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パナソニック、EVの開発期間を半減 ソフト活用試作回数少なく ‐ 製造業のサービス化とソリューションセールス再び

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ パナソニックの車載機器事業はプロダクト販売からシステムインテグレーターへ

経営管理会計トピック

電機メーカー西の雄、パナソニックの製品販売戦略の多様化について、最近持てはやされている「製造業のサービス化」「ソリューション営業」という視点から解析を試みたいと思います。

2017/5/3付 |日本経済新聞|朝刊 パナソニック、EVの開発期間を半減 ソフト活用試作回数少なく

「パナソニックは電気自動車(EV)の開発期間を最大5割短縮できるソフトを開発した。国内外の完成車メーカーと組んで設計段階から航続距離や電力の消費効率などの性能を予測し、試作回数を減らすことが可能になる。開発全体に関わることで、電池など自社の部品の販売力を高める狙い。メーカーの開発コスト低減につながり、EV普及に弾みがつきそうだ。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

パナソニックは、自動車技術の開発支援を手がけるAZAPA(アザパ、名古屋市)との共同開発でこのソフトを開発しました。部品の機能がどう変わるかといった個別のデータを集約し、AZAPAのもつアルゴリズムを使ってEV全体の性能を予測するものです。

「数値入力によって設計段階で最高速度や電池の持ち時間をほぼ正確に導き出せるという。試作回数を減らすことが可能となり、EVの開発期間を3~5割短縮できる見通しだ。」

このソフトは、中国や欧米といった様々なEV規格にも対応することができる汎用性を持ち、

「自動車用の電池や充電器、変圧器の大手。モーターや制御機器の研究も進めており、システムを完成車メーカーに持ち込み、EVの走行に関わる部品販売につなげたい考えだ。」

という意図をもってこのソフトウェアを開発しています。

(下記は、同記事添付の「パナソニックはEVの基幹部品の製造を幅広く手がけている」を引用)

20170503_パナソニックはEVの基幹部品の製造を幅広く手がけている_日本経済新聞朝刊

では、そのような販売戦略を採用するに至った論拠はどのように説明されているのでしょうか?

「新車開発では自動運転技術の採用などにより、自動車自体が複雑化して開発工程が長くなる問題が生じている。自動車メーカーが設計と試作を繰り返した上で部材を発注する従来の方式から、サプライヤーが部材の設計や配置をとりまとめる「システムインテグレーター」として開発に参加する方式が増えそうだ。」

今や、自動車はガソリン車を含めて走る半導体(コンピュータ)とも呼ばれています。ITベンダー的手法が望まれるのも頷けます。しかし、ビジネスとして儲かるかどうかは全くの別問題。

事業採算性については、
① ターゲット市場が拡大してパイが大きくなる
② ターゲット市場で競争優位を築くことができる
③ ターゲット市場で先行投資した分を十分に回収できる採算モデルが構築できる
の3つが大事だと、筆者は実務経験から強く思うところであります。

少なくとも、社内の市場予測では拡大基調にあると見込まれているようです。このソフトを売り込んで、さらにEV基幹部品の拡販を狙っているようです。

「パナソニックは車載事業の売上高を2018年度に15年度比で5割強多い2兆円に引き上げる計画だ。今回のソフトを活用して成長分野に掲げるリチウムイオン電池や運転支援技術でさらに相乗効果を狙う。」

(下記は、同記事添付の「パナソニックは車載機器事業を拡大させる」を引用)

20170503_パナソニックは車載機器事業を拡大させる_日本経済新聞朝刊

このパナソニックの新しいビジネスモデルが成功するかどうかを言い当てるのは、占いに等しく、当たるも八卦、当たらぬも八卦。本稿の目的とするところではありません。こうしたビジネスモデル変革の取り組みの内容への理解を深める説明を次章以下、続けていくことにしましょう。

 

■ パナソニックの車載機器事業は「製造業のサービス化」の流れを汲んでいる!

冒頭でも触れた通り、この取り組みは、「製造業のサービス化」「ソリューション営業」という最近の製造業のビジネス展開の主流に沿った動きになっています。まずは他社事例を引いて、一般論の整理からです。

(1)製造業のサービス化

これは2つのタイプに分かれます。

① サービス事業化
顧客が代金を払いたくなる対象がプロダクト(製品・商品)からサービスに変化
例)
・オンプレミスのITシステム構築やパッケージソフトの購入からクラウドサービス(SaaS)の利用へ
・自動車の購入から、カーシェアリングという移動手段のサービスを時間比例で購入

② サービス価値化
顧客から認知される付加価値が「サービス価値」に変化。
「サービス価値」:商品自体の所有価値を超え、商品を使用(経験)する際に、顧客との接点で生じる意味的価値
例)
・アップルが提供する商品(消費財)の顧客経験価値
→ アップルウォッチから得られる各種バイタル情報の測定・閲覧・分析
→ 持っているだけでかっこいいデザイン性
・キーエンスのソリューション営業から提供される生産財が生み出す経済性

⇒「(やさしい経済学)顧客価値重視のイノベーション(4)製造業のサービス化に適応した組織作りとは?

今回のEV開発ソフト(開発プラットフォーム)の提供は、テクノロジースタックに基づく「②サービス価値化」を狙っていると考えられます。提供された開発プラットフォームを活用していくうちに蓄積されていく試行錯誤データを解析することで、新たな知見の発見が期待できるからです。

経営管理会計トピック_テクノロジースタックで機能価値に経験価値を足す

⇒「日立、営業2万人増員 コンサル重視へ転換 AIなど駆使、課題解決(後編)- ハードウェアを持ったままでコンサルティングサービスが可能か?

(2)ソリューション営業

製造業の営業スタイルは大別すると、自社プロダクトを顧客課題に適応させる「プロダクト・セールス」と、顧客課題を解決するために自社プロダクトを活用する「ソリューション・セールス」があります。

経営管理会計トピック_「プロダクト・セールス」と「ソリューション・セールス」

ソリューション・セールスは、自社プロダクトではなく、顧客の課題解決に焦点を当てるため、真に課題解決を図るためには、時として自社プロダクトの販売を見送ることが必要になるケースが発生することを回避できません。これは、自社プロダクトを開発・製造するメーカーとしては、アンビバレント(ambivalent)な状態です。

⇒「日立21年ぶり組織改編 顧客対応型、GEに対抗 -製造業のビジネスモデルにおける典型的な問題を考えてみた

これを、さらに踏み込んで、課題解決自体をサービスとして提供するのが、コンサルティングサービスです。自社プロダクトを有する製造業は、ソリューション・セールスですら難しいのに、定義も曖昧に、「コンサルティング・セールス」と銘打って、自社プロダクトを含めたソリューション価値の提供をビジネスのネタにすることは、自社プロダクトに誇りを持っている製造業にとっては鬼門と言わざるを得ません。

さらに、コンサルティングサービスは、セールスをかけた後に、顧客がプロダクトを使用中に行われるもので、事前のセールス時期とはタイミングがずれていることが当たり前なのです。

経営管理会計トピック_ビジネスライフサイクルで営業とサービスをみると、

製造業が「ソリューション・セールス」「コンサルティング・セールス」と言い出したときには、その内容をしっかり吟味する必要があります。

(参考)
⇒「日立、営業2万人増員 コンサル重視へ転換 AIなど駆使、課題解決(前編)-サービス&プラットフォームBUのポジショニングの説明が無い!?

 

■ パナソニックの車載機器事業は「顧客の囲い込み」を行おうとしている!

パナソニックの車載機器事業において、EV開発期間短縮という顧客課題の解決のために、開発期間を最大半減できるソフトウェアを提供することは、「解決」という文字面だけで、すわっ「ソリューション・セールス」か、と反応するのはビジネスモデルの学習者としては50点。ここは、2つの視点による「顧客囲い込み」戦略であるという見方が先に立つのが適切の様に思います(注:筆者の個人的感想です)。(^^;)

(1)上流工程への遡上

まずは、顧客のバリューチェーンを理解し、自社プロダクトの購入を決める判断ポイントを探します。完成車メーカーに車載部品を売り込む際には、完成車メーカーの開発者が自動車の設計作り込みの際にひとつひとつの機能について、モジュールやプロダクトの仕様を決定します。その仕様を果たすために、内外製部品の所在を探索し、どうしても見当たらない場合は、新規に内製か外注することを考えます。

その時、開発者のお眼鏡に適うように、他社と同列でプロダクト・セールスをかけていては、百戦百勝とはなりません。そこで、それより前の工程、開発プロセスで顧客と一緒になってプロダクトを探すお手伝いをします。他社に先駆けて購買意思決定の場に着けるだけでなく、自社プロダクトまたは技術を強く推奨できるチャンスが到来します。こうして、顧客を囲い込むのです。

経営管理会計トピック_顧客囲い込み戦略 ① 上流工程への遡上

(2)プラットフォーム化

パナソニック製のEV開発用のソフトを使えば、使用契約次第ですが、パナソニック側にも開発データが共有されます。当然、そのデータを解析し、自社プロダクトの設計開発に活かすこともできますし、そもそもそのソフトでの解析情報とのデータリンクを張っておけば、優先的に自社プロダクトを選択してもらえるチャンスも大きくなります。顧客も部品探索の手間が削減できるだけでなく、パナソニック製部品の性能も、顧客が求めるモノを他社に先んじて提供する時間的優位性を築くこともできます。

経営管理会計トピック_顧客囲い込み戦略 ② プラットフォーム化

「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」

筆者ならば、「この開発プラットフォームは無償で提供しても元が取れる」と考えますが、如何でしょうか?

顧客の購買担当者に相対峙するセールス担当として接するのではなく、購買担当者に寄り添って、購買意思決定の支援者になる。そしてあわよくば自社プロダクトを採用してもらう。こうした目論見は意外と身近にあるものですよ。おっと、これを無償でブログなんかで書いてはいけませんでしたかね。。。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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