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■ 地の利を計り、現場判断を重視する

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ
前章に引き続き、組織(軍隊)を運用する際に留意すべき点は以下の通り。

将軍(指揮者)が君主(経営者)の出動命令を受けて、軍(組織)を編成し、兵士(社員)を統率しながら進撃するにあたり、

① 「圮地(ひち)」には宿営してはならない
② 「衢地(くち)」では天下の諸侯と親交を結ぶ
③ 「絶地(ぜっち)」にはとどまらずに素早く通り過ぎる
④ 「囲地(いち)」では脱出の計謀を巡らす
⑤ 「死地(しち)」では必死に力戦する

⑥ 道路には、そこを経由してはいけない道路がある
⑦ 敵軍には、それを攻撃してはいけない敵軍がある
⑧ 城には、それを攻略してはいけない城がある
⑨ 土地には、そこを争奪してはいけない土地がある

そして君命には、それを受諾してはならない君命がある

だから、将軍の中で九変(九種の応変の対処法)が持つ利益に通暁(つうぎょう)する者こそは、軍隊の運用法を真にわきまえているといえるのです。将軍でありながら、九変の利益に精通していない者は、たとえ戦場の地形を知ってはいても、その地形がもたらす利益を我が物にすることはできません。軍隊を統率していながら九変の術策を身に付けていないようでは、五種の地勢への対処法が持つ利益を観念的に知ってはいても、いざその場になると兵士たちの力を存分に駆使することはできないのです。

孫子 (講談社学術文庫)

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訓詁学と考古学的には、「九変」の9つが、一体何を指すものなのか、学説がいろいろ飛び交っており、上述の説明文も、ある学説に従ったものになります。5つの地勢に関する留意事項と、4つの攻防への対応姿勢になります。それでは、以下に各項目について説明をしていきます。

① 「圮地(ひち)」:足場の悪い土地
ただでさえ長蛇の列となる大部隊の行軍が一層渋滞し、敵の攻撃を受けても迅速な対応が難しい場所。こうした襲撃の危険を減らすため、圮地では決して宿営せず、一刻も早くそこを通りすぎるのです。

② 「衢地(くち)」:四方に通じる交通の要地
地の利を生かして諸国に施設を派遣し、天下の諸侯と親交関係を結び、先々の利益供与を要請するとともに、敵国を国際的孤立に追い込むのです。

③ 「絶地(ぜっち)」:敵国の奥深く侵攻した土地
本国からの補給が極めて困難なため、軍事行動が長引くにつれて戦力は先細りし、いずれは大敗を招く。そこで絶地では徹底して長期戦を避け、戦力があるうちに計謀によって敵の主力を誘い出し、大会戦で一挙に勝敗を決して、すばやく本国に帰国しなければなりません。

④ 「囲地(いち)」:三方を険しい地形に囲まれ、狭隘(きょうあい)な一本道がわずかに外界に通じている土地に入り込んだ場合は、素早く脱出を図らなければなりません。ただし、迷い込んだ山路をそのまま逆戻りして撤収しようとすれば、紆余曲折した隘路に沿って長蛇の列が移動せざるを得ず、敵の追撃を受けた場合には、前が後を救援できぬまま、最後尾の部隊から順に大きな損害を被ってしまいます。そこで退却にあたっては、まず前方に開いている通路に守備隊を配置して、袋の口を自ら封鎖し、敵軍が囲地内に侵入して追撃できないように策謀を巡らしておいてから、余裕を持って撤退しなければなりません。

⑤ 「死地(しち)」:三方を断崖などで完全に囲まれ、しかも前面に強力な敵が布陣していて、どこにも逃げ場所が無い土地
時が経てば経つほど全滅の危機に追い詰められます。そこで、時を移さず総攻撃をかけ、全軍一丸となって出口から突出して、敵がひるんだ隙に素早く切り抜けます。

⑥ 経由してはならない道路
その途中に行軍が渋滞する難所があって、浅く進入すれば難所の手前で行軍が滞って、それ以上前進がはかどらず、先頭部隊が無理にその難所を越えて深入りすると、今度は後続部隊が難所で立ち往生して、軍が分断されてしまう道路です。こうした道路上で、あくまで前進を強行すれば、部隊が前後バラバラになってしまい、かといって後続部隊との接続を確保しようと、先頭部隊が難所を越えた地点で立ち止まれば、兵力が分断されて敵の攻撃を受け、捕虜にされてしまいます。そこでこうした道路は、決して通ろうとしてはならないのです。

⑦ 攻撃してはいけない敵軍
彼我の兵力上は、正面攻撃によって撃破できる目算が充分立っても、よく深慮遠謀してみると、他にもっと巧妙な手があって、労せずに撃破できる可能性のある軍のことを指します。そうであれば、みすみす損害の多い正面攻撃をかけるのは愚かであるから、当座は見逃しておくことになります。

⑧ 攻略してはいけない城
まず第一に、兵力上は十分攻め落とせる目算は立つが、それを抜いてもそこから先の前進に別段の利益がなく、たとえ攻略してみても以後その城を守り切れる成算がない城です。第二には、いかに力攻めしてみても、攻略できそうになく、素通りして前進し、先方で勝利を収めた場合には、自動的に戦意を失って降伏してくる城、またよしんば先方で勝利が得られなくても、後に自軍の害となる恐れのない城のことです。こうした場合は、戦力と時間の浪費を避け、敵城を放置して前進し続けた方が、はるかに得策となります。

⑨ 争奪してはいけない土地
水や食料が得られぬ劣悪な環境で、たとえ奪い取ってみても、所詮、長くは占領を維持できない不毛な土地を指します。こんな土地を、多大な犠牲を払ってまで敵と争奪するのは愚かであり、最初から手出しを控えるに越したことはありません。

そして、君主がこれら応変の処置の利益を計れずに、無謀な命令を下してきた場合には、将軍は断固その君命を拒絶し、軍事的利益のみを優先させる勇気を発揮しなければならないのです。

競争優位の終焉 市場の変化に合わせて、戦略を動かし続ける

上記の地形に関する留意事項は、そのまま現代ビジネスに応用することは難しいですが、裏返して言えば、

1.無関連多角化事業への新規進出はそもそも「地の利」が少ないので勝算が小さい
2.勝算が小さい市場へ新規進出する際、補給・兵站(会社で言うと資金繰りと人繰りでしょうね)を切らさないように留意する
3.「リアル・オプション」手法などを使って、いつでも撤退の意思決定ができるようにしておく、と同時に、「アダプティブ戦略」を持って柔軟に事業の成り立ちを変更可能にしておく
4.現場の判断を重要視し、タイミングを外した的外れな経営トップの指示をいちいち仰がないと動けない指揮命令系統にはしない

ぐらいの4つのポイントに置き換えることができるかもしれません。

最高の戦略教科書 孫子



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孫子 第8章 軍争九変篇 35 将の九変の利に通ずる者はhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/ab47f6b60b2243be5165d08fde098dfb-e1428423948658.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/ab47f6b60b2243be5165d08fde098dfb-150x150.jpg小林 友昭孫子の兵法(入門編)孫子,兵法,戦略■ 地の利を計り、現場判断を重視する 前章に引き続き、組織(軍隊)を運用する際に留意すべき点は以下の通り。 将軍(指揮者)が君主(経営者)の出動命令を受けて、軍(組織)を編成し、兵士(社員)を統率しながら進撃するにあたり、 ① 「圮地(ひち)」には宿営してはならない ② 「衢地(くち)」では天下の諸侯と親交を結ぶ ③ 「絶地(ぜっち)」にはとどまらずに素早く通り過ぎる ④ 「囲地(いち)」では脱出の計謀を巡らす ⑤ 「死地(しち)」では必死に力戦する ⑥ 道路には、そこを経由してはいけない道路がある ⑦ 敵軍には、それを攻撃してはいけない敵軍がある ⑧ 城には、それを攻略してはいけない城がある ⑨ 土地には、そこを争奪してはいけない土地がある そして君命には、それを受諾してはならない君命がある だから、将軍の中で九変(九種の応変の対処法)が持つ利益に通暁(つうぎょう)する者こそは、軍隊の運用法を真にわきまえているといえるのです。将軍でありながら、九変の利益に精通していない者は、たとえ戦場の地形を知ってはいても、その地形がもたらす利益を我が物にすることはできません。軍隊を統率していながら九変の術策を身に付けていないようでは、五種の地勢への対処法が持つ利益を観念的に知ってはいても、いざその場になると兵士たちの力を存分に駆使することはできないのです。 孫子 (講談社学術文庫) ----------------- 訓詁学と考古学的には、「九変」の9つが、一体何を指すものなのか、学説がいろいろ飛び交っており、上述の説明文も、ある学説に従ったものになります。5つの地勢に関する留意事項と、4つの攻防への対応姿勢になります。それでは、以下に各項目について説明をしていきます。 ① 「圮地(ひち)」:足場の悪い土地 ただでさえ長蛇の列となる大部隊の行軍が一層渋滞し、敵の攻撃を受けても迅速な対応が難しい場所。こうした襲撃の危険を減らすため、圮地では決して宿営せず、一刻も早くそこを通りすぎるのです。 ② 「衢地(くち)」:四方に通じる交通の要地 地の利を生かして諸国に施設を派遣し、天下の諸侯と親交関係を結び、先々の利益供与を要請するとともに、敵国を国際的孤立に追い込むのです。 ③ 「絶地(ぜっち)」:敵国の奥深く侵攻した土地 本国からの補給が極めて困難なため、軍事行動が長引くにつれて戦力は先細りし、いずれは大敗を招く。そこで絶地では徹底して長期戦を避け、戦力があるうちに計謀によって敵の主力を誘い出し、大会戦で一挙に勝敗を決して、すばやく本国に帰国しなければなりません。 ④ 「囲地(いち)」:三方を険しい地形に囲まれ、狭隘(きょうあい)な一本道がわずかに外界に通じている土地に入り込んだ場合は、素早く脱出を図らなければなりません。ただし、迷い込んだ山路をそのまま逆戻りして撤収しようとすれば、紆余曲折した隘路に沿って長蛇の列が移動せざるを得ず、敵の追撃を受けた場合には、前が後を救援できぬまま、最後尾の部隊から順に大きな損害を被ってしまいます。そこで退却にあたっては、まず前方に開いている通路に守備隊を配置して、袋の口を自ら封鎖し、敵軍が囲地内に侵入して追撃できないように策謀を巡らしておいてから、余裕を持って撤退しなければなりません。 ⑤ 「死地(しち)」:三方を断崖などで完全に囲まれ、しかも前面に強力な敵が布陣していて、どこにも逃げ場所が無い土地 時が経てば経つほど全滅の危機に追い詰められます。そこで、時を移さず総攻撃をかけ、全軍一丸となって出口から突出して、敵がひるんだ隙に素早く切り抜けます。 ⑥ 経由してはならない道路 その途中に行軍が渋滞する難所があって、浅く進入すれば難所の手前で行軍が滞って、それ以上前進がはかどらず、先頭部隊が無理にその難所を越えて深入りすると、今度は後続部隊が難所で立ち往生して、軍が分断されてしまう道路です。こうした道路上で、あくまで前進を強行すれば、部隊が前後バラバラになってしまい、かといって後続部隊との接続を確保しようと、先頭部隊が難所を越えた地点で立ち止まれば、兵力が分断されて敵の攻撃を受け、捕虜にされてしまいます。そこでこうした道路は、決して通ろうとしてはならないのです。 ⑦ 攻撃してはいけない敵軍 彼我の兵力上は、正面攻撃によって撃破できる目算が充分立っても、よく深慮遠謀してみると、他にもっと巧妙な手があって、労せずに撃破できる可能性のある軍のことを指します。そうであれば、みすみす損害の多い正面攻撃をかけるのは愚かであるから、当座は見逃しておくことになります。 ⑧ 攻略してはいけない城 まず第一に、兵力上は十分攻め落とせる目算は立つが、それを抜いてもそこから先の前進に別段の利益がなく、たとえ攻略してみても以後その城を守り切れる成算がない城です。第二には、いかに力攻めしてみても、攻略できそうになく、素通りして前進し、先方で勝利を収めた場合には、自動的に戦意を失って降伏してくる城、またよしんば先方で勝利が得られなくても、後に自軍の害となる恐れのない城のことです。こうした場合は、戦力と時間の浪費を避け、敵城を放置して前進し続けた方が、はるかに得策となります。 ⑨ 争奪してはいけない土地 水や食料が得られぬ劣悪な環境で、たとえ奪い取ってみても、所詮、長くは占領を維持できない不毛な土地を指します。こんな土地を、多大な犠牲を払ってまで敵と争奪するのは愚かであり、最初から手出しを控えるに越したことはありません。 そして、君主がこれら応変の処置の利益を計れずに、無謀な命令を下してきた場合には、将軍は断固その君命を拒絶し、軍事的利益のみを優先させる勇気を発揮しなければならないのです。 競争優位の終焉 市場の変化に合わせて、戦略を動かし続ける 上記の地形に関する留意事項は、そのまま現代ビジネスに応用することは難しいですが、裏返して言えば、 1.無関連多角化事業への新規進出はそもそも「地の利」が少ないので勝算が小さい 2.勝算が小さい市場へ新規進出する際、補給・兵站(会社で言うと資金繰りと人繰りでしょうね)を切らさないように留意する 3.「リアル・オプション」手法などを使って、いつでも撤退の意思決定ができるようにしておく、と同時に、「アダプティブ戦略」を持って柔軟に事業の成り立ちを変更可能にしておく 4.現場の判断を重要視し、タイミングを外した的外れな経営トップの指示をいちいち仰がないと動けない指揮命令系統にはしない ぐらいの4つのポイントに置き換えることができるかもしれません。 最高の戦略教科書 孫子現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します