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■ 一転して自動車保険料の値下げまたは据え置きの動きの背景

経営管理会計トピック

損害保険大手各社は、ここ数年来の保険料絵上げ効果により軒並み好決算の模様です。しかし、ここにきて、損保ジャパン日本興亜が、自動車保険料の値下げに踏み切り、新規顧客開拓と既存顧客のつなぎとめ(契約更新時に切り替える顧客対応)を画策しているようです。

2015/5/11|日本経済新聞|朝刊 損保ジャパン日本興亜、自動車保険料下げ 11年半ぶり 競争激化で

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「損害保険ジャパン日本興亜は自動車保険料を10月から平均で0.2%引き下げる方針を固めた。引き下げは約11年半ぶり。ここ数年の値上げ効果で自動車保険(総合・経済面きょうのことば)の収支が改善したのが大きい。若者の「車離れ」や割安なインターネット損保との競争もにらみ顧客のつなぎ留めをめざす。東京海上日動火災保険など他の大手損害保険会社も保険料を据え置く計画だ。」

(以下、同記事で掲載された図表:各社の自動車保険料の推移)

経営管理会計トピック_自動車保険料の推移_日本経済新聞朝刊2015年5月11日掲載

今回、大手各社が値下げまたは据え置きの方向性を出したのは、新聞記事によると、

「背景の一つは自動車保険の採算改善だ。保険料収入で経費と保険金支払額をどの程度まかなえているかを示す指標をみると大手3社は14年3月期にそろって黒字となり、その後も改善が続く。
 割高な保険料は若者などの「車離れ」の一因とされる。保険料が割安なインターネット損保の台頭など競争環境も厳しいなか値上げを続ければ顧客の離反を招きかねないと各社は判断した。」

とあり、近年の保険料値上げによる収支改善と、新興ネット保険会社との競争激化への対応を主な理由としています。新興ネット保険会社との価格競争優位競争については、ネット保険各社は、徹底した販売効率の追求(名前の通り、ネットによる拡販・受付業務の効率化、商品設計から決済までをカバー)により、間接費負担率が決定的に異なるため、従来の大手は、どうしても対面サービスの充実で競争せざるを得ない状況でありました。

 

■ 「テレマティクス保険商品」の登場による自動車保険の商品設計の進化

さらに、インターネット技術が、新興ネット保険会社の間接費(販売コスト)の低下だけでなく、広く業界一般における保険商品設計上にも大きく影響しており、従来の方法とは異なるアプローチで、ターゲット顧客に対する保険料の値下げを可能にしています。

2015/5/9|日本経済新聞|朝刊 自動車保険、安全運転で安く アプリ使いデータ分析

「自動車の走行距離や運転状況で保険料が変わる新型の自動車保険が続々と登場している。運転データから交通事故が起きるリスクを分析し、保険料率の算定に反映させる仕組みだ。損害保険ジャパン日本興亜が3月から扱い始めたほか、あいおいニッセイ同和損害保険も4月に新商品を発売した。ドライバーに安全運転を促し、交通事故を減らす効果も期待される。」

こうした新保険商品の開発には、インターネット技術の進歩というか、取り込みが大きく影響しています。

「通信機能を持つ端末を自動車に載せ、運転データを基に保険料が決まる商品は「テレマティクス保険」と呼ばれる。欧米で先行した保険で、自動車保険に占める契約件数は5%前後にとどまるが、2020年には約3割まで高まるとの予測がある。」

(以下、同記事で掲載された図表:各社のテレマティクス保険商品)

経営管理会計トピック_テレマティクス保険商品_日本経済新聞朝刊2015年5月9日掲載

1.つながる自動車保険(あいおいニッセイ同和損保)
トヨタ自動車の新しいナビゲーションシステムを搭載した車が対象になり、実際の走行距離を基に保険料を割り引きます。1カ月の走行距離が1000キロメートル以内にとどまれば、走行分に応じて決まる部分の保険料が1キロメートル単位で安くなるという商品です。クルマに搭載されたカーナビゲーションから、スマートフォン等またはDCMを通じて取得した車両運行情報を元に計算されます。
⇒「つながる自動車保険

2.やさしい運転キャッシュバック型(ソニー損害保険)
まず、保険対象者の運転技術を点数化する。急発進や急ブレーキが少ないほど点数が上がり、最上位の評価を受ければ、保険料の最大20%分を現金で還元します。これは、加速度計が付いていると思わしき「ドライブカウンタ」という端末がソニー損保から郵送されてくるので、ご自身の乗用する車に設置します(特別な取り付け工事は不要)。
⇒「やさしい運転キャッシュバック型

法人向けにも商品が登場しています。

3.スマイリングロード(損保ジャパン日本興亜)
東芝が開発したドライブレコーダーを活用します。端末利用料として月額1800円が必要ですが、全車両にレコーダーを搭載する企業を対象に保険料を一律5%下げます。
⇒「スマイリングロード(損保ジャパン日本興亜)

GPS(全地球測位システム)受信機と加速度センサー、カメラ、3G通信機能を備え、ここから取得した車両の走行データを損害保険ジャパン日本興亜のデータセンターへと送信します。
運転者本人は診断結果をスマートフォンアプリで確認でき、運行管理者には電子メールで通知します。明らかに危険な運転操作を行ったり、衝撃を検知したりした場合は、その瞬間の画像や場所が即時に管理者に配信され、状況判断に役立てることができます。こちらは、双方向のデータ送受信となります。
⇒「スマイリングロード(東芝)

4.スマNavi(三井住友海上火災保険)
スマートフォン(スマホ)の専用アプリを利用します。契約企業の社員が持つスマホから、運転時のデータを三井住友海上のサーバーに送信し、「加速や減速の安定性」「車体のふらつき」など5項目から安全度を診断します。最も高い評価を受けた企業は次回契約で保険料が最大6%安くなる仕組みです。
⇒「スマNavi

 

■ 「テレマティクス」の最終到達点は何処に?

ここまで、クルマ(の走行データ)をネットにつなげて、インディビジュアルなデータ処理をしてしまう、「IoT」活用のビジネスモデルの好例をご紹介いたしました。

今後、このビジネスモデルの最終到達点はどこか、筆者は既に予想しています。「カーシェア」が今まで以上に進み、「クラウド」と同様に、「所有」モデルから「利用」モデルに自動車もシフトすることが予想されます。

お気に入りの空間での移動時間を楽しむ人はこれまで通り、個人で「カスタマイズ」した「所有」されたクルマを使って移動し続けるでしょう。しかし、より快適により早く、より安全に移動したいヒトは、「ITS」と一体となった「公共交通機関」と化した「シェアカー」による移動を選択するようになるでしょう。

その場合、「クルマ」もネットにつながり、「運転者」の個人情報もネットにつながり、「モノ」と「ヒト」と「移動情報」が三位一体となって、最適で安全かつ移動サービスを提供することになります。現在は、「ヒト」だけの属性として「自動車保険」が提供されていますが、今後は、「移動単位」で自動車保険が自動選択される時代になると思われます。自宅から行楽地に、最短で移動する時はA社の保険、行楽地から家族で夕飯を楽しむための飲食店を経由しての帰り道は、別のシェアカーに乗車。その際にはB社の保険が適用される、といった風に。

「ヒト」の移動情報が常に捕捉される時代。いやあ、家族に黙って悪所に立ち寄るわけにはいかなくなりますね。全て家人にバレバレになってしまいます。その場合は、秘密移動(隠密行動)をお金で買うことになるでしょう。こう想像をめぐらしていると、背筋がぞっとしてきました。(^^;)

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0255_損保ジャパン日本興亜、自動車保険料下げ 11年半ぶり 競争激化でhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭テクノロジーIOT,あいおいニッセイ同和損害保険,ソニー損害保険,テレマティクス,三井住友海上火災保険,損保ジャパン日本興亜,東京海上日動火災保険,自動車保険■ 一転して自動車保険料の値下げまたは据え置きの動きの背景 損害保険大手各社は、ここ数年来の保険料絵上げ効果により軒並み好決算の模様です。しかし、ここにきて、損保ジャパン日本興亜が、自動車保険料の値下げに踏み切り、新規顧客開拓と既存顧客のつなぎとめ(契約更新時に切り替える顧客対応)を画策しているようです。 2015/5/11|日本経済新聞|朝刊 損保ジャパン日本興亜、自動車保険料下げ 11年半ぶり 競争激化で (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「損害保険ジャパン日本興亜は自動車保険料を10月から平均で0.2%引き下げる方針を固めた。引き下げは約11年半ぶり。ここ数年の値上げ効果で自動車保険(総合・経済面きょうのことば)の収支が改善したのが大きい。若者の「車離れ」や割安なインターネット損保との競争もにらみ顧客のつなぎ留めをめざす。東京海上日動火災保険など他の大手損害保険会社も保険料を据え置く計画だ。」 (以下、同記事で掲載された図表:各社の自動車保険料の推移) 今回、大手各社が値下げまたは据え置きの方向性を出したのは、新聞記事によると、 「背景の一つは自動車保険の採算改善だ。保険料収入で経費と保険金支払額をどの程度まかなえているかを示す指標をみると大手3社は14年3月期にそろって黒字となり、その後も改善が続く。  割高な保険料は若者などの「車離れ」の一因とされる。保険料が割安なインターネット損保の台頭など競争環境も厳しいなか値上げを続ければ顧客の離反を招きかねないと各社は判断した。」 とあり、近年の保険料値上げによる収支改善と、新興ネット保険会社との競争激化への対応を主な理由としています。新興ネット保険会社との価格競争優位競争については、ネット保険各社は、徹底した販売効率の追求(名前の通り、ネットによる拡販・受付業務の効率化、商品設計から決済までをカバー)により、間接費負担率が決定的に異なるため、従来の大手は、どうしても対面サービスの充実で競争せざるを得ない状況でありました。   ■ 「テレマティクス保険商品」の登場による自動車保険の商品設計の進化 さらに、インターネット技術が、新興ネット保険会社の間接費(販売コスト)の低下だけでなく、広く業界一般における保険商品設計上にも大きく影響しており、従来の方法とは異なるアプローチで、ターゲット顧客に対する保険料の値下げを可能にしています。 2015/5/9|日本経済新聞|朝刊 自動車保険、安全運転で安く アプリ使いデータ分析 「自動車の走行距離や運転状況で保険料が変わる新型の自動車保険が続々と登場している。運転データから交通事故が起きるリスクを分析し、保険料率の算定に反映させる仕組みだ。損害保険ジャパン日本興亜が3月から扱い始めたほか、あいおいニッセイ同和損害保険も4月に新商品を発売した。ドライバーに安全運転を促し、交通事故を減らす効果も期待される。」 こうした新保険商品の開発には、インターネット技術の進歩というか、取り込みが大きく影響しています。 「通信機能を持つ端末を自動車に載せ、運転データを基に保険料が決まる商品は「テレマティクス保険」と呼ばれる。欧米で先行した保険で、自動車保険に占める契約件数は5%前後にとどまるが、2020年には約3割まで高まるとの予測がある。」 (以下、同記事で掲載された図表:各社のテレマティクス保険商品) 1.つながる自動車保険(あいおいニッセイ同和損保) トヨタ自動車の新しいナビゲーションシステムを搭載した車が対象になり、実際の走行距離を基に保険料を割り引きます。1カ月の走行距離が1000キロメートル以内にとどまれば、走行分に応じて決まる部分の保険料が1キロメートル単位で安くなるという商品です。クルマに搭載されたカーナビゲーションから、スマートフォン等またはDCMを通じて取得した車両運行情報を元に計算されます。 ⇒「つながる自動車保険」 2.やさしい運転キャッシュバック型(ソニー損害保険) まず、保険対象者の運転技術を点数化する。急発進や急ブレーキが少ないほど点数が上がり、最上位の評価を受ければ、保険料の最大20%分を現金で還元します。これは、加速度計が付いていると思わしき「ドライブカウンタ」という端末がソニー損保から郵送されてくるので、ご自身の乗用する車に設置します(特別な取り付け工事は不要)。 ⇒「やさしい運転キャッシュバック型」 法人向けにも商品が登場しています。 3.スマイリングロード(損保ジャパン日本興亜) 東芝が開発したドライブレコーダーを活用します。端末利用料として月額1800円が必要ですが、全車両にレコーダーを搭載する企業を対象に保険料を一律5%下げます。 ⇒「スマイリングロード(損保ジャパン日本興亜)」 GPS(全地球測位システム)受信機と加速度センサー、カメラ、3G通信機能を備え、ここから取得した車両の走行データを損害保険ジャパン日本興亜のデータセンターへと送信します。 運転者本人は診断結果をスマートフォンアプリで確認でき、運行管理者には電子メールで通知します。明らかに危険な運転操作を行ったり、衝撃を検知したりした場合は、その瞬間の画像や場所が即時に管理者に配信され、状況判断に役立てることができます。こちらは、双方向のデータ送受信となります。 ⇒「スマイリングロード(東芝)」 4.スマNavi(三井住友海上火災保険) スマートフォン(スマホ)の専用アプリを利用します。契約企業の社員が持つスマホから、運転時のデータを三井住友海上のサーバーに送信し、「加速や減速の安定性」「車体のふらつき」など5項目から安全度を診断します。最も高い評価を受けた企業は次回契約で保険料が最大6%安くなる仕組みです。 ⇒「スマNavi」   ■ 「テレマティクス」の最終到達点は何処に? ここまで、クルマ(の走行データ)をネットにつなげて、インディビジュアルなデータ処理をしてしまう、「IoT」活用のビジネスモデルの好例をご紹介いたしました。 今後、このビジネスモデルの最終到達点はどこか、筆者は既に予想しています。「カーシェア」が今まで以上に進み、「クラウド」と同様に、「所有」モデルから「利用」モデルに自動車もシフトすることが予想されます。 お気に入りの空間での移動時間を楽しむ人はこれまで通り、個人で「カスタマイズ」した「所有」されたクルマを使って移動し続けるでしょう。しかし、より快適により早く、より安全に移動したいヒトは、「ITS」と一体となった「公共交通機関」と化した「シェアカー」による移動を選択するようになるでしょう。 その場合、「クルマ」もネットにつながり、「運転者」の個人情報もネットにつながり、「モノ」と「ヒト」と「移動情報」が三位一体となって、最適で安全かつ移動サービスを提供することになります。現在は、「ヒト」だけの属性として「自動車保険」が提供されていますが、今後は、「移動単位」で自動車保険が自動選択される時代になると思われます。自宅から行楽地に、最短で移動する時はA社の保険、行楽地から家族で夕飯を楽しむための飲食店を経由しての帰り道は、別のシェアカーに乗車。その際にはB社の保険が適用される、といった風に。 「ヒト」の移動情報が常に捕捉される時代。いやあ、家族に黙って悪所に立ち寄るわけにはいかなくなりますね。全て家人にバレバレになってしまいます。その場合は、秘密移動(隠密行動)をお金で買うことになるでしょう。こう想像をめぐらしていると、背筋がぞっとしてきました。(^^;)現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します