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■ 「組織デザイン」のケーススタディ 最近の動向から

経営管理(基礎編)

前回は、「組織管理(3)- 組織デザインのための理論 「組織は戦略に従う」のか「戦略は組織に従う」のか?」と題して、チャンドラー、アンゾフ、ホロウイッツの三者から、経営学者、実務者が見た「組織デザイン」の要諦を確認しました。今回は、直近新聞報道された具体的な組織変更事案について、筆者の経営コンサルタントとしての視座からの分析コメントを付していきたいと思います。どうしても、製造業メインのコンサルなので、3件ともメーカー(といえるよね)が題材になっております。

組織デザイン (日経文庫)

■ 資生堂による国内販売復活のための組織改革

消費財メーカーで化粧品というブランドが生命線である資生堂が、国内販売不振払拭のための戦略の一環として組織変更に着手しました。

2015/10/2|日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)資生堂 販売・開発の壁壊す 国内統括子会社を設立 脱・訪日客依存へ大なた

「資生堂は1日、本社の企画・マーケティング部門を切り離し、販売子会社に統合した。企画から販売までの権限を新たに発足した「資生堂ジャパン」に一本化し、苦戦が続く国内販売のテコ入れを狙う。マーケティングのプロとして数々のヒット商品を生み出してきた日本コカ・コーラ出身の魚谷雅彦社長。資生堂が作り上げた販社制度に終止符を打ち、新たな改革に踏み出す。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下図は記事添付の資生堂の組織変更概要を転載)

20151002_資生堂は販社改革で国内販売のテコ入れを目指す_日本経済新聞朝刊

下記は、同記事より組織変更の概要を抜粋・整理したものです。

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・魚谷社長のメッセージ
「90年近く続けてきた販売会社の仕組みを終了する。全員がマーケッターになってほしい」

・従来の国内販売体制
資生堂は1927年に販売会社制度を導入し、本社は開発と宣伝、販社は営業と販売に特化するという明確な役割分担を確立した。販社の営業部員が個人経営の専門店を回り、全国網を構築。店主らには化粧品の使い方まで指導した。専門店の丁寧な接客で高度経済成長期の女性の支持を獲得し、資生堂は業界ナンバーワンの地位を築いた。

・組織変更の契機
バブル崩壊の前後から化粧品の主力販路は専門店から量販店、ドラッグストアへと変遷していった。価値観が多様化した10~20代の女性は現在、必ずしも業界首位である資生堂の商品を支持するわけではない。
 国内販売の不振が続くここ数年、販社制度による明確な役割分担は浮上を目指す資生堂にとっては“壁”となっていた。企画担当者の考えた商品に販社の社員が口を出すことは少なく、企画側も販売状況のデータには目を通すものの、取引先の生の声を聞くことはほぼない。実際、「資生堂の商品や販売促進は画一化されている」との指摘が流通業者から相次ぐ。
———————————-

ここでのキーワードは「壁」。個人経営の専門店に対するきめ細かいサポートがセールスの肝で、全国の専門店に対する指導力や事業主との強い絆づくりには、国内販売網は、一致団結して、情報を共有し、人材育成し、販社の中で意思決定権限が完結している方がチャネル対応力を最大限発揮させることができていました。

しかし、バブル崩壊後、販売チャネルがドラッグストアやコンビニ、ネット通販と形を変えるとともに多様化し、ブランドもチャネルごとに微妙にポジショニングや商品の持つ機能性のアピール方法も変えていかないと、顧客の需要をつかむことが難しくなりました。そこで、販売部隊が、商品企画やマーケティングのことも併せて、ブランドごとに首尾一貫した売り方を考える必要が出てきました。それゆえ、生じた「販売」と「商品企画・MK」との間の壁なのです。

「壁」という認識が組織内に生まれたということは、「販売」と「商品企画・MK」の間のコミュニケーションが頻繁かつ重要視されるようになってきたことの証左です。マクロ環境の変化が資生堂がどこで勝負すべきかの戦略ポイントを変え、やがて働く人の意識改革と必要なコミュニケーションを活性化するための手段としての組織変更を促しました。

オルビスという方法―――顧客満足を生み出し続けるビジネスモデルは、こうして創られた

■ ソニーによる一部事業部制の機能分担の再配置のための組織改革

ものづくりの現場では、機能の集中と標準化による効率化の追求と、細かくセグメンテーションされた市場ニーズの充足というトレードオフをいつでも負わされるものです。

2016/1/21|日本経済新聞|朝刊 ソニー、製造の実務機能 一元化 国内外の生産・調達

「ソニーは20日、生産や調達、物流などものづくりに関する実務機能を一元化した新会社を4月1日付で立ち上げると発表した。国内外の生産工場を管理するほか、調達や物流、品質などの実務を担う。伝統的にものづくりの機能は事業部ごとの縦割り構造だったが、製品や国、地域の枠組みを越えて連携できるようにする。
 生産子会社のソニーイーエムシーエス(東京・港)の社名を変更して機能を拡充した新会社「ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ」を発足する。ソニー本体の調達や物流、品質、環境などの実務機能を移す。ソニーからは約600人が新会社に出向する。主にテレビなどのエレクトロニクス分野の商品で、ものづくりの実務を効率化する。部品の共通化を進めて調達コストを減らしたり、生産現場との連携で物流を効率化して在庫を減らしたりしていく。」

ソニーEMCSは2001年に、ソニーのエレクトロニクス事業における生産子会社として、各エレキ事業製品の生産機能(国内外の工場での生産管理およびアフターサービス機能)を一括管理することを目的に設立されました。当時のソニーはエレキ事業以外の多角化も進めると同時に、ドットコムバブルがはじけ、「ソニーショック」という大幅な株価下落も経験し、エレキ事業の収益性改善のために、機能集約によるコストメリットを出そうという目論みでした。もうひとつ、当時ものづくり現場では、「稼ぐ工場」」ということで、「ODM」「OEM」による生産委託をビジネス化し、設備投資に係る多額の固定費を自分たちでも回収しようという狙いもありました。

● ソニーEMCSが担っている機能(ソニーEMCSのホームページより)
  (http://www.sonyemcs.co.jp/emcs/index.html

 ・商品化プロセスにおけるソニーEMCSの機能と役割

20160131_ソニーEMCSの機能

上記のバリューチェーンをご覧になられてもお分かりの通り、今回、ソニー本社から移管される機能は、「設計」、「製造」(の中にいる調達)、「物流」にかかるもので、エレキ事業のサプライチェーンとエンジニアリングチェーンを担う機能の充実化というのが、今回の組織変更の立派な表看板となるでしょう。

● プレスリリース「エレクトロニクス事業におけるオペレーション機能の機構改革」
  (http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201601/16-004/

以下、プレスリリース内容を抜粋・整理

———————————-
・目的
生産・物流・調達・品質/環境など、ものづくりに関するオペレーション機能を一層強化

・内容
これまでソニーEMCSが担ってきた国内生産及び海外製造事業所の管理機能に加え、
① 国内外の調達・物流・品質/環境領域の実務を行うグローバルシェアードサービス機能
② 事業本部や事業会社と連携した要素技術開発・生産技術開発・設計支援を行うエンジニアリング機能

・効果
① これまで各組織が培ってきたオペレーションにかかるナレッジを結集することで一層の効率化を図る
② 国や地域、製品カテゴリー領域を越えたオペレーションの変革を継続する
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本シリーズの前回に説明した「一部事業部制」の「生産機能」独立版がソニーEMCS。そして、今回ソニー本社にあった事業部運営に必要な機能サービス部門である「物流」「品質管理」などは、「ライン&スタッフ組織」における「事業共通サービス提供機能」で、これが本社から生産子会社に移管されるという理解になります。

機能部門がそのまま変容せずに右から左に移管されるだけなので、機能部門の専門性の発揮を狙っての組織変更ではなく、指揮者が本社の管理部門から生産機能会社のTOPに移ることで、日常のサプライチェーン・エンジニアリングチェーンにおけるオペレーションの一体化を狙ってのことです。

これ以降の記述は100%筆者の邪推なので、そういう見方もあるのかという気分で読んでほしいのですが、組織変更には、「分業」と「調整」というオペレーション視点での分析の他に、「M&A」という事業ポートフォリオ管理の視点、「会社機関の設置」「タックスプランニング」という法体系・税務基準への対応の視点があります。ソニーは、現在、小さい本社を目指し、各事業を分社化している途上にあります。これが、「M&A」活用による事業の再編、事業ポートフォリオの組み換えを意図しているのでなないか、その布石として、今回の機能再編があるのでは、とにらんでいます。(^^;)

ソニー 破壊者の系譜 ―超優良企業が10年で潰れるとき

■ トヨタによる「機能別組織」から「事業部制組織」への変革の一里塚となる組織改革

トヨタが、2013年に続き、また大幅な組織改編を試みようとしています。しかし、目下のところ、ダイハツの完全子会社化や、スズキとの提携話が報道の中心になっており、この組織変更の話題はあまり盛り上がっていませんし、正式なプレスリリースはいまのところありません(2016/1/31現在)。

2016/1/18|日本経済新聞刊 トヨタ、社内カンパニー制 自動車タイプ別に導入

「トヨタ自動車は4月、社内カンパニー制を導入する。自動車事業を高級車や小型車など4つ程度のカンパニーに分け、各カンパニーに製品企画から生産までの責任を負わせる方針だ。同社は年間販売台数が1000万台を超え、持続的な成長を可能にする仕組みづくりが急務になっている。組織を細分化し、意思決定の速度向上と商品力の強化を目指す。」

いわゆる「カンパニー制度」が意味する「カンパニー」の定義は、各社異なり、教科書的にも独の説明がなされていますので、この語だけで、トヨタの組織変更の観測記事に関する鼎の軽重は問えません。事業部、事業本部、カンパニーなどの違いについては、また別の機会に説明したいと思います。

「トヨタは2013年に「レクサス」「先進国」「新興国」「ユニット(部品)」の4つのビジネスユニットを設けており、カンパニー制の導入はこれに続く大規模な組織改正になる。従来は地域を強く意識した組織だったが、製品のタイプを軸とした組織に改める。
 具体的には「レクサス」「乗用車」「小型車」「商用車」の4つのカンパニーに分ける案が有力だ。トヨタは全社的な開発・生産体制の見直しに着手し、サイズなどの特性が近い車をまとめて企画・開発する取り組みを進めている。組織再編により、この考え方をさらに一歩進める。」

トヨタは、1982年の工販合併後、何回か大きな組織変更をおこなっていますが、基本的に、「機能別組織」の範疇での各組織の区切りの再定義と大きく理解してもそれ程外れないでしょう。実際の組織変遷はトヨタのホームページに公開されていますので、ご参考下さい。

● トヨタの組織変遷   (http://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/data/company_information/management_and_finances/management/organizational/index.html

2013年は、公式組織としては、「機能別組織」の体系を継承しつつ、ビジネスユニット(BU)での管理・統制を公表しています。この時の「レクサス」「先進国」「新興国」「ユニット(部品)」の4分類については、「レクサス」はブランドの違い、「先進国」と「新興国」は販売市場の性質の違い、「ユニット(部品)」は、完成車とは異なる提供商品の形態の違い、で分けられています。何を売るか、どこで売るかでBUを分けていますが、公式組織は機能別組織のままでした。

「人事や渉外といった全社に共通する機能も可能な限り各カンパニーに振り分け、各カンパニーが自律的に運営できるようにする。小型車を担当するトヨタ自動車東日本(宮城県大衡村)など全額出資する車体メーカーも各カンパニーとの連携を強める方針だ。各カンパニーの「社長」に権限を委譲し、次世代の経営者を育成する狙いもある。
 トヨタの販売台数は14年に初めて1000万台を突破し、16年は1010万台を上回る見通し。世界の自動車大手は1000万台に到達する前後で業績が悪化するなど「壁」に阻まれてきた。豊田章男社長は持続的な成長に向け、商品力強化と組織を率いる人材育成に重点的に取り組む意向を示している。この考え方を新体制で具現化する。」

上記の記事が真実であるならば、トヨタにとって初めての製品ライン別の縦割り組織が実現することになります。この取り組みが成果を残せるかどうか、を問うのではなく、こういう製品ラインナップごとの意思決定単位にしても問題ないのかの検証が必要でしょう。

惜しむらくも、トヨタ自動車ではないところからの引用になりますが、「TNGA:Toyota New Global Architecture」が、商品ラインナップごとの、近接車種単位で設計を標準化し、部品共通化による調達コストの低減の果実が得られようとする取り組みの目途が立った(であろう)後の組織変更であることに留意すべきでしょう。つまり、「機能別組織」でやるべきことはやった。後は市場や車種単位で思いっきり果実を収穫してほしい、また時が来れば、機能別に組織を集約して、専門家利益を再びもたらそうという、時間軸を超えた組織戦略なのかもしれません。

現場からオフィスまで、全社で展開する トヨタの自工程完結―――リーダーになる人の仕事の進め方

●(参考)TNGAの概要説明(日刊カーセンサーより転載)
  (http://www.carsensor.net/contents/editor/category_849/_30847.html

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TNGAが掲げる5つのポイント

TNGAとは「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー」の頭文字に由来しており、プラットフォームそのものの名称ではなく、車づくりや仕事の進め方の方針を示している。TNGA企画部が設立された際に掲げられた取り組みのポイントは次の5つだ。

(1)商品力の向上
車の骨格を変えて低フード化&低重心化を図り、視界や運動性能を高める。2015年発売の車から導入していく。パワートレインも刷新する。

(2)グルーピング開発による効率化
中長期の商品ラインナップを決め、搭載ユニットやドラポジを「アーキテクチャー」として定める。それに基づいてグルーピング開発を行い、部品の共用化を進めて効率をアップする。

(3)ものづくり改革
仕入先、調達部門、生産技術部門、技術部門が一体となり、シンプルで作りやすいユニットを実現する。

(4)グローバル標準への取り組み
トヨタ専用規格から他メーカーも採用しているグローバル標準規格に対応する。

(5)TNGAと連動した調達戦略
車種、地域、時間をまたぎ、複数車種のユニットをまとめてグローバルに発注することで競争力を確保する。
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トヨタ対VW(フォルクスワーゲン) 2020年の覇者をめざす最強企業

前回にご紹介した「組織は戦略に従う」「戦略は組織に従う」。時間軸を超えて、その時点時点での組織の全体最適力を引き出すため、働く人達の環境、「組織」というハコの形をいろいろ変えることで、意識改革をしたり、収益最大化を目指したり、コミュニケーションギャップを解消したりする道具としての組織変更という手段が存在するということでした。「万物は流転する」。組織改革にも終わりはありません。

経営管理(基礎編)_組織管理(4)- 組織デザインのケーススタディ 「資生堂」「トヨタ」「ソニー」の狙いは?

ケース・スタディ 日本企業事例集―世界のビジネス・スクールで採用されている

【大前研一のケーススタディ】もしも、あなたが「ミズノの社長」「エスビー食品社長」ならばどうするか? (ビジネス・ブレークスルー大学出版(NextPublishing))

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組織管理(4)- 組織デザインのケーススタディ「資生堂」「トヨタ」「ソニー」の狙いは?http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/b45c6b78158e31dff4b23863feb4ceac-e1428166901472.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/b45c6b78158e31dff4b23863feb4ceac-150x150.jpg小林 友昭経営管理(基礎編)EMCS,ODM,OEM,TNGA,ソニー,トヨタ,ライン&スタッフ組織,一部事業部制,機能別組織,組織デザイン,組織管理,資生堂,魚谷雅彦■ 「組織デザイン」のケーススタディ 最近の動向から 前回は、「組織管理(3)- 組織デザインのための理論 「組織は戦略に従う」のか「戦略は組織に従う」のか?」と題して、チャンドラー、アンゾフ、ホロウイッツの三者から、経営学者、実務者が見た「組織デザイン」の要諦を確認しました。今回は、直近新聞報道された具体的な組織変更事案について、筆者の経営コンサルタントとしての視座からの分析コメントを付していきたいと思います。どうしても、製造業メインのコンサルなので、3件ともメーカー(といえるよね)が題材になっております。 組織デザイン (日経文庫) ■ 資生堂による国内販売復活のための組織改革 消費財メーカーで化粧品というブランドが生命線である資生堂が、国内販売不振払拭のための戦略の一環として組織変更に着手しました。 2015/10/2|日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)資生堂 販売・開発の壁壊す 国内統括子会社を設立 脱・訪日客依存へ大なた 「資生堂は1日、本社の企画・マーケティング部門を切り離し、販売子会社に統合した。企画から販売までの権限を新たに発足した「資生堂ジャパン」に一本化し、苦戦が続く国内販売のテコ入れを狙う。マーケティングのプロとして数々のヒット商品を生み出してきた日本コカ・コーラ出身の魚谷雅彦社長。資生堂が作り上げた販社制度に終止符を打ち、新たな改革に踏み出す。」 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます (下図は記事添付の資生堂の組織変更概要を転載) 下記は、同記事より組織変更の概要を抜粋・整理したものです。 ---------------------------------- ・魚谷社長のメッセージ 「90年近く続けてきた販売会社の仕組みを終了する。全員がマーケッターになってほしい」 ・従来の国内販売体制 資生堂は1927年に販売会社制度を導入し、本社は開発と宣伝、販社は営業と販売に特化するという明確な役割分担を確立した。販社の営業部員が個人経営の専門店を回り、全国網を構築。店主らには化粧品の使い方まで指導した。専門店の丁寧な接客で高度経済成長期の女性の支持を獲得し、資生堂は業界ナンバーワンの地位を築いた。 ・組織変更の契機 バブル崩壊の前後から化粧品の主力販路は専門店から量販店、ドラッグストアへと変遷していった。価値観が多様化した10~20代の女性は現在、必ずしも業界首位である資生堂の商品を支持するわけではない。  国内販売の不振が続くここ数年、販社制度による明確な役割分担は浮上を目指す資生堂にとっては“壁”となっていた。企画担当者の考えた商品に販社の社員が口を出すことは少なく、企画側も販売状況のデータには目を通すものの、取引先の生の声を聞くことはほぼない。実際、「資生堂の商品や販売促進は画一化されている」との指摘が流通業者から相次ぐ。 ---------------------------------- ここでのキーワードは「壁」。個人経営の専門店に対するきめ細かいサポートがセールスの肝で、全国の専門店に対する指導力や事業主との強い絆づくりには、国内販売網は、一致団結して、情報を共有し、人材育成し、販社の中で意思決定権限が完結している方がチャネル対応力を最大限発揮させることができていました。 しかし、バブル崩壊後、販売チャネルがドラッグストアやコンビニ、ネット通販と形を変えるとともに多様化し、ブランドもチャネルごとに微妙にポジショニングや商品の持つ機能性のアピール方法も変えていかないと、顧客の需要をつかむことが難しくなりました。そこで、販売部隊が、商品企画やマーケティングのことも併せて、ブランドごとに首尾一貫した売り方を考える必要が出てきました。それゆえ、生じた「販売」と「商品企画・MK」との間の壁なのです。 「壁」という認識が組織内に生まれたということは、「販売」と「商品企画・MK」の間のコミュニケーションが頻繁かつ重要視されるようになってきたことの証左です。マクロ環境の変化が資生堂がどこで勝負すべきかの戦略ポイントを変え、やがて働く人の意識改革と必要なコミュニケーションを活性化するための手段としての組織変更を促しました。 オルビスという方法―――顧客満足を生み出し続けるビジネスモデルは、こうして創られた ■ ソニーによる一部事業部制の機能分担の再配置のための組織改革 ものづくりの現場では、機能の集中と標準化による効率化の追求と、細かくセグメンテーションされた市場ニーズの充足というトレードオフをいつでも負わされるものです。 2016/1/21|日本経済新聞|朝刊 ソニー、製造の実務機能 一元化 国内外の生産・調達 「ソニーは20日、生産や調達、物流などものづくりに関する実務機能を一元化した新会社を4月1日付で立ち上げると発表した。国内外の生産工場を管理するほか、調達や物流、品質などの実務を担う。伝統的にものづくりの機能は事業部ごとの縦割り構造だったが、製品や国、地域の枠組みを越えて連携できるようにする。  生産子会社のソニーイーエムシーエス(東京・港)の社名を変更して機能を拡充した新会社「ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ」を発足する。ソニー本体の調達や物流、品質、環境などの実務機能を移す。ソニーからは約600人が新会社に出向する。主にテレビなどのエレクトロニクス分野の商品で、ものづくりの実務を効率化する。部品の共通化を進めて調達コストを減らしたり、生産現場との連携で物流を効率化して在庫を減らしたりしていく。」 ソニーEMCSは2001年に、ソニーのエレクトロニクス事業における生産子会社として、各エレキ事業製品の生産機能(国内外の工場での生産管理およびアフターサービス機能)を一括管理することを目的に設立されました。当時のソニーはエレキ事業以外の多角化も進めると同時に、ドットコムバブルがはじけ、「ソニーショック」という大幅な株価下落も経験し、エレキ事業の収益性改善のために、機能集約によるコストメリットを出そうという目論みでした。もうひとつ、当時ものづくり現場では、「稼ぐ工場」」ということで、「ODM」「OEM」による生産委託をビジネス化し、設備投資に係る多額の固定費を自分たちでも回収しようという狙いもありました。 ● ソニーEMCSが担っている機能(ソニーEMCSのホームページより)   (http://www.sonyemcs.co.jp/emcs/index.html)  ・商品化プロセスにおけるソニーEMCSの機能と役割 上記のバリューチェーンをご覧になられてもお分かりの通り、今回、ソニー本社から移管される機能は、「設計」、「製造」(の中にいる調達)、「物流」にかかるもので、エレキ事業のサプライチェーンとエンジニアリングチェーンを担う機能の充実化というのが、今回の組織変更の立派な表看板となるでしょう。 ● プレスリリース「エレクトロニクス事業におけるオペレーション機能の機構改革」   (http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201601/16-004/) 以下、プレスリリース内容を抜粋・整理 ---------------------------------- ・目的 生産・物流・調達・品質/環境など、ものづくりに関するオペレーション機能を一層強化 ・内容 これまでソニーEMCSが担ってきた国内生産及び海外製造事業所の管理機能に加え、 ① 国内外の調達・物流・品質/環境領域の実務を行うグローバルシェアードサービス機能 ② 事業本部や事業会社と連携した要素技術開発・生産技術開発・設計支援を行うエンジニアリング機能 ・効果 ① これまで各組織が培ってきたオペレーションにかかるナレッジを結集することで一層の効率化を図る ② 国や地域、製品カテゴリー領域を越えたオペレーションの変革を継続する ---------------------------------- 本シリーズの前回に説明した「一部事業部制」の「生産機能」独立版がソニーEMCS。そして、今回ソニー本社にあった事業部運営に必要な機能サービス部門である「物流」「品質管理」などは、「ライン&スタッフ組織」における「事業共通サービス提供機能」で、これが本社から生産子会社に移管されるという理解になります。 機能部門がそのまま変容せずに右から左に移管されるだけなので、機能部門の専門性の発揮を狙っての組織変更ではなく、指揮者が本社の管理部門から生産機能会社のTOPに移ることで、日常のサプライチェーン・エンジニアリングチェーンにおけるオペレーションの一体化を狙ってのことです。 これ以降の記述は100%筆者の邪推なので、そういう見方もあるのかという気分で読んでほしいのですが、組織変更には、「分業」と「調整」というオペレーション視点での分析の他に、「M&A」という事業ポートフォリオ管理の視点、「会社機関の設置」「タックスプランニング」という法体系・税務基準への対応の視点があります。ソニーは、現在、小さい本社を目指し、各事業を分社化している途上にあります。これが、「M&A」活用による事業の再編、事業ポートフォリオの組み換えを意図しているのでなないか、その布石として、今回の機能再編があるのでは、とにらんでいます。(^^;) ソニー 破壊者の系譜 ―超優良企業が10年で潰れるとき ■ トヨタによる「機能別組織」から「事業部制組織」への変革の一里塚となる組織改革 トヨタが、2013年に続き、また大幅な組織改編を試みようとしています。しかし、目下のところ、ダイハツの完全子会社化や、スズキとの提携話が報道の中心になっており、この組織変更の話題はあまり盛り上がっていませんし、正式なプレスリリースはいまのところありません(2016/1/31現在)。 2016/1/18|日本経済新聞|夕刊 トヨタ、社内カンパニー制 自動車タイプ別に導入 「トヨタ自動車は4月、社内カンパニー制を導入する。自動車事業を高級車や小型車など4つ程度のカンパニーに分け、各カンパニーに製品企画から生産までの責任を負わせる方針だ。同社は年間販売台数が1000万台を超え、持続的な成長を可能にする仕組みづくりが急務になっている。組織を細分化し、意思決定の速度向上と商品力の強化を目指す。」 いわゆる「カンパニー制度」が意味する「カンパニー」の定義は、各社異なり、教科書的にも独の説明がなされていますので、この語だけで、トヨタの組織変更の観測記事に関する鼎の軽重は問えません。事業部、事業本部、カンパニーなどの違いについては、また別の機会に説明したいと思います。 「トヨタは2013年に「レクサス」「先進国」「新興国」「ユニット(部品)」の4つのビジネスユニットを設けており、カンパニー制の導入はこれに続く大規模な組織改正になる。従来は地域を強く意識した組織だったが、製品のタイプを軸とした組織に改める。  具体的には「レクサス」「乗用車」「小型車」「商用車」の4つのカンパニーに分ける案が有力だ。トヨタは全社的な開発・生産体制の見直しに着手し、サイズなどの特性が近い車をまとめて企画・開発する取り組みを進めている。組織再編により、この考え方をさらに一歩進める。」 トヨタは、1982年の工販合併後、何回か大きな組織変更をおこなっていますが、基本的に、「機能別組織」の範疇での各組織の区切りの再定義と大きく理解してもそれ程外れないでしょう。実際の組織変遷はトヨタのホームページに公開されていますので、ご参考下さい。 ● トヨタの組織変遷   (http://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/data/company_information/management_and_finances/management/organizational/index.html) 2013年は、公式組織としては、「機能別組織」の体系を継承しつつ、ビジネスユニット(BU)での管理・統制を公表しています。この時の「レクサス」「先進国」「新興国」「ユニット(部品)」の4分類については、「レクサス」はブランドの違い、「先進国」と「新興国」は販売市場の性質の違い、「ユニット(部品)」は、完成車とは異なる提供商品の形態の違い、で分けられています。何を売るか、どこで売るかでBUを分けていますが、公式組織は機能別組織のままでした。 「人事や渉外といった全社に共通する機能も可能な限り各カンパニーに振り分け、各カンパニーが自律的に運営できるようにする。小型車を担当するトヨタ自動車東日本(宮城県大衡村)など全額出資する車体メーカーも各カンパニーとの連携を強める方針だ。各カンパニーの「社長」に権限を委譲し、次世代の経営者を育成する狙いもある。  トヨタの販売台数は14年に初めて1000万台を突破し、16年は1010万台を上回る見通し。世界の自動車大手は1000万台に到達する前後で業績が悪化するなど「壁」に阻まれてきた。豊田章男社長は持続的な成長に向け、商品力強化と組織を率いる人材育成に重点的に取り組む意向を示している。この考え方を新体制で具現化する。」 上記の記事が真実であるならば、トヨタにとって初めての製品ライン別の縦割り組織が実現することになります。この取り組みが成果を残せるかどうか、を問うのではなく、こういう製品ラインナップごとの意思決定単位にしても問題ないのかの検証が必要でしょう。 惜しむらくも、トヨタ自動車ではないところからの引用になりますが、「TNGA:Toyota New Global Architecture」が、商品ラインナップごとの、近接車種単位で設計を標準化し、部品共通化による調達コストの低減の果実が得られようとする取り組みの目途が立った(であろう)後の組織変更であることに留意すべきでしょう。つまり、「機能別組織」でやるべきことはやった。後は市場や車種単位で思いっきり果実を収穫してほしい、また時が来れば、機能別に組織を集約して、専門家利益を再びもたらそうという、時間軸を超えた組織戦略なのかもしれません。 現場からオフィスまで、全社で展開する トヨタの自工程完結―――リーダーになる人の仕事の進め方 ●(参考)TNGAの概要説明(日刊カーセンサーより転載)   (http://www.carsensor.net/contents/editor/category_849/_30847.html) ---------------------------------- TNGAが掲げる5つのポイント TNGAとは「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー」の頭文字に由来しており、プラットフォームそのものの名称ではなく、車づくりや仕事の進め方の方針を示している。TNGA企画部が設立された際に掲げられた取り組みのポイントは次の5つだ。 (1)商品力の向上 車の骨格を変えて低フード化&低重心化を図り、視界や運動性能を高める。2015年発売の車から導入していく。パワートレインも刷新する。 (2)グルーピング開発による効率化 中長期の商品ラインナップを決め、搭載ユニットやドラポジを「アーキテクチャー」として定める。それに基づいてグルーピング開発を行い、部品の共用化を進めて効率をアップする。 (3)ものづくり改革 仕入先、調達部門、生産技術部門、技術部門が一体となり、シンプルで作りやすいユニットを実現する。 (4)グローバル標準への取り組み トヨタ専用規格から他メーカーも採用しているグローバル標準規格に対応する。 (5)TNGAと連動した調達戦略 車種、地域、時間をまたぎ、複数車種のユニットをまとめてグローバルに発注することで競争力を確保する。 ---------------------------------- トヨタ対VW(フォルクスワーゲン) 2020年の覇者をめざす最強企業 前回にご紹介した「組織は戦略に従う」「戦略は組織に従う」。時間軸を超えて、その時点時点での組織の全体最適力を引き出すため、働く人達の環境、「組織」というハコの形をいろいろ変えることで、意識改革をしたり、収益最大化を目指したり、コミュニケーションギャップを解消したりする道具としての組織変更という手段が存在するということでした。「万物は流転する」。組織改革にも終わりはありません。 ケース・スタディ 日本企業事例集―世界のビジネス・スクールで採用されている 【大前研一のケーススタディ】もしも、あなたが「ミズノの社長」「エスビー食品社長」ならばどうするか? (ビジネス・ブレークスルー大学出版(NextPublishing))現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します