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孫子 第8章 九変篇 36 智者の慮(りょ)は、必ず利害を雑(まじ)う

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ 孫子の兵法(入門)
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■ 物事は多角的に見る癖を付けよう!

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智者の思慮は、ある一つの事柄を考える場合にも、必ず「利」と「害」との両面をつき混ぜて洞察します。
利益になる事柄には害の側面をも交えて考えるなら、その事業は必ず狙い通りに達成できます。
害となる事柄には利益の側面をも合わせて計り考えるならば、その心配も消すことができます。

それゆえ、
諸侯の意志を自国の意図の前に屈服させるには、その害悪ばかりを強調し、
諸侯を使役するには、損害を顧みないほど魅力的な事業に乗り出させ、
諸侯を奔走させるには、害の側面を隠して利益ばかりを示す手を使うのです。

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前節の「九変の術」とは、臨機応変に事の利害を計る術策でしたが、ここでは物事を「利」と「害」の両面から観るべきであると言われています。すべての物事には、必ず利益の側面と害悪の側面が、表裏一体をなす形で併存しているものです。このうち、「利」の一面にのみ目を奪われて行動すれば、やがて隠されていた「害」の側面に足をすくわれてしまい、意図した通りには事業が成功しないで終わることでしょう。利益につきまとう損害の面に対し、決して目をつぶることなく、あらかじめ対策を立てて臨んでこそ、当初の計画通りに事を運ぶことができるのです。

逆に、「害」の一面にのみ、目を奪われると、あれこれ心配ばかりが先に立ち、結局は一歩も前進せぬまま消極的対応に終始してしまうことでしょう。しかし、よくよく考えてみると、「害」の裏側にはきまって利点も潜んでいるものです。この側面に注目し、そこに大きな意義を見出すことができたなら、もはや絶望かと思われた深い憂慮も晴れ、一転して積極果敢な行動に打って出られるようになることでしょう。

何が何でも得だけしたがる強欲者、
または、
ほんのわずかでも損害を被りたくないとおびえる小心者は、

利害・得失を天秤にかけて、多面的なものの見方ができないので、目先の利害に幻惑されて、最終的には大局的利益を失うことでしょう。

孫子は、そうした利害得失を多面的に見ることの重要さを「諸侯」を操る術、つまり外交交渉における相手方のマインド・コントロールに応用できると、具体例を挙げて説明しています。現代ビジネス風に例えるなら、各種の契約交渉のテーブルでの権謀術数の具体策になるでしょうか。

≪1.小心者にはマイナス面を強調して腰を引かせる≫
どこかの諸侯が、自国の不利になる事業に着手しようとしている場合、その事業に伴うマイナス面を延々と並べ立てて、前途の困難さを強烈に印象づける。そのうえで、ここは慎重に構えた方が良いのではありませんか、と釘を刺し、相手が予想する損害の大きさにたじろいで、自らその事業計画を断念・放棄するように仕向けます。

≪2.プライドが高く名誉欲の強い者にはおだてて消耗させる≫
国力に余裕があり、それを自国に向けられては脅威となるような諸侯に対しては、かくも偉大な事業ができるのはあなたしかいないとおだて上げ、実力値以上の大事業に身を乗り出させます。その際、成功の暁に獲得できるであろう名声や栄光やらをことさらに並べ立てて、相手に損害が出る(出た)側面を忘れてしまうように誘導します。こうして、ひたすら輝かしい未来だけを印象づけて、相手を難事業にのめり込ませ、いずれ次々に露呈してくる危害の前に、相手の国力が消耗・疲弊してゆくお膳立てをします。

≪3.欲張り者には利で釣る≫
諸侯を右往左往させて、自国の行動から注意をそらさせるためには、ある事柄の利益の一面だけを吹聴し、その利益を手にしようとあちこち奔走するように仕向けます。相手は利益の陰に潜む害悪に目が曇り、躍起となって「利得」だけを追いかけて、走り回ります。しかし、たとえその利得を手中にしたとしても、それは気づくことができなかった損失と実は抱き合わせになっているため、結局はプラスマイナスゼロ(±0)となり、後には浪費した時間と労力だけが損失として残るだけ。

すでに、2000年以上前に、こうした交渉術が残されていたんですね。そう思うと、人間って全然進歩していないなあ~。

孫子は、「心理学」という論者もいます。言い得て妙なり。

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