勝ち残り企業 秘訣有り(1)カシオの電卓 独自開発の「頭脳」磨く - 残存者利益を狙う!

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■ 「残存者利益」を得るビジネスモデルの必要十分条件とは?

経営管理会計トピック

小稿ですが、既存市場でのサバイバルを生き抜いた企業が手にする「残存者利益」。そのビジネスモデルを成功に導く必要十分条件を考えてみます。

2017/9/12付 |日本経済新聞|朝刊 勝ち残り企業 秘訣有り(1)カシオの電卓 独自開発の「頭脳」磨く

「少子高齢化やインターネットの普及などを背景に、国内では至る所で市場が縮小している。だが、厳しい環境でも利益を伸ばす企業はある。競争に勝ち残り「残存者利益」を得ている面々だ。工夫や努力で逆境を越えた企業を紹介する。初回はカシオ計算機。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「カシオ計算機の関数電卓は販売が増えている」を引用)

20170912_カシオ計算機の関数電卓は販売が増えている_日本経済新聞朝刊

記事から、日本経済新聞の記者の目によるカシオの電卓市場における「残存者利益」狙いの戦略をまとめてみます。

2017年3月期におけるカシオの事業ポートフォリオにおける電卓分野の売上高構成比率は1割強。しかし、売上高営業利益率の全社平均が9%台のところ、電卓事業は16%と高マージンを記録しており、かつ営業利益の構成比では2割を稼ぎ出す高収益分野です。

(1)市場成長(外部環境)
業界団体の統計から、2016年の国内電卓出荷額は53億円、ピーク時の1970年代から縮小が続き、10年前に比べても4割近く縮小。この間に販売単価は下落しパソコンの表計算ソフトなど、代替手段も普及し、大きく市場が成長する見込みはありません。

(2)競争優位の源泉:①コスト競争力
競業他社は、開発費を抑えるため、電卓の頭脳といえる大規模集積回路(LSI)を他社購買に切り替えましたが、カシオはLSIの独自設計にこだわり、内製化の効果から、大幅な小型化とコストの削減に成功しました。

2017/8/8付 |日本経済新聞|電子版 日産、EV時代も「ゴーン流」 逆張りの電池売却で外部調達

「世界最大のEV市場である中国を中心に、韓国LG化学などの数百億~1千億円超の投資が相次ぐ。日産は電池の投資競争と距離をおく方が「EVの開発や生産に専念できる」(西川広人社長)と自前主義を改めた。」

2017/9/13付 |日本経済新聞|電子版 パナソニック、太陽光パネルの材料生産撤退へ

「パナソニックは太陽光発電パネルの材料生産から撤退する検討に入った。2017年度中にもシリコンウエハーの生産を終了し、割安な外部調達に全面的に切り替える方針。国内の太陽光発電による電力の買い取り価格引き下げで収益環境が厳しく、今後は発電効率の高さで定評がある部品生産に経営資源を集中することで立て直しを急ぐ。」

外部調達への切り替えは、それ以外に手掛ける事業に経営資源(ヒト・モノ・カネ)を傾斜配分をかけて集中させたいから。その内外製の判断が当該事業でのポジショニングと時間軸での成長見通しに影響します。

 

■ 市場に最後までに残ることで得られるメリットとは?

(3)競争優位の源泉:②高シェア
「競争による価格下落が進むにつれ、家電メーカーなどは徐々に電卓から撤退した。今や世界でもシャープやキヤノン、米テキサス・インスツルメンツといった一握りによる寡占市場だ。カシオはこの中で約5割の台数シェアを持つ。」

高いシェアは、市場でのプライス・メイカーとしての有利な値付けをもたらします。トップシェア企業がその市場の値ごろ感を決める、その有利さは、新製品リリースと在庫一掃タイミングの両にらみで、カニバリズムを上手に避けながら、機会損失を最小化することができます。

(4)競争優位の源泉:③製品差別化
「主力商品を変化させてきたことも大きい。今の稼ぎの中心は簡易な計算用の電卓ではなく、三角関数や複素数などの計算に使える「関数電卓」。太陽電池で駆動するLSIや世界各地の言語に対応しやすい表示機能の開発など、独自の技術を磨き新興国の開拓も狙う。」

累計生産・販売台数が大きくなると、経験曲線から、量産品については、1台当たりの生産コストの低減が見込まれます。設備投資の多重利用による単位当たり固定費も下げられますし、加工技術に熟練して、歩留まりが向上したり、加工時間の短縮にもつながり、直材費削減、加工費削減を実現することができます。

⇒「経営戦略概史(13)ヘンダーソンによるBCGの誕生と3つの飛躍- PPM、経験曲線、持続可能な成長率

そもそも、同一市場での長期的事業継続は、生産技術力の向上による生産現場におけるコスト競争力だけでなく、社内技術者の高い商品技術力(機能付加価値、ユーザの使用価値への理解度の向上)をも引き出すことに成功します。

 

■ さあ、最後に何が「必要条件」で何が「十分条件」か?

昨今、AIとかIoTとか、猫も杓子も、IT業界への投資や人財集めに耳目が集まっていますが、よく考えてください。皆が群がる市場は、需要量が増えることで、価格も上昇します。この時の価格とは、販売価格(供給価格)はもとより、調達価格(需要価格)も高騰します。AI技術者とか、データサイエンティストの平均給与が高騰し、人材難だという報道、R&Aよろしく、次々とベンチャー企業を大企業が高値で買収する報道が日々続きます。商売とは、安く買って高く売るのが正道。高く買ったら、もっと高く売らないと、儲からないのですが。。。

しぶとく市場に残っていれば、追加的な広告宣伝費は不要(すでにブランドは確立済み)だし、勝手知ったる市場であるだけに、社内人材も安く原材料を調達する取引先も確保済みなのです。儲けとは、売上高からコストを差し引いた差額概念ですから。市場の成長性だけで、参入市場を選んでいては片手落ちでしょう。

「ピーク時で国内40社以上による「電卓戦争」を生き残れたのは、「競争に敗れたら会社がなくなる、専業メーカーとしての危機感があった」(樫尾和雄会長)ためだ。」

この会長の言葉が、多くを語っています。企業は、経営の安定性を目的に、事業多角化に走る傾向があります。多角化は、それなりの成功のリスクをはらんでいますし、そもそも得意領域ではない、新規領域に進出する必要があるため、最初に必要とされるコストも割高になりがち。これは、株式市場の世界では、「コングロマリット・ディスカウント」といって、事業多角化した企業が、赤字事業を抱えることで、かえって企業価値を損なっている事実と裏腹なのです。

2017/9/13付 |日本経済新聞|電子版 (スクランブル)タカ派株主、日本に照準 選択と集中「優等生」狙う 証券部 奥貴史

「「日立国際に事業分割(売却)を求める可能性もある」(外資系投資銀行関係者)。同社の主要事業は絶好調の「半導体装置」と営業赤字の「映像・通信」の2つ。事業売却により半導体装置だけの会社になれば、もっと高く売れる。」

「エリオットは過去に豪英資源大手のBHPビリトンや韓国のサムスン電子など世界の名だたるコングロマリット(複合企業)に事業売却や会社分割を要求してきた。日立が日立国際を売却するのも選択と集中の一環で、目の付け所は似通う。」

(下記は同記事添付の「日立国際の株価」を引用)

20170913_日立国際の株価_日本経済新聞朝刊

この市場、この業界で生き残るしかない。その強い信念が高い技術力とコスト競争力を引き出し、元来の市場でのプレゼンスや社内リソースの高活用度をもたらすことと相乗効果で残存者利益を勝ち取ることができる。いわゆる“背水の陣”的な真剣さが必要なビジネスモデルであるといえましょう。この思いをもつことが残存者利益獲得のための必要条件なのです。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です

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