孫子 第11章 九地篇 57 能く士卒の耳目を愚にして - 指揮官の内心は誰にも明かしてはならない!

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■ 古代中国の当時は、指揮官の真意は構成員に伝えない方が組織が動いたそうです

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

将軍たる者の仕事ぶりは、表面はどこまでも平静を保つので、誰からも内心を窺い知られぬほど奥深く、万事につけ個人的感情を一切出さずに公正に処置するので、軍隊内が整然と統治されていくものです。

そうした将軍の見事とされる仕事ぶりは次の通り。
1)士卒の認識能力を巧みに無力化して、逃亡しないように持っていく。
2)自軍の行動目標をしきりに変更し、自軍の作戦計画をつぎつぎに転換しては、兵士たちに将軍の真の意図を感づかれないように操作する
3)自軍の駐屯地を転々と変え、自軍の進路をあちこちに迂回させては、兵士たちに軍の真の行先を推測されないようにする

具体的な事例としては次の通り。
1)開戦に際し、軍隊を統率して、兵士たちとこの戦争で遂行すべき任務を確認し合うときには、果たすべき最終的結果のみを知らせて、そこに至る途中経過は一切内密にする
2)高い場所に兵士たちを登らせてから、こっそり梯子を外す
3)実際に軍事行動を開始し軍を引率して異国の領内深く侵入し、軍を決戦に向けて発進させるときには、従順な羊の群れを駆り立てるようにする
4)兵士たちは真実を告げられぬまま駆り立てられ往ったり来たりするだけで、誰にもいく先が分からないようにする
5)全軍の兵力を結集して、それを見破られぬように危険な状況の中に投げ込むことこそ、将軍たる者の事業といえる

九種の地勢(散地(さんち)、軽地(けいち)、争地(そうち)、交地(こうち)、衢地(くち)、重地(じゅうち)、泛地(はんち)、囲地(いち)、死地(しち))が要求する変法や、軍を停止させたり進出させたりすることがもたらす利益、境遇に規定される人情の道理などについては、よくよく洞察しなければならないのです。

(出典:浅野裕一著『孫子』講談社学術文庫)

—————–
孫子の時代は、典型的な「知らしむべからず」が通る時代でした。

「由(よ)らしむべし知(し)らしむべからず」
出典:「論語」
意味:人民を為政者の施政に従わせることはできるが、その道理を理解させることはむずかしい。ここから転じて、為政者は人民を施政に従わせればよいのであり、その道理を人民にわからせる必要はないという意味。

何とも傲慢な、それでいて一般兵士(組織構成員、国民など)をばかにした考え方だと現代では捉えられるでしょう。では、どうしてこういう認識ギャップが生まれたのでしょうか?

古代中国では長い間、軍隊を構成する大多数は農民からの徴募兵で、非常に練度と士気が低い存在でした。したがって、マグレガーのX理論・Y理論にある通り、

「X理論」
ただ生理的欲求や安全欲求という低次の欲求しか持っていない人間をコントロールするには、アメとムチが有効である
「Y理論」
高次の自己実現欲求の高い人間をコントロールするには、自己実現を図れるような機会を与える管理が有効である

という2つの人間観の内、農民主体の徴募兵は「X理論」がよく当てはまり、人間は本来なまけたがる生き物だ。命令や強制で管理し、目標が達成できなければ懲罰をかければ思うように動かせる」という人間観を持っているということです。しかし、これに少しでも違和感を持つ人は、自分と自分の周りにいる人たちが「Y理論」で動く人であると認識していると思われます。

こうした考え方をもっていれば、「人間は本来進んで働きたがる生き物で、自己実現のために自ら行動し、進んで問題解決をするものだ。だから、労働者の自主性を尊重する経営手法を採るべきだ」という思考回路に当然なります。

孫子が活躍した時代背景も、現代ビジネスにおいて、個別企業が置かれた状況もそれぞれ異なりますので、指揮官(管理職)の好みはさておき、自分が統率すべき組織の構成員が一体どちらの価値観で動く人たちなのかを正確に知る必要があります。

ただし、筆者が生業としている経営コンサルタントのワークスタイルであるプロジェクトベースのタスク推進においては、Y理論であるはずのコンサルタント達ですら、プロジェクトマネージャー(いわゆる指揮官、管理職と同等の立場)の意図するところをすべてプロジェクトメンバに共有すると、かえって、思うように仕事が進まないこともあります。なぜなら、プロジェクトマネージャーとプロジェクトメンバとでは、見えている地平が異なる、即ち、プロジェクトが置かれている状況に関する情報の非対称性がどうしてもあるため、ひとつの事象に対する見解が不一致であることが常態化しているからです。それゆえ、大企業の組織運営も、コンサルタントの小さなプロジェクト運営も、ある程度、リーダーの士気のまま、愚直に作業をするという局面も確かに、作業効率の上からは致し方の無いことと言えます。

「知らしむべからず」と思っているわけではないのですが、100%の情報共有をしたからといって、キャリアや経験の差が埋まるはずもなく、見解が一致することもなく、さらに、仕事の出来栄えもリーダーの要求水準になることも稀なのです。大事なのは、

①リーダーは、部下の力量や仕事に対して見えている地平線が自分とは異なっていることをきっちり理解して、いたずらに部下のできなさ具合にキレないこと

②部下は、リーダーが言うことには、まずは一理あると思って仕事を進める姿勢を持つこと。自分でよく考えて、それでもリーダーについていけない場合は、リーダーの置かれている状況や自分のタスクが必要とされている環境への思いを馳せること。

つまり、リーダーも部下も相手の仕事・キャリア・環境への想像力を働かせることが大事!
これが、孫子57「能く士卒の耳目を愚にして」の結論になるのはこのブログだけ!(^^;)

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