ADワークス、新株予約権で増資 ライツ・イシュー 最大85億円調達 - 第三者割当増資との違いとは?

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■ ADワークス、ライツ・イシューで資金調達を図る真意とは?

経営管理会計トピック

敵対的買収への対抗策や、経営権の付与(移動)のため、「第三者割当増資」という会社側が選んだ相手にのみ新株出資の権利を与える手段が従来からありました。これは、既存株主の権利が希釈化するため(もともとそれが目的なのですが)、強い既存株主からの抵抗がありました。しかし、会社法改正と東京証券取引所の上場ルール改正により、日本でも「株主割当増資(ライツイシュー)」が可能になり、徐々に浸透してきています。

2017/7/13付 |日本経済新聞|朝刊 総会 ADワークス、新株予約権で増資 ライツ・イシュー 最大85億円調達

「投資用不動産を手掛けるエー・ディー・ワークスは、「ライツ・イシュー」と呼ばれる株主割当増資で最大85億円を調達する計画だ。12日時点の株主が新株予約権の割り当て対象となる。行使価格は39円。同日の株価は43円と行使価格を上回り、投資家は市場よりも割安に株式を手に入れやすい状況だ。」

(下記は同記事添付の「株主に追加出資を求める(ライツ・イシューの仕組み)」を引用)

20170713_株主に追加出資を求める(ライツ・イシューの仕組み)_日本経済新聞朝刊

同記事でのADワークスによるライツ・イシューに関する記事でこの資金調達方法の概要を確認したいと思います。

ちなみに、ADワークスは、積極的に株主の対話を実践している会社で、日本経済新聞にも何度か取り上げられています。

(参考)
⇒「ADワークス、個人株主を調査 「配当を重視」87% - 配当崇拝の誤りを正す! 配当は企業価値を毀損し、株主の利得を減らすだけ

ライツ・イシューの第三者割当増資との一番大きな違いは、既存株主に保有株数に応じて新株予約権を無償で割り当てるところです。今回、ADワークスの増資に応じる株主は7月13日から9月12日までに予約権を行使して現金を企業に払い込み、新株をもらうことになります。増資に応じない株主は9月5日までに市場で権利を売り、現金を受け取ることができます。この新株予約権は市場で売買され、既存株主以外の幅広い投資家がADワークスの意図する増資計画に参加することができます。

既存株主の割当増資に対する意思を尊重しつつ、ADワークス(発行企業体)側も当初目論んだ資金調達ができる一石二鳥な比較的新しい資金調達手段とまとめることができます。

ADワークスによる本件の特徴は以下の通り。

「国内では約30件のライツ・イシューが行われた。いずれも増資に応じてもらおうと、行使価格は株価より4~7割安く設定された。半面、希薄化の懸念から株価が下がり既存株主が損失を被るリスクもあった。ADワークスは行使価格を増資を決めた当時の株価からほぼ割引せず、増配など株主還元も拡充している。」

この辺の既存株主の損失の可能性について、次章からの制度解説で踏み込んでみたいと思います。

 

■ ライツ・イシューの制度概要とは?

● 定義
ライツイシュー(Rights issue)とは、「新株予約権無償割当」とも呼ばれ、株主割当増資による企業の増資方法の1手段で、ライツオファリングとも呼ばれます。公募増資に比べて既存株主が保有する株券の価値の希薄化が起こり難い仕組みになっています。

● 手続き
① 既存株主に対して、新株を買える権利(新株予約権=ライツ)を無償で割り当てる
② 増資に応じたい株主は予約権を行使して現金を払い新株を受け取ることができる
③ 増資に応じたくない株主は予約権市場でこの権利を売却して現金を受け取ることができる
④ 増資に応じたくない株主が放出した新株予約権は、市場で売買できる
(これにより、増資に応じない既存株主は新株予約権の売却益を手にすることができる)

● 制度対応
・2006年、会社法の改正が行われ、日本でもライツ・イシューによる増資が可能になった
・2009年、東証は上場可能な新株予約権は1ライツに対し1株以上という上場ルールを撤廃して端数の生じる予約権の上場を認めた
(なお、2014年7月頃、東京証券取引所は経営が悪化した企業による利用が急増したため、問題になっていた「ノンコミットメント型」(後述)について、増資の合理性が評価されるプロセスが必要との認識を示し、明らかに市場から評価されない経営成績の企業が発行する新株予約権は上場を認めないことを基準として定めることを現在検討中)

● 分類
ライツ・イシューは、一定期間に行使されなかった新株予約権の取り扱いにより、次の3類型に分けられる

① ノンコミットメント型
・一定期間中に行使されなかった新株予約権が失権(消滅)する
② パーシャルコミットメント型
・一定期間中に行使されなかった新株予約権のうち、一定個数を上限として全体の一部を特定の証券会社等の金融機関が引き受ける
③ (フル)コミットメント型
・一定期間中に行使されなかった新株予約権の全てを特定の証券会社等の金融機関が引き受ける

経営危機に瀕した企業がこのライツ・イシューを発行し、既存株主からいくばくかの資金調達を可能にし、一息つくと共に、増資に応じなかった株主も新株予約権の市中売却により、いくらかの資金回収が行えます。割を食うのは、大して価値の無い新株予約権を購入してしまった投資家。そうした詐欺とまでいかないまでも、発行企業体の経営状態について、より情報を把握していない投資家に悪影響が出る恐れがあり、上記にある通り、東証が言っている通り、規制をかけようとしているという所へとつながるのです。

 

■ 比較対象の第三者割当増資に対する規制について

第三者割当増資については、既存株主の権利の希釈化への対応から、

● 東京証券取引所
① 払込金額の算定根拠及びその具体的な内容(当取引所が必要と認める場合は、払込金額が割当先に特に有利でないことに係る適法性に関する監査役又は監査委員会の意見)の開示を義務付け
② 希釈化率が25%以上となるとき、又は、支配株主が異動するときは、経営陣から一定程度独立した者による第三者割当の必要性及び相当性に関する意見の入手を行った内容を開示

● 会社法
新株を「特に有利な価格」で発行するときは、会社の取締役は株主総会でその理由を開示して特別決議を経る必要がある

● 金融庁
有価証券届出書に、以下の内容を開示する
① 発行価格の算定根拠及び発行条件の合理性に関する考え方
② 大規模な第三者割当の必要性
③ 第三者割当増資の合理性や必要性に関する会社の判断
④ 第三者による評価を取得した場合は、その内容

日本では、1970年代から第三者割当増資が活発に利用されてきたのと対照的に、欧州では、このライツ・イシューが一般的に利用されてきました。欧州では既存株主の権利をより尊重した増資政策に配慮を示してきたと言われています。

 

■ ライツ・イシューのメリットとデメリットとは?

前章のように、第三者割当増資には、厳格な規制がかかっています。これらは、既存株主の権利の希釈化、経営権の移動といった既存株主の不利益が生じる可能性が高いことによる規制です。ライツ・イシューは、既存株主に対して新株予約権を株数に応じて発行するため、一義的にはこのような危険性は無い、と考えられています。では、全く問題が無い、打ち出の小槌のような資金調達手段なのでしょうか?

<メリット>
通常の株主割当増資とは異なり、ライツ・イシューでは、割り当てられた新株予約権を市場で売却できます。このため発行会社側は、失権株の数を少なく抑えることができる一方で、株主側は払い込みの権利を行使しなくても、新株予約権の売却でいくらかの資金回収が可能となります。ここでは、お互いにとって一見Win-Winのように見えるとしておきます。

しかし、予約権が発行されても購入者がこれを行使せずにいると、発行企業は資金を得られないのでその分の増資は行えません。そこで、さらに一定の期日に発行会社が未行使の新株予約権を取得できる取得条項を付しておき、証券会社などが会社の取得した新株予約権を譲り受けて全て行使するというスキーム(パーシャルコミットメント型、またはフルコミットメント型)にしておけば、株主による払い込みの割合にかかわらず、発行企業側にとっては、予定通りの金額を調達することができます。

<デメリットまたは留意点>
通常、公募が時価で行われるのに対し、ライツ・イシューであれば時価より低い価格で株式を取得できるので有利だという誤解があります。時価より低い価格で新株を発行すれば、ふつうは株価が下落するので、仮にライツ・イシューに既存株主が応じたとして、既存株主が発行決議時点の時価と発行価額の差額を享受できるわけではありません。

これは簡単な設例で理解できます。時価(または時価総額)が300円として、ライツ・イシューによる新株引受権が権利行使価格100円として、既存株主に無償で配布されたとします。既存株主は、300円の時価の株式を100円で新たに手に入れることができると考えるかもしれませんが、ここで従来の企業価値(増資前)が300円で不変としたならば、新たに増資された分の100円と足し算して、増資後は企業価値400円となります。すなわち、既存株主の持ち分が300円で、増資分が100円。2で割れば、200円。株主目線で言うと、ライツ・イシューに応じたからと言って、あぶく銭が手に入るわけではないのです。

ライツ・イシューが悪用される懸念も存在します。新株予約権の行使には現金が必要なため、零細な個人株主の行使率はかなり低くなるとも想定できます。それを見越して、新株予約権に取得条項を付しておき、発行会社が特定の投資ファンドなどに取得した未行使の予約権を一括売却すると、会社法の有利発行規制や東証の第三者割当増資規制を潜脱するような資金調達が可能になってしまいます。

発行企業としては、小手先の工夫に頼った資金調達策ではなく、中長期的な成長戦略をしっかり提示さえすれば、公募であれ第三者割当増資であれ、丁寧に説明することで既存株主(または投資家)の理解はきっと得られるはず。あくまで、ライツ・イシューはそうした財務担当者の選択肢を広げるものである、という立場は崩さない方がよいようです。

(参考)
新しい増資手段「ライツ・イシュー」に投資家が注意すべきポイント|保田隆明:神戸大学大学院経営学研究科准教授、昭和女子大学非常勤講師|DIAMOND Online
COLUMN-〔インサイト〕ライツ・イシューに死角はないか=野村総研・大崎氏|REUTERS ロイター

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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