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法人減税、2年で4200億円 競争力高める 税制大綱 住宅資金贈与、非課税枠を拡大

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■ いろいろ思惑が交錯し、真水で2100億円/年の法人減税で決着

経営管理会計トピック
このところ声高に叫ばれていた法人実効税率の引き下げを中心とする法人税制の大きな(?)変更方針が発表されました。

2014/12/31|日本経済新聞|朝刊
法人減税、2年で4200億円 競争力高める 税制大綱 住宅資金贈与、非課税枠を拡大

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
「自民、公明両党は30日、2015年度税制改正大綱を決定した。法人実効税率(東京都は35.64%)を15~16年度に3.29%以上引き下げ、企業の実質的な税負担を4200億円減らすのが柱。消費税は17年4月に10%への引き上げを明記し、配偶者控除など所得課税の見直しは今後の検討課題とした。成長戦略の大きな柱の法人減税で企業の競争力を高め、景気回復を後押しする。」

日経新聞の同日の社説では、「全体としては抜本改正とはいえず課題を残した。」と、決して高い評価ではありませんでした。その課題を同日の他の記事も参考にして整理すると、
1.「繰越欠損金」
世界標準は、繰越期間・控除割合ともに無制限。日本は繰越期間を10年に延ばすものの、有限であり、控除割合は今回、65%まで縮小される。
2.「中小企業向け優遇の継続」
資本金1億円以下の中小企業は、引き続き外形標準課税が適用されない。
リーマン・ショック後の特例として設けた中小企業向けの軽減税率も残す。
3.「個別業界向けの政策減税」
特定の業界に恩恵が偏る租税特別措置の見直しも進まなかった。期限切れとなる21の租特について存廃を検討したが、廃止は4つにとどまった。
この3つが列挙されていました。
そして、こう締めくくられています。
「既得権益への切り込みが不十分で「とりやすいところからとる」という発想ではかえって税体系をゆがめる。」
「(法人実効税率を将来25%程度まで下げるために)企業向けの課税ベースをさらに広げつつ、固定資産税や住民税といった法人課税の範囲を超えた税体系全体の改革が欠かせない。成長戦略の要である法人税改革をさらに進めるべきだ。」

■ そもそも税制って政策的意図を込めるものですよね

法人課税という行為は、どういう形をとっても、一定の理屈で企業から「現金」を召し上げる以上、「理屈」次第で企業の対応行動が変わります。そしてその対応を見越したうえでの政策実行を企図します。 たとえば、研究開発減税措置には、積極的にR&D投資を促進して、企業競争力を強化させたり、国内での研究開発投資を増加させたりしたい意図が込められていたのではないでしょうか?
そういう意味では、「ゆがめられていない税体系」なるものは存在しません。あるのは「誰かにとって損か得する税体系」のみです。
この社説の論調にしたがうと、
「ゆがめられていない税体系というものは、課税ベースを広範にとり、特定業界や企業規模を問わない簡素な税制であり、簡素化を追求する中で減税財源を確保できるので、法人税率を世界標準にまで下げられる」
という主張のようです。
これはこれで、ある政策的意図があらかじめ込められているとしか思えません。
つまりですね、
「赤字企業や経営基盤の弱い中小企業は早く自然淘汰されて、市場から退出し、大企業の黒字がさらに拡大することで、必要な税財源を確保する」
ということなんだと理解しております。
筆者は、こういう主張の中身がダメと決して言いたいわけではなく、政策というものは立案者の意図から離れて提言されることはない、ということを言いたいだけです。この社説の主張は、「レッセ・フェール」上等で、産業育成政策は無用という主張に他ならない、ということです。

■ ゾンビ企業を退出させるメカニズム

今回の税制大綱では、政治的な思惑から、資本金1億円以下の企業には適用されないので、大変中途半端なのですが、「外形標準課税」を強化する代わりに「法人実効税率」の引き下げを目論んでいます。この制度変更の財務的な影響を、「損益分岐点分析(CVP分析)」にならって表現すると、下図のようになります。
最初にお断りしておくと、次のような前提でチャートを描いています。
1.法人税は変動費扱い、外形標準課税は固定費扱い。税引き後利益を描画する
2.限界利益線は、損益分岐点で屈折するが、屈折を表現しても言いたいことは変わらないので、直線のまま描画する
まず、外形標準課税の強化のみ実施された場合をご覧ください。
経営管理会計トピック_税制_外形標準課税のみ
固定費線が「外形標準課税」だけ、上方に移動するため、損益分岐点が、限界利益線に沿って、右上に移動します。その分、損益分岐点売上が増えてしまうので、経営が思わしくない企業はますます資金繰りが悪化し、やがて資金も底をつき、市場から退出(倒産)するまでの期間を短縮させます。
これが、「外形標準課税」強化によるゾンビ企業の退出効果です。
そもそも赤字なので、実効税率が引き下げられても恩恵を受けることができません。
ついでに、以下に発生し得るケースを、順を追って説明します。
法人減税のみ実施された場合をご覧ください。
経営管理会計トピック_税制_法人減税のみ
変動費扱いの法人税が軽減されるので、限界利益線が左側に傾きを大きくします。その分、損益分岐点売上が固定費線に沿って左方に移動し、企業の資金繰りを楽にします。
次の2つは、増減税セットの場合分けになります。
まず、増税効果の方が大きい場合は下記のようになります。
経営管理会計トピック_税制_増税効果が大きい場合
損益分岐点売上の上昇が緩和されます。ほとんどの中堅企業は、このケースに当てはまると思います。
最後に、減税効果の方が大きい場合は下記のようになります。
経営管理会計トピック_税制_減税効果が大きい場合
元々多額の利益を計上している大企業が、このケースに当てはまると思います。
このような増減税の効果の出方が、今回の税制大綱では、大企業と中堅企業・中小企業の間で起こりうるということです。別に内容に対して非難はしていません。結果を淡々と述べているだけです。

■ (補足)企業種類ごとの損得

今回は、減税財源を生み出すためにいろいろな施策が提案されたので、その内容によっては、損や得をする業界が出てきそうです。最後は、施策ごとに、損得を整理しておきます。
1.法人実効税率の引き下げ
一律に実効税率を引き下げるため、高収益企業ほど減税効果にあずかれます。相対的に、業績がよい「自動車大手」や、金融危機から業績が持ち直した「生保業界」が「得」しやすくなります。
資本金1億円以下の中小企業で、課税所得が800万円を超える企業は、超えた部分については、国税分が1.6%引き下げになりますので「得」です。
2.外形標準課税の強化
資本金1億円超の企業で、赤字の企業は、「損」です。
3.繰越欠損金の控除縮小
過去の赤字を繰り越して、将来の黒字と足し合わせることで、課税所得を減らす効果のある繰越欠損金の控除割合が縮小されるため、過去の大型のリストラを経験した企業は「損」です。たとえば、「建設業」「不動産業」「銀行業」などが該当します。
なお、経営再建中の企業はこの点で優遇措置がありましたが、経営再建中の企業が再上場した場合は、この特典が得られなくなります。これは、わざわざ「日本航空」を決め打ちして攻撃するためのものです。なにせ、民主党政権下で税金を投入して再建された企業が再建後、税金を払っていないのはけしからん、と考えている自民党の人が多いからです。
ええとですね、ここの税制を厳しくするということは、大型リストラをやりにくくすることにつながります。官公庁の人達は単年度決算に慣れているからいいんですが、民間企業は、Going Concern を基本とするので、「今年所得があるけど税金を払わないのはけしからん」、といわれても、長い目で企業価値を測ることが普通の感覚からすれば、たいしたことではないんですよね。B/Sに累積の利益(または損失)がある以上、単年度の損益だけを見て経営判断しているわけではないので。
4.研究開発減税
法人税額から差し引ける研究開発費の上限が引き下げられます。活発に研究開発を実施している業界は「損」です。たとえば、「輸送機器」や「製薬」を含む「化学工業」などが該当します。
5.株式配当への課税強化
出資比率が低い株式を大量に保有している企業は「損」です。たとえば、「総合商社」「保険業」「銀行業」が該当します。
しかし、「保険業」は、出資比率5%以下の株式の配当に関しては、他業界に比較して、20%分だけ益金算入を免れます。理由は、顧客の資金運用にまで影響が及ぶことを防ぐため、だそうです。同じ金融業界の「銀行業」は保護されないのですね。
管理会計の最初の説明でも触れましたが、誰かを数字で評価するということは、誰かに何がしかのインセンティブを与えて、モチベーションすることで、意図的にある行動を促そうとすることです。税制もまたしかり。
果たして、立案者の思惑通り、そう事は上手くいくでしょうか?

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