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■ 組織の統率と連絡、相手側の混乱に乗じる方法について

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

口で言っただけでは互いに聞こえないから、太鼓や鉦(かね)を用意する。
手で示しただけでは互いに見えないから、旗や幟(のぼり)を準備する。

1.自軍の統率に心がける
太鼓や鉦、旗指物などは、兵士たちの耳で聞き、目で見る働きを、将軍の指令する方向に統一するための手段です。すでに兵士たちの注意がひとつに集中しているならば、勇敢な者も自分勝手に進むことはできず、臆病者も自分勝手に退くことはできなくなります。これが大部隊を運用する方法なのです。

2.敵軍の士気の弱点を突く
そこで、敵の軍隊の兵士たちに対しては、その気力を奪い取ることができ、敵の将軍に対しては、その冷静な心を奪い取ることができるのです。もともと、朝方の気力は鋭く、昼頃の気力はだらけ、暮方の気力はしぼむものです。そこで巧みに軍を運用する者は、敵兵の鋭い気力を避けて、そのだらけたりしぼんだりしている時に攻撃します。これは、敵軍の気力を奪い取って、相手の気力を自己に有利なように制御しようとするやり方なのです。

3.敵将の心を攻める
整然と統治された状態の軍でもって、統率が混乱している敵軍を待ち受け、精神が落ち着いて静まり返った状態の軍でもって、精神が散漫でざわついている敵軍を待ち受けます。これは、敵将の心を慌てさせたり焦らせたりして、冷静さを奪い取り、敵将の心理を自己に有利なように制御しようとするやり方です。

4.コンディションの相対的優位をつくる
戦場の近くにいて遠くからやって来る敵軍を待ち受け、安楽に休息しながら疲労した敵軍を待ち受け、満腹の状態で飢えた敵軍を待ち受けます。これは、敵軍の戦力を自己に有利なように制御しようとするやり方です。

5.有利なタイミングを計る
整然と旗指物を押し立てて進んでくる敵には迎撃をしたりせず、重厚な布陣の敵には攻撃を仕掛けません。これは、敵の状態の悪化するのを待ち、敵軍の変化を自己に有利なように制御しようとするやり方です。

孫子 (講談社学術文庫)

—————–
軍争の方法を承けて、ここでは戦闘への入り方が説かれています。

1.指揮・命令系統の整備
旌旗(せいき)と鼓金(こんく)は、勢篇(18)に「衆を闘わしむること寡の闘わしむるが如くするは、形名是なり」といわれていた、形と名とに相当します。当時の軍隊は徴募した農民兵を主体としたため、兵士個々の戦意や技量は低く、集団戦法の巧拙が戦闘の勝敗を大きく左右した、当時の状況を表しています。そこで、将軍は、いかにして自己の指令を大勢の兵士に周知徹底させるか、その工夫に心を砕く必要があったのです。

現代ビジネスでは、大量生産・大量販売の製造業が隆興した時代、せいぜい90年代までの大組織の運営のTIPSになるのでしょう。もはや一騎当千の非常に優秀な従業員の知恵が企業の勝敗を左右する「知識経営」の時代に入って久しいとの思いです。百歩譲って、その一握りの優秀な従業員の知恵を経営者が知り得た時、どのように組織全体に浸透させるかの問題と捉えた場合、「インナー・マーケティング」というマーケティング手法を社内に適用するという例もあることをここにご紹介しておきます。

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2.敵軍の気力の変化を見定め、士気の衰えた状態を捉えて戦闘に入る方法です。

3.戦闘に先着して、「徐(しずか)なること林の如き」態勢を整えて、喧噪なまま戦場に駆けつけてくる敵軍と戦闘に入り、統制を回復しようと躍起になる敵将の心理的動揺につけ込む方法です。

4.やはり、戦場に先着し、兵士を十分に休息させて戦力を向上させた状態で、疲労と空腹のため、戦力を低下させたまま戦場に駆けつけてくる敵軍と戦闘に入り、彼我の戦力差によって敵を圧倒する方法です。

5.整然と旗指物を林立させ、粛々と進撃してくる敵や、完璧な陣立てを完了して待機する敵など、既に万全の態勢を整えている敵軍に対し、直ちに攻撃せず、小部隊による攪乱攻撃などを反復して、敵の態勢が悪化するのを待って戦闘に入る方法です。

上記、2~5を現代ビジネスになぞらえてみましょう。

これは、市場におけるリーダー企業が取りやすい方法です。これまで高シェアを誇ったマーケットにおいて、競合に先んじて圧倒的機能差・価格差を持つ新製品を準備しておき、おっとり刀で切り込んできた競合(あまりぱっとしない新製品を投入してきたコンペチター)に対して、こちらのとっておき新製品をぶつけます。

この時、相手が市場に新製品を投入する前になぜ、こちらの圧倒的新製品を先んじて市場投入し、相手の手鼻を挫かないのか、相手が市場参入する意図を萎えさせないのか、と疑問に思う向きもあるかもれません。そうした、高い参入障壁を築き、市場を守る方法も確かにあります。しかし、一旦迎え入れてからの打撃の方が相手にとっての痛手の大きさが違います。

なぜなら、競合は、新製品開発へ大量の先行投資を行い、量産化のための生産設備を準備し、数多くの販売在庫を抱え、販売チャネルへの販促キャンペーンを打ち、その上で、社内でも比較的優秀な従業員にリーダーやメンバの時間の多くを割かせます。そのすべてを、キャッシュアウトさせ、優秀な社員の時間を奪ってから、これを叩きのめすのです。参入前に諦めてしまえば、その経営リソースを別のビジネス機会に有効活用してしまいます。ここは、無駄金、無駄な時間をあえて割かせるために、一旦は市場参入を許すといった高等戦術を獲るのです。

この戦術は、相手の経営資源にダメージを与えるだけでなく、競合の参入で市場が盛り上がり、自然とパブリシティ効果が高まります。その上、相手の広告宣伝費も市場全体の盛り上げに使ってもらいましょう。どうせ生き残るのは自社製品です。そのために、相手は貴重な広告宣伝費を自社製品が投入される市場を広く認知してもらうために投下してくれる。なんというお得な戦術でしょう!

こちらのプラス10と、相手のマイナス10は、合わせて、20の差異になりますよ。

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