決算番付(6)構造改革進む コスト比率、最低に 「減収でも増益」支える、2000年以降 事業の取捨選択で

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■ 2017年3月期決算の特徴は「減収増益」。導かれる答えはコスト削減による増益!

経営管理会計トピック

2017年3月期決算にまつわる各種財務分析ネタが紹介されていますが、対前年比較、時系列比較で、「率」指標の分析はちょっと注意が必要です。

2017/5/20付 |日本経済新聞|朝刊 減収でも最高益に 上場企業の前期、連結移行後で初 円高下、非製造業けん引

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「上場企業の2017年3月期の連結決算が19日、ほぼ出そろった。急ピッチで進んだ円高の影響で売上高は前の期に比べ3%減ったが、純利益は18%増えた。商社や通信など非製造業の健闘が目立ち、全体で2年ぶりに増益となり、過去最高を更新した。減収・最高益は連結決算が本格化した2000年代以降で初めて。最高益企業は全体の3割近くに上った。」

前期決算の特徴は「減収増益」。つまり、売上高は減少したのですが、利益が増えたということです。その意味するところは、売上高の減少率以上にコスト(原価や販管費など)の減少率の方が大きかったので、結果として利益が増えた、ということになります。

その傾向に真正面から挑んだ財務分析が、下記の連載記事「決算番付2017」の第6回のテーマでした。

2017/5/30付 |日本経済新聞|朝刊 決算番付(6)構造改革進む コスト比率、最低に 「減収でも増益」支える、2000年以降 事業の取捨選択で

「上場企業のコスト削減が進んでいる。売上高に対してコストが占める割合(コスト比率)を調べたところ、2017年3月期は90%と、連結決算が本格導入された00年以降で最低となった。事業の取捨選択などで本業の収益力が回復したところに、資源安などの追い風が重なり減収増益決算を支えた。」

(下記は同記事添付の「上場企業のコスト比率」を引用)

20170530_上場企業のコスト比率_日本経済新聞朝刊

売上高構成比率として、「売上高コスト比率」は2012年3月期から一貫して下がってきています。「売上高原価率」は同様の傾向を示していますが、「売上高販管費率」の方は、2015年3月期を底に、逆に上昇しています。これは、販管費率の上昇を呑み込むほどに、原価率の改善が上回ったことを示しています。

■ 売上高コスト比率の正しい分析方法とは?

下表は、同期に添付されていた、「売上原価率」「売上高販管費率」の改善に成功した企業番付になります。

(下記は同記事添付の「2017年3月期のコスト改善」を引用)

20170530_2017年3月期のコスト改善_日本経済新聞朝刊

番付に挙がった企業の財務状況を解説した記事がそのまま、この番付が表わそうとしている「コスト削減による増益効果」の説明として通るかどうか、確認してみたいと思います。

その前に、売上高コスト「率」の2時点間比較の注意点を明確にしておきたいと思います。売上高構成比率は、分子のコストの増減と、分母の売上高の増減のバランスによって、改善と悪化のベクトルが左右されます。

(1)売上減少 > コスト減少 → 売上高コスト比率は「悪化」
(2)売上減少 < コスト減少 → 売上高コスト比率は「改善」
(3)売上増加 かつ コスト減少 → 売上高コスト比率は「改善」
(4)売上増加 > コスト増加 → 売上高コスト比率は「改善」
(5)売上増加 < コスト増加 → 売上高コスト比率は「悪化」

つまり、

(1)は、「減収減益」
(2)は、「減収増益」← 2017年3月期の特徴はコレだと説明されている!
(3)(4)は、「増収増益」
(5)は、「増収減益」

となります。

「売上高コスト比率」の改善・悪化と、従来の「増収増益」「減収減益」といった決算概況報告とは、微妙にずれていることをまず頭に入れておかなければなりません。

そして、最も重要なのが、「売上高コスト比率」の改善が、「真水のコスト削減効果」なのか、「増収効果」でかさ増しされているのかを見極めることです。

経営管理会計トピック_正しい「売上高コスト比率」の前年対比方法

■ 番付で挙がった企業のコスト改善実力度を見極める!

前章で示したフレームワークで、本記事が取り上げた企業のコスト改善実力値を炙り出してみたいと思います。
(数字は各社の決算短信より。新聞記事の数字とは四捨五入差異あり)

20170603_2017年3月期_コスト改善

新聞記事より

● JR九州
「前の期に鉄道関連の資産を減損処理したため、減価償却費が大幅に減少」

営業収益が微増にもかかわらず、原価率が真水で▲8.9%となったのは、前期の減損処理が原因であることは、この分解図でも理解できます。多額の設備投資による資本集約的な固定費ビジネスなので、原価率が前年対比で著しく変動するのは、減損などのイベントがあるからこそです。

● シャープ
「前の期に3000人規模の希望退職を実施。人件費が下がったうえ、提携した鴻海(ホンハイ)精密工業の規模を生かした調達や物流コストの削減も寄与した」

減収(▲16.7%)以上に原価削減(▲25.2%)効果がありました。真水では、5600億円のコスト削減により、▲22.8%の売上原価率。これに減収効果を足すと、▲9.2%となる、と読みます。

● 京浜急行電鉄
「不採算だった不動産開発の整理にめどを付け、ともに原価率の改善幅上位に躍り出た」

JR九州と同業種ですので、大きな営業収益の変動はありません。原価構造が大きく動いたのは、シャープと同種の理由です。

その他、売上原価率の改善企業にリストアップされているのは、資源を海外から輸入している企業が目立ちます。資源安・円高が効いている証拠です。

では、販管費率に移ります。

● ヤフー
「ビッグデータの解析力を高めるため人件費が増えた。アマゾンや楽天などと競争の厳しい電子商取引(EC)事業を強化する狙いがある。それでも販管費の伸び以上に売上高が拡大したため、販管費率は前の期よりも下がった」

売上増減とコスト増減について、双方とも増加していますが、固定費増以上に営業収益の増加率が高いことから、逆に販管費率を下げることに成功しています。

販管費は、以下のような性格を持っています。
① 固定費なので、売上増減に比例的には変動しない
② 施策費なので、経営の意思により、増減はかなりドラスティックに操作できる

それゆえ、売上の変動と異なるベクトルで増減することが多い費目です。同業3社、スクウェア・エニックスHD、任天堂、セガサミーHDを比べてみてください。売上高販管費率の改善幅は、順に、2.8、2.6、2.6と大差ありませんが、

スクウェア・エニックスHD → 増収、増コスト
任天堂               → 減収、減コスト
セガサミーHD          → 増収、減コスト

と、三社三様です。

同業種でも、同時期に売上の増減のベクトルとコスト増減のベクトルがそれぞれ異なるのは、経営による業績管理の結果です。単純に、比率指標だけで、並べられても、その構成要素の分子分母の変化をそれぞれ把握しておかないと、企業業績を見誤ります。くわばら、くわばら。。。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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