コンサルタントの秘密 – 技術アドバイスの人間学(6)ラズベリージャムの法則 - 影響力の行使か富を手に入れるか2つに1つ

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■ 皿洗いコンサルタントのジレンマ

このシリーズは、G.W.ワインバーグ著『コンサルタントの秘密 - 技術アドバイスの人間学』の中から、筆者が実地で参考にしている法則・金言・原理を、筆者のつまらないコメントや経験談と共にご紹介するものです。

G.W.ワインバーグ氏の公式ホームページはこちら(英語)

ワインバーグ氏は、幼いころから、①人の手助けがしたい、②金持ちになりたい、という2つの目標を持っていたそうです。そして、それら2つの相矛盾する目標のバランスを取ろうとして、コンサルタントとしてもがき続けてきたそうです。どうしてその2つが矛盾する目標となるのでしょうか?

ワインバーグ氏が最初に手掛けた仕事(学生時代のアルバイト)のひとつが皿洗いだったそうです。皿洗いという仕事は仕事の対象に対する満足感を与えてくれるのにうってつけでした。お皿にこびりついたラズベリージャムやピーナッツバターからなる汚れをごしごしと一生懸命に落とせば、お皿もピカピカになるし、そのお皿を使う人もピカピカに磨かれたお皿で食事することに大満足します。つまり、直接的に仕事の出来栄えで評価され、結果を出したと認められ、それが職業上の満足感の本質的な部分となるのです。

ここに仮に皿洗いコンサルタントという仕事を想像してみてください。皿洗いコンサルタントでは、この種の直接的な満足感を得ることは決してできないでしょう。依頼主がガビガビにこびりついたピーナッツバターに大層困っていたとしたら、皿洗いコンサルタントは、汚れを落とす最良の方法をアドバイスしたり、時には改良された洗い方をお手本とばかり、やって見せたりします。

しかし、どれだけ皿洗いコンサルタントが努力を払っても、熱意をもって指導しても、結果として、ピーナッツバターを完全に洗い流すことに成功するとは限らないのです。なぜなら、教わったアイデア(改良されたピーナッツバターの落とし方)を実行に移すのは依頼主だからです。

つまり、皿洗いコンサルタントは、目の前のお皿から完全にピーナッツバターが落とされてきれいなお皿が仕上がるという直接的なやり遂げたという満足感を得る代わりに、世界中のぬるぬるやベタベタに対して、間接的ではあるものの、ずっと広範囲な影響力を及ぼすことができるのだということに満足感を覚えざるを得ないのです。

自分の手で完璧に100枚のお皿をきれいに洗うのに必要な時間があれば、同じ時間を使って、他の2人に自分がいなくてもお皿をきれいに洗うことができる秘訣を教えることができるのです。直接手を下してきれいなお皿を100枚用意した満足感と、自分とは別の2人が合計で200枚のきれいなお皿を用意できるように教え込んだ満足感が等価である、という意味なのです。コンサルタントの仕事に対する満足感は、直接手を下して得る満足感と比べて、“質で損した分を量で取り戻す”、ということから得るものなのです。

 

■ ラズベリージャムの法則

直接100枚のお皿を洗う皿洗いのお仕事。
皿洗いコンサルタントとして、2人に汚れを落とすのに効果的な方法をアドバイスする。
皿洗いトレーナーとして、20人からなる皿洗いワークショップを設計・運営する。
皿洗い講師として、数百人の受講者に汚れを落とすのに効果的な洗い方を講演する。
皿洗い実践法の著者として、汚れを落とすのに効果的な洗い方を記した著作を発表する。

賢明な皆さんは、より広範囲のより多数の人に影響を及ぼせることに比例して、直接的にお皿がきれいになる結果(及びそこから得られる満足感)からより遠ざかってしまうことを簡単に想像できるに違いありません。

それと同時に、収入面のことも考えてみましょう。
(注:下記は本書P11に記述されているワインバーグ氏の事例からなる数字です)

皿洗いの年収は、90万円。
(皿洗い)コンサルタントの年収は、300万円。
(皿洗い)トレーナーの年収は、500万円。
(皿洗い)講師の年収は、800万円。
(皿洗い)著者の年収は、1500万円。

皿洗いだけをして金持ちになった人は寡聞にして知りません。どれだけ、彼らが対象(お皿)に密着して、お皿がきれいになるという対象物への影響力を直接的に行使でき、きれいになったという結果を自分の手で得られる満足感をどれだけ多く得ていたとしても。それより、より多くの人に影響力を及ぼすことができる職業、より多くの人を相手にする仕事の方が稼げる金額は大きくなるということなのです。

これをワインバーグ氏流に表現すれば、

ラズベリージャムの法則

広げれば広げるほど薄くなるもの

ラズベリージャムの小瓶をとって、その中身をパンに塗ってみるがよい。ジャムを同時に厚くかつ広く塗ることと、永久機関を作ることは、同程度に難しいことなのである。

 

■ 「熱力学第一法則」または「エネルギー保存の法則」

物体を加熱すると、内部エネルギー(=分子のスピード=温度)が増加します。物体に仕事をしても、内部エネルギーが増加します。物体の内部エネルギーの増加分は、常に、その物体に与えた熱量と加えた仕事量の総和になります。これを熱力学第1法則、またはエネルギー保存の法則ともいいます。「孤立系のエネルギーの総量は変化しない」という物理学における保存則の一つです。

量を増やせば質が落ち、直接的満足を得ようとすれば、広範囲への影響力を減じなければならないジレンマ。

影響力か富か、二つに一つだ。

世界を変革し、そして同時に金持ちになりたいと望む人。人を助けることを目指し、同時により高い報酬を期待する人。そういう人には、この「熱力学第一法則」と同じくらい自明な「ラズベリージャムの法則」を受け入れざるを得ないのです。

より多くの人に自分の声を届けて、世界をよりよくしたい。そう志す人は皆、メガフォンでわめくかマイクロフォンで語りかけるか。弟子たちを訓練するか教会を作るか。一つのクラス相手に教え込むか大学を設立するか。

そういった誰か他の人たちへのコミュニケーション手段は、伝えたいメッセージを分厚くするのに全く役に立たないのです。直接指導してやれば、間違いも指摘し、場合によってはその人に最もふさわしい応用方法を覚らせることもできるかもしれません。しかし、もっと大勢を相手にする場合は、動画や音声、テキストで一方通行的に「教え」を伝えるだけで、本当に受信側がこちらの意図したとおりに行動して、こちらが想定する結果を出すとは限らないのです。

ワインバーグ氏の「ラズベリージャムの法則」に着想を得て、私独自のコンサルタント経験から、次のトリレンマをご紹介。

「達成感と影響力と収入のトリレンマ」

・仕事から直接的な達成感を得るためには、自分でその仕事を手掛けるしかない。職人として一人前の仕事量から得られる収入はせいぜい一流の職人への報酬が限度であり、一人前の作品を残すことでしか世界に影響を及ぼすことができない

・より多くの人たちに影響力を及ぼせるような指導をする職業を選べば、対象人数に比例して報酬は上がる。ただし、一つ一つの仕事の出来栄えからは距離が空き、達成感が反比例して著しく減少する

・高収入を目指してより多くの人に影響を及ぼす職種(大組織を率いる管理職など)に就けば、彼らの仕事に直接手を下すことはできなくなり、一つ一つの仕事から達成感を得るチャンスが永久的に失われる。

私自身にとって、経営コンサルタントの職業というのは、このトリレンマの微妙なバランスの上に立って、自分が興味をもって磨いたスキルと新たに獲得した知識を生かして世の中に貢献しているという満足感を勝ち取れる、かろうじて保持している立ち位置に過ぎないのです。(^^;)

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