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■ 資生堂、ライオン、ユニ・チャームの三社連合が成立する条件とは?

経営管理会計トピック

本稿は、日用品を取り扱う4社の販売戦略を取り上げます。トップを走る花王に対し、それぞれのカテゴリーで勝負を挑む、資生堂、ライオン、ユニ・チャームが小異を捨てて大同につき、日本市場における売り場づくりを協働で花王に対抗する作戦に出ました。

2016/10/4付 |日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)巨人・花王に対抗軸 資生堂 ユニ・チャーム ライオン 売り場づくり提携 国内頭打ち、独走阻む

「資生堂、ユニ・チャーム、ライオンの3社が販売面での提携に踏み切った。ライバル関係にある日用品・化粧品メーカー大手が手を組むのは異例だ。背景には6期連続で増収増益を続ける花王の存在がある。製品を置いてもらう小売店の売り場づくりを支援するという地味な分野での協業だが、日ごろの競争関係を超え、巨人・花王への対抗軸を結成する狙いがある。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は、三社のロゴ 日本経済新聞2016/10/3記事より引用)

20161003_ライオン、資生堂、ユニ・チャームのロゴ_日本経済新聞朝刊

まず、報道にある共同戦線の内容を吟味する前に、花王と三社連合の売上規模について確認したいと思います。4社の2015年12月度決算から、有価証券報告書上の事業セグメント情報から対比グラフを作成しました。

花王のセグメント区分は次の通り。

20161010_花王_事業セグメント

ビューティケア事業は、主に化粧品を取り扱っているので、資生堂と対比、
ヒューマンヘルスケア事業は、主にサニタリー製品を取り扱っているので、ユニ・チャームと対比、
ファブリック&ホームケア事業は、洗剤を取り扱っているので、ライオンと対比させると、2015年度の売上高(国内外すべてを含む)対比グラフが下記のようになります。

20161010_日用品売上高比較_FY2015

確かに、3社連合でちょうど花王と規模的に拮抗または少々上回ることができそうです。これで、ボリューム(大量生産によるコストメリット、シェア)の点で、3社連合の必然性はある程度理解できました。しかし、大事なのはどこで戦うか、どうやって競うかです。できるだけ、新聞報道で公になっている材料だけで3社連合の意図を汲み取っていきたいと思います。

 

■ 資生堂、ライオン、ユニ・チャームの三社が目指す勝てる売り場づくりの協力

まずは、共同戦線を張るためのスキームについて見ていきます。

資生堂子会社のJRI(ジャパンリテールイノベーション)の株式を20%ずつユニ・チャームとライオンに譲渡し、JRIを共同出資会社とします。

(下記は、同記事添付の「ライバル3社が組み売り場を変える」を引用)

20161004_ライバル3社が組み売り場を変える_日本経済新聞朝刊

JRIの概要は、資生堂のプレスリリースから、
「店頭メンテナンスの効率化を目的に、資生堂と株式会社電通リテールマーケティングの共同出資により2013年7月に設立されました。シーズン毎の棚替え、商品の清掃などの店頭メンテナンスや、商品の売れ行き動向などの情報収集、商品情報の小売店への案内などの店舗への訪問業務を、資生堂を中心とした複数のメーカーから委託されています。スタッフの丁寧な店頭メンテナンスが複数のメーカーから高い評価を得ています。」

JRIにおける共同戦線から得られる果実は、同プレスリリースから、

①効率的な店頭メンテナンス
3社とジャパンリテールイノベーションが持つノウハウを活用したスタッフが各社の商品を同時に陳列・メンテナンス作業することで、より効率性の高い活動展開が実現できます。店頭でのメーカー競争力、多様化する流通環境での小売店の売り場活性化に貢献します。

②生活者にとって魅力のあふれる売り場づくり
異なるカテゴリーの商品を関連付けた売り場の提案を通じて、生活者のライフスタイルに密着したプロモーションの実現や、同一カテゴリー商品を共同で陳列してアイキャッチ効果を高めるなど、関連陳列による消費を喚起する売り場の提案が可能となります。

③売り場に関するデータ収集と分析
店頭で得られた売り場に関するデータを、商品カテゴリーを超えて分析することで、生活者のライフスタイルや購買行動、商品選択についての幅広い知見を獲得します。

(下記は同記事添付の「売り場づくりをメーカーの提案に頼る傾向が強い」を引用)

20161004_売り場づくりをメーカーの提案に頼る傾向が強い_日本経済新聞朝刊

先ずは、販売競争力が高い売り場づくりで提携ということですが、もう少しその戦略を深堀りしていきたいと思います。

 

■ どうして小売り支援から共同戦線を張ることを選択したのか?

下記は、日用品4社の今回のテーマに絞ったバリューチェーン(概要版)です。

経営管理会計トピック_日用品4社のバリューチェーン

3社とも、商品企画と製造は自社リソースで行い、現時点では、小売店舗への配送や卸売り機能も個社別々で、小売現場の販売促進支援機能の共通化、商流の一番最後である消費者との接点から共同化を始めました。

その狙いは、

(1)花王の強力な卸売機能への対抗策
花王は傘下に「花王カスタマーマーケティング」という販社を持ち、卸売り機能も有し、小売店に対して、強力な価格交渉権を有しています。さらに、今年1月には傘下のカネボウ化粧品と別々だった販社機能も統合させ、その交渉力をますます強化させました。これに価格面で対抗するには、商品バリエーションを広げ、取扱いボリュームを大きくする必要があります。

(2)魅力的な陳列棚作りで対抗
3社は日用品で競合するライバルですが、得意分野はそれぞれ異なります。資生堂は化粧品、ユニ・チャームは紙おむつ、ライオンは洗剤や歯磨き製品のシェアが高く、バリエーションで相乗効果が見込めます。このため、
 ① 同じカテゴリーの製品を一緒に並べ目立つようにして消費意欲を喚起する
 ② 販売データを分析し、店頭に置く製品の組み合わせや仕入れに生かしてもらう
といった魅力ある売り場づくりに単独提案より効果的な提案を行うことができるはずです。特に、ドラッグストアはメーカーの売り場づくり力に依存する傾向が強いそうです。

(3)販売データを分析して商品企画に活かす
販促物の管理や店頭での販売動向を把握することで、価格弾力性や特売・広告効果を分析するデータをより広範に取得することができます。さらに、売り場や商品ごとの販売データを入手することで、地域特性に合わせた販促策を練ることや、新商品開発の元ネタとして有効活用できるようになります。いわゆるベタなビッグデータ解析による、、、というやつです。

 

■ 小売り支援から共同戦線を張ることが次のステージでどこに効いてくるか?

前章までは、直接的な効果発現を狙った理由を探ってきました。ここからは、少々迂遠かもしれませんが、間接的・究極的な狙いもあるのではと邪推レベルでの分析になります。

(4)将来の卸売・共同配送機能の統合・合理化の準備
小売現場での支援体制を共同化するということは、各メーカーの工場で生産された製品をより効率的に、欠品ロスや配送ミスを無くし、物流コストの低減も視野に入れて販売物流機能の統合も視野に入ると筆者は考えています。各種環境規制(配送時のCO2排出規制等)や交通渋滞解消、自動運転技術の積極的採用など、共同配送のメリットは大きなものがあります。

(5)飽和している国内市場での過当競争の回避
少子高齢化の影響により、日用品の消費が日本国内で爆発的に増加することは無くなりました。高機能や新機能の追加でヒット商品がこれまで通り、世に出し続けていけると思いますが、その製品寿命も相対的に短くなり、そうなると商品開発コストがかさみ、国内販売での旨味(儲け、マージン)も少なくなります。それゆえ、各社とも、社内に抱えている有能なマーケティングや商品企画の担当者のエネルギーを海外市場、それも成長著しいBOP市場というボリュームボーンを狙っていくことは、理に適っています。

それゆえ、国内の競争を鎮火させ、できるだけコストがかからないように、共同出資会社による売り場メンテナンスを進めて、先行投資を海外のマーケット開発に振り向ける、その先兵となるのが今回の共同戦線の真意、そのように考えています。各社とも、本当の競争市場は、日本人の体質に比較的違いアジア市場に既に目がいっている、そう思うのであります。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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資生堂・ライオン・ユニチャームの三社連合対花王の売り場づくり競争の真意とは?http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読むBOP市場,バリューチェーン,ユニ・チャーム,ライオン,共同配送,花王,資生堂■ 資生堂、ライオン、ユニ・チャームの三社連合が成立する条件とは? 本稿は、日用品を取り扱う4社の販売戦略を取り上げます。トップを走る花王に対し、それぞれのカテゴリーで勝負を挑む、資生堂、ライオン、ユニ・チャームが小異を捨てて大同につき、日本市場における売り場づくりを協働で花王に対抗する作戦に出ました。 2016/10/4付 |日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)巨人・花王に対抗軸 資生堂 ユニ・チャーム ライオン 売り場づくり提携 国内頭打ち、独走阻む 「資生堂、ユニ・チャーム、ライオンの3社が販売面での提携に踏み切った。ライバル関係にある日用品・化粧品メーカー大手が手を組むのは異例だ。背景には6期連続で増収増益を続ける花王の存在がある。製品を置いてもらう小売店の売り場づくりを支援するという地味な分野での協業だが、日ごろの競争関係を超え、巨人・花王への対抗軸を結成する狙いがある。」 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます (下記は、三社のロゴ 日本経済新聞2016/10/3記事より引用) まず、報道にある共同戦線の内容を吟味する前に、花王と三社連合の売上規模について確認したいと思います。4社の2015年12月度決算から、有価証券報告書上の事業セグメント情報から対比グラフを作成しました。 花王のセグメント区分は次の通り。 ビューティケア事業は、主に化粧品を取り扱っているので、資生堂と対比、 ヒューマンヘルスケア事業は、主にサニタリー製品を取り扱っているので、ユニ・チャームと対比、 ファブリック&ホームケア事業は、洗剤を取り扱っているので、ライオンと対比させると、2015年度の売上高(国内外すべてを含む)対比グラフが下記のようになります。 確かに、3社連合でちょうど花王と規模的に拮抗または少々上回ることができそうです。これで、ボリューム(大量生産によるコストメリット、シェア)の点で、3社連合の必然性はある程度理解できました。しかし、大事なのはどこで戦うか、どうやって競うかです。できるだけ、新聞報道で公になっている材料だけで3社連合の意図を汲み取っていきたいと思います。   ■ 資生堂、ライオン、ユニ・チャームの三社が目指す勝てる売り場づくりの協力 まずは、共同戦線を張るためのスキームについて見ていきます。 資生堂子会社のJRI(ジャパンリテールイノベーション)の株式を20%ずつユニ・チャームとライオンに譲渡し、JRIを共同出資会社とします。 (下記は、同記事添付の「ライバル3社が組み売り場を変える」を引用) JRIの概要は、資生堂のプレスリリースから、 「店頭メンテナンスの効率化を目的に、資生堂と株式会社電通リテールマーケティングの共同出資により2013年7月に設立されました。シーズン毎の棚替え、商品の清掃などの店頭メンテナンスや、商品の売れ行き動向などの情報収集、商品情報の小売店への案内などの店舗への訪問業務を、資生堂を中心とした複数のメーカーから委託されています。スタッフの丁寧な店頭メンテナンスが複数のメーカーから高い評価を得ています。」 JRIにおける共同戦線から得られる果実は、同プレスリリースから、 ①効率的な店頭メンテナンス 3社とジャパンリテールイノベーションが持つノウハウを活用したスタッフが各社の商品を同時に陳列・メンテナンス作業することで、より効率性の高い活動展開が実現できます。店頭でのメーカー競争力、多様化する流通環境での小売店の売り場活性化に貢献します。 ②生活者にとって魅力のあふれる売り場づくり 異なるカテゴリーの商品を関連付けた売り場の提案を通じて、生活者のライフスタイルに密着したプロモーションの実現や、同一カテゴリー商品を共同で陳列してアイキャッチ効果を高めるなど、関連陳列による消費を喚起する売り場の提案が可能となります。 ③売り場に関するデータ収集と分析 店頭で得られた売り場に関するデータを、商品カテゴリーを超えて分析することで、生活者のライフスタイルや購買行動、商品選択についての幅広い知見を獲得します。 (下記は同記事添付の「売り場づくりをメーカーの提案に頼る傾向が強い」を引用) 先ずは、販売競争力が高い売り場づくりで提携ということですが、もう少しその戦略を深堀りしていきたいと思います。   ■ どうして小売り支援から共同戦線を張ることを選択したのか? 下記は、日用品4社の今回のテーマに絞ったバリューチェーン(概要版)です。 3社とも、商品企画と製造は自社リソースで行い、現時点では、小売店舗への配送や卸売り機能も個社別々で、小売現場の販売促進支援機能の共通化、商流の一番最後である消費者との接点から共同化を始めました。 その狙いは、 (1)花王の強力な卸売機能への対抗策 花王は傘下に「花王カスタマーマーケティング」という販社を持ち、卸売り機能も有し、小売店に対して、強力な価格交渉権を有しています。さらに、今年1月には傘下のカネボウ化粧品と別々だった販社機能も統合させ、その交渉力をますます強化させました。これに価格面で対抗するには、商品バリエーションを広げ、取扱いボリュームを大きくする必要があります。 (2)魅力的な陳列棚作りで対抗 3社は日用品で競合するライバルですが、得意分野はそれぞれ異なります。資生堂は化粧品、ユニ・チャームは紙おむつ、ライオンは洗剤や歯磨き製品のシェアが高く、バリエーションで相乗効果が見込めます。このため、  ① 同じカテゴリーの製品を一緒に並べ目立つようにして消費意欲を喚起する  ② 販売データを分析し、店頭に置く製品の組み合わせや仕入れに生かしてもらう といった魅力ある売り場づくりに単独提案より効果的な提案を行うことができるはずです。特に、ドラッグストアはメーカーの売り場づくり力に依存する傾向が強いそうです。 (3)販売データを分析して商品企画に活かす 販促物の管理や店頭での販売動向を把握することで、価格弾力性や特売・広告効果を分析するデータをより広範に取得することができます。さらに、売り場や商品ごとの販売データを入手することで、地域特性に合わせた販促策を練ることや、新商品開発の元ネタとして有効活用できるようになります。いわゆるベタなビッグデータ解析による、、、というやつです。   ■ 小売り支援から共同戦線を張ることが次のステージでどこに効いてくるか? 前章までは、直接的な効果発現を狙った理由を探ってきました。ここからは、少々迂遠かもしれませんが、間接的・究極的な狙いもあるのではと邪推レベルでの分析になります。 (4)将来の卸売・共同配送機能の統合・合理化の準備 小売現場での支援体制を共同化するということは、各メーカーの工場で生産された製品をより効率的に、欠品ロスや配送ミスを無くし、物流コストの低減も視野に入れて販売物流機能の統合も視野に入ると筆者は考えています。各種環境規制(配送時のCO2排出規制等)や交通渋滞解消、自動運転技術の積極的採用など、共同配送のメリットは大きなものがあります。 (5)飽和している国内市場での過当競争の回避 少子高齢化の影響により、日用品の消費が日本国内で爆発的に増加することは無くなりました。高機能や新機能の追加でヒット商品がこれまで通り、世に出し続けていけると思いますが、その製品寿命も相対的に短くなり、そうなると商品開発コストがかさみ、国内販売での旨味(儲け、マージン)も少なくなります。それゆえ、各社とも、社内に抱えている有能なマーケティングや商品企画の担当者のエネルギーを海外市場、それも成長著しいBOP市場というボリュームボーンを狙っていくことは、理に適っています。 それゆえ、国内の競争を鎮火させ、できるだけコストがかからないように、共同出資会社による売り場メンテナンスを進めて、先行投資を海外のマーケット開発に振り向ける、その先兵となるのが今回の共同戦線の真意、そのように考えています。各社とも、本当の競争市場は、日本人の体質に比較的違いアジア市場に既に目がいっている、そう思うのであります。 (注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します