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総会 黒子の正体 - 日本経済新聞まとめ ISSやグラスルイス、議決権行使助言会社の真実に迫る!

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 株主総会と議決権行使助言会社

経営管理会計トピック

3月期決算会社の株主総会シーズンも終わり、そこかしこで総会議決に関する報道もようやく落ち着きを取り戻してきました。その中で、近年にわかに名前を聞くようになった議決権行使助言会社について、日本経済新聞朝刊にて「総会 黒子の正体」という連載がありました。今回はこの記事を中心に、「議決権行使助言会社とは?」の基本中の基本を押さえていきたいと思います。

2017/7/12付 |日本経済新聞|朝刊 総会 黒子の正体(上)議案の9割、機械的に判断 米ISS、賛否を左右

「株主総会での議決権行使を機関投資家に助言する会社が注目されている。社長選任からM&A(合併・買収)、報酬まであらゆる議案に賛否を推奨し、企業はそれに一喜一憂する。最大手が米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)だ。」

(下記は同記事添付の「インスティチューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)」を引用)

20170712_インスティチューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)_日本経済新聞朝刊

● 同記事による議決権行使助言会社とは
「米投資家のロバート・モンクス氏が1985年設立したISSが草分け。米労働省が年金運用の機関投資家に議決権行使を要請したのを機に台頭、ISSと米グラスルイスでほぼ独占する。日本ではISSが反対推奨すると外国人株主の6割が反対に回るとの見方もある。」

 

■ ISSと企業側の意見が対立する理由とは?

この6月の株主総会において、ISSが主に会社提案、中には株主提案の議案についても反対意見を表明し、会社側がその対応に追われるという一幕がありました。

(下記は同記事添付の「6月総会でISSに反論した企業が相次いだ」を引用)

20170712_6月総会でISSに反論した企業が相次いだ_日本経済新聞朝刊

企業側との間で摩擦が絶えない最大の理由は、ISSが自社基準を重視し機械的に賛否判断しているからと言われています。ISSは、世界13カ国で展開しており、主に機関投資家の意向を踏まえ、手始めに国・地域ごとに議案の賛否基準を作成します。日本では、

① 自己資本利益率(ROE)平均5%以上
② 社外取締役2人以上
③ 配当性向15%以上
④ 買収防衛策(ポイズンピル)は原則反対 

など、全16項目を企業に当てはめ、約9割の議案で賛否を機械的に決めています。企業との意見交換は年100社程度で、企業の個別事情はほとんど考慮していないと記事では解説されています。

2017年板 日本向け議決権行使助言基準|ISS|2017年2月1日 より

20170716_2017年板日本向け議決権行使助言基準_目次_ISS

本記事では、

「日本で調査する3月期決算企業は2000社を超え、議案数は延べ1万前後だが、日本法人の正社員は数人とみられる。総会前に臨時社員を雇いデータを一斉に入力。投資家に代わって大量の議案をさばく。「投資家向けに販売するリポートの単価は安く、数をこなさないといけないビジネス」(石田猛行代表)」

「ISSが日本企業のROE底上げに役立ったとの声がある一方、画一的な賛否判断は批判がつきまとう。「業種ごとの事業環境の違いなどを考慮せず、一律の基準を当てはめるのには米国でも批判がある」(首都大学東京の尾崎悠一准教授)」

と双方の言い分が掲載されています。上記のISSの助言基準を読んでいくと、ストックオプション/成功報酬型ストックオプションの欄で、賛成推奨につき、

「提案されているストックオプションと発行済みストックオプション残高を合計した希薄化が、成熟企業で5%、成長企業で10%を超える場合」

という条件が付されているのが目につきました。例えば、この成熟企業か成長企業かは、ISSが独自判断で決めることになります。こういう細部について、助言対象企業の全てにコンタクトし、事業内容を吟味してから割り振ることは無い、という言われ方です。

今年から、改正スチュワードシップ・コードに基づき、機関投資家の議決権行使の個別開示が始まりました。一部、日本生命などは見送りましたが。それで、ますますISSのような議決権行使助言会社の影響度が強まるという見方が日本企業にはあります。一足先にISSのような議決権行使助言会社の活用が一般的になった米国での事情を考えると、

① エンロン事件などを受け、投資家責任を求め規制が強化されている
② パッシブ運用の投資家を中心に助言会社に頼る流れが加速(アクティブ投信のファンドマネージャーのようにいちいち、企業訪問するスタイルではないから)

ことなどが背景にあるようです。

「「同様の現象が日本でも繰り返される可能性がある」。大和総研の鈴木裕氏は指摘する。」

パッシブ運用の投信会社は、言い逃れというと言い過ぎの感もありますが、銘柄選別は自動的に行われているので、議決権行使については、何かのお墨付きがあって安価に処理したいという思いも見え隠れしています。

(参考)
⇒「機関投資家の行動規範改定 議決権行使を個別開示 利益相反の懸念払拭 6月の総会から適用へ - スチュワードシップ・コード改訂の動向を受けて

 

■ 本場の米国では規制強化の声が高まっている!

2017/7/13付 |日本経済新聞|朝刊 総会 黒子の正体(下) 助言会社 ガラス張りに 強まる規制論

「「金融規制を全般的に見直す」。米トランプ政権のもと、議会で審議が進むチョイス(金融選択)法案。ほとんどが規制を大幅に緩める内容にもかかわらず、新たに規制を課される業界がある。米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)や米グラスルイスなどの議決権行使助言業界だ。」

(下記は同記事添付の「米国では証券取引委員会への助言会社の登録制を検討(SEC本部)=ロイター」を引用)

20170713_米国では証券取引委員会への助言会社の登録制を検討(SEC本部)=ロイター_日本経済新聞朝刊

チョイス法案が成立した場合、

① 助言会社は証券取引委員会(SEC)への登録が必要となる
② 組織体制や助言手続きなどを一般開示する
③ 総会議案の分析対象となる企業にリポートを見せて意見を述べる機会を与えなければならない

これらの規制は、助言会社の影響拡大を嫌がった米企業が2000年代半ばごろから求めてきた内容です。会社提案の議案に反対意見が付くからという大前提はあるのですが、建前的には、企業側の言い分は次の通り。

① どんな社内体制でリポートを作成しているのか企業側からは不透明である
② 利益相反の恐れがある(ISSはグループで企業向けに企業統治関連のコンサルティングを手掛けている)
③ 監督官庁がない
④ 事実上、ISSとグラスルイスが業務をほぼ独占し、投資家の選択肢がない など

 

■ 日本でも議決権行使助言会社の規制強化の流れが

日本でも助言会社への規制論が強まってきています。

(1)日本取締役協会
2017年1月、機関投資家向けの行動指針「スチュワードシップ・コード」に議決権行使助言会社に対する規制を盛り込むよう、金融庁に提言書を提出

(2)金融庁
2017年5月、改定版スチュワードシップ・コードで助言会社に業務体制などを公表するよう求めた。これにより、コードを受け入れた助言会社は11月末までに情報開示する必要あり

改訂版スチュワードシップ・コード|金融庁

以下、赤字部分が改定内容。

20170716_議決権行使助言会社の取り組み_スチュワードシップ・コード

これを受けて、ISSは、改定版コードを受け入れる方針で、情報開示の準備に入りました。

「ブラックボックスと思われないよう、明らかにできる部分は明らかにしたい」(日本法人の石田猛行代表)

日本投資顧問業協会によると、日本に拠点を置く機関投資家で助言会社を何らかの形で活用するのは47%と約半数に上ります。

(下記は同記事添付の「機関投資家は助言会社の助言をどう活用?」を引用)

20170713_機関投資家は助言会社の助言をどう活用?_日本経済新聞朝刊

しかし、ここで基本に立ち返ると、アセットオーナー(資産保有者)が自身のお金の運用を機関投資家に委ねたとしても、最終的な投資責任はアセットオーナー自身にあることは間違いありません。

20170716_1-5_スチュワードシップ・コード

 

■ 議決権行使助言会社に頼らない動きも

株主総会における議案の賛否判断をISSのような議決権行使助言会社に丸投げせず、独自の指針に基づき判断する機関投資家も存在します。

「自己資本利益率(ROE)が低いとして、ISSが平井一夫社長の選任に反対推奨したソニーの6月総会。英スタンダード・ライフ・インベストメンツは平井社長に賛成票を投じた。ISSのリポート内容も把握していたが、「ソニーは構造改革途中で今後改善が見込めると判断した」(アリソン・ケネディディレクター)。平井社長の賛成率は88%に上った。」

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も委託先の運用会社が助言会社の判断をそのまま受け入れていないか、監視強化を始めています。

① 運用会社に助言会社の組織体制や人員が十分か査定するよう要請
② 助言内容についても継続的に監督・評価するよう要請

日本企業の内情にあまり詳しくない(と思われる)外国人投資家を中心とした機関投資家にとっては、議決権行使関連コストを削減したいという思いがあり、「総会の黒子」として日本でも存在感を高めたISSやグラスルイス等の議決権行使助言会社の活用ニーズはそうそうなくなりそうにありません。議決権行使助言会社が今後も一定の役割を担うのは間違いないかもしれませんが、いかに上手に助言会社を活用するかが問われています。

2015年6月のトヨタ自動車の「AA型種類株式」発行を議決した株主総会前のISSとグラスルイスが真っ向から反対意見を戦わせ、見解が見事に2分されたことがありました。

(参考)
⇒「トヨタ新型株に反対 議決権行使助言のISS 株主総会での賛否が焦点
⇒「トヨタ、新型株の評価二分  株主助言のグラスルイス賛意、ISSの反対受け補足資料

こうなると、やはり、最後は投資家自身の自己責任と自己判断で株主としての経営参加権(議決権)行使をハンドルすることが大事になって来るのではないでしょうか。

ただし、昨今の金融庁による「アクティブ投信」から「パッシブ投信」重視の流れに、内外の運用サイドの機関投資家がどう対応するか、そして議決権行使の個別開示の推奨の流れも受けて、いかに低運用コストと適切な議決権行使(の理由説明とその開示)を両立させるか、運用サイドの機関投資家の腕の見せ所なのではないでしょうか?

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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