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■ 来年度、現金配当したいから減資します!

経営管理会計トピック

経営構造改革の途上にある東芝の資本政策のひとつが経済紙で報道されました。来期の当期純利益のプラス計上(利益と言っているのでそもそも値はプラスですが、、、(^^;))の見通しが立ったため、前期の4832億円の純損失(親会社株主帰属分ベース)にも上る膿を出し切り、仕切り直しの現金配当を考えているためです。

2016/5/22付 |日本経済新聞|朝刊 東芝、2000億円規模減資 累損圧縮、株主総会に付議

「東芝は2000億円規模の減資を実施し、累積損失を圧縮する方針だ。2016年3月期の業績悪化で単独決算ベースの累損は4700億円超に膨らんだ。資本金の取り崩しで累損を減らし、将来の復配や資本政策を円滑に進められるよう財務基盤を整える。6月22日に予定する株主総会で、3分の2以上の賛成が必要な特別決議にかける。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

筆者は、バフェット信奉者で、基本的に現金配当より企業成長の結果の株式分割で投資家に報いてほしい派なので、東芝が資本政策において、会社法知識と会計技法を駆使して、早期に現金配当を復活させることについて、積極的に賛意を示せませんが、世の中の投資家(特に機関投資家)にとって、現金配当も大事な投資先選定のファクターだということは存じているつもりです。皆さんが、ここはテクニカルに、新聞報道の内容についての理解を深められるように、知識の整理に徹した説明に努めたいと思います。

 

■ 新聞記事の流れに沿って、会社法と制度会計の仕組みを概要だけちょこっと、、、

記事によりますと、
「東芝は前期決算で、米原子力事業などについて4000億円超の資産評価損を計上。リストラ費用も膨らみ、連結最終赤字は過去最大の4832億円(前の期は378億円)となった。単独決算でも最終赤字は3293億円に膨らみ、6年ぶりの無配に転落した。」

ということで、久しぶりの無配になりました。その原因は、会計の世界では連結ベースでの業績開示にもかかわらず、会社法の世界では原則として、まだ「単体」ベースの配当可能額の計算に則っていますので、東芝の前期の決算結果に基づき、単体で配当可能額の大半を占める剰余金がマイナス値になってしまったため、無配ということになりました。といっても、連単共に大幅に赤字となり、剰余金がマイナスになったので、東芝のケースでことさら連単の違いを言い立てても、と思いましたが、世の中には、会計数字の公表は「連結」、配当と税務申告は「単体」と乖離していることについてあまり周知されていないと思い、念のため言及しておきました。この点は、管理会計屋として、計算単位が異なることにより、社内の経営管理が難しい原因の一つとして、日頃から気にかけている点でもあります。

(下記は、5/12の2015年度の決算発表資料より抜粋。以後の転載資料も同様)

東芝 2015年度決算発表資料(PDF)より

20160512_東芝単独純資産の状況

記事によりますと、
「赤字計上で前期末の単独ベースの累損は4753億円(15年3月期末は1457億円)に拡大。資産から負債を引いた純資産が準備金などを含む資本金よりも少ない状態を示す資本欠損となり、欠損額は963億円になった。この状態では配当を払うことができない。」

ということで、貸借対照表(B/S)の左右(貸方・借方)を持ち出して、

資産 - 負債 = 純資産 < 0

のような、筆者的には厳密には違うと考えていますが、一般的にいわゆる「債務超過」と呼ばれる状態かのような記述に読めないこともない文章になっています。しかし事実は異なります。きちんと、純資産はプラスで、純資産を構成する一部の剰余金がマイナスなだけで、この剰余金が現金配当の原資というだけです。

下記は、決算発表資料より、連結ベースの株主資本の増減の解説図を抜粋したものです。

20160512_東芝_財務体質_株主資本

数字だけならんでいても、どれだけ前期の当期純損失のインパクトがあったのか、定量的に把握しづらいかもしれないので、下図に、筆者が、東芝の決算短信から引っ張ってきた数字で、連結ベースで東芝の貸借対照表のあらましを、とくに右側(貸方)に着目して整理したチャートを示します。

経営管理会計トピック_東芝のB/S(2016/3月末)

配当ができるのは、簡単に言うと、利益剰余金+アルファの要素。上記の場合、これが東芝ではマイナス値(= 累積損失:▲5249億円)となっている、ということを明確に表現してみました。

この図で筆者がいいたいことは、ふたつ。

(1)新聞報道の2000億円の減資は、東芝の連結B/S全体からのインパクトからすると、大きなものではない
(2)減資の原資となる資本金を約半分に減らして、仮に来年利益がでなくても、借方にある現預金が9697億円残っているので、資金繰りその他はあまり心配いらない

今回の新聞記事は、文章のみで、貸借対照表のチャートすら出てこない。ましてや、筆者作成の面積チャート(タイル図など、呼び方は雑多)などで、金額的インパクトを可視化しておかないと、数字の羅列だけでは、本質が見えてこないと思います。

 

■ 新聞記事の流れに沿って、会社法の配当の仕組みを概要だけちょこっと、、、

新聞記事では、
「4399億円ある資本金から約2000億円を取り崩して累損を圧縮すれば、資本欠損は解消される。減資で資本金は減るが、純資産を構成する各項目間で金額を振り替える処理のため、主に株主の持ち分である純資産の総額は変わらない。」

とあります。これは、会社法における減資の方法が2つあることのひとつを採用していることを暗に言っています。

「有償減資」(旧商法の言い方)
会社のビジネスが縮小し、株主に出資してもらったお金が余るようになったので、実際に株主に出資してもらった投資額を返却すること。会社から見て、実際にキャッシュアウト(会社→株主)するので、「有償」と呼ばれていました。実際の手続きとして、旧商法時代に許されていた資本金の減少額を直接、株主に払い戻すことはできなくなり、今の会社法では、

① 株主総会で「減資」すなわち「資本金から剰余金への振り替え」の特別決議を行う
② 続いて、株主総会で剰余金の配当を決議する
③ 減資と株式数の減少は直接関係ないので、株式数も減らしたい場合は、自己株式の消却決議を合わせて行う

という手続きが必要になります。

「無償減資」(旧商法の言い方)
累積損失を帳簿上から消し去りたいので、資本金で、累積損失分と相殺させてしまうこと。会社からは、実際にどこにもキャッシュアウトしないので、その意味で「無償」と呼ばれていました。今回の東芝のケースはこれに当たります。

でも、筆者作成の累積損失:5249億円に対し、新聞報道では、2000億円の減資とのこと。3249億円の累損が残ったままで本当に現金配当が復活できるのか?

まあ、配当金額の算定は基本的には「単体」で行います。単体の資本欠損は、963億円なので、2000億円ならば、復配に問題ありません。ただし、ちょこっとここではプラスアルファの解説をしておきます。

基本的に、会社の配当可能額の計算手続は、
① 利益剰余金を計算する
② その他有価証券評価差額金がマイナスならその金額を引く
③ 土地再評価差額金がマイナスならその金額を引く
④ 「のれん」等調整額が資本金、資本剰余金、利益準備金を超えない分を計算する
⑤ 連結配当規制適用会社(単体より連結ベースで計算した配当可能額が小さい場合)は、より小さい配当可能額を採用する

という手続きを必要とします。それゆえ、連単が混ざっていたり、単純に「利益剰余金(準備金)」の金額だけで配当可能額を決めることはできないのです。世の中、ますます複雑なって嫌になります。(^^;)

東芝の、2016年度の利益計画はなんと、1000億円のプラスです。

20160512_東芝_2016年度業績予想_全社

このプラスの利益計画を達成した暁には、株主にも報いようとの経営者のお心遣いによる今回の減資政策なのでしょう。しかし、冒頭に申しあげたように、痛みを伴う経営構造改革を断行して、中長期の企業価値の向上を目指すために、目先の現金配当より、将来投資にお金を回してほしい、と思うのですが、それは数多存在する投資家たちそれぞれで立場と思いが異なることは至って自然。あくまで、筆者の意見表明も雑多な投資家の一意見にすぎませんので、上記の制度における解説と共に、皆さんの参考情報としてください。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

(関連投稿)
⇒「多様化する株主還元策 配当性向引き上げなど 成長戦略に合わせ変更
⇒「東芝、業績連動報酬を刷新 不適切会計の再発防止

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東芝、2000億円規模減資 累損圧縮、株主総会に付議http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭実務で会計ルールをおさらい減資,東芝,累積損失,有償減資,無償減資,利益剰余金■ 来年度、現金配当したいから減資します! 経営構造改革の途上にある東芝の資本政策のひとつが経済紙で報道されました。来期の当期純利益のプラス計上(利益と言っているのでそもそも値はプラスですが、、、(^^;))の見通しが立ったため、前期の4832億円の純損失(親会社株主帰属分ベース)にも上る膿を出し切り、仕切り直しの現金配当を考えているためです。 2016/5/22付 |日本経済新聞|朝刊 東芝、2000億円規模減資 累損圧縮、株主総会に付議 「東芝は2000億円規模の減資を実施し、累積損失を圧縮する方針だ。2016年3月期の業績悪化で単独決算ベースの累損は4700億円超に膨らんだ。資本金の取り崩しで累損を減らし、将来の復配や資本政策を円滑に進められるよう財務基盤を整える。6月22日に予定する株主総会で、3分の2以上の賛成が必要な特別決議にかける。」 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 筆者は、バフェット信奉者で、基本的に現金配当より企業成長の結果の株式分割で投資家に報いてほしい派なので、東芝が資本政策において、会社法知識と会計技法を駆使して、早期に現金配当を復活させることについて、積極的に賛意を示せませんが、世の中の投資家(特に機関投資家)にとって、現金配当も大事な投資先選定のファクターだということは存じているつもりです。皆さんが、ここはテクニカルに、新聞報道の内容についての理解を深められるように、知識の整理に徹した説明に努めたいと思います。   ■ 新聞記事の流れに沿って、会社法と制度会計の仕組みを概要だけちょこっと、、、 記事によりますと、 「東芝は前期決算で、米原子力事業などについて4000億円超の資産評価損を計上。リストラ費用も膨らみ、連結最終赤字は過去最大の4832億円(前の期は378億円)となった。単独決算でも最終赤字は3293億円に膨らみ、6年ぶりの無配に転落した。」 ということで、久しぶりの無配になりました。その原因は、会計の世界では連結ベースでの業績開示にもかかわらず、会社法の世界では原則として、まだ「単体」ベースの配当可能額の計算に則っていますので、東芝の前期の決算結果に基づき、単体で配当可能額の大半を占める剰余金がマイナス値になってしまったため、無配ということになりました。といっても、連単共に大幅に赤字となり、剰余金がマイナスになったので、東芝のケースでことさら連単の違いを言い立てても、と思いましたが、世の中には、会計数字の公表は「連結」、配当と税務申告は「単体」と乖離していることについてあまり周知されていないと思い、念のため言及しておきました。この点は、管理会計屋として、計算単位が異なることにより、社内の経営管理が難しい原因の一つとして、日頃から気にかけている点でもあります。 (下記は、5/12の2015年度の決算発表資料より抜粋。以後の転載資料も同様) ● 東芝 2015年度決算発表資料(PDF)より 記事によりますと、 「赤字計上で前期末の単独ベースの累損は4753億円(15年3月期末は1457億円)に拡大。資産から負債を引いた純資産が準備金などを含む資本金よりも少ない状態を示す資本欠損となり、欠損額は963億円になった。この状態では配当を払うことができない。」 ということで、貸借対照表(B/S)の左右(貸方・借方)を持ち出して、 資産 - 負債 = 純資産 < 0 のような、筆者的には厳密には違うと考えていますが、一般的にいわゆる「債務超過」と呼ばれる状態かのような記述に読めないこともない文章になっています。しかし事実は異なります。きちんと、純資産はプラスで、純資産を構成する一部の剰余金がマイナスなだけで、この剰余金が現金配当の原資というだけです。 下記は、決算発表資料より、連結ベースの株主資本の増減の解説図を抜粋したものです。 数字だけならんでいても、どれだけ前期の当期純損失のインパクトがあったのか、定量的に把握しづらいかもしれないので、下図に、筆者が、東芝の決算短信から引っ張ってきた数字で、連結ベースで東芝の貸借対照表のあらましを、とくに右側(貸方)に着目して整理したチャートを示します。 配当ができるのは、簡単に言うと、利益剰余金+アルファの要素。上記の場合、これが東芝ではマイナス値(= 累積損失:▲5249億円)となっている、ということを明確に表現してみました。 この図で筆者がいいたいことは、ふたつ。 (1)新聞報道の2000億円の減資は、東芝の連結B/S全体からのインパクトからすると、大きなものではない (2)減資の原資となる資本金を約半分に減らして、仮に来年利益がでなくても、借方にある現預金が9697億円残っているので、資金繰りその他はあまり心配いらない 今回の新聞記事は、文章のみで、貸借対照表のチャートすら出てこない。ましてや、筆者作成の面積チャート(タイル図など、呼び方は雑多)などで、金額的インパクトを可視化しておかないと、数字の羅列だけでは、本質が見えてこないと思います。   ■ 新聞記事の流れに沿って、会社法の配当の仕組みを概要だけちょこっと、、、 新聞記事では、 「4399億円ある資本金から約2000億円を取り崩して累損を圧縮すれば、資本欠損は解消される。減資で資本金は減るが、純資産を構成する各項目間で金額を振り替える処理のため、主に株主の持ち分である純資産の総額は変わらない。」 とあります。これは、会社法における減資の方法が2つあることのひとつを採用していることを暗に言っています。 「有償減資」(旧商法の言い方) 会社のビジネスが縮小し、株主に出資してもらったお金が余るようになったので、実際に株主に出資してもらった投資額を返却すること。会社から見て、実際にキャッシュアウト(会社→株主)するので、「有償」と呼ばれていました。実際の手続きとして、旧商法時代に許されていた資本金の減少額を直接、株主に払い戻すことはできなくなり、今の会社法では、 ① 株主総会で「減資」すなわち「資本金から剰余金への振り替え」の特別決議を行う ② 続いて、株主総会で剰余金の配当を決議する ③ 減資と株式数の減少は直接関係ないので、株式数も減らしたい場合は、自己株式の消却決議を合わせて行う という手続きが必要になります。 「無償減資」(旧商法の言い方) 累積損失を帳簿上から消し去りたいので、資本金で、累積損失分と相殺させてしまうこと。会社からは、実際にどこにもキャッシュアウトしないので、その意味で「無償」と呼ばれていました。今回の東芝のケースはこれに当たります。 でも、筆者作成の累積損失:5249億円に対し、新聞報道では、2000億円の減資とのこと。3249億円の累損が残ったままで本当に現金配当が復活できるのか? まあ、配当金額の算定は基本的には「単体」で行います。単体の資本欠損は、963億円なので、2000億円ならば、復配に問題ありません。ただし、ちょこっとここではプラスアルファの解説をしておきます。 基本的に、会社の配当可能額の計算手続は、 ① 利益剰余金を計算する ② その他有価証券評価差額金がマイナスならその金額を引く ③ 土地再評価差額金がマイナスならその金額を引く ④ 「のれん」等調整額が資本金、資本剰余金、利益準備金を超えない分を計算する ⑤ 連結配当規制適用会社(単体より連結ベースで計算した配当可能額が小さい場合)は、より小さい配当可能額を採用する という手続きを必要とします。それゆえ、連単が混ざっていたり、単純に「利益剰余金(準備金)」の金額だけで配当可能額を決めることはできないのです。世の中、ますます複雑なって嫌になります。(^^;) 東芝の、2016年度の利益計画はなんと、1000億円のプラスです。 このプラスの利益計画を達成した暁には、株主にも報いようとの経営者のお心遣いによる今回の減資政策なのでしょう。しかし、冒頭に申しあげたように、痛みを伴う経営構造改革を断行して、中長期の企業価値の向上を目指すために、目先の現金配当より、将来投資にお金を回してほしい、と思うのですが、それは数多存在する投資家たちそれぞれで立場と思いが異なることは至って自然。あくまで、筆者の意見表明も雑多な投資家の一意見にすぎませんので、上記の制度における解説と共に、皆さんの参考情報としてください。(^^;) (注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。 (関連投稿) ⇒「多様化する株主還元策 配当性向引き上げなど 成長戦略に合わせ変更」 ⇒「東芝、業績連動報酬を刷新 不適切会計の再発防止」現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します