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若き化石ハンター 太古の謎に挑む 恐竜学者・小林快次(よしつぐ) 2015年9月7日 NHK プロフェッショナル 仕事の流儀

TV番組レビュー
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■ 世界屈指の化石ハンター 恐竜の謎に挑む

コンサルタントのつぶやき

狩りの名手、ハヤブサのごとく、確実に大物を捕える。恐竜学者、小林快次。世界屈指の化石ハンター。現代の恐竜研究をリードする33人に、アジア人として唯一名を連ねる。時空を超え、巨大生物の謎に挑む。驚異的なスピードで発見を続ける小林さん。7種類もの新種を発表。研究の最前線を行く。

小林快次_プロフェッショナル_20150907

番組公式ホームページより

恐竜研究で日本屈指といわれる北海道大学。ここにミスター恐竜、小林さんの拠点がある。特にその名を轟かせたのは、その腕だけしか発見されておらず、謎の恐竜と呼ばれていた「デイノケイルス」。40年以上、誰も見つけられなかった腕以外のパーツを、小林さんは中心メンバとして発掘。ほぼ完全な姿を解明して見せた。かつて地球上を支配していた恐竜。その生態を知ることは、生命の謎を解くカギになると小林さんは言う。

「どうやって生命っていうのは繁栄して、どうやって絶滅をしていくかってメカニズムを見るときに、恐竜というのはある程度、もしかしたらひとつの例になるかもしれないですよね。僕らが、これからあるべき姿であったり、僕らがやってきたことっていうのは、いろんなことを照らし合わせることで学ぶこともあると思うんですよね。そういう意味では恐竜っていうのは面白い題材だと思います。」

小林さんの元には、世界中から共同研究の依頼が舞い込む。1年のうち、3分の1は、海外での調査の日々だ。この日、訪れたのはカナダ、アルバータ州。世界屈指の化石の産地だ。小林さんは、世界の名だたる屈指の研究者たちからこう称される。

『Falcon’s Eye』 “ハヤブサの目”

フィリップ・カリー博士。
「小林が世界的に有名なのは、まるでハヤブサのような鋭い目で、他の人が見つけられない化石を見つけるからです。新発見する力は、小林は間違いなく一流だからね。」

骨の化石はバラバラになっている上、様々な恐竜のものが混ざって見つかることも珍しくない。しかも玉石混交で、ほとんどのものは研究に値しないという。その中で、重要な化石をいかに正確に見分けるかが研究者の腕の見せ所だ。小林さんの化石に対する知識は世界有数だといわれている。化石の形だけでなく、質感まで知り尽くしている小林さん。だからこそ、どの部分か推測し、その重要性を判断することができる。豊富な知識に基づく判断力に加えて、小林さんは高性能レーダーのような広い視野を持つ。

歯や爪は、恐竜が何を食べていたかが分かる重要な化石だ。広い荒野の中で、あっという間に、小さい化石を見つけ出す。

小林さんが調査を進めるとき、心に抱く流儀がある。

『「必ずある」と信じる』

「恐竜の調査って「無い」って思い始めたらきりないんですよ。基本的には無いんですよ。じゃあどうやって気持ちの置き場はあるかっていうと、「ある」っていう前提なんですよね。あると。必ずあるでしょうと。普通だったら無いから、諦めちゃうんですけど、僕はそうじゃなくて、無いってことは残された面積は減っていきますよね。ということは見つかる可能性がどんどん高くなるわけですよ。確率としては。だから、無いことを逆に喜びにしているんですよ。だからもう一歩先に行くと次は見つかる。」

必ずあると信じ、歩き続けるからこそ道は開ける。世界から集まった13人のうち、今日、誰よりも大きな獲物を捕らえた。

■ プロフェッショナルの技

恐竜学者、小林さんの技は発掘だけではない。科学的な分析でいくつもの定説を覆してきた。例えば肉食恐竜、ティラノサウルス。かつては、狩りが不得意で、死体を漁って食べていたという説が有力だった。小林さんはCTスキャンを用いて、頭の化石を分析してそれに反論した。

脳の大きさを分析し、嗅覚をつかさどる「嗅球(きゅうきゅう)」が発達していることを解明した。優れた嗅覚を生かして高度な狩りを行うハンターという新たな説を打ち立てた。

■ 世界が認める若き恐竜学者 歴史的発見なるか!?

この日、小林さんは世界が注目する大仕事に取り組んでいた。北海道で発掘した恐竜の全身の調査。日本でこれだけ状態の良いものはほとんどない。化石が見つかったのは数千万年前までは海だったところ。誰も恐竜の化石が出るところだとは思っていなかった。しかし、小林さんは昔、ここで発見され放置されていた化石を恐竜のしっぽだと特定。それ以外の全身も必ずあると信じて調査を行った。この恐竜は、カモノハシのようなくちばしが特徴の「ハドロサウルス科」に属することが判明。ハドロサウルスの仲間は、世界で40種類ほど確認されているが、今回はそれらのどれとも異なる可能性がある。そこで小林は、化石の形を詳細に分析し、新種かどうか見極めようとしていた。

並べられている化石は100以上のパーツに分かれる。これを組み合わせるのが分析の第一歩だ。組み合わせた化石は写真に撮り、長さや角度を計測する。これまでに知られている化石と、角度などがどれくらい違うか比較することで、新種かどうかを検証する。

1ヶ月後、小林さんはカナダに飛んだ。訪れたのは世界最大級の恐竜専門の博物館。小林さんは気になる化石があったら、どんなに遠い場所にあっても必ず出向く。長さや角度のわずかな違いが、種類の違いなのか、それとも単なる個体差か、写真やデータだけでは分からない重さや質感まで、ひとつひとつ確かめる。答えの無いパズルのような気の遠くなる作業。しかし、小林さんは決してあきらめない。

『1ミリずつ進めば、大発見が生まれる』

「とにかく前進する。一歩でもいいし、半歩でもいいし、1センチでも、1ミリでもいいんですよ。ちょっと前進するのが鍵で、どんなに視界が悪くても、ほんの1ミリぐらいは動けるはずなんですよね。とにかく、ちょっとずつ前に前進するってことさえ心がけてれば、どっかの山の上には登れると思っている。」

細かな比較を全身の化石、数百個でやらねばならない。発表ができるのは早くても5年後だ。

■ 世界が認める若き恐竜学者 勉強が苦手だった若き日

挫折だらけの化石少年。

小林さんが生まれたのは、多くの恐竜の化石が出土する化石王国、福井県。中学1年の時、たまたま参加したクラブ活動で初めて化石探しに出かけた。周りが次々の見つける中、小林さんだけが見つけられない。負けず嫌いの小林さんは、先生にもう一度連れていって欲しいと頼み込んだ。そして丸一日、岩をたたいて、ようやく小さなアンモナイトを見つけた。

「ただの石なんですよ、本当にその辺にあるような。それでパンと割って出てくると、1億5000万年前にすんでいた生物の化石ですよね。その痕跡っていうのが、自分の手によって発見されるというのは、ロマンじゃないんだけど、非現実的なところって、非常におもしろいなって思いましたよね。それ以来、毎日のように化石探し。やがて賞を取り、地元では知られる化石少年となった。

しかし、小林さんは成長するにつれ、恐竜学者になるのは無理だと思うようになる。成績も平凡で、ガマン強くもない自分がなれるはずがない。自分に言い訳して、一般企業に就職しようとしていた。

転機となったのは大学1年の時。知人の紹介で、アメリカで恐竜の研究をしている学者と出会う。最先端の話を聞くうちに、夢を諦めていた自分が嫌になった。小林さんは大学を辞め、思い切ってアメリカに渡った。

「自分を変えたいっていう一心だったんですよね。自分に対する不満もあったし。むしろ自分のそれまでの短い人生ですけど、人生に対する嫌悪感があるくらいだったんで、もう一回、一からちゃんとやり直したい。とにかく、それまでっていうのが言い訳が多かったので、自分の中で。とにかく、すぐ言い訳してた自分がいたので。」

恐竜の本場、アメリカで意気込んで研究を始めた小林さん。しかし、初めての研究発表の場で、教授からこう言われた。

「発表をやめなさい」。聞く価値すらないという意味だった。一方、周囲はオリジナリティに溢れた発表を次々と繰り出す。小林さんは、自分は学者のとしてのセンスが無いと思うようになった。

「自分の能力の無さを見せつけられたっていうのが一番ですよね。本当に自分は研究者に向いていないなと思いましたけどね。そうするともう行き詰っちゃった感じがありましたよね。もう、これ以上進みどころが無いみたいな。」

しかし、弱い自分を変えたいと退路を断って進んできたこの道。いまさら、引き返すことはできない。センスが無い自分が生き残るにはどうすればいいか? 

『1ミリずつでも、進もう』

小林さんは力を付けるため、朝から晩まで研究室にこもった。分権を読み漁り、化石に対する知識を蓄える毎日。アルバイト代は、すべて論文のコピーや研究書に消えた。少年の時のように、決してあきらめない小林さんがいた。

それから2年が経った。中国で化石の発掘に参加した小林さんはある化石を見つける。肉食とされる「シノオルニトミムス」。胃に大量の小石が含まれていた。これが何を意味するのか。小林さんは同じ恐竜の化石を何体も調べることにした。他の研究者はその調査を気にも止めない。それでも小林さんはたった一人で調査を続けた。2年後、胃の中にあった石は、植物をすりつぶして消化するものと解明。その恐竜は肉食ではなく、実は植物食であると結論付けた。小林さんの論文は最高峰の研究誌、Nature に掲載され、長年の定説を覆した。

センスもない。天才でもない。平凡な研究者がついに世界を驚かせた。

■ 世界屈指の化石ハンター 恐竜絶滅の謎に挑む

アメリカの恐竜学者、アンソニー・フィオリロ博士と共同で、アラスカでの恐竜の調査に向かう。アラスカはこれまで恐竜研究がほとんど行われていなかった場所。しかし、小林たちはそこに着目した。その狙いは、恐竜絶滅の謎に挑むという壮大なものだ。およそ6600万年前、恐竜は隕石落下の気候変動によって滅びたといわれている。だが、寒冷地であるアラスカに恐竜が生息していたとしたら、その説を覆すことができるかもしれない。

今回の調査で、小林さんが探しているのは、恐竜の子どもの化石だ。アラスカは、厳しい寒さのため、大人の恐竜が行き来する通り道ではあったが、長く住める場所ではなかったと考えられている。しかし、早く移動することが難しい子どもの恐竜の化石が見つかれば、そこに住んでいた可能性が出てくる。寒さに耐えうる恐竜がいたとすれば、定説を覆す大発見だ。

今回の調査で二人は賭けに出ようとしていた。まだ調査をしていない地点を攻めようとしていたのだ。恐竜の発掘調査では、一度、化石が出土した地点を何度も繰り返し調査するのが主流のやり方だ。当たれば、大量の化石が出る可能性もあるが、何も出ないリスクも高い。道なき道を行く。斜面を隈なく探したが、空振りに終わった。

「結構、みんな行くとこって決まるんですよね。見つかりそうなところ。僕はあえて、ここに行けば見つかるだろうって考えをあえて逆に行く。あそこは出ないんだっていうんであれば、あえて行くと。そうすると、見つかったものっていうのは、必ず重要な発見になるので。」

『必ずある、と信じる』

翌日、再度同じところをチャレンジ。残念ながら発見なし。しかし、小林さんの顔は晴れやかだった。無いことを確認したことに意味がある。また1ミリ、前進した。

「今回も、今まで見たことなかった場所を見ているので、ここは無い、ここはあるって意味では当然、収穫あったし、無駄なことはひとつも無いと思いますね。これがまた来年、再来年につながると思ってますけど。やっぱり、目の前の一歩をちゃんと踏むっていうのが僕は一番重要だと思っているので。」

来年、また調査に来ると決めた。次は必ず見つけ出す。小林さんはあきらめない。

プロフェッショナルとは?

「僕にとって思うのは、自分の未熟さを、常に感じて
 認めることができる人。
 常に自分に満足でない。そういう自分が未完成である、
 未熟である、ということを認識している人。」

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番組ホームページはこちら
http://www.nhk.or.jp/professional/2015/0907/index.html

北海道大学総合博物館のホームページはこちら
http://www.museum.hokudai.ac.jp/outline/member.html

→再放送 9月12日(土)午前1時10分~午前1時58分(金曜深夜)総合

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