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孫子 第13章 火攻篇 70 死者は以て復た生く可からず - 犠牲を出さないためには勝機の見えない戦いを避ける

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ 孫子の兵法(入門)
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■ 戦争を始める前に考えるべき大事なこととは?

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そもそも戦闘に勝利を収め、攻撃して戦果を獲得したにもかかわらず、それがもたらす戦略的成功を追求しないで、だらだら戦争を継続するのは、国家の前途に対して不吉な行為です。これは、国力を浪費しながら外地でぐずぐずしているといいます。

そこで、先見の明がある君主は、速やかな戦争の勝利と集結を熟慮し、国を利する将軍は、戦争を勝利の内に短期決着させる戦略的成功を追求するのです。

利益にならなければ軍事行動を起こさず、勝利を獲得できなければ軍事力を使用せず、危険が迫らなければ戦闘しません。君主は一時の怒りの感情から軍を興こし戦争を始めてはならず、将軍は一時の憤激に駆られて戦闘してはいけないのです。

国家の利益に合えば軍事力を使用し、国家の利益に合致しなければ軍事力の行使を思い留まります。怒りの感情はやがて和らいで、また楽しみ喜ぶ心境に戻れるし、憤激の情もいつしか消えて再び心地よい心境に戻れるものですが、軽はずみに戦争を始めて敗北すれば、滅んでしまった国家は決して再興できませんし、死んでいった者たちも二度と生き返らせることはできないのです。

だから、先見の明を備える君主は、軽々しく戦争を起こさぬよう慎重な態度で臨み、国家を利する将軍は、軽率に軍を戦闘に突入させぬように自戒するのです。これこそが、国家を安泰にし、軍隊を保全する方法なのです。

(出典:浅野裕一著『孫子』講談社学術文庫)

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さあ、孫子の兵法の最終節となります。(^^)

どれほど局地的な戦闘に勝利を収めたり、敵地や敵城を攻略してみても、戦争を有利に集結させる戦略的成功に結び付けなければ、それらは単なる戦術的・局地的勝利の域を出ません。したがって、英邁な君主や将軍は、戦闘での勝利や占領地の獲得が、戦略構想全体の中で、いかなる位置を占め、いかなる意味を持ちうるのか、その可能性を常に熟考しなければならないのです。

「戦争論」で有名なクラウゼヴィッツも「戦争は政治の継続なり」といっています。洋の東西を問わず、戦うことの意味をきちんとわきまえることは、戦略家(兵法家)として必須の素養のようです。

戦術的・局地的勝利から、いかに最大限の戦略的成功を引き出すか、それは第一線の指揮官の仕事ではなく、将軍や君主といった組織を率いるリーダーの大事な使命なのです。

かりに、ただ漫然と占領地を拡大して自軍の優勢に安心したり、局地戦での勝利に自己満足したりして、その戦果を戦略的勝利にまで拡大する努力を怠るならば、その勝利は、徒労であるばかりでなく、国家に対する凶事といわざるをえません。まさに、太平洋戦争において、戦域を拡大させ、北はアリューシャン列島、南はガダルカナル、西はインパール、東はミッドウェーと、戦闘範囲を拡大しつつ、戦力の逐次投入から多大なる犠牲者をだし、ついには無条件降伏の道をたどった旧日本軍の教訓そのものです。

いかに結果が敗北ではなく勝利の形をとっていたとしても、その勝利を得るために、自国は既に多大な経済的かつ人的犠牲を払わされているのです。前線の兵力は、存在そのものが既に損失であり、戦争に無駄な勝利は皆無なのです。にもかかわらず、小さな勝利に甘んじ、戦略的意義を引き出せずに終わるならば、そうした勝利は、代償に見合う成果を得られぬ徒労の蓄積に他ならず、国力を消耗させる一方で、一向に戦争目的が遂げられぬ泥沼の長期戦へと国家を引きずり込んで、やがて自国を確実に破滅へと導くことになるでしょう。

何事も、いざことを始める際には、終わらせ方、ゴールテープを切る姿を思い浮かべてから、というのが鉄則のようです。振り上げた拳はその下し方まできちんと想像してから、振り上げてください、ということです。

そもそも、戦争とは、戦争それ自体が目的なのではなく、政治上の目的を達成するための、数多い手段のひとつにすぎません(戦争論)。それゆえ、この戦争を如何に集結させるかとの思索(施策)は、開戦に踏み切る前も、戦争中も、君主や将軍が常に念頭に置くべき最優先事項であるべきなのです。

孫子の兵法は、第1節にて、

「兵とは国の大事なり」を説くことから始まりました。

⇒「孫子 第1章 計篇 1 兵とは国の大事なり

そして、最終節のここで改めて、事を起こすこと(戦争を始めること)の影響力の大きさ、犠牲にするものと得られる結果の比較衡量などを説き、愚かで徒労に終わる戦いをいさめるのです。

そういう精神から、「戦わずして勝つ」という言葉も同根であることが強く理解できると思います。

いかに戦うか? それは、

① 味方の損耗を最小限にとどめる(犠牲が大きいと不幸になる人が多くなる!)
② 戦う前に勝算と戦う目的を明確にする
③ リーダーの指揮と兵卒の士気が勝利のカギを握る

筆者は、この孫子の兵法70節から、これら3つを学びました。
長きに渡った連載、最後までお読みいただきありがとうございました。m(_ _)m

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