本格的リニューアル構想中のため、一部表示に不具合があります m(_ _)m

総合商社の事業ポートフォリオ管理手法 豊田通商と双日 日経記事より

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
この記事は約6分で読めます。

■ 総合商社の管理会計は事業ポートフォリオ管理にかかっています

経営管理会計トピック

日を置かずして、総合商社2社の管理会計手法、財務管理手法の方針が日経新聞に掲載されていたので、2社の異同を見ながら、計数管理のTIPS(こつ)とは何かを探っていきたいと思います。

まずは、新聞掲載順に、各社の状況を含めて概要をつかんで頂きたいと思います。

2015/7/7|日本経済新聞|朝刊 豊田通商、事業選別で厳しい新基準 低採算なら黒字でも撤退 ROE改善めざす

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「豊田通商は主要グループ会社に対して、会社の清算や売却による事業撤退を判断する新たな選別基準を設けた。黒字を確保していても低採算なら撤退の検討対象とする。グループ400社を対象に2016年3月期から導入する。グループ企業の経営改革を促しつつ、事業の整理統合で自己資本利益率(ROE)の向上を狙う。」

まず、最終判断指標がROE。株主資本(自己資本)に対する事業利益からの投資収益率をたかめられるように、各事業の継続・経営陣のテコ入れ・撤退を判定するとのこと。ではその判定基準と手順は如何に?

<撤退判定基準>
① 直近3年に連続して純利益が1億円を下回る → 要検討
② 単年で最終赤字 → 要検討
③ 債務超過 → 即時撤退

こうした基準選定の背景としては、
「事業拡大を狙った積極投資でこの5年で売上高は約5割増えた。半面、グループ全体に目が行き届きにくくなっていたという。」

ということで、定量的な基準を設けて、グループガバナンスを見える化して、管理しやすく(事業収益性の追求を効果的に)という意図と読み解きました。

新聞記事では、
「大手商社では「現金収支の赤字」などの事業撤退ルールを設ける例が少なくないが、黒字でも低採算なら手を引く厳しい基準で事業を選別し、資本効率を高める。」

とあり、制度会計ルールの下でのP/L上の期間損益として「黒字」でも「低採算」なら手を引くのは珍しい、という論調になっていますが、これは記事解説が突っ込み不足ですね。

「ROE」が最終目標なのが良いか悪いかはおいといて、事業が儲かっているかどうかは、

儲け = リターン - 投下資本

の右辺において、 

リターン > 投下資本 

の関係が成立しているかどうかで判断します。そして、「投下資本」は、B/S上の簿価での事業投下資産の評価額だけでなく、その投下資産を購入・準備するために用意したお金の「金利(難しく言うと機会コスト)」が上乗せされます。

人口に膾炙された言い方をすると、「資本コスト」「WACC:Weighted Average Cost of Capital」を考慮するということです。

簡単な例で示すと、事業に投下されるB/S上の資産の評価額が100だとして、お金の出し手が10%のリターンを期待して(これを期待収益率という)いる場合、資金の出し手は、

100 × 10% = 10 

だけの、リターンをこのビジネスに期待しているということ。

総資産回転率が「1.0」と仮定した場合、投下資本と同額の売上高となり、当期純利益が「5」だけ得られれば、当然期間損益的にはP/L上は黒字ですし、「売上高利益率」「ROA」ともに5%のビジネスとなります。

でも、資金の出し手が期待する「10」には届かない。だから、黒字でも、ROAが5%でも、このビジネスは失敗→撤退、ということになるのです。

こういう議論が普通にならないと、黒字事業がM&Aとして売買されている理由が分かりませんよね。ある事業が資本コストを考慮した上で、10%の投資収益率だった場合、A社の期待収益率が20%、B社の期待収益率が5%だったら、この10%の投資収益率の事業は、A社からB社へ転売されると、A社もB社も「Win-Win」となる取引であるわけです。

でも豊田通商の「① 直近3年に連続して純利益が1億円を下回る」という金額の絶対額基準はちょっと気になりました。グループ規模の拡大局面において、そういう小粒な事業は管理の手間がかかるので整理していく、というメッセージでしょう。この指標を見ただけで、豊田通商の中長期的な拡大路線が目に浮かびます。

 

■ それでは次に「双日」を見てみましょう!

2015/7/8|日本経済新聞|朝刊 双日、3年で3000億円投資 インフラや航空関連 成長優先、純現金収支赤字へ

「双日は2018年3月期までの3年間のフリーキャッシュフロー(純現金収支=FCF)を合計400億円程度の赤字とする方針だ。インフラや航空関連などに、15年3月期までの3年の約2倍にあたる3000億円を投じる。財務体質の改善が一巡したと判断し、利益成長に向けた積極投資に切り替える。」

おっと、今度は「フリーキャッシュフロー(純現金収支=FCF)」が赤字になっても、積極投資をしていく、となっていますね。

これは、新聞記事によると、
「前期末時点で自己資本は約5500億円まで増え、純負債資本倍率(デットエクイティレシオ)は1.1倍に低下。今後は、18年3月期で純利益(国際会計基準)を600億円と前期比1.8倍に引き上げるため、成長投資にかじを切る。」

とありますので、有利子負債をかなり返済したので、手元資金が一定額溜まった、だから、単年度ベースではFCFが赤字になっても、すぐに倒産リスクが高まらない。じゃあ、中長期視点で成長分野に投資しよう、ということらしいです。

これは、P/L上の期間損益と、C/S上のキャッシュフローとがそれぞれ違う基準で計算されることから起きるギャップから来る話です。

それでは、また簡単な設例。
1年目に油田を100で購入して、2年目と3年目に100ずつ売上が得られる(追加的コストは考えない)ケースで、「キャッシュフロー」と「会計的利益」でどのような計算結果が得られるか?

経営管理会計トピック_キャッシュフロー

経営管理会計トピック_会計的利益

双日は、新規の事業投資を決断・実行した年に、キャッシュフロー(FCF)が赤字になっても、1年後、2年後に取り戻せればよいと考えているのです。P/L上も、この例だと、初年度は、損益±0 ですからね。

だから、投資意思決定した時点の年度のFCFの赤字は気にしないということです。ただし、皆が一斉に投資を始めると、手元現金が不足する可能性があるので、一定の歯止めとして、

「9つの本部ごとに成長分野の開拓や競争力強化などテーマを決めて投資額を振り分ける。空港運営への参入や独立系発電事業者、東南アジアでの工業団地などが候補だ。各部門に総資産利益率(ROA)の目標を持たせて過剰投資を防ぐ。」

ということで、「ROA」が過剰投資の門番となるそうです。でもね、ROAは期間損益ベースでの計測値なので、キャッシュフロー管理とは測定基準が違うので、ピッタリ・しっくり管理ができるとは思えないのですが、、、(^^;)

まあ、読者の皆さんも、こうした小さい新聞記事でも読み込めば、誰がどういう風に財務指標を使って、何をコントロール(経営のかじ取り)したいのか、予想するのは知的ゲームみたいで楽しいでしょ!?

コメント