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■ 在庫循環モデルとは?

継続的なビジネスを営んでいるうえで、自社の受注-生産-販売のトレンドを時系列に並べて眺めると、足下の業績水準と将来の業績予想をある程度、複雑な統計手法を使用せずとも過去トレンド情報から類推することができます。その代表格のふたつめが、「BBレシオ」に続き、今回紹介する「在庫循環モデル」です。

「在庫循環モデル」とは、在庫の増減率と出荷の増減率から、景気変動をトレンドや局面を推測する手法として誕生しました。増減率(伸長率)は、前期と当期の伸び率から算出します。縦軸に「在庫残高の伸長率」、横軸に「出荷高の伸長率」をプロットした散布図を4象限に区分し、2つの伸長率の組合せから、景気変動(不況→景気回復→好況→景気鈍化)を読み取ろうとするものです。

財務分析(入門編)_在庫循環モデル

① 意図せざる在庫減局面
景気拡張期に入ると、需要の増加が企業予測を上回り、増産しても需要に追いつかず、一時的に在庫が減少
② 在庫積み増し局面
景気拡張期が長くなってくると、企業は将来の更なる需要増に備えて増産し、在庫を積極的に積み増そうとする
③ 在庫積み上がり局面(意図せざる在庫増局面)
景気の山を越して後退期に入ると、需要が企業予測を下回り、需要の減少速度に減産が追いつかず、在庫が積み上がってしまう
④ 在庫調整局面
景気後退期が続くと、企業は更に減産を進め、積み上がった在庫を減らそうとする

こうした在庫循環の進捗は、循環図上で反時計回りの動きとなって表れると通説では考えられています。

一般には、在庫循環があるから景気循環があるのか、景気循環があるから在庫循環があるのか、経済学者の間でも議論が分かれています。

(1)「在庫循環」が「景気循環」の原因であるとする説
①在庫削減努力が行き過ぎたため、需要を満たすために在庫積み増しのための増産を行う
②増産がオーバーシュートして、意図せざる在庫として積み上がってしまう
③在庫調整のため各社が一斉に減産に走るため不況になる

(2)「景気循環」が「在庫循環」の原因であるとする説
①景気拡大期にさらなる需要増を見込んで各企業が増産に走る
②景気が後退し始めると、売上(≒出荷)の落ち込みに生産削減が追いつかず、意図せざる在庫が増加する
③減産により適正在庫率(在庫残高÷出荷高)を回復するが、出荷減が止まるまでは在庫圧縮が持続する

これは、「相関分析」の所でも説明しましたが、相関関係があるということと、因果関係があるということは同義ではありません。但し、フィリップス曲線と同様に、マクロ経済を観察していると、2つの異なる指標の間に正または負の相関関係が認められることがあります。どっちが原因で、どっちが結果かは判然としなくても、2つの指標間の関係を観察して、自社や自国経済の動向を探るためのツールとしては使えるということで、●●とハサミは使いよう、の類のお話です。

 

■ 通説である在庫循環モデルは一般的にはどのように使用されているか?

まずは、ミクロ的な各企業業績の見通し(≒適正株価の見通し)で使われている例をご紹介します。

2017/3/14付 |日本経済新聞|朝刊 (スクランブル)在庫減に2万円の予兆 増収への好循環 見極め

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「「在庫循環こそ着目したい手がかり」。野村証券の小高貴久エクイティ・マーケット・ストラテジストは、こう指摘する。鉱工業生産指数を見ると、企業の在庫と出荷のバランスがそろって回復し始めた。16年7~9月期は在庫が前年同期比で2.1%減、出荷が同0.6%減だったが16年10~12月は在庫が4.6%減とさらに圧縮が進んだ。出荷はプラスに転じた。
 在庫、出荷ともに改善基調をたどるのはアベノミクスが本格始動した13年7~9月期以来。当時、日経平均は年間で6割上昇した。17年1~3月期は円安や米景気の回復で在庫と出荷が一段と改善しているとみられる。小高氏は「出荷が伸びず在庫を減らす『調整局面』は終わった。出荷の伸びが生産増と在庫の積み増しにつながる『復調局面』に転じた」という。」

(下図は、本記事添付の「在庫、出荷ともに増え景気は拡大へ」を引用)

20170314_在庫、出荷ともに増え景気は拡大へ_日本経済新聞朝刊

足元の適正株価を読みに行くために、在庫循環図にて、景気サイクルのどこに位置しているかを予想しています。マクロ経済動向から、ミクロな各社の業績を読みに行くことを目論んでいます。ここで注意しておく必要があるのは、現在、マクロな景気変動をGDPという指標で推し量る場合、GDPへの在庫投資の寄与率は非常に小さく、2016年のGDPに占める金額構成比率は、0.2%程度にしかなっていないことです。ミクロとマクロ、原因と結果、GDPへの寄与率の小ささ、この3点に留意した上でこの指標を使用して頂きたいと思います。

「在庫、出荷の好循環はどのような物色のヒントを与えるのだろうか。大和証券の鈴木政博シニアクオンツアナリストが東証株価指数(TOPIX)500の構成企業を調べたところ、16年4~12月期は日本ハムや武田薬品工業、日立建機など幅広い業種で在庫が急速に減った。合理化や生産調整、需要の増加など要因はさまざまだ。」

(下表は、本記事添付の「在庫の減った企業は株価も堅調」を引用)

20170314_在庫の減った企業は株価も堅調_日本経済新聞朝刊

ということで、マクロな景気変動に与える在庫循環の影響度は小さいにもかかわらず、未だにこの指標と景気変動を結びつけ、更にミクロの各社の業績の説明因子として使用とする論説は、落ち着いて読み込む必要があるようです。ビッグデータやIoTの活用、企業の需要予測スキルの向上、サービス産業の構成比率の上昇など、在庫循環が従来の通説通りの軌跡を必ずしも描くとは限らない世の中になったと筆者は考えるのですが如何でしょうか?

 

■ (補足)通説どおりにならない場合、経済産業省はどのように説明していたか?

「在庫循環図」は反時計回りに回転する。この通説(理論)通りに経済実態がデータを示さないと、当局の賢い人たちはどのように対処するものなのでしょうか?

「逆走している」在庫循環図ですが、一昨年比で見てみると|経済産業省 より

「左下の図は我が国製造業の平成25年以降の在庫循環図です。25年第Ⅰ四半期から26年中は、在庫循環は想定通りに反時計回りで動いていました。
しかし、27年に入ってこの動きに変調を来し、グラフは右下の方に動くようになりました。本来の在庫循環に沿った動きであれば、左下の方に動くべきところ、まさに「逆走」している状態です。このような在庫循環図の「逆走」は、23年の東日本大震災発生後にも見られたところです。
この背景には、26年4月に実施された消費税率引上げを挟んだ、鉱工業活動の特殊な動きがあります。26年第Ⅰ四半期は、生産・出荷ともに旺盛で、生産水準が高く、在庫水準は非常に低くなっていました。消費税率引上げ後は、その逆に、生産が停滞し、在庫は急増していくこととなります。
このような特殊な26年の生産、在庫の動きとの対比となるため、27年に入っての在庫循環の推移が、「逆走」の様相となってしまっています。」

20170319_我が国製造業の在庫循環図_経済産業省

在庫循環図が時計回りに逆回転していることを、「逆走」と呼び、東日本大震災や消費増税など、想定外の事象の発生を理由にしています。

「そこで、27年分をいわば「平年」である25年と比較してみた在庫循環図が右下の図になります。この図では、起点は異なりますが、動きとしては、27年中の在庫循環は想定通りの「反時計回り」で推移することとなります。
通常通りの作図方法で行うと、27年に入っての在庫調整の進展が非常に不可思議に映りますが、平年比較での作図に変更してみると、想定通りの動きが表れます。この図を見ると、27年も生産調整が進められている形となりますが、足下の27年第Ⅲ四半期の在庫については、26年比で見ても25年比で見てもプラスとなっており、在庫水準を引き下げるレベルにはなっていないため、今後の在庫調整の進展を注意深く見守っていきたいと思います。」

その上、在庫循環図の縦軸・横軸が増減率(伸長率)で表現されていることを逆手に取り、基準年を意図した形になるように、調整したうえで、「ほら理論通りにプロットされるでしょ!」とうそぶいています。

データを分析するものとしてあるべき態度は、「理論」を守るためにデータ解析のやり方を我田引水的に変え、牽強付会的に理屈を並べるものであってはなりません。虚心坦懐的に、あるがままのデータ(事実)を、どうしたら理屈が通るようになるのか、観察からロジックや法則や仮説を導く、というものでなくてはならないと考えるのですが如何でしょうか?

 

■ トヨタの在庫循環図を分析してみる!

ここで、「在庫循環モデル」でもって、個別企業の財務分析への援用をトライしてみましょう。出荷データも外部公表している企業もありますが、多少の誤差には目を瞑り、売上データで代用した方が実用的でしょう。売上計上基準が「出荷基準」またはその応用形ならば、その誤差も実用に耐え得る範囲に収まります。

筆者は、トヨタの四半期報告書から、12四半期の製商品売上高と棚卸資産額を抜出し、直近8四半期の在庫循環図を作図してみました。

こちらが、四半期報告書から求めた数表。

20170319_トヨタ_製商品売上高と棚卸資産の推移

こちらが、在庫循環図になります。

20170319_トヨタ_在庫循環_グラフ

さあ、トヨタの直近の在庫循環図は時計回りとなり、通説に反する動きとなりました。さてはて、どう事実を捻じ曲げて理屈に合わせましょうか?(^^;)

このケースにおいては、この在庫循環図はそのままトヨタの実体を表していると解釈する方が素直なようです。というのも、トヨタは世界に冠たるトヨタ生産方式を実践しています。

「JIT生産」(ジャストインタイム生産)
カンバンを使って、“必要な物を、必要な時に、必要な量だけ生産する”方式。徹底的に在庫を持たないようにすることを目指している

つまり、トヨタがディーラー販売から、生産工場での部品調達まで、サプライチェーンにおける完全プル生産・販売を実現したら、この在庫循環図では、需要増局面では、45度線の上を左下から右上へ、需要減退局面では、右上から左下へ、なぞるように直線的な軌跡を描くはずです。それが、時計回りに若干膨らんで、売上高(出荷高)と在庫が推移しています。

トヨタのカンバン方式が、かなりの精度で需要予測の正確性を担保し、需要減を先回りして在庫を減らし、需要増を先回りして在庫を積み増すという慣性が働いていることを示していると解釈することができないでしょうか?

そして、同業他社や他業種ではどういう在庫循環になっているのか? ここで筆者が徒にトヨタと比較して、他企業のサンプルを提示して、下手な解説をしてしまうと、風説の流布で訴えられそうなので、トヨタ一例に留めておきます。(^^;)

これまでの通説、需要増には遅れて在庫が積み増され、需要減には遅れて在庫調整が始まる。トヨタはその逆の現象が見える。それがトヨタの強みであるということ。当然、トヨタの企業業績を推測する上で、売上高と在庫推移の相関が時計回りであることを前提に、来るべき来期の損益予測をはじく格好の材料ともなる、そういうことです。どう使うかって? そこはコンサルとしての企業秘密です!(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

財務分析(入門編)_トレンド分析(2)在庫循環モデル - 通説とは真逆の逆走するトヨタの在庫循環をJIT生産モデルで解説!

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トレンド分析(2)在庫循環モデル - 通説とは真逆の逆走するトヨタの在庫循環をJIT生産モデルで解説!http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/03/9313ed6460f7d58b8e62d9b27fdfc19d-e1428166718340.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/03/9313ed6460f7d58b8e62d9b27fdfc19d-150x150.jpg小林 友昭財務分析(入門編)財務分析,トヨタ,JIT生産,相関分析,在庫,かんばん,経済産業省,経営分析,トレンド分析,在庫循環モデル,在庫循環図,景気循環,出荷,需要予測■ 在庫循環モデルとは? 継続的なビジネスを営んでいるうえで、自社の受注-生産-販売のトレンドを時系列に並べて眺めると、足下の業績水準と将来の業績予想をある程度、複雑な統計手法を使用せずとも過去トレンド情報から類推することができます。その代表格のふたつめが、「BBレシオ」に続き、今回紹介する「在庫循環モデル」です。 「在庫循環モデル」とは、在庫の増減率と出荷の増減率から、景気変動をトレンドや局面を推測する手法として誕生しました。増減率(伸長率)は、前期と当期の伸び率から算出します。縦軸に「在庫残高の伸長率」、横軸に「出荷高の伸長率」をプロットした散布図を4象限に区分し、2つの伸長率の組合せから、景気変動(不況→景気回復→好況→景気鈍化)を読み取ろうとするものです。 ① 意図せざる在庫減局面 景気拡張期に入ると、需要の増加が企業予測を上回り、増産しても需要に追いつかず、一時的に在庫が減少 ② 在庫積み増し局面 景気拡張期が長くなってくると、企業は将来の更なる需要増に備えて増産し、在庫を積極的に積み増そうとする ③ 在庫積み上がり局面(意図せざる在庫増局面) 景気の山を越して後退期に入ると、需要が企業予測を下回り、需要の減少速度に減産が追いつかず、在庫が積み上がってしまう ④ 在庫調整局面 景気後退期が続くと、企業は更に減産を進め、積み上がった在庫を減らそうとする こうした在庫循環の進捗は、循環図上で反時計回りの動きとなって表れると通説では考えられています。 一般には、在庫循環があるから景気循環があるのか、景気循環があるから在庫循環があるのか、経済学者の間でも議論が分かれています。 (1)「在庫循環」が「景気循環」の原因であるとする説 ①在庫削減努力が行き過ぎたため、需要を満たすために在庫積み増しのための増産を行う ②増産がオーバーシュートして、意図せざる在庫として積み上がってしまう ③在庫調整のため各社が一斉に減産に走るため不況になる (2)「景気循環」が「在庫循環」の原因であるとする説 ①景気拡大期にさらなる需要増を見込んで各企業が増産に走る ②景気が後退し始めると、売上(≒出荷)の落ち込みに生産削減が追いつかず、意図せざる在庫が増加する ③減産により適正在庫率(在庫残高÷出荷高)を回復するが、出荷減が止まるまでは在庫圧縮が持続する これは、「相関分析」の所でも説明しましたが、相関関係があるということと、因果関係があるということは同義ではありません。但し、フィリップス曲線と同様に、マクロ経済を観察していると、2つの異なる指標の間に正または負の相関関係が認められることがあります。どっちが原因で、どっちが結果かは判然としなくても、2つの指標間の関係を観察して、自社や自国経済の動向を探るためのツールとしては使えるということで、●●とハサミは使いよう、の類のお話です。   ■ 通説である在庫循環モデルは一般的にはどのように使用されているか? まずは、ミクロ的な各企業業績の見通し(≒適正株価の見通し)で使われている例をご紹介します。 2017/3/14付 |日本経済新聞|朝刊 (スクランブル)在庫減に2万円の予兆 増収への好循環 見極め (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「「在庫循環こそ着目したい手がかり」。野村証券の小高貴久エクイティ・マーケット・ストラテジストは、こう指摘する。鉱工業生産指数を見ると、企業の在庫と出荷のバランスがそろって回復し始めた。16年7~9月期は在庫が前年同期比で2.1%減、出荷が同0.6%減だったが16年10~12月は在庫が4.6%減とさらに圧縮が進んだ。出荷はプラスに転じた。  在庫、出荷ともに改善基調をたどるのはアベノミクスが本格始動した13年7~9月期以来。当時、日経平均は年間で6割上昇した。17年1~3月期は円安や米景気の回復で在庫と出荷が一段と改善しているとみられる。小高氏は「出荷が伸びず在庫を減らす『調整局面』は終わった。出荷の伸びが生産増と在庫の積み増しにつながる『復調局面』に転じた」という。」 (下図は、本記事添付の「在庫、出荷ともに増え景気は拡大へ」を引用) 足元の適正株価を読みに行くために、在庫循環図にて、景気サイクルのどこに位置しているかを予想しています。マクロ経済動向から、ミクロな各社の業績を読みに行くことを目論んでいます。ここで注意しておく必要があるのは、現在、マクロな景気変動をGDPという指標で推し量る場合、GDPへの在庫投資の寄与率は非常に小さく、2016年のGDPに占める金額構成比率は、0.2%程度にしかなっていないことです。ミクロとマクロ、原因と結果、GDPへの寄与率の小ささ、この3点に留意した上でこの指標を使用して頂きたいと思います。 「在庫、出荷の好循環はどのような物色のヒントを与えるのだろうか。大和証券の鈴木政博シニアクオンツアナリストが東証株価指数(TOPIX)500の構成企業を調べたところ、16年4~12月期は日本ハムや武田薬品工業、日立建機など幅広い業種で在庫が急速に減った。合理化や生産調整、需要の増加など要因はさまざまだ。」 (下表は、本記事添付の「在庫の減った企業は株価も堅調」を引用) ということで、マクロな景気変動に与える在庫循環の影響度は小さいにもかかわらず、未だにこの指標と景気変動を結びつけ、更にミクロの各社の業績の説明因子として使用とする論説は、落ち着いて読み込む必要があるようです。ビッグデータやIoTの活用、企業の需要予測スキルの向上、サービス産業の構成比率の上昇など、在庫循環が従来の通説通りの軌跡を必ずしも描くとは限らない世の中になったと筆者は考えるのですが如何でしょうか?   ■ (補足)通説どおりにならない場合、経済産業省はどのように説明していたか? 「在庫循環図」は反時計回りに回転する。この通説(理論)通りに経済実態がデータを示さないと、当局の賢い人たちはどのように対処するものなのでしょうか? ● 「逆走している」在庫循環図ですが、一昨年比で見てみると|経済産業省 より 「左下の図は我が国製造業の平成25年以降の在庫循環図です。25年第Ⅰ四半期から26年中は、在庫循環は想定通りに反時計回りで動いていました。 しかし、27年に入ってこの動きに変調を来し、グラフは右下の方に動くようになりました。本来の在庫循環に沿った動きであれば、左下の方に動くべきところ、まさに「逆走」している状態です。このような在庫循環図の「逆走」は、23年の東日本大震災発生後にも見られたところです。 この背景には、26年4月に実施された消費税率引上げを挟んだ、鉱工業活動の特殊な動きがあります。26年第Ⅰ四半期は、生産・出荷ともに旺盛で、生産水準が高く、在庫水準は非常に低くなっていました。消費税率引上げ後は、その逆に、生産が停滞し、在庫は急増していくこととなります。 このような特殊な26年の生産、在庫の動きとの対比となるため、27年に入っての在庫循環の推移が、「逆走」の様相となってしまっています。」 在庫循環図が時計回りに逆回転していることを、「逆走」と呼び、東日本大震災や消費増税など、想定外の事象の発生を理由にしています。 「そこで、27年分をいわば「平年」である25年と比較してみた在庫循環図が右下の図になります。この図では、起点は異なりますが、動きとしては、27年中の在庫循環は想定通りの「反時計回り」で推移することとなります。 通常通りの作図方法で行うと、27年に入っての在庫調整の進展が非常に不可思議に映りますが、平年比較での作図に変更してみると、想定通りの動きが表れます。この図を見ると、27年も生産調整が進められている形となりますが、足下の27年第Ⅲ四半期の在庫については、26年比で見ても25年比で見てもプラスとなっており、在庫水準を引き下げるレベルにはなっていないため、今後の在庫調整の進展を注意深く見守っていきたいと思います。」 その上、在庫循環図の縦軸・横軸が増減率(伸長率)で表現されていることを逆手に取り、基準年を意図した形になるように、調整したうえで、「ほら理論通りにプロットされるでしょ!」とうそぶいています。 データを分析するものとしてあるべき態度は、「理論」を守るためにデータ解析のやり方を我田引水的に変え、牽強付会的に理屈を並べるものであってはなりません。虚心坦懐的に、あるがままのデータ(事実)を、どうしたら理屈が通るようになるのか、観察からロジックや法則や仮説を導く、というものでなくてはならないと考えるのですが如何でしょうか?   ■ トヨタの在庫循環図を分析してみる! ここで、「在庫循環モデル」でもって、個別企業の財務分析への援用をトライしてみましょう。出荷データも外部公表している企業もありますが、多少の誤差には目を瞑り、売上データで代用した方が実用的でしょう。売上計上基準が「出荷基準」またはその応用形ならば、その誤差も実用に耐え得る範囲に収まります。 筆者は、トヨタの四半期報告書から、12四半期の製商品売上高と棚卸資産額を抜出し、直近8四半期の在庫循環図を作図してみました。 こちらが、四半期報告書から求めた数表。 こちらが、在庫循環図になります。 さあ、トヨタの直近の在庫循環図は時計回りとなり、通説に反する動きとなりました。さてはて、どう事実を捻じ曲げて理屈に合わせましょうか?(^^;) このケースにおいては、この在庫循環図はそのままトヨタの実体を表していると解釈する方が素直なようです。というのも、トヨタは世界に冠たるトヨタ生産方式を実践しています。 「JIT生産」(ジャストインタイム生産) カンバンを使って、“必要な物を、必要な時に、必要な量だけ生産する”方式。徹底的に在庫を持たないようにすることを目指している つまり、トヨタがディーラー販売から、生産工場での部品調達まで、サプライチェーンにおける完全プル生産・販売を実現したら、この在庫循環図では、需要増局面では、45度線の上を左下から右上へ、需要減退局面では、右上から左下へ、なぞるように直線的な軌跡を描くはずです。それが、時計回りに若干膨らんで、売上高(出荷高)と在庫が推移しています。 トヨタのカンバン方式が、かなりの精度で需要予測の正確性を担保し、需要減を先回りして在庫を減らし、需要増を先回りして在庫を積み増すという慣性が働いていることを示していると解釈することができないでしょうか? そして、同業他社や他業種ではどういう在庫循環になっているのか? ここで筆者が徒にトヨタと比較して、他企業のサンプルを提示して、下手な解説をしてしまうと、風説の流布で訴えられそうなので、トヨタ一例に留めておきます。(^^;) これまでの通説、需要増には遅れて在庫が積み増され、需要減には遅れて在庫調整が始まる。トヨタはその逆の現象が見える。それがトヨタの強みであるということ。当然、トヨタの企業業績を推測する上で、売上高と在庫推移の相関が時計回りであることを前提に、来るべき来期の損益予測をはじく格好の材料ともなる、そういうことです。どう使うかって? そこはコンサルとしての企業秘密です!(^^;) (注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します