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老舗企業も株主優待 コマツとリコー、上場66年で初導入 個人の長期保有促す

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■ 株主優待制度を始める理由

経営管理会計トピック
老舗企業も株主優待制度を新設するケースが相次いでいるとして、7社の老舗企業が列挙されていました。新聞記事では、「比較的短い期間で株を売買しがちな外国人株主の比率が高まる中、長期にわたり保有してくれる個人株主を増やす狙いだ。」とあります。

2014/11/20付 |日本経済新聞|夕刊
老舗企業も株主優待 コマツとリコー、上場66年で初導入 個人の長期保有促す

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

ちょっと、株主優待制度を新設した理由付けが紋切り型だったので、いつもの悪い癖が出て、各社の実態を簡単に調べてみました。

■ 高まる外国人株主比率への対抗措置だけが理由でしょうか?

新聞記事では、コマツ、リコー、帝国繊維、三井製糖、プリマハム、パナホーム、東京鉄鋼の7社の株主優待制度の中身が紹介されており、外国人株主比率が高い状況を何とかするため、代わりに個人株主を増やす手段として、株主優待制度が採用されたとあります。
では直近のデータで確認してみましょう。
コマツは、ホームページには9月末データが掲載されていましたが、一律定義をきちんと合わせるため、全社数値は、直近の有価証券報告書(2014年3月期、帝国繊維のみ2013年12月期)から取っています。
自社株や単元未満株の取り扱いなど、各社のIR状況がバラバラだったので、いささか鮮度は落ちますが、一律の定義で比較できる有報データを採用して整理しています。
経営管理会計トピック_所有株式比率_数表
経営管理会計トピック_所有株式比率_グラフ
こうして、所有株式割合を比較してみると、7社とも全てが全て外国人株主対策のみで株主優待制度を始めたわけではないことが分かります。

① 高まる外国人株主対策

新聞記事通りに、純粋に高まる外国人株主比率に対処するため、個人株主を増やそうというのは、リード文にもありましたが、コマツ(外国人株主比率:42.8%)とリコー(同比率:35.3%)の2社のみのようです。東京鉄鋼も同比率が3割ですが、同社は違う理由もありそうです(詳細は後述予定)。
② 流通株式増加対策
東証一部二部にも、上場廃止基準があり、いわゆる「流通株式」が2000単位に満たないと、上場廃止になってしまいます。「流通株式」とは、経営者とその関係者、自己株式、関係会社とその役員、10%以上所有している者を除いた株主が所有する株式のことで、その他に、「流通株式時価総額」「流通株式比率」等、簡単に言うと、活発に市場で取引されていなければならないという条件を満たす必要があります。
そのために、株主数が増えれば、上記の指標は改善し、上場廃止規定に抵触することはないと発行会社が考えるわけです。このグループに当てはまるのが、筆頭株主として親会社(またはそれに類する会社)が存在している、三井製糖、プリマハム、パナホームということになります。それぞれ、三井物産、伊藤忠、パナソニックが親会社(相当)にあたり、大株主上位10社の占有率が5割を超えています。
③ 株主増加対策
上記の②と同根ですが、上場廃止基準に「株主数」もあります。下表は、簡単に所有構成別の株主数を整理したものです。
経営管理会計トピック_所有株主数_数表
帝国繊維と東京鉄鋼は、株主数がそれぞれ、2,752名と3,525名なので、まあ、東証一部に新規上場の形式基準的には2,200名の株主が必要で、上場廃止基準は400名未満となっているので、安心して上場を維持するためには、純粋に株主数を増やしたいのでしょう。また、株主が増えれば、売買も活発になり、適時に適正な株価が形成されると考えているのだと思います。
このように、きちんと有報を見るだけでも、新聞記事とは違った角度で各社の株主対策の真の動機が分析できると思います。

■ 「株主優待制度」は歓迎されるべきか

こういう見出しを書くということは、筆者があまり「株主優待制度」を好意的に見ていないということがバレバレだと思います。ただし、筆者も「株主優待制度」でもらった商品券で買い物をするので、活用はしています。でも、多少問題ありと考えています。
① 株主優待制度での安定株主づくりは本道ではない
新聞記事には、短期売買を繰り返す外国人株主より、長期保有してくれる個人株主を増やすために、有償(タダで優待は無いですよ)、すなわち会社の経費を使う正当性は、どこにあるのか疑問だということです。外国人だからといって短期売買すると決めつけるのではなく、長期的に自社株式を保有してくれるように、長期的な企業成長や株主利益の増加に対する説得力のある事業戦略の確からしさを訴えるのが、経営者としてあるべき責務だと考えます。
株主優待制度でつられた個人株主は、毎期の業績変動や業績の低迷に鈍感で、長期的に自社株を持ち続けてくれると考えるのは、ちょっと個人株主をバカにしていませんか?そういう魂胆が透けて見えるところが気に入りません。
個別銘柄の批判はここではしませんが、上記7社の内には、ストックオプション制度や買収防衛策を講じているところがあったりします。まったく、身内だけを大事にしている会社はそのうち、株式市場から見捨てられますよ。
② 金額的影響度が小さいからお目こぼしされている
また、会社法の基本原則に立ち返って考えてみてください。
「配当規制」の観点から本当に大丈夫ですか?「現物配当規制」「配当財源規制」には引っかからずに、株主優待制度のために、会社の財産を使うことが可能です。つまり、単期赤字でも、累積で配当財源がなくても、優待制度を使って、株主に金銭的な何かを配分することが可能なのですよ。これは単に、当局からお目こぼしされているだけで、法の精神には反することです。
「株主平等原則」にも、厳密に言えば反しますよね。一律、1000株以上保有している株主に対して、何がしかの経済的便益が図られるとしたら、1万株持っている株主と1000株持っている株主と同じということになります。また、会社によっては、外国人株主には優待制度を適用していないところもあります。何か違和感ありませんか?
昨今、現金配当のみならず、株主優待制度からの便益も含め、「本当の株主利回り」などという指標が世の中に出回っていますが、株主優待制度は世界的には極めてまれな、日本独特の文化だということを忘れないでいてほしいと思います。

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