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■ 2016年3月期の当期純利益ランキングを斬る!

経営管理会計トピック

FY2015(正確には、2016年3月に本決算を迎えた企業のみ対象)の決算ランキングが日経紙上で始まり、第1回目は「純利益」です。厳密には、会社法グループに属する「会社計算規則」でも、金融商品取引法グループに属する「財務諸表等規則」でも、「当期純利益」ときちんと「当期」の語をつけますので、日頃の会話や報告資料の作成でもここはこだわりたいところです。ただ、ランキングを転載して、記事コメントにいちゃもんつけるだけだと能(脳?)が無いので、これだけ計上された当期純利益の質にこだわり、ビジネスの王道を通って稼がれた利益かを検証してみたいと思います。

2016/5/24付 |日本経済新聞|朝刊 決算番付2016(1)純利益 通信・商社でトップ交代 収益源の多様化が奏功

「資源安や新興国景気の減速を背景に、上場企業の2016年3月期は4年ぶりに経常減益となった。ただ製造業を中心とする円安の追い風を除いても、実力ベースでは堅調を維持したところが多い。個別企業の決算を様々な角度でランキングし、稼ぐ力を点検する。第1回は最終的なもうけを示す純利益。通信や商社などで首位が入れ替わった。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は、同記事添付の、純利益の順位が入れ替わった業種一覧表を転載)

20160524_決算番付_純利益の順位が入れ替わった業種_日本経済新聞朝刊

記事解説を一応振り返ります。

【通信】
NTT:傘下のNTTドコモが動画配信や金融・決済サービスなどのスマートライフ領域に注力したことで、同分野の利益が大幅増
ソフトバンク:米携帯子会社スプリントが苦戦したうえ、前の期に計上していた中国の電子商取引大手アリババ集団の上場関連益がなくなった

【商社】
伊藤忠商事:初の首位に立った。15年に米シェールガスやナミビアの天然ガス開発から撤退するなど、収益改善が見込めない資源事業を整理。一方で生活消費関連などに経営資源を振り向け、収益源に育ててきた
三菱商事/三井物産:資源事業で多額の減損損失を計上して最終赤字に転落

【自動車】
ホンダ:タカタ製エアバッグのリコール(回収・無償修理)費用計上が響いた
日産自動車/富士重工業:円安効果

ここで真打ち登場です。2016年3月期の(当期)純利益額ランキング、上位20社と下位10社はこちら。

2016/5/24付 |日本経済新聞|朝刊 純利益額ランキング JR東海がトップ10入り トヨタ、最高2.3兆円稼ぐ

(下記は、同記事添付のランキング表を転載)

20160524_決算番付_2016年3月期の純利益ランキング_日本経済新聞朝刊

ここでは、個別企業の業績についての後追い解説は省略させて頂きます。

 

■ 当期純利益の「額」ではなく、「質」も同時に見てみる

ここで、利益の絶対額ではなく、利益の「質」という言葉を持ち出すと、売上高との対比でROS、資産との対比でROA、純資産との対比でROEを用いて分析を試みると予想された向きもあるかもしれませんが、そういう芸のないベタな分析は他の専門家に任せるとして、今回は「アクルーアル」視点でこのランキング表に迫ってみたいと思います。前置きが長くて恐縮ですが、日本経済新聞が採用している「純利益」は、いわゆる親会社説に基づく「親会社株主に帰属する当期純利益」になっています。

● アクルーアルとは(野村證券 証券用語解説集より)
アクルーアル(会計発生高)とは、決算上の利益と現金収支(キャッシュフロー)の差のことをいう。現金収入を伴う質の高い利益かどうかを見極める指標で、特別損益を除いた税引き後の利益から営業キャッシュフローを引いて算出、マイナスとなる企業は、現金収入を伴った質の高い利益を産み出している企業とされる。
一般的に、企業の粉飾決算を見抜くための指標として使用されるほか、株式投資の指標としても活用されることがある。

ここは、散布図による可視化を狙いたいので、縦軸「当期純利益」、横軸「FCF」の2次元での相関関係を見てみたいと思います。ここのFCF:フリーキャッシュフローは、便宜的に、営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの合算値とさせて頂きます。野村證券の定義とは違いますが、簡便的に財務数字を持ってこられること、営業キャッシュフローだけで現金収支の良否は判断できないことから、このような分析手法でやらせて頂きます。全ての数字は、筆者が改めて各社の決算短信から引用しています。

20160524_2016年3月決算_当期純利益ランキング表

数字だけを眺めていても、皮膚感覚で相対的ポジションは掴みにくいので、早速この表を散布図に展開します。

経営管理会計トピック_2016年3月決算_アクルーアル1

これでは、トヨタ自動車と日本郵政の値が大きすぎるので、この2社を外したグラフをもう一度再作成します。なお、日本郵政の多額にのぼるFCFの源泉は、日本国債の売買収入です。

経営管理会計トピック_2016年3月決算_アクルーアル2

これで、
第1象限:当期純利益(+)、FCF(+) ・・・トヨタ、日本郵政、NTTなど
第2象限:当期純利益(-)、FCF(+) ・・・東芝、JX、商船三井など
第3象限:当期純利益(-)、FCF(-) ・・・シャープ、東芝テック、日本板硝子など
第4象限:当期純利益(+)、FCF(-) ・・・ソフトバンク、日産、伊藤忠商事など

の4グループに区分することができました。

新聞記事では、資源権益にかかる減損損失で赤字決算となった三菱商事、三井物産は、逆にFCFはプラスであり、総合商社トップに躍り出た伊藤忠商事は、CITICへの約6000億円の投融資実行により、FCFはマイナスになっています。税効果を除くと、減損損失はキャッシュアウトに無関係な費用(損失)であるため、報道等で大きく報じられても、貸借対照表やキャッシュフロー計算書にまで及ぼす影響まで分析すると、意外にマイナス要素は限定されていることが分かるはずです。

一方で、業界2位に返り咲いた日産自動車は、前期と同水準のリース車両取得に1.4兆円の投資キャッシュ・アウト・フローを計上しているので、ホンダと利益水準が逆転した、と報じられても、現金収支という観点から、単純に当期純利益だけで収益性の評価はできないことが分かると思います。同じことは、通信業界の御三家、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクについても言えます。利益水準(横軸)は左程開きが無くても、現金収支(縦軸)には大きな開きがあることが分かると思います。これは、ソフトバンクがスプリントを中心とする通信設備への投資を拡大したことがあります。この数字も前年と同水準で、2期連続の大きなキャッシュアウトを伴う投資を実施していることが、将来のリターンとなって本当に帰ってくるかを精査する必要がある、ということが分かると思います。

これらは、新聞報道などで、利益額だけを目にして、単純に企業業績を評価することにはリスクがあることの証左です。本当に留意すべきなのは、第3象限に存在する企業群なのですよ!

⇒「(スクランブル)会計問題、身構える市場 「利益の質」で投資先選別
⇒「不適切会計の手段 -利益操作(8)将来の費用を前倒しする
⇒「不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(1)企業財務分析者が気にすべき財務指標について

 

■ クリーンサープラスに疎い日本人!?

本来ならば、当期純利益という一会計期間の業績結果は、ストックとしての企業の財産(純資産)増加にストレートに効いてくるはずです。P/Lのボトムラインは、B/Sの純資産の増加額になる、この単純明快な相関関係を、「クリーンサープラス関係」といいます。

しかし、日本の会計基準や会計報告のフォーマットは、実質・形式共に、そうしたクリーンサープラス関係を会計初心者には分かりづらいものにしています。連結概念である、「親会社説」と「経済的単一体説」の対立、当期純利益から包括利益を通じて純資産増減につながるロジックは、会計初心者には理解しがたいものになっています。

⇒「包括利益計算書を斬る(1)
⇒「包括利益計算書を斬る(2)
⇒「包括利益計算書を斬る(3)

その昔は、株主還元と将来投資への配分のバランスを見るために、当期純利益をベースにした配当性向などを中心に分析していれば事足りました。しかし、東芝の減資に関する投稿でご説明した通り、配当可能額の算定には、一部、包括利益を構成する政策保有株式などの評価損益を考慮しないといけないため、包括利益計算書まで目配せする必要があります。ましてや、経済紙の記者が、「意味の乏しい包括利益」とコラムで書くなど、言語道断です!

⇒「(大機小機)長期投資のパフォーマンス評価 - 業績の評価期間の設定と包括利益について一言あり!
⇒「東芝、2000億円規模減資 累損圧縮、株主総会に付議

はてさて、前置きが長くなりました。早速、前述の当期純利益ランキング登場企業の包括利益(厳密にいうと、当期純利益以外のその他の包括利益の発生額)と、当期純利益の相関をこちらも散布図で可視化してみましょう。

経営管理会計トピック_2016年3月決算_その他の包括利益対比

こちらは、いささか面白みに欠けますが、第1象限と第2象限にポジショングしている企業は存在しません。すなわち、当期純利益の上位20社、下位10社の中で、その他の包括利益がプラスになった企業は2016年3月期決算には存在しない、ということです。このことが意味するのは、個別企業(経営者)による経営努力の外で、大概のその他の包括利益の動向・トレンドが決まってしまう可能性が高いということです。

その他の包括利益の構成要素の代表選手を挙げますと、
・有価証券評価損益(主に持ち合い株式、政策保有株式)→株式市況に左右される
・外貨換算調整勘定 →外国為替市場に左右される
・年金債務関係費用 →主に、市中金利(債券市場)を中心とした金融市場動向に左右される

多額の当期純利益を計上しながら、同時に日本一のその他包括損失を上げたトヨタ自動車の9000億円余りの内訳を見てみると、以下の通りです。

・未実現有価証券評価損:3122億円
・外貨換算調整額       :3954億円
・年金債務調整額       :2092億円 (四捨五入差異あり)

散布図で、下方に位置する企業は、軒並み、海外投資を積極的に行っている企業群であり、その過半の損失は、為替換算調整額のマイナスに起因しています。ただし、日本郵政の6123億円の損失の大半は有価証券評価損:7843億円が占めていますが、、、 それゆえ、新聞記事では、「円安を支えに日産自動車や富士重工業が順位を上げた」と為替の恩恵を受けたと表現している箇所について、それは当期純利益までのお話し。本当の企業評価は純資産の増減。その増減に対して、両社共に、為替換算調整勘定は大きくマイナスなのになあ~、と心の中でつぶやきながら、事の本質を見抜こうと財務諸表を眺めるわけです。はい。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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決算番付2016(1)純利益 通信・商社でトップ交代 収益源の多様化が奏功 - アクルーアルと包括利益で利益の質を問うhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読むソフトバンク,トヨタ,日立,JX,三菱商事,三菱電機,シャープ,パナソニック,東芝,デンソー,FCF,アクルーアル,ホンダ,アステラス製薬,フリーキャッシュフロー,三井物産,日本郵政,豊田自動織機,村田製作所,決算短信,日産自動車,KDDI,NTTドコモ,決算番付,当期純利益,財務諸表等規則,会社計算規則,会計発生高,クリーンサープラス,包括利益計算書,外貨換算調整勘定,その他の包括利益,NTT,富士重工業,JR東海,JR東日本,伊藤忠商事,JAL,商船三井,東芝テック,トクヤマ,川崎汽船,日本板硝子■ 2016年3月期の当期純利益ランキングを斬る! FY2015(正確には、2016年3月に本決算を迎えた企業のみ対象)の決算ランキングが日経紙上で始まり、第1回目は「純利益」です。厳密には、会社法グループに属する「会社計算規則」でも、金融商品取引法グループに属する「財務諸表等規則」でも、「当期純利益」ときちんと「当期」の語をつけますので、日頃の会話や報告資料の作成でもここはこだわりたいところです。ただ、ランキングを転載して、記事コメントにいちゃもんつけるだけだと能(脳?)が無いので、これだけ計上された当期純利益の質にこだわり、ビジネスの王道を通って稼がれた利益かを検証してみたいと思います。 2016/5/24付 |日本経済新聞|朝刊 決算番付2016(1)純利益 通信・商社でトップ交代 収益源の多様化が奏功 「資源安や新興国景気の減速を背景に、上場企業の2016年3月期は4年ぶりに経常減益となった。ただ製造業を中心とする円安の追い風を除いても、実力ベースでは堅調を維持したところが多い。個別企業の決算を様々な角度でランキングし、稼ぐ力を点検する。第1回は最終的なもうけを示す純利益。通信や商社などで首位が入れ替わった。」 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます (下記は、同記事添付の、純利益の順位が入れ替わった業種一覧表を転載) 記事解説を一応振り返ります。 【通信】 NTT:傘下のNTTドコモが動画配信や金融・決済サービスなどのスマートライフ領域に注力したことで、同分野の利益が大幅増 ソフトバンク:米携帯子会社スプリントが苦戦したうえ、前の期に計上していた中国の電子商取引大手アリババ集団の上場関連益がなくなった 【商社】 伊藤忠商事:初の首位に立った。15年に米シェールガスやナミビアの天然ガス開発から撤退するなど、収益改善が見込めない資源事業を整理。一方で生活消費関連などに経営資源を振り向け、収益源に育ててきた 三菱商事/三井物産:資源事業で多額の減損損失を計上して最終赤字に転落 【自動車】 ホンダ:タカタ製エアバッグのリコール(回収・無償修理)費用計上が響いた 日産自動車/富士重工業:円安効果 ここで真打ち登場です。2016年3月期の(当期)純利益額ランキング、上位20社と下位10社はこちら。 2016/5/24付 |日本経済新聞|朝刊 純利益額ランキング JR東海がトップ10入り トヨタ、最高2.3兆円稼ぐ (下記は、同記事添付のランキング表を転載) ここでは、個別企業の業績についての後追い解説は省略させて頂きます。   ■ 当期純利益の「額」ではなく、「質」も同時に見てみる ここで、利益の絶対額ではなく、利益の「質」という言葉を持ち出すと、売上高との対比でROS、資産との対比でROA、純資産との対比でROEを用いて分析を試みると予想された向きもあるかもしれませんが、そういう芸のないベタな分析は他の専門家に任せるとして、今回は「アクルーアル」視点でこのランキング表に迫ってみたいと思います。前置きが長くて恐縮ですが、日本経済新聞が採用している「純利益」は、いわゆる親会社説に基づく「親会社株主に帰属する当期純利益」になっています。 ● アクルーアルとは(野村證券 証券用語解説集より) アクルーアル(会計発生高)とは、決算上の利益と現金収支(キャッシュフロー)の差のことをいう。現金収入を伴う質の高い利益かどうかを見極める指標で、特別損益を除いた税引き後の利益から営業キャッシュフローを引いて算出、マイナスとなる企業は、現金収入を伴った質の高い利益を産み出している企業とされる。 一般的に、企業の粉飾決算を見抜くための指標として使用されるほか、株式投資の指標としても活用されることがある。 ここは、散布図による可視化を狙いたいので、縦軸「当期純利益」、横軸「FCF」の2次元での相関関係を見てみたいと思います。ここのFCF:フリーキャッシュフローは、便宜的に、営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの合算値とさせて頂きます。野村證券の定義とは違いますが、簡便的に財務数字を持ってこられること、営業キャッシュフローだけで現金収支の良否は判断できないことから、このような分析手法でやらせて頂きます。全ての数字は、筆者が改めて各社の決算短信から引用しています。 数字だけを眺めていても、皮膚感覚で相対的ポジションは掴みにくいので、早速この表を散布図に展開します。 これでは、トヨタ自動車と日本郵政の値が大きすぎるので、この2社を外したグラフをもう一度再作成します。なお、日本郵政の多額にのぼるFCFの源泉は、日本国債の売買収入です。 これで、 第1象限:当期純利益(+)、FCF(+) ・・・トヨタ、日本郵政、NTTなど 第2象限:当期純利益(-)、FCF(+) ・・・東芝、JX、商船三井など 第3象限:当期純利益(-)、FCF(-) ・・・シャープ、東芝テック、日本板硝子など 第4象限:当期純利益(+)、FCF(-) ・・・ソフトバンク、日産、伊藤忠商事など の4グループに区分することができました。 新聞記事では、資源権益にかかる減損損失で赤字決算となった三菱商事、三井物産は、逆にFCFはプラスであり、総合商社トップに躍り出た伊藤忠商事は、CITICへの約6000億円の投融資実行により、FCFはマイナスになっています。税効果を除くと、減損損失はキャッシュアウトに無関係な費用(損失)であるため、報道等で大きく報じられても、貸借対照表やキャッシュフロー計算書にまで及ぼす影響まで分析すると、意外にマイナス要素は限定されていることが分かるはずです。 一方で、業界2位に返り咲いた日産自動車は、前期と同水準のリース車両取得に1.4兆円の投資キャッシュ・アウト・フローを計上しているので、ホンダと利益水準が逆転した、と報じられても、現金収支という観点から、単純に当期純利益だけで収益性の評価はできないことが分かると思います。同じことは、通信業界の御三家、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクについても言えます。利益水準(横軸)は左程開きが無くても、現金収支(縦軸)には大きな開きがあることが分かると思います。これは、ソフトバンクがスプリントを中心とする通信設備への投資を拡大したことがあります。この数字も前年と同水準で、2期連続の大きなキャッシュアウトを伴う投資を実施していることが、将来のリターンとなって本当に帰ってくるかを精査する必要がある、ということが分かると思います。 これらは、新聞報道などで、利益額だけを目にして、単純に企業業績を評価することにはリスクがあることの証左です。本当に留意すべきなのは、第3象限に存在する企業群なのですよ! ⇒「(スクランブル)会計問題、身構える市場 「利益の質」で投資先選別」 ⇒「不適切会計の手段 -利益操作(8)将来の費用を前倒しする」 ⇒「不適切会計の手段 -キーメトリクスのトリック(1)企業財務分析者が気にすべき財務指標について」   ■ クリーンサープラスに疎い日本人!? 本来ならば、当期純利益という一会計期間の業績結果は、ストックとしての企業の財産(純資産)増加にストレートに効いてくるはずです。P/Lのボトムラインは、B/Sの純資産の増加額になる、この単純明快な相関関係を、「クリーンサープラス関係」といいます。 しかし、日本の会計基準や会計報告のフォーマットは、実質・形式共に、そうしたクリーンサープラス関係を会計初心者には分かりづらいものにしています。連結概念である、「親会社説」と「経済的単一体説」の対立、当期純利益から包括利益を通じて純資産増減につながるロジックは、会計初心者には理解しがたいものになっています。 ⇒「包括利益計算書を斬る(1)」 ⇒「包括利益計算書を斬る(2)」 ⇒「包括利益計算書を斬る(3)」 その昔は、株主還元と将来投資への配分のバランスを見るために、当期純利益をベースにした配当性向などを中心に分析していれば事足りました。しかし、東芝の減資に関する投稿でご説明した通り、配当可能額の算定には、一部、包括利益を構成する政策保有株式などの評価損益を考慮しないといけないため、包括利益計算書まで目配せする必要があります。ましてや、経済紙の記者が、「意味の乏しい包括利益」とコラムで書くなど、言語道断です! ⇒「(大機小機)長期投資のパフォーマンス評価 - 業績の評価期間の設定と包括利益について一言あり!」 ⇒「東芝、2000億円規模減資 累損圧縮、株主総会に付議」 はてさて、前置きが長くなりました。早速、前述の当期純利益ランキング登場企業の包括利益(厳密にいうと、当期純利益以外のその他の包括利益の発生額)と、当期純利益の相関をこちらも散布図で可視化してみましょう。 こちらは、いささか面白みに欠けますが、第1象限と第2象限にポジショングしている企業は存在しません。すなわち、当期純利益の上位20社、下位10社の中で、その他の包括利益がプラスになった企業は2016年3月期決算には存在しない、ということです。このことが意味するのは、個別企業(経営者)による経営努力の外で、大概のその他の包括利益の動向・トレンドが決まってしまう可能性が高いということです。 その他の包括利益の構成要素の代表選手を挙げますと、 ・有価証券評価損益(主に持ち合い株式、政策保有株式)→株式市況に左右される ・外貨換算調整勘定 →外国為替市場に左右される ・年金債務関係費用 →主に、市中金利(債券市場)を中心とした金融市場動向に左右される 多額の当期純利益を計上しながら、同時に日本一のその他包括損失を上げたトヨタ自動車の9000億円余りの内訳を見てみると、以下の通りです。 ・未実現有価証券評価損:3122億円 ・外貨換算調整額       :3954億円 ・年金債務調整額       :2092億円 (四捨五入差異あり) 散布図で、下方に位置する企業は、軒並み、海外投資を積極的に行っている企業群であり、その過半の損失は、為替換算調整額のマイナスに起因しています。ただし、日本郵政の6123億円の損失の大半は有価証券評価損:7843億円が占めていますが、、、 それゆえ、新聞記事では、「円安を支えに日産自動車や富士重工業が順位を上げた」と為替の恩恵を受けたと表現している箇所について、それは当期純利益までのお話し。本当の企業評価は純資産の増減。その増減に対して、両社共に、為替換算調整勘定は大きくマイナスなのになあ~、と心の中でつぶやきながら、事の本質を見抜こうと財務諸表を眺めるわけです。はい。 (注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します