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トヨタ、個人向け新型株最大5000億円発行 元本保証、議決権あり 長期投資家取り込む

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ トヨタ中長期視点の個人投資家向け種類株の発行内容とは?

経営管理会計トピック

GW前にプレスリリースされた、トヨタの種類株発行。その後の論調をサマリするとともに、種類株の内容についても、6/16に予定されている株主総会前におさらいしておきたいと思います。なんといっても本件は、「第7号議案 種類株式発行に係る定款一部変更および募集株式の募集事項の決定を取締役会に委任する件」として、第111回定時株主総会招集通知にもしっかり記載されていることですし。

⇒(プレスリリース)「第1回AA型種類株式の発行、AA型種類株式の新設に係る定款の一部変更および第1回AA型種類株式発行に応じた自己株式取得に関するお知らせ

⇒(説明資料)「AA型種類株式に関するご説明資料

⇒(Q&A)「AA型種類株式に関するQ&A

ちなみに、「AA型」とは、「1936 年(昭和11 年)にトヨタ自動車株式会社の前身である株式会社豊田自動織機製作所 自動車部が開発・製作したトヨタ初の生産型乗用車の車名(生産型とはライン生産の意味)」。なんなんでしょう、このネーミングセンスは?

2015/4/29|日本経済新聞|朝刊 トヨタ、個人向け新型株最大5000億円発行 元本保証、議決権あり 長期投資家取り込む

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「トヨタ自動車は28日、個人投資家の増加を狙って新型の種類株を発行すると発表した。値下がりリスクを抑えた社債に近い株式だが株主総会の議決権がある。7月にも最大5000億円を発行する。トヨタは個人の持ち株比率が低く、個人株主の獲得が課題だった。5年間は売却できない仕組みにすることで、長期保有の個人株主を増やす。」

以下、プレスリリース等から、概要・特徴をサマリします。

1.発行価格
・発行価格等決定日の普通株式の終値の120%以上
2.配当
・配当額 = 発行価格 × 配当率
・配当率(1年目:0.5%、2年目:1.0%、3年目:1.5%、4年目:2.0%、5年目以降:2.5%)
・「累積型」:未払のAA型配当金がある場合に未払分を翌期以降に繰り越して支払う
・「非参加型」:剰余金の配当については所定のAA型株主配当しか受け取れない
3.議決権
・あり(普通株式株主とほぼ同じと考えて問題なし)
4.譲渡制限
・あり(取締役会決議事項)
・例外:TOB(公開買付けへの応募)および相続の場合はOK→買収防衛策でない
・5年目以降のオプション
  ① 種類株式のまま継続保有
  ② 普通株式に1対1で転換可能
  ③ 発行価格での買取請求権あり
5.募集規模
・初回5,000万株×3回を想定(発行株式総数に占める割合:5%程度)
・同程度の自社株買いを併用→希薄化防止
6.残余財産請求権
・一般債権者に劣後し、普通株主に優先

一言でいうと、議決権ありの優先株式だが譲渡制限あり。。。大変興味深い内容です。

 

■ トヨタ個人投資家向け種類株に対する論調は?

限定的ですが、目に着いた記事の概要を以下にまとめます。

2015/4/29|日本経済新聞|朝刊 トヨタ、個人向け新型株最大5000億円発行 元本保証、議決権あり 長期投資家取り込む

(概要説明)
「新型株の発行価格は普通株の市場価格より2割以上高く設定する。普通株に転換すると値上がり益を得にくくなるが、買い取り請求によって事実上の元本保証となり、安定した資産運用を好む個人投資家の需要を見込んでいる。」

(発行趣旨)
1.個人株主作り
「トヨタ株の個人の持ち株比率は11%程度で、上場企業の平均(2割弱)を下回っている。株主の厚みを増すために個人株主づくりを進めており、3月には個人投資家向けのイベントを開いた。」

2.中長期の開発投資の原資確保
「新型株で調達した資金は研究開発に使う。事故の被害を減らす安全技術は、長い開発期間と安定した資金が必要だ。短期で株を売り買いする投資家だけでなく、長期資金の出し手となる投資家を増やす。」

2015/5/21|日本経済新聞|夕刊 (十字路)種類株で個人株主づくり

「その狙いは、短期的には成果の出にくい研究開発投資を進める上で、中長期の観点から株を保有し、議決権を行使する個人投資家を株主として取り込むことだ。」
「今回、トヨタ自動車は、発行する種類株と同規模の自社株買いを行って希薄化のデメリットを和らげる。機関投資家が自社株買いに応じ、個人が種類株を買えば、結果的には株主の入れ替えになる。
いわば会社が株主を選ぶわけだが、会社法は、第三者割当増資を許容することからも明らかなように、株主が経営者を選ぶという原則を100%貫徹するわけではない。大事なことは、会社が株主を選ぶにあたって、真に中長期の企業価値向上につながるような選び方ができるかどうかだろう。」

2015/5/19|日本経済新聞|朝刊 (一目均衡)トヨタが投じる一石 証券部 松崎雄典

「6月16日の株主総会で3分の2以上の賛成票を得れば発行できる。普通株の株主が「議決権を持つ債券保有者」という異質な存在を受け入れるか。証券史に残る総会といってもよい。」
「賛成か反対か、投票する既存株主の悩みどころはもう一つある。この種類株は5年間は売れない譲渡制限があることだ。最大5%の固定的な株主が生まれ、流動性のない株が増える。
トヨタは、次世代技術の研究開発を長い目で見守る株主が必要だという。中長期で株式を保有する株主を「会社にとって重要なパートナーとなり得る存在」とする企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)の原案に沿った取り組みとしている。
市場の短期主義には金融危機以降、世界で批判が高まった。外国人株主が多かったオリックスも危機後に株主が去った経験から、個人株主を求めるようになった。トヨタの種類株が持つ元本保証の仕組みは、株式投資に慎重な個人を市場に呼び込む力も持つ。」

中長期で保有する個人株主層が厚くなることは、企業の財務体質を強化させるとともに、中長期サイクルでの開発投資の原資としては資金調達期間がちょうどいいころ合い
になるということでトヨタ側にメリットあり、という感じです。

「一方、市場には違った見方もある。「中長期投資かどうかを保有期間だけで決めるべきではない」(大和総研の鈴木裕金融調査部主任研究員)という視点だ。保有期間が長いだけの株式持ち合いは、経営の緊張感をそぎ、ガバナンスの低下を招いてきた。中長期の視点で経営力や将来像を分析して株式を売る投資家を短期志向とも言いにくい。
フランスでは市場の短期主義を是正しようとする政府の動きに対し、議決権行使助言会社や機関投資家が反発している。
株式を2年以上保有すれば議決権が2倍になる仕組みが、株主総会で拒否されない限り、自動的に導入される。米運用大手ブラックロックは「企業が対話する株主の対象が狭まりかねない」とし、長く持つ株主を優遇すれば長期志向になるとの考えを否定する。」

 

■ 横道に逸れますが、ガバナンスの問題をちょっと

ガバナンスの視点から、長期保有株主優遇は、規律を損なうという意見もあるようです。例示として出た、フランスの件は、別記事で取り上げられていたので、ご参考まで、記事を以下に抜粋します。

2015/5/14|日本経済新聞|朝刊 心配なフランス「2倍議決権」

「株主の権利をめぐるフランスの新法が波紋を広げている。当該企業の株式を2年以上保有している株主に2倍の議決権を付与するのが骨子だ。表向きの理由は長期の視点に基づく経営を促すことだが、実際には仏政府などの発言力が強まりすぎて、健全な企業統治が損なわれる懸念がある。
新たな法律は通称「フロランジュ法」と呼ばれ、鉄鋼大手の欧アルセロール・ミタルが2012年に仏北東部フロランジュの製鉄所の閉鎖を決めたことに端を発する。この決定に世論が激しく反発し、仏政府も介入した。
その後、企業が工場を閉める前に売却先を探すことを義務づける法律づくりが進み、その中にもうひとつの目玉として2倍議決権の規定も盛り込まれた。」
株を短期で売買するデイトレーダーなどに比べて、長期間保有する株主は企業の持続的な成長に関心があるはずだ。彼らの発言力が増せば、将来を見すえた投資や人材育成が容易になり、企業の繁栄につながるかもしれない。」

どこの国でも、株式の長期保有による経営と財務の安定と、市場からの規律のバランスに苦慮しているようですね。

「ただ、今回のフランスの動きは利点よりもマイナスが大きいのではないか。議決権の2倍化で権限が増大する大株主のひとつが仏政府だ。例えば自動車大手のルノーは仏政府の議決権が17%から28%に増える見通し。経営者のなかには、経営に対する政府の介入が強まらないか懸念する向きもある。航空大手のエールフランスKLMについても、仏政府は株式買い増しに乗り出した」

ルノーを始め、個別案件をみてみると、フランス政府の発言権が強まると、左派政権だった時に特に雇用などへの配慮によって、経営意思決定に強く政治的圧力がかけられてしまうリスクがありますね。

お話をトヨタに戻します。

DIAMOND ONLINE
トヨタが打ち出した「AA型種類株式」は買い得か
(山崎元のマルチスコープ【第378回】 2015年5月27日)

「比喩的に「トヨタ銀行」への預金だと考えると、今回の発行条件は相当に魅力的な利率だ。将来の日本の金利水準がどうなるかは分からないが、5年目までの平均が1.5%、そして5年目以降は2.5%がずっと維持できるのだから、将来の金利推移によっては、「お宝」的なお金の置き場所になる可能性がある。」

ちなみに、この記事を書いている直近のトヨタ普通株の配当利回りは、「2.35%」です。著名な経済評論家に立て付くわけでは決してないのですが、議決権も普通にあり、でも5年間の譲渡制限がかかっていて、普通株式の120%以上の価格で初値がつくことが分かっている商品。それ程、魅力的には感じないのですが。。。

1単元1票の議決権はそのままに、120%増しの発行価額が付く今回の種類株。しかも、5年間の譲渡制限付き。どう考えても、トヨタ側に一方的に有利としか見えません。議決権1票あたりの調達資金がより大きくなり、しかも、譲渡制限がかかっているので、払い戻される(買戻ししなくてはいけない)心配なし。しかも、足下の配当利回りは、普通株を大きく下回ります。ますますトヨタの資金調達コストが下がります。

ということは、トヨタの普通株が今回は買いなのですね(冗談です)。(^^;)

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