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■ タックス・インバージョンと企業誘致合戦の行く末

経営管理会計トピック

あなたは、「地方創生」の美名のもと、地方自治体が企業誘致目的の減税を約束することをどう思いますか? また「ふるさと納税」についてはどう思いますか? ある程度の年齢の方は、「国土の均衡ある発展(国土形成計画法:昭和25年)」という言葉に記憶があるかもしれません。最近、国家間の法人減税合戦が激しくなり、日本も法人税の減税スタンスを強めてきました。

2015/12/17付 |日本経済新聞|朝刊 法人税 稼ぐ企業有利に 赤字なら負担重く、経済の新陳代謝促す 税制改正大綱

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「与党の2016年度税制改正大綱が決まった。企業の利益にかかる法人実効税率は現在の32.11%から来年度に29.97%、18年度に29.74%まで下がる。16年度は1年間限定で約2000億円の減税になるが、その後は赤字企業への増税などで財源を確保。17年度からは法人税収が減らない「税収中立型」とした。黒字企業に恩恵が増える一方、赤字企業は事業整理の前倒しなどを迫られる。税を通じて経済の新陳代謝を促す枠組みだ。」
「実効税率引き下げの減税規模は1兆円程度。金融危機から業績を大きく持ち直し、巨額の利益を得ている自動車業界や金融業界は減税の恩恵が大きくなる。経団連の榊原定征会長は16日の声明で「国内投資の拡大や外国企業の誘致に向け大きな一歩を踏み出した」と評価した。」

(同記事添付の法人減税の財源整理表を転載)

20151217_法人税減税の財源_日本経済新聞朝刊

この法人減税施策の目的は、経団連の榊原会長が評価している通り、「国内投資拡大や外国企業の誘致」と考えるのが普通ですが、日本企業の本社機能が外国に出ていくことへの抑止効果を狙っている、というのが正しい評価でしょう。なぜなら、上記の表にある通り、恒常的に黒字決算になりやすい大企業を優遇して、中小・零細企業に多い赤字企業への納税義務を強める外形標準課税枠の拡大で法人税減税の財源としているからです。

「一方、外形標準課税などの増税策が組み込まれたことで赤字や利益の少ない中堅・大企業の負担が重くなる。資本金1億円超の企業は約2万3千社あるが、この3割の約6500社が赤字だ。稼ぐ企業には恩恵が大きいが、業績不振の企業には厳しい“信賞必罰”の仕組みが強まる。」

中小企業に犠牲を強いても、国家間の大企業の本社機能誘致合戦に勝利した方が、全体として税収確保に有利との政府の判断でしょう。それを促した経団連他のロビー活動等の効果もあったでしょうが。。。

さて、その動きが地方自治体への拡散したことを取り上げたのが今回のテーマです。

グローバル経営と移転価格税制・国際「節税」 ―中心課題となった無形資産をめぐって― グローバル経営シリーズ

■ 地方創生にはふるさと納税の次は法人事業税優遇

ちなみに、ふるさと納税とは、自治体への寄附金のことで、個人が2,000円を超える寄附を行ったときに住民税のおよそ2割程度が還付、控除される制度です。地方間格差や過疎などによる税収の減少に悩む自治体に対しての格差是正を推進するための新構想として、2008年、第1次安倍政権のときに創設された制度です。

推進している総務省のホームページはこちら
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/080430_2_kojin.html

ちょっとなりふり構わない寄付金集めの過熱ぶりが報道されたこともありました。こうした、地方自治体の財源確保策の追加策が、地方税減額の動きです。

2016/1/4付 |日本経済新聞|朝刊 20県、本社移転で税優遇 長野は法人事業税95%減

「地方自治体が本社機能を移転した企業に地方税を減額する動きが広がっている。長野県は法人事業税を3年間95%、富山、石川県は90%減額する。経済産業省によると都道府県の約4割にあたる20県程度が導入・計画。東京一極集中を是正するための国の補助制度を活用し地域の中核企業をつくり、人口流出を抑える。」

この施策の特徴というか、企業関係者も注目するのが次のポイントです。

・本社機能には管理部門のほか、研究開発拠点なども含める
・東京23区から本社機能を移す企業を優遇する
①長野県は、法人事業税を3年間、95%減額
②群馬、香川県では初年度50%、2年目は25%、3年目に12.5%免除
・税目が多様化している
  ①長野、富山県などでは不動産取得税や固定資産税の減額措置も設けている
  ②石川県は不動産取得税も減額する
・日本政府の後押し
  自治体に県外から本社機能を移した企業への減税を促すため、減税額の最大4分の3
を地方交付税として財政措置

この「本社機能」というのがこれまでの、①安い人件費、②広い工業用地、③固定資産税の優遇などが中心だった「工場誘致」とは違い、

「これまで自治体は工場誘致を進めてきた。しかし、為替動向などで撤退も相次いだ。本社機能ならば、工場より撤退の可能性が低いとみている。」

という中長期的な効果を勘案しての政策という所が大変興味を引きます。つまり、工場が海外に転出して、痛い目を見た自治体が多かったことの裏返しとも言えます。

ふるさと納税ハンドブック 2015-2016年版 (日経ムック)

■ グローバル的な誘致合戦の過熱とアンチ・タックスプランニングの勝負

ではグローバルに見るとどうでしょうか?

まず基本的な用語のおさらいから。

「タックス・プランニング」
①将来の法人税等の発生につき計画を行うこと
②従来は、税効果会計上、繰延税金資産の回収可能性を裏付けるために立案されるもの
③最近は、そもそも節税(税務上のコストの低減)、税務上のリスク低減または排除も重要な目的とされるようになった

この③をやりすぎて、低法人税国に本社を移して、課税負担を下げる要とする動きになり、これを、タックス・インバージョン(Tax Inversion::節税のための本社移転)と呼ばれるようになって久しくなりました。そして、この課税回避策が当局からの強い反発に遭っているのも事実です。

2015/9/21付 |日本経済新聞|朝刊 税逃れ回避の新ルール、OECD決定へ きょうから租税委

「経済協力開発機構(OECD)は21~22日にパリで租税委員会を開き、多国籍企業の税逃れを防ぐ新ルールを決定する。利益を稼いだ国できちんと課税できるようにしてタックスヘイブン(租税回避地)を使った税逃れを規制する。米国企業などの税逃れが横行していることに対応する。」

2015/11/20付 |日本経済新聞|夕刊 税率低い第三国に新本社 米、課税逃れ買収に歯止め 事業規模で規制

「【ワシントン=川合智之】米財務省は19日、M&A(合併・買収)を活用した企業の節税策を防ぐ追加規制を発表した。米企業が外国企業と合併して税率の低い第三国に新本社を設立する行為などを規制した。製薬大手などが節税のため米国脱出を図る動きが相次いでおり、オバマ政権は規制強化で課税逃れを阻止する。」

国家間の企業誘致が過熱し、法人減税のチキンレースが行われてタックス・インバージョンを引き起こし、その一方で当局がそれを規制に入った。まるでマッチポンプです。片方で企業誘致のために減税をしておきながら、一方で流出しようとする企業を法規制で押しとどめようとする。

これが、国内で地方自治体同士での競争が過熱に飛び火したら、日本政府はどうするのでしょう。少なくとも東京都知事はこの事態(地方交付税の優遇)をきっと宜しくは思わないでしょう。

地方再生 → 地方税の優遇を推進
企業誘致 → 法人減税
タックス・インバージョン → 法規制の強化

ダブルスタンダードもいい所ですね。自分は良いけど、相手が得するのは許せない。

かつて、「税の三原則」という言葉がありました。税金を社会の構成員が広く公平に分かち合っていくための基本原則のことで、「公平、中立、簡素」のこと。全然「中立」ではなく、思いっきり企業活動に意図的に影響を及ぼしていますよね。まったく、こういうのは税務アドバイザリーやコンサルタントを儲けさせるだけで、事業をまじめに営んでいる企業に取ってははた迷惑なだけかもしれませんね。おっと、自分も管理会計・経営管理を」生業としているコンサルタントであることを忘れていました。。。(^^;)

海外寄附金と移転価格税制の実務

日本の税制――何が問題か

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20県、本社移転で税優遇 長野は法人事業税95%減http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭経済動向を会計で読むふるさと納税,タックスインバージョン,タックスプランニング,国際税務,法人事業税■ タックス・インバージョンと企業誘致合戦の行く末 あなたは、「地方創生」の美名のもと、地方自治体が企業誘致目的の減税を約束することをどう思いますか? また「ふるさと納税」についてはどう思いますか? ある程度の年齢の方は、「国土の均衡ある発展(国土形成計画法:昭和25年)」という言葉に記憶があるかもしれません。最近、国家間の法人減税合戦が激しくなり、日本も法人税の減税スタンスを強めてきました。 2015/12/17付 |日本経済新聞|朝刊 法人税 稼ぐ企業有利に 赤字なら負担重く、経済の新陳代謝促す 税制改正大綱 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「与党の2016年度税制改正大綱が決まった。企業の利益にかかる法人実効税率は現在の32.11%から来年度に29.97%、18年度に29.74%まで下がる。16年度は1年間限定で約2000億円の減税になるが、その後は赤字企業への増税などで財源を確保。17年度からは法人税収が減らない「税収中立型」とした。黒字企業に恩恵が増える一方、赤字企業は事業整理の前倒しなどを迫られる。税を通じて経済の新陳代謝を促す枠組みだ。」 「実効税率引き下げの減税規模は1兆円程度。金融危機から業績を大きく持ち直し、巨額の利益を得ている自動車業界や金融業界は減税の恩恵が大きくなる。経団連の榊原定征会長は16日の声明で「国内投資の拡大や外国企業の誘致に向け大きな一歩を踏み出した」と評価した。」 (同記事添付の法人減税の財源整理表を転載) この法人減税施策の目的は、経団連の榊原会長が評価している通り、「国内投資拡大や外国企業の誘致」と考えるのが普通ですが、日本企業の本社機能が外国に出ていくことへの抑止効果を狙っている、というのが正しい評価でしょう。なぜなら、上記の表にある通り、恒常的に黒字決算になりやすい大企業を優遇して、中小・零細企業に多い赤字企業への納税義務を強める外形標準課税枠の拡大で法人税減税の財源としているからです。 「一方、外形標準課税などの増税策が組み込まれたことで赤字や利益の少ない中堅・大企業の負担が重くなる。資本金1億円超の企業は約2万3千社あるが、この3割の約6500社が赤字だ。稼ぐ企業には恩恵が大きいが、業績不振の企業には厳しい“信賞必罰”の仕組みが強まる。」 中小企業に犠牲を強いても、国家間の大企業の本社機能誘致合戦に勝利した方が、全体として税収確保に有利との政府の判断でしょう。それを促した経団連他のロビー活動等の効果もあったでしょうが。。。 さて、その動きが地方自治体への拡散したことを取り上げたのが今回のテーマです。 グローバル経営と移転価格税制・国際「節税」 ―中心課題となった無形資産をめぐって― グローバル経営シリーズ ■ 地方創生にはふるさと納税の次は法人事業税優遇 ちなみに、ふるさと納税とは、自治体への寄附金のことで、個人が2,000円を超える寄附を行ったときに住民税のおよそ2割程度が還付、控除される制度です。地方間格差や過疎などによる税収の減少に悩む自治体に対しての格差是正を推進するための新構想として、2008年、第1次安倍政権のときに創設された制度です。 推進している総務省のホームページはこちら (http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/080430_2_kojin.html) ちょっとなりふり構わない寄付金集めの過熱ぶりが報道されたこともありました。こうした、地方自治体の財源確保策の追加策が、地方税減額の動きです。 2016/1/4付 |日本経済新聞|朝刊 20県、本社移転で税優遇 長野は法人事業税95%減 「地方自治体が本社機能を移転した企業に地方税を減額する動きが広がっている。長野県は法人事業税を3年間95%、富山、石川県は90%減額する。経済産業省によると都道府県の約4割にあたる20県程度が導入・計画。東京一極集中を是正するための国の補助制度を活用し地域の中核企業をつくり、人口流出を抑える。」 この施策の特徴というか、企業関係者も注目するのが次のポイントです。 ・本社機能には管理部門のほか、研究開発拠点なども含める ・東京23区から本社機能を移す企業を優遇する ①長野県は、法人事業税を3年間、95%減額 ②群馬、香川県では初年度50%、2年目は25%、3年目に12.5%免除 ・税目が多様化している   ①長野、富山県などでは不動産取得税や固定資産税の減額措置も設けている   ②石川県は不動産取得税も減額する ・日本政府の後押し   自治体に県外から本社機能を移した企業への減税を促すため、減税額の最大4分の3 を地方交付税として財政措置 この「本社機能」というのがこれまでの、①安い人件費、②広い工業用地、③固定資産税の優遇などが中心だった「工場誘致」とは違い、 「これまで自治体は工場誘致を進めてきた。しかし、為替動向などで撤退も相次いだ。本社機能ならば、工場より撤退の可能性が低いとみている。」 という中長期的な効果を勘案しての政策という所が大変興味を引きます。つまり、工場が海外に転出して、痛い目を見た自治体が多かったことの裏返しとも言えます。 ふるさと納税ハンドブック 2015-2016年版 (日経ムック) ■ グローバル的な誘致合戦の過熱とアンチ・タックスプランニングの勝負 ではグローバルに見るとどうでしょうか? まず基本的な用語のおさらいから。 「タックス・プランニング」 ①将来の法人税等の発生につき計画を行うこと ②従来は、税効果会計上、繰延税金資産の回収可能性を裏付けるために立案されるもの ③最近は、そもそも節税(税務上のコストの低減)、税務上のリスク低減または排除も重要な目的とされるようになった この③をやりすぎて、低法人税国に本社を移して、課税負担を下げる要とする動きになり、これを、タックス・インバージョン(Tax Inversion::節税のための本社移転)と呼ばれるようになって久しくなりました。そして、この課税回避策が当局からの強い反発に遭っているのも事実です。 2015/9/21付 |日本経済新聞|朝刊 税逃れ回避の新ルール、OECD決定へ きょうから租税委 「経済協力開発機構(OECD)は21~22日にパリで租税委員会を開き、多国籍企業の税逃れを防ぐ新ルールを決定する。利益を稼いだ国できちんと課税できるようにしてタックスヘイブン(租税回避地)を使った税逃れを規制する。米国企業などの税逃れが横行していることに対応する。」 2015/11/20付 |日本経済新聞|夕刊 税率低い第三国に新本社 米、課税逃れ買収に歯止め 事業規模で規制 「【ワシントン=川合智之】米財務省は19日、M&A(合併・買収)を活用した企業の節税策を防ぐ追加規制を発表した。米企業が外国企業と合併して税率の低い第三国に新本社を設立する行為などを規制した。製薬大手などが節税のため米国脱出を図る動きが相次いでおり、オバマ政権は規制強化で課税逃れを阻止する。」 国家間の企業誘致が過熱し、法人減税のチキンレースが行われてタックス・インバージョンを引き起こし、その一方で当局がそれを規制に入った。まるでマッチポンプです。片方で企業誘致のために減税をしておきながら、一方で流出しようとする企業を法規制で押しとどめようとする。 これが、国内で地方自治体同士での競争が過熱に飛び火したら、日本政府はどうするのでしょう。少なくとも東京都知事はこの事態(地方交付税の優遇)をきっと宜しくは思わないでしょう。 地方再生 → 地方税の優遇を推進 企業誘致 → 法人減税 タックス・インバージョン → 法規制の強化 ダブルスタンダードもいい所ですね。自分は良いけど、相手が得するのは許せない。 かつて、「税の三原則」という言葉がありました。税金を社会の構成員が広く公平に分かち合っていくための基本原則のことで、「公平、中立、簡素」のこと。全然「中立」ではなく、思いっきり企業活動に意図的に影響を及ぼしていますよね。まったく、こういうのは税務アドバイザリーやコンサルタントを儲けさせるだけで、事業をまじめに営んでいる企業に取ってははた迷惑なだけかもしれませんね。おっと、自分も管理会計・経営管理を」生業としているコンサルタントであることを忘れていました。。。(^^;) 海外寄附金と移転価格税制の実務 日本の税制――何が問題か現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します