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1.グローバルキャッシュマネジメントシステムの導入と国際税務のお話し

経営管理会計トピック

今回は、システムと税務が絡むお話し。とくると、尻込みする読者の方も出てきそうですか、安心してください。履いていますから。いや間違えました。ご安心ください。極めてシンプルな説明になっていますから。

2016/2/23付 |日本経済新聞|朝刊 日電産、余剰資金を国内に 日中間で新システム 電子部品大手、海外の稼ぎ活用

「電子部品大手が国境をまたいだ資金移動を積極化させている。日本電産は、中国・東南アジアと日本を結ぶ新システムを稼働させ、足元で資金需要が高まっている国内投資に充当する。京セラは欧州の複合機事業などで本社との資金連携を強化する。電子部品各社は海外売上高比率が高く、資金も海外に滞留しがち。効率管理で支払い負担を軽減するとともに、世界規模で資金の過不足を調整、機動的に再配分する。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は、記事添付の電子部品大手3社の海外売上高比率と手元資金の推移を転載)

20160223_海外売上高比率が上がるにつれて手元資金も膨らんでいる_日本経済新聞朝刊

このように、当然海外売上高比率の高い企業は、グループ間取引の価格設定を「移転価格税制」で引っかからない程度に調整します。その目指すところは、より法人税率の低い、または優遇税制のある国に立地する現地法人(販社・現地生産工場を問わず)で利益が最大になるように。さすれば、内部留保(企業の手元に残るお金)がグループで最大になるから。自治体や政府に税金を納めることも社会の公器として企業の立派な務めですが、合法な範囲内で、キャッシュアウトを最小化することが株主利益にもつながりますので(その節税?のやりすぎに対するG20からのしっぺ返しは後程触れます)。

また、資金需要の高い国・地域に資金を移動させる際のコスト(送金や外為の手数料など)を最小化する仕組みも必要になります。こうした手法として、

① プーリング
 ・グループで余剰資金を出さない
② ネッティング
 ・取引を相殺して、資金移動量を削減する
③ グループ・ファイナンス
 ・世界で一番借り入れコストの低い国・地域で集中して一括資金調達する
④ 財務管理のシェアードサービス
 ・支払・回収代行による手数料・事務手数料を削減する
⑤ 為替管理の一元化
 ・為替換算リスクを最小化する
 ・為替手数料を削減する

というものが代表的な手法となります。

そこで、日本電産のような、外-外のキャッシュフローも集中管理する動きとなるわけです。

 

2.日電産のグローバル資金管理のしくみとは

記事より仕組みの概要をまとめます。

(下記は、記事添付の日本電産のグローバル資金管理の仕組み図を転載)

20160223_日電産のグローバル資金管理の仕組み_日本経済新聞朝刊

「日電産は2月中に日中間を結ぶ「クロスボーダー・キャッシュマネジメントシステム(CMS)」を導入する。このほど中国当局から認可を得て、中国国内の余剰資金を随時、日本本社に移すことが可能になった。
 中国は国外への資金移動の規制が厳しく、同様の認可を受けている日本企業は東レなど10社程度とみられる。従来も海外子会社からの株式配当で日本に資金を戻す方法もあったが、機動性に欠け、配当金の5%相当額が課税されるデメリットもあった。」

日中の国境をまたぐ資金移動を配当ではなく、リアルに口座同士の決済によるものを可能にしたということは、モノやサービスの売り買いの対価としてキャッシュを自由にやり取りできるということになります。このことは、余剰資金を一気に削減するプーリングを可能にします。

「中国国内の資金を一括管理するCMSは、12年に人民元、14年に米ドルで導入済みだが、日本のCMSとの接続はなかった。新システムは中国で生じた余剰資金を月次で日本に環流させる。足元では「今年は日本での投資を積極化する」(永守重信会長兼社長)としており、京都の研究所などの設備投資や新規のM&A(合併・買収)案件などに活用する考えだ。
 日電産は現在、連結現預金約3200億円(15年12月末)の約7割を海外で保有している。既に日米間のクロスボーダーCMSは導入済みで、3月にタイ、フィリピン、シンガポールのアジア3カ国と日本をつなぐCMSを稼働させ、17年3月期には欧州でも導入する計画だ。」

日本電産は、日本で設備投資したい。だから日本で資金需要が起きる。しかし、海外での売上が80%以上を占める。どうにかして日本にリアルキャッシュを還元させたい。その施策の一環といえます。

新聞記事では、同業の京セラ、村田製作所の動向も紹介されています。

● 京セラ
「M&Aを通じて拡大してきた欧州などの複合機事業について本社と資金面での連携を強める。株式など元本保証のない資産を持たないなど、グループでの資金管理規定をこのほど統一した。背景には資金余剰の地域と不足の地域で融通し合い、社外への資金流出を抑制する狙いがある。
 中国では「人民元の国際通貨としての重要性が高まる」(青木昭一常務)とみて、元建て取引の比率を増やす。現在はドル建て取引が大半だが、為替変動によるリスクを抑える。」

日本円→米ドル→人民元→米ドル→日本円 と、
日本円→人民元→日本円 とでは、為替変動に対する耐性が全く違ってきます。

● 村田製作所
「中国で資金を一元管理する仕組みを導入済み。海外で稼いだ利益は、国内に環流させる比率を減らし今後は外貨で保有する比率を高める。現在は手元資金の約6割が日本円、3割がドル、1割がユーロなどだが、「長期的に円だけで持っているのはリスクがある」(藤田能孝副社長)とみて分散化を図る。」

日本円もマイナス金利通貨となりました。いざというときの資金需要に耐えられるように、長期の財務出動に備えて、同じ通貨でポジションを持っていた方が為替リスクを回避できます。しかし、ここで、明示的に、日本円が欲しい日本電産と、それ程日本円を必要としない村田製作所。同業でも、設備投資や開発投資の長期的プランが異なれば、通貨別の需要量も変わります。この日本円の需要と日本への資金還流について、日本企業全体ではどういう状態になっているのでしょうか?

 

3.日本企業全体では、海外利益の日本への還流が停滞している!

同日の別記事に次のようなものがあります。

2016/2/23付 |日本経済新聞|朝刊 海外利益増でも還流停滞 昨年56%止まり、8年ぶり低水準 企業、現地で再投資

「日本企業の海外子会社が空前の利益を上げるなか、国内の親会社に還流する配当の額が伸び悩んでいる。2015年に海外子会社が国内の親会社に支払った配当金は約4兆6000億円。前年より微増だったが海外での利益に対する比率は56%と8年ぶりの低水準となった。企業は市場拡大が見込める海外への再投資にお金を回している。企業の好業績が国内の賃上げや設備投資に波及しない一因になっている。」

(下記は、記事添付の日本の親会社に還流された配当の推移グラフを転載)

20160223_日本の親会社に還流させる配当額は伸びた_日本経済新聞朝刊

日本企業のこうした資金移動の実態になっている直接の理由は記事にもある通り、

「日本企業は近年、海外での大型投資を加速させてきた。例えば日本郵政傘下の日本郵便はオーストラリア大手物流会社を買収、住友生命保険が米中堅生保を買った。企業が将来の国内市場の縮小を見越して海外企業の買収や販売網の拡大を進めているのが大きい。非製造業を中心とする投資が海外での稼ぎを底上げしている。財務省によると海外への直接投資で上げた利益は8兆2504億円。14年より26%増え過去最高を更新した。12年比だと2倍強の水準。円安進行で円建ての投資収益が膨らんだ面もある。」

ここでちょっと補足。会計的な期間損益で、連結財務諸表上の利益・内部留保・保有する手元流動性(現預金)は、円貨に換算後のもの。それゆえ、円安になればその分、現地通貨での購買力以上に過大評価されてしまいます。

為替が財務諸表にどう影響するのか、過去投稿記事をざっと並べて見ました。一緒に読んで頂ければ、為替と財務諸表の関係に対する理解がもっと進むものと思います。
⇒「円安効果がどのように財務諸表にまで波及するのか
⇒「企業の自己資本、円安で20兆円増 上場企業、2年間で 日産やパナソニック、成長投資へ余力
⇒「(わかる財務)決算の読み方(8) 円安に2つの増益効果
⇒「(一目均衡)「使えない現金」が映すもの 編集委員 梶原誠

閑話休題

「一方で、15年に海外子会社から日本国内の親会社が受け取った配当金の総額は4.6兆円。14年に比べ8%の増加にとどまり、2桁台の伸びが続いていた13~14年とは様変わりした。
 稼いだ利益を現地にとどめる動きが広がり、海外子会社の内部留保は15年に3兆5131億円と前年より57%も増えた。」

日本企業が海外に利益を留め置く実態は次のように解説されています。

「SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「外食や小売業が海外に内部留保を積み立てて、人口増が見込める海外での業務拡大に充てようとしている」と話す。
 例えば吉野家ホールディングスは14年11月に東南アジア諸国連合(ASEAN)の事業統括会社を設立。「ASEANであげた収益はASEANに再投資する体制を目指す」(同社)。15年5月にはマレーシアに出店して、3年以内に店舗を20まで増やす計画だ。
 製造業でも自動車関連などで、稼いだお金を現地で使う動きが広がる。「日本市場が成熟する中で海外で稼いだ利益は現地のさらなる市場開拓に回さざるを得ない」(大手自動車メーカー幹部)という。安倍晋三政権は企業に稼いだ利益を賃上げや設備投資に充てるよう求めているが、そうなるかは不透明だ。」

国内で設備投資資金が必要な日本電産はまるで例外的であるかのよう。日本企業ですら、日本の国内市場をパッシングしている状態。

でも、本当に、国内の資金需要が無いだけが真因なのでしょうか?

 

4.そういえば税制の変更は影響していないのでしょうか?

記事には、最後にこんなコメントがあります。

「みずほ総合研究所の高田創チーフエコノミストは「日本に投資収益が見込めるような規制改革など成長戦略の進展がないと国内への還流が再拡大するとは考えにくい」と指摘する。国内への資金還流を促す税制の必要性を説く専門家もいる。
 国外での稼ぎが日本に向かわない構造が定着すれば国内経済を押し上げる好循環はさらに遠のきかねず、長期的な成長拡大を阻む可能性もある。」」

国内の税制云々に関しては、ちょっと補足説明しておきたいものですね。

実は、2009年度に、日本企業(親会社)が外国子会社からの受取配当金の95%を損金不算入とする(要は、海外子会社からの配当金には日本で法人税をかけないから、もっと海外から配当金をもらってきてねという)税制変更がありました。記事添付のグラフは2010年からなので、その税制適用以後の推移を示すだけです。

そして、最近、行き過ぎたタックスプランニングにより、グローバル企業が税逃れをしているとして、G20・OECDあたりが中心となり、国際税務のルールを変更、日本もそれに伴い、税制変更をしました。

⇒「国際企業、税逃れ歯止め OECD指針 グループ取引報告義務
⇒「国際税務、秋の陣 G20で 日本政府による法人税減税策の効果やいかに
⇒「(真相深層)「結局は増税?」企業警戒 国際課税新ルール、強まる懸念 主要国、はや足並み乱れ -国際税務の超入門

ここで、従来のキーワードだった「移転価格税制」に加え、「BEPS(Base Erosion and Profit Shifting、税源浸食と利益移転)プロジェクト」を覚えておいて損はないかもしれません。このBEPSにより、日本の「外国子会社配当益金不算入制度」が2015年にさらに改正され、

「日本親会社が外国子会社からの受取配当金が外国子会社の本店所在地国で損金算入することとされている場合には、その配当は外国子会社配当益金不算入制度の対象外とされ、全額が益金に算入される」ことになりました。

(参考)
外国子会社配当益金不算入制度(Foreign Dividend Exclusion)KPMGのホームページ

企業所得には、1回課税されれば、2回目は無いのだと、原理原則に忠実になったと言えば聞こえがいいのですが、これまでは、2重課税されることもあれば、2重に非課税で課税逃れが合法的に可能になっていたケースもありました(例:オーストラリア、ブラジルなど)。

また、課税の原理原則が、「総合主義」から「帰属主義」に世界統一(というより日本がやっと追い付いた感じ)したおかげで、法人税率が高い日本で課税されるより、低課税国に利益を移そうという動きが水面下で活発化しています。うーん、日本政府にとってはうれしくないことだけど、株主から見れば、極めて、経済合理性にかなった企業行動なのでしょう。

①グローバルのキャッシュマネジメントの考え方、②G-CMSというツール、③国際税務への賢い対応、これらを3点セットで財務施策にすることが大事、そんなお話でした。


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日電産、余剰資金を国内に 日中間で新システム 電子部品大手、海外の稼ぎ活用 ー海外利益の国内還流停滞の理由を探る!http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読むBEPS,CMS,GCMS,グループ・ファイナンス,グローバルキャッシュマネジメントシステム,タックスプランニング,ネッティング,プーリング,京セラ,国際税務,外国子会社配当益金不算入制度,日本電産,村田製作所,移転価格税制1.グローバルキャッシュマネジメントシステムの導入と国際税務のお話し 今回は、システムと税務が絡むお話し。とくると、尻込みする読者の方も出てきそうですか、安心してください。履いていますから。いや間違えました。ご安心ください。極めてシンプルな説明になっていますから。 2016/2/23付 |日本経済新聞|朝刊 日電産、余剰資金を国内に 日中間で新システム 電子部品大手、海外の稼ぎ活用 「電子部品大手が国境をまたいだ資金移動を積極化させている。日本電産は、中国・東南アジアと日本を結ぶ新システムを稼働させ、足元で資金需要が高まっている国内投資に充当する。京セラは欧州の複合機事業などで本社との資金連携を強化する。電子部品各社は海外売上高比率が高く、資金も海外に滞留しがち。効率管理で支払い負担を軽減するとともに、世界規模で資金の過不足を調整、機動的に再配分する。」 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます (下記は、記事添付の電子部品大手3社の海外売上高比率と手元資金の推移を転載) このように、当然海外売上高比率の高い企業は、グループ間取引の価格設定を「移転価格税制」で引っかからない程度に調整します。その目指すところは、より法人税率の低い、または優遇税制のある国に立地する現地法人(販社・現地生産工場を問わず)で利益が最大になるように。さすれば、内部留保(企業の手元に残るお金)がグループで最大になるから。自治体や政府に税金を納めることも社会の公器として企業の立派な務めですが、合法な範囲内で、キャッシュアウトを最小化することが株主利益にもつながりますので(その節税?のやりすぎに対するG20からのしっぺ返しは後程触れます)。 また、資金需要の高い国・地域に資金を移動させる際のコスト(送金や外為の手数料など)を最小化する仕組みも必要になります。こうした手法として、 ① プーリング  ・グループで余剰資金を出さない ② ネッティング  ・取引を相殺して、資金移動量を削減する ③ グループ・ファイナンス  ・世界で一番借り入れコストの低い国・地域で集中して一括資金調達する ④ 財務管理のシェアードサービス  ・支払・回収代行による手数料・事務手数料を削減する ⑤ 為替管理の一元化  ・為替換算リスクを最小化する  ・為替手数料を削減する というものが代表的な手法となります。 そこで、日本電産のような、外-外のキャッシュフローも集中管理する動きとなるわけです。   2.日電産のグローバル資金管理のしくみとは 記事より仕組みの概要をまとめます。 (下記は、記事添付の日本電産のグローバル資金管理の仕組み図を転載) 「日電産は2月中に日中間を結ぶ「クロスボーダー・キャッシュマネジメントシステム(CMS)」を導入する。このほど中国当局から認可を得て、中国国内の余剰資金を随時、日本本社に移すことが可能になった。  中国は国外への資金移動の規制が厳しく、同様の認可を受けている日本企業は東レなど10社程度とみられる。従来も海外子会社からの株式配当で日本に資金を戻す方法もあったが、機動性に欠け、配当金の5%相当額が課税されるデメリットもあった。」 日中の国境をまたぐ資金移動を配当ではなく、リアルに口座同士の決済によるものを可能にしたということは、モノやサービスの売り買いの対価としてキャッシュを自由にやり取りできるということになります。このことは、余剰資金を一気に削減するプーリングを可能にします。 「中国国内の資金を一括管理するCMSは、12年に人民元、14年に米ドルで導入済みだが、日本のCMSとの接続はなかった。新システムは中国で生じた余剰資金を月次で日本に環流させる。足元では「今年は日本での投資を積極化する」(永守重信会長兼社長)としており、京都の研究所などの設備投資や新規のM&A(合併・買収)案件などに活用する考えだ。  日電産は現在、連結現預金約3200億円(15年12月末)の約7割を海外で保有している。既に日米間のクロスボーダーCMSは導入済みで、3月にタイ、フィリピン、シンガポールのアジア3カ国と日本をつなぐCMSを稼働させ、17年3月期には欧州でも導入する計画だ。」 日本電産は、日本で設備投資したい。だから日本で資金需要が起きる。しかし、海外での売上が80%以上を占める。どうにかして日本にリアルキャッシュを還元させたい。その施策の一環といえます。 新聞記事では、同業の京セラ、村田製作所の動向も紹介されています。 ● 京セラ 「M&Aを通じて拡大してきた欧州などの複合機事業について本社と資金面での連携を強める。株式など元本保証のない資産を持たないなど、グループでの資金管理規定をこのほど統一した。背景には資金余剰の地域と不足の地域で融通し合い、社外への資金流出を抑制する狙いがある。  中国では「人民元の国際通貨としての重要性が高まる」(青木昭一常務)とみて、元建て取引の比率を増やす。現在はドル建て取引が大半だが、為替変動によるリスクを抑える。」 日本円→米ドル→人民元→米ドル→日本円 と、 日本円→人民元→日本円 とでは、為替変動に対する耐性が全く違ってきます。 ● 村田製作所 「中国で資金を一元管理する仕組みを導入済み。海外で稼いだ利益は、国内に環流させる比率を減らし今後は外貨で保有する比率を高める。現在は手元資金の約6割が日本円、3割がドル、1割がユーロなどだが、「長期的に円だけで持っているのはリスクがある」(藤田能孝副社長)とみて分散化を図る。」 日本円もマイナス金利通貨となりました。いざというときの資金需要に耐えられるように、長期の財務出動に備えて、同じ通貨でポジションを持っていた方が為替リスクを回避できます。しかし、ここで、明示的に、日本円が欲しい日本電産と、それ程日本円を必要としない村田製作所。同業でも、設備投資や開発投資の長期的プランが異なれば、通貨別の需要量も変わります。この日本円の需要と日本への資金還流について、日本企業全体ではどういう状態になっているのでしょうか?   3.日本企業全体では、海外利益の日本への還流が停滞している! 同日の別記事に次のようなものがあります。 2016/2/23付 |日本経済新聞|朝刊 海外利益増でも還流停滞 昨年56%止まり、8年ぶり低水準 企業、現地で再投資 「日本企業の海外子会社が空前の利益を上げるなか、国内の親会社に還流する配当の額が伸び悩んでいる。2015年に海外子会社が国内の親会社に支払った配当金は約4兆6000億円。前年より微増だったが海外での利益に対する比率は56%と8年ぶりの低水準となった。企業は市場拡大が見込める海外への再投資にお金を回している。企業の好業績が国内の賃上げや設備投資に波及しない一因になっている。」 (下記は、記事添付の日本の親会社に還流された配当の推移グラフを転載) 日本企業のこうした資金移動の実態になっている直接の理由は記事にもある通り、 「日本企業は近年、海外での大型投資を加速させてきた。例えば日本郵政傘下の日本郵便はオーストラリア大手物流会社を買収、住友生命保険が米中堅生保を買った。企業が将来の国内市場の縮小を見越して海外企業の買収や販売網の拡大を進めているのが大きい。非製造業を中心とする投資が海外での稼ぎを底上げしている。財務省によると海外への直接投資で上げた利益は8兆2504億円。14年より26%増え過去最高を更新した。12年比だと2倍強の水準。円安進行で円建ての投資収益が膨らんだ面もある。」 ここでちょっと補足。会計的な期間損益で、連結財務諸表上の利益・内部留保・保有する手元流動性(現預金)は、円貨に換算後のもの。それゆえ、円安になればその分、現地通貨での購買力以上に過大評価されてしまいます。 為替が財務諸表にどう影響するのか、過去投稿記事をざっと並べて見ました。一緒に読んで頂ければ、為替と財務諸表の関係に対する理解がもっと進むものと思います。 ⇒「円安効果がどのように財務諸表にまで波及するのか」 ⇒「企業の自己資本、円安で20兆円増 上場企業、2年間で 日産やパナソニック、成長投資へ余力」 ⇒「(わかる財務)決算の読み方(8) 円安に2つの増益効果」 ⇒「(一目均衡)「使えない現金」が映すもの 編集委員 梶原誠」 閑話休題 「一方で、15年に海外子会社から日本国内の親会社が受け取った配当金の総額は4.6兆円。14年に比べ8%の増加にとどまり、2桁台の伸びが続いていた13~14年とは様変わりした。  稼いだ利益を現地にとどめる動きが広がり、海外子会社の内部留保は15年に3兆5131億円と前年より57%も増えた。」 日本企業が海外に利益を留め置く実態は次のように解説されています。 「SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「外食や小売業が海外に内部留保を積み立てて、人口増が見込める海外での業務拡大に充てようとしている」と話す。  例えば吉野家ホールディングスは14年11月に東南アジア諸国連合(ASEAN)の事業統括会社を設立。「ASEANであげた収益はASEANに再投資する体制を目指す」(同社)。15年5月にはマレーシアに出店して、3年以内に店舗を20まで増やす計画だ。  製造業でも自動車関連などで、稼いだお金を現地で使う動きが広がる。「日本市場が成熟する中で海外で稼いだ利益は現地のさらなる市場開拓に回さざるを得ない」(大手自動車メーカー幹部)という。安倍晋三政権は企業に稼いだ利益を賃上げや設備投資に充てるよう求めているが、そうなるかは不透明だ。」 国内で設備投資資金が必要な日本電産はまるで例外的であるかのよう。日本企業ですら、日本の国内市場をパッシングしている状態。 でも、本当に、国内の資金需要が無いだけが真因なのでしょうか?   4.そういえば税制の変更は影響していないのでしょうか? 記事には、最後にこんなコメントがあります。 「みずほ総合研究所の高田創チーフエコノミストは「日本に投資収益が見込めるような規制改革など成長戦略の進展がないと国内への還流が再拡大するとは考えにくい」と指摘する。国内への資金還流を促す税制の必要性を説く専門家もいる。  国外での稼ぎが日本に向かわない構造が定着すれば国内経済を押し上げる好循環はさらに遠のきかねず、長期的な成長拡大を阻む可能性もある。」」 国内の税制云々に関しては、ちょっと補足説明しておきたいものですね。 実は、2009年度に、日本企業(親会社)が外国子会社からの受取配当金の95%を損金不算入とする(要は、海外子会社からの配当金には日本で法人税をかけないから、もっと海外から配当金をもらってきてねという)税制変更がありました。記事添付のグラフは2010年からなので、その税制適用以後の推移を示すだけです。 そして、最近、行き過ぎたタックスプランニングにより、グローバル企業が税逃れをしているとして、G20・OECDあたりが中心となり、国際税務のルールを変更、日本もそれに伴い、税制変更をしました。 ⇒「国際企業、税逃れ歯止め OECD指針 グループ取引報告義務」 ⇒「国際税務、秋の陣 G20で 日本政府による法人税減税策の効果やいかに」 ⇒「(真相深層)「結局は増税?」企業警戒 国際課税新ルール、強まる懸念 主要国、はや足並み乱れ -国際税務の超入門」 ここで、従来のキーワードだった「移転価格税制」に加え、「BEPS(Base Erosion and Profit Shifting、税源浸食と利益移転)プロジェクト」を覚えておいて損はないかもしれません。このBEPSにより、日本の「外国子会社配当益金不算入制度」が2015年にさらに改正され、 「日本親会社が外国子会社からの受取配当金が外国子会社の本店所在地国で損金算入することとされている場合には、その配当は外国子会社配当益金不算入制度の対象外とされ、全額が益金に算入される」ことになりました。 (参考) ●...現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します