ビジネスモデルケース(1)ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB) - 民間委託報酬の成果連動 三井住友銀行・神戸市

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■ 「ビジネスモデル」分析の連載の始めるにあたって

ビジネスモデルについて解説をする人たち、ビジネスモデル論者には、筆者の経験則から3タイプあると考えています。

① フレームワーク至上主義者
② モデリング至上主義者
③ ビジネスケース至上主義者

⇒「ビジネスモデル入門(1)ビジネスモデルの教科書の読み方① フレームワークが先かビジネスケースが先か。それが問題だ!

①は、自身が主張するフレームワークに世の中のビジネスモデルとか経営戦略と呼ばれているものをばっさばっさと当てはめていくアプローチ、②は、実在する経営や企業活動を独自の着眼点から汎用的モデルに昇華・抽象化してモデリングして示すアプローチ、③は、ひたすら個別の事例を集めて、帰納法的にそれらをある特徴で分類していくアプローチです。

論者によって、自己主張の正当性・適格性をどうやって証明しようかという方法論が3つ存在する、というわけです。

筆者がこのシリーズで実践してみたいのは、「③ ビジネスケース至上主義者」として、目に付いた、興味深いビジネスモデル類型をひたすら集めてご紹介する、というものです。筆者は、ヘンリー・ミンツバーグ氏の「経営は創発的なクラフティングである」という主張に傾倒しているので、数多くのビジネスケースを観察し、自分自身の中にあるビジネスモデル・フレームワークを常に再構築し続けるアプローチを好んでいるからです。

それゆえ、どうして数ある中からこれらを選び出したかを、事前にロジカルに説明することはできません。なんとなく、経験から面白そうと感じたものだけを取り上げていきます。そのひとつひとつの着眼点には言及はしますが、敢えて、上から目線で、貴社もこの通りのビジネスモデルを構築すれば、事業運営に成功します、という安請け合いする物言いは決してしないと心に決めています。一緒に、世の中に存在するいくつかのビジネスモデルを眺めてもらって、ただ面白さを堪能して頂く。それを目的として連載を始めます。

 

■ 三井住友銀行が普及に努めるソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)という仕組みとは

ビジネスケースを多く見ていこうという趣旨から、多種多様な資料からの集塊となります。手始めに最近の日本経済新聞から引用してきたいと思います。

2017/12/13付 |日本経済新聞|朝刊 民間委託報酬、成果に連動 課題解決型の自治体事業、三井住友銀などが新手法

「自治体の民間委託事業で、成果をより高め、コストを抑えるための取り組みが注目されている。病気や犯罪の予防といった課題解決型の事業について、金融機関や投資家の資金を募り、事業の成果があがれば将来抑制できる費用の一部を投資家に還元する。三井住友銀行が普及を進める財団と提携するなど今後広がりを見せそうだ。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

このビジネスモデルは、現実には英国発祥の第3センターにおけるものですが、クラウドファンディング手法などを応用すれば、十分に第2セクターである株式会社等の営利団体でも通用するモデルだと認識しています。

登場人物は、次の通り。
① 事業依頼主(自治体)
② 事業受託者(民間企業)
③ 資金の出し手(出資者)
④ 第三者の評価機関

(下記は、同記事添付の「成果連動の民間委託の仕組み」を引用)

20171213_成果連動の民間委託の仕組み_日本経済新聞朝刊

SIBの概要は、下記の5ステップ。
1)自治体が医療や介護といった公共サービスを民間事業者に委託
2)そのサービス実施に必要な資金を融資または投資の形で拠出
3)第三者の評価機関が事業者の提供サービス成果を適正に評価
4)評価結果に応じて、自治体から民間事業者へ民間委託報酬を支払う
5)自治体からの成果報酬の中から出資者へリターンを支払う

SIBが従来の民間委託事業と一線を画す特徴は、事業者へ委託された公共サービスの成果達成に向けた強い動機付けがなされる点になります。実施した事業の成果に対してまさしく業績変動報酬として、やったらやった分だけ報われ、失敗したら、前払いの固定支払い分しか手にすることはできないという、民間の役員報酬制度等で、結果にコミットさせる、方法として一般的になっているものと大まかなインセンティブ構造は同質なものになっています。

さらに、委託先の事業者に対しては、出資者も第三者機関の評価が悪ければ、手にするリターンが減額になり、運用利回りが下がることから、出資者からの監視やプレッシャー、時には助言を得ることになり、事業者が業務改善に向けさせる規律がより強く働かせることになります。この事業者が事業に失敗すると、出資者がリスクを負う点が、従来の単なる民間委託とは異なる点であるといえます。

 

■ 三井住友銀行と神戸市が7月から始めたSIBの内容とは

上記の登場人物の内、三井住友銀行が当然「③ 資金の出し手(出資者)」の位置づけとなるのですが、「① 事業依頼主(自治体)」である神戸市がどのような公共サービスを委託したのか、冒頭の新聞記事から抜粋します。

「糖尿病の患者100人を対象に半年の間、食事療法や運動などの保健指導をして症状の悪化を防ぐ事業で、業務が終われば市は事業費の約4割を最低保障額として事業者に支払う。
その後の検証で完遂と評価されれば、神戸市は事業予算に抑制できた医療費の一部を上乗せして支払い、銀行や投資家は拠出額に5%超を上積みした金額を受け取る。」

同様の取り組みは他自治体でも始まっています。

「東京都八王子市では8月、みずほ銀行などと組み、大腸がんの検診率などに応じて市が報酬を支払う試みを始めた。人工知能(AI)で個人の受診歴を分析し、効果的な方法で検診を受けるよう促す。病気の予防や早期に発見できて抑えられた医療費の一部が事業者への上乗せ報酬として投資家に還元される。」

同記事によれば、「一般財団法人の社会的投資推進財団の推計ではSIBの実績は欧米を中心に計60件以上、約220億円で事業化」されており、「医療費の削減を目指す横浜市が具体策を検討中で三井住友銀によると、浜松市や札幌市など20程度の自治体がSIBに関心を寄せている」とされています。そもそも、SIBは、2010年に受刑者の再犯を防ぐ目的の事業として英国で始まったのが嚆矢で、これから日本でも普及が加速すると思われます。

 

■ SIBは事業者のインセンティブ制度として有効

本ブログでも、株式会社における従業員や役員報酬制度として、業績変動を中心に据えた制度設計について何度か採り上げてきました。

(参考)
⇒「役員報酬、広がる現物株 一定期間は「譲渡制限」/業績に連動も 株数算定透明化が課題
⇒「自社株報酬制度の基礎(3)ストックオプションと株式報酬制度の違い - プリンパル・エージェント問題にまで思いを馳せて
⇒「株で役員報酬、広がる 中長期の業績で評価 伊藤忠やリクルート、230社
⇒「役員も従業員も報酬制度次第でモチベーションが変わります! 日本経済新聞より
⇒「役員報酬、成長戦略に連動 資生堂は業績を時間差で評価 アステラス製薬、信託方式で動機付け

その主眼はプリンパル・エージェント問題に尽き、いかにして、業務委託者としての株主の利益と業務受託者としての経営者・従業員の利益を等しく同じ方向に定め、両者の利益相反を起こさないように工夫されたものでした。

SIBは当然その視点は包含しており、そのうえで、事業主体(自治体であったり株式会社であったり)の事業費削減、いわゆるコスト削減へのインセンティブが自身の報酬や運用利回りと連動する仕掛けづくりが巧妙に仕組まれています。株式会社の場合、事業主体が経営者とも株主とも、判別がつかずに利害調整が難しいのですが、自治体の場合は、明確になっており、というより明確に出資者と判別されています。この性質をいかに株式会社に応用するかが導入にあたっての重要ポイントのひとつであると考えます。

重要ポイントの2つ目は、「第三者機関」の存在です。公正中立の立場で、という言葉だけからすると、会計監査人が想起されますが、残念ながら監査対象は公表用財務諸表の適正な表示に限定(本記事作成時点)されています。強いて言うなら、執行役員などに対しては、昨今流行りのコーポレートガバナンス理論によれば、社外役員(社外取締役、社外監査役)が近い存在になりえましょう。

どうでしょうか。自治体が取り入れ始めている、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)の制度。株式会社においては、コーポレートガバナンス視点で社外役員の仕事に事業成果に対する第三者評価機関(報酬委員会の延長のようなもの)の設置、資金の出し手としては、ソーシャルレンディング、クラウドファンディングを活用するなど、十分に営利団体でも応用が利く、ビジネスモデルとなる可能性がありはしませんでしょうか?

ビジネスモデル(入門編)ビジネスモデル(1)ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB) - 民間委託報酬の成果連動 三井住友銀行・神戸市

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