会社全体の成長に合わせ、資産を堅実に伸ばす。それが新井氏の哲学。決して自分の読みを挟まずにこの哲学を貫き通す。

(投資方針・原則を)“決める”ということが大事。決めないと心理的弱さが出てしまう。決めてしまえば仕方がない。もっと儲かるんじゃないか、ここで売らない方がいいんじゃないか。勝っているんじゃなくて戻せばいいだけ。人間の愚かな判断を排除するのだそうだそうです。

こうして、新井氏率いる「鎌倉投信」は、ファンド開始時に預かった出資金を、5年間で170%にまで増やしています。

新井和宏_プロフェッショナル_20150513

NHK プロフェッショナル 仕事の流儀より

 

■ 社員は会社に誇りを持っているか?

新井氏が最も時間を割くことは、新たな投資先を選ぶための企業回り。ある時に補聴器メーカーを訪問。耳の聞こえにくい人が快適に暮らせるように、音質や操作性にこだわりを見せる。小さい市場のためライバルが現れにくいことも魅力的なのだそうです。それだけでなく、社員面談を欠かしません。特に若手の声を聞いて回ります。社員の声に耳を傾け、「社員は会社に誇りに思っているか。一番は会社のことが好きかどうか。どんな会社でもいい時ばかりではありません。苦境に見舞われた時に踏ん張れるかどうか? それを左右するのは社員の仕事への気持ち。それを見極めることこそ最大のリスクヘッジだと信じている。

本当にその会社で何を実現したいのか、どんな社会を作りたいのか、その会社がどんな状況になってもそれをやり続けるんだという思いが見えないと、投資先には選ばないそうです。そして、そういう会社が増えていかないと、日本が豊かにならないと考えているのです。この投資ファンドの本当の目的、それは「まだ実績のない会社を思い切って応援すること」(企業再生を含む)

投資先の事例としては、
① 有機栽培にこだわった綿花を使い、工場の動力は水力発電で賄うタオルメーカー(取引先の倒産により経営危機に瀕した)
② 林業再生ベンチャー企業(地方再生を目指している)

 

■ 未来を作る、金融

小さな会社を支えることへのこだわり。

「投資した以上は相手に尽くす。“いい会社”だと思ったら支える。いい会社の活動そのものが社会を豊かにしている。それを裏から支えているのが金融のあるべき姿なのではないか?」

ここからは、新井氏の人生を振り返る。

幼少の頃、畳職人をしていた父親が体を壊し、アルバイトしながら高校に通い、大学は夜間部を卒業。「お金があれば幸せになれたのに」という思いが頭から離れなかった。得意の数学でアルゴリズムによる投資商品の開発に勤しみ、そうした努力の末、日本と外資の金融機関を渡り歩き、10兆円の運用を任されるに至った。その頃から心の中の何かが急速に蝕まれていく。

プログラムの僅かなミスでも巨額の資産が吹き飛ぶ世界。数字を間違えたら何億円、時には何十億円って金額が飛ぶ。ヘタすれば何百億円に達することもある。間違えられないプレッシャーがすごくあって、自分じゃ払えない金額になってしまっていた。そうすると安心して眠れることがなくなる。そして、衝撃の2001/9/11、アメリカ同時多発テロの遭遇し、全ての努力もむなしく、数兆円が一瞬で消える事態も目の当たりにした。

化け物みたいなマーケットが“上がる”“下がる”を決める。最後は自分ではどうにもコントロールできない。自分では責任が取れないことに対してむなしくなってしまった。39歳で家族旅行中のジェット機の機内でストレス性の難病を発症。仕事をつづけることが難しくなり退職。金融の仕事に精も根も尽き果たした。

そうしたころ、ふと立ち止まった書店で一冊の本に目が留まった。
「日本でいちばん大切にしたい会社」

「俺、何をやっていたのかなと思ったんですね。今まで金融マンとして15年以上、そういう会社があるんだって知らなかったんですよね。」

そこには、どんなに不況で苦しんでもリストラも減給もなく社員を守った会社があった。社会に無くてはならない価値を提供し続けてきた会社があった。

 

■ マネーウォーズの先にやるべきことを見つけた

「自分はこれまで社長に会うなんてことはなくて、数字の世界だけで判断してきた。でもそこには“命”“血”がかよっている人たちがいて、そういう人たちが本当に会社を愛して仕事をしている。本当に金融マンとして僕はこういう会社を支えることができなかったなって深く思いましたね」

半年後の2008年秋、仲間たち会社を立ち上げた。「志(こころざし)」のある企業を応援する本当の金融をやるために。各地で説明会を実施し、投資を募り、1年半後に新井さんの下には267人の出資者が出してくれた3億741万円が集まった。そして投資ファンドが運用を開始。社会に役に立つ金融へ。新井さんの思いが広がっていく。

 

■ 志ある会社を支える金融マン。投資すべきか葛藤の1か月

インドやバングラデシュの農村で貧しい人たちに現金収入をもたらせようと、現地の人たちが製作した衣料や雑貨を販売する「フェアトレード」。いつものように社員面談もして、社員の会社の志に共鳴し、会社に誇りを持って仕事をしている姿勢は確認できた。しかし、懸念が残った。それは社員の待遇。平均給与水準は低く、退職金制度もなし。現地のことを考える一方で自分たちの満足は後回しになっていた。

「やっていることは正しいし、そうあってほしいから応援はしたいんだけど、だんだん疲弊してきますよ。みんなが将来に不安がなく、長く勤められる環境だということが確立できていなければ心配はないんですけどね」

会社の財務諸表を入手し、ひとつ重要な点が見えてきた。現地の人の希望に沿って前払い金の割合が決まっている。中には100%前払いの人も。この前払金の資金繰りとして、かなりの銀行借り入れがあった。改めて、鎌倉投信から得た資金の使途を確認。やはりこの前払金への充当だった。会社の役員曰く、「前払金の発注額を増やしたい。発注額を増やすことが直接現地の人たちの生活を豊かにする」

新井氏は、「この会社の社会的価値は高い。社員のやる気もある。やろうとしていることも分かる。ここで投資を決めれば、会社はさらに借金を背負うことになる。金利が低くても、これから事業拡大していく中で事業の不安定性が増えていくことを良しとするのか、しないのか、ということは悩ましいことだ」

この件を新井氏は社内会議にかけた。テレビ画面に映し出されたその時の企業審査チェックシートの項目に目が留まったので、分かる範囲で書くと、
・公器性
・継続性(持続性)
・必要性
・事業の分かりやすさ
・スリムな本社機能
・ノルマ
・オンリーワン
などなど

世にいう「SRI投資」を標榜している他のファンドは、同じようなクライテリアで投資判断をしているのでしょうかね?

※ 社会的責任投資(SRI:Socially responsible investment)

社内会議の結果、他のメンバの意見もだいたい同じだった。
「今、資金を提供して、事業拡大を助けた方がかえって会社のためにならない」
「売上規模が拡大するに比例して、前払金のためのファイナンスが必要になる」

新井氏曰く、
「彼らの事業性を改善して、正のスパイラルにもっていってあげるためには、単純に金利が安くなるというだけでは無理だということが分かっている。そこで諦めたら普通の会社とあまり変わらないと思うので、それはそれで悔しい。彼らにとって一番いい方法を探すのが我々のやるべきこと」

結果として、今回は資金提供をしないことを決断。その代り、事業維持・拡大のための提携先企業の探索支援をすることにした。また、借入金に頼らない経営を指導し、経営者も中長期の財務計画の見直しに着手した。

「我々はいい会社の応援団として彼らを応援できる枠組みを作りたいのです!」

 

プロフェッショナルとは?

「どこまでの謙虚に、誰よりも強く思い、
 そして日々の努力を積み重ねられる人、
 そうすれば、誰もいけないところに行けるかな」

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→再放送:5月16日(土)午前1時10分~午前1時58分(金曜深夜)総合

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