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住商、資源戦略見直し 中村社長「見通し甘かった」 特別組織で原因究明

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 2700億円の減損損失

経営管理会計トピック
住友商事が、4つの事業で合計2700億円の減損損失の計上を発表し、年間配当を未定としました。

2014/9/30付 |日本経済新聞|朝刊
住商、資源戦略見直し 中村社長「見通し甘かった」 特別組織で原因究明

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

記事では、
「資源開発とりわけシェール関連は、ただでさえ当たり外れが大きいうえ高度な技術も要る。関係者の間では「事前にもっとコストをかけ慎重に地質調査をすれば、今回の事態は防げたのではないか」との指摘もある」
「資源そのものの開発では三井物産や三菱商事などに出遅れてきた。遅れを挽回しようとの焦りから、十分に吟味しないまま巨額の投資に踏み切ってしまった面もある」
と、住友商事の焦りからくるリスク管理チェックの甘さを指摘する論調になっています。
今回の留意点は、記事内にある次の指摘にあります。
90年代の銅不正取引による巨額赤字計上を反省し、「ひとつひとつの事業資産ごとに、リスクと収益のバランスを細かくみる指標を導入した。商社業界で先駆けとなる経営管理に定評があったが、再び落とし穴にはまった」
「このリスクと収益のバランスを細かくみる指標」とは何でしょうか?

 

■ やっぱり資本コストでした

BIS規制強化があり、金融業界では、市場リスク商品に対するポートフォリオ管理のために「VaR:Value at Risk」「EaR:Earning at Risk」というリスク管理手法を取り入れた「RAPM:Risk Adjusted Performance Measurement」という指標でリスクと収益性を管理してきました。総合商社も競って90年代にその手法を取り入れ、中でも住友商事は一歩先を行っていました。
簡単に言うと、事業リスクを見積もって、「最大損失可能性額(リスクアセット)」を算出し、この最大損失可能性額をカバーできるだけの株主資本は少なくとも確保しておきましょう、というものです。総合商社が口銭ビジネスから投資ビジネスに移行した時期に導入されました。 「VaR」という用語自体、住友商事の有価証券報告書の「市場リスクに関する定量的・定性的情報」の中に記載があります。
では、どうやって、必要な株主資本を算出するのか。総合商社は金融機関と違って、事業会社なので、リスクアセットを全て株主資本でカバーしようとします。そこで、金利負担後のEP(Economic Profit)を計算して、通常はWACCのところ、株式資本コストのみを考慮した資本コストで、収益性とリスクを管理することになりました。計算式で表現すると、下記のようになります。
① RAROC = リスク調整後期待利益 ÷ EC(Economic Capital)
または、
② EP = リスク調整後期待利益 - ハードルレート × EC
言葉の意味を付記すると、RAROC:Risk Adjusted Return On regulatory Capital となります。
このリスク調整後期待利益は、ECに有利子負債を含まないので、利息負担後の概念になります(念のため2回言っておきました)。

 

■ 住友商事の開示情報から探りを入れてみる

さすがに、事業リスクをどう評価しているか、外部開示されている訳がありません。ただ、概要は、おぼろげながらに眺めることができます。
下表は、ホームページにある「ヒストリカルデータ」と有価証券報告書を組み合わせて、筆者が独自に作成したものです。全社合計値などが、四捨五入差異があるままで会社公表値と一部不整合になっているのは、小さい単位のデータが手に入らないためで、そこはご容赦ください。
経営管理会計トピック_住友商事_セグメント分析
* 「基礎収益」=(「売上総利益」+「販売費及び一般管理費(除く貸倒引当金繰入額)」+「利息収支」+「受取配当金」)×(1-税率)+「持分法による投資利益」
* 基礎収益算出に使用している税率: FY2013 38%

まず、リスク調整後期待利益ですが、営業利益に利息収支と受取配当金を加えた金額を税引き後評価してから、持ち分法投資利益を加算しています。
事業ごとの、ECはおろか、株主資本すらわからないので、公表されているセグメント別資産(トータルは連結B/Sの総資産と一致)の比率で純資産を按分しています。
この表で、シェールオイル事業が含まれている「資源・化学品」事業の基礎利益の構成比が17.4%であることに比べて、按分後の純資産構成比が18.3%と0.9ポイント上がっていることが分かると思います。つまり、住友商事としては、それだけこの事業のリスクが大きいことは承知しており、筆者のような第三者が外部から推測している以上に、リスクアセットをこの事業に配分していることが予想されます。

 

■ リスクの高い事業を営む場合はそもそも減損損失の発生は不可避

会計上は減益となり、通年配当の見通しも立たないほどの減損損失が発生しました。しかし、債務超過になる、または債務超過を回避するために多額の借り入れが必要な状況にはなっていません。FY13末で、ネットDEレシオは1.3倍、現金同等物の残高は11,112億円、利益剰余金は15,748億円となっています。
新聞報道の減損損失2700億円の内、渦中の「資源・化学品」事業分は、2500億円です。200億円分は米国でのタイヤ販売に係る事業なので、「メディア・生活関連」事業に入ると思われます。
そもそも高いリスクが予見されている領域であることが分かっていて、リスクを積極的に取りに行って高収益を狙いに行ったわけです。減損損失を出したこと自体で誰かが詰め腹を切らされることはあっても、リスクを負うことこそがビジネスというものだと思うのは筆者が冷めすぎているだけでしょうか?
2500億円の損失はコンティンジェンシープランの想定範囲内、と見ています。
記事では、
「岩沢(澤)専務執行役員(人材・総務・法務グループ長補佐:筆者注)をトップとする経営改革特別委員会を設置した」とあります。マスコミ他、外部関係者へのアピールなのかもしれません。
リスク管理体制・ルールの見直しが有効なのか、ひとつひとつの事業の目利き力を高める方が有効なのか、人選だけではどちらを重視(どちらも重視?)しているかわかりませんが、結局華々しい経営管理会計(リスク管理)の仕組みを導入しても、運用するのは所詮(しょせん)ヒトだということです。
住友商事のようなビックネームに人財(じんざい)がいないとは到底思えないのであります。

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