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(エコノフォーカス)法人税改革、ばらつく影響 高収益企業に恩恵、目先は減益要因も 配当課税、銀行に打撃

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■ 法人税実効税率引き下げが目先の減益要因に

経営管理会計トピック
「将来の減税が今期の当期純利益を減らす」
こういうことが現在の制度会計(財務会計)では普通に発生します。いわゆる「税効果会計」の影響によるものです。

2014/12/29|日本経済新聞|朝刊
エコノフォーカス 法人税改革、ばらつく影響 高収益企業に恩恵、目先は減益要因も 配当課税、銀行に打撃

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
「所得にかかる実効税率が下がると、稼ぐ所得の大きい企業ほど減税規模は大きくなる。

ただ、14年度決算には一時的にマイナスの影響がでる企業が多い。ゴールドマン・サックス証券の鈴木広美アナリストは税率下げが会計上、今期の大手上場企業の利益を押し下げると試算する。」
下記に、新聞に掲載された、ゴールドマン・サックス証券が試算した減税のマイナス影響予想上位10社のランキング表を転載します。

(億円)
社名 減益予想幅
東芝 288
中部電力 188
東北電力 155
NEC 130
JR西日本 117
三菱ケミカルHD 76
イオン 66
中国電力 63
クレディセゾン 52
エーザイ 50

■ まずは、どうやって繰延税金資産が生まれるのか

新聞記事から該当する説明箇所を転載します。
「企業は会計上、当期は費用と認められなくても、のちに費用と認められれば税金が還付される。例えば、貸し倒れに備える引当金が費用と認められず税金を支払った場合でも、将来、実際に貸し倒れが起これば遡って税金が還付される。このため企業は還付を見込む税金額を「繰り延べ税金資産」として計上している。」
ちょっと難しいかもしれませんので、超簡単なケースで補足説明させていただきます。
≪ケース1:税効果会計を適用しない場合≫
1.2014年に、淡々と税金計算を行ったら、支払い必要額が「100」になった
2.現金で税金を全額支払った
3.2015年に還付金「40」を受け取った
経営管理会計トピック_繰延税金資産_税効果会計なし
≪ケース2:税効果会計を適用した場合≫
1.2014年に、淡々と税金計算を行ったら、支払い必要額が「100」になった
2.現金で税金を全額支払った
3.「100」のうち、「40」は、2015年に還付されることが分かっている
(多く払いすぎていた税金が年末調整で帰ってくる、アレと同じことです)
4.払い過ぎが分かっている分は、2014年の費用とせず、「前払費用」と同じように、B/Sの資産にいったん計上しておく
5.2014年に「前払費用」扱いにしていた「40」を費用扱いにする
経営管理会計トピック_繰延税金資産_税効果会計あり
≪ケ―ス3.税効果会計を適用したうえで、減税される場合≫
ケース2.と同様だが、減税の影響で、還付金が「40」→「20」になる
経営管理会計トピック_繰延税金資産_税効果会計あり・減税あり
税効果あり・なしは、税金費用の期間配分割合が変わるだけなので、会計期間を通算すると、結局支払税額は原則として同額になります。ケース1.2.ともに、2014年と2015年を合算すれば、法人税額の支払い純額は、「60」と同額になります。
ただし、途中で税率が変わると、途端に状況が異なってきます。ケース2.とケース3.では、確かに、2014年の法人税額は「100」で不変なのですが、減税の影響で、2015年に還付金となって戻ってくるお金が減少する分、この2年間を通算した税金費用は、ケース3においては、「60」→「80」と増加してしまいます。

■ まぎらわしい新聞記事内の記述

この点について、新聞記事から筆者が問題だなあと思った箇所を抜き出します。
「実効税率が14年度の約35%から15年度に約33%に下がると、将来見込んでいる税金還付額である繰り延べ税金資産も約2%減る。企業は会計上この約2%の減少額を14年度の税引き前利益から差し引く必要がある。実際に現金を払うわけでなく、企業価値に影響がでるわけではないが表面上は決算の純利益が減る。株価に一時的な悪影響が出る企業もありそうだ。」
1.「実際に現金を払うわけではない」
繰延税金資産の減少を当期に認識しても、「前払費用」を帳簿上で減額するだけなので、確かに、当期にキャッシュアウトは発生しません。しかし、過去にキャッシュアウトさせて支払った税金の還付金(将来のキャッシュイン)の減額が判明したわけで、企業にとっては重大なことです。
2.「企業価値に影響がでるわけではない」
当期のキャッシュフローに影響が出ないから、企業価値に中立だと主張したいようですが、上記で説明済みのように、当該企業の通算キャッシュフローが悪化しているわけです。手短に、DCF(ディスカント・キャッシュ・フロー)法で企業価値を算定した場合でも、明らかに企業価値は減少します。
3.「表面上は決算の純利益が減る」
いえいえ、「実質的」に、企業の累計損益に影響が出ています。おそらく言いたいことは、当期のキャッシュアウトが不変だ、ということだけだと思います。わざわざ手間暇かけて作成した決算書が実質的な企業業績や企業価値を表していない、と主張することは、世の中の経理関係者を愚弄するもの以外の何物でもありません。
\(*`∧´)/ ムッキー!!

4.「株価に一時的な悪影響が出る企業もありそうだ」

マスコミが、セルサイドの金融機関が出す情報を鵜呑みにしてそのまま報道しなければ、投資家がヘタに踊らされることはありません。何をもって一時的とするかなのですが、将来の実効税率引き下げが、過去にキャッシュアウトした税金費用の還付額を減少させる効果は本物です。

■ まだまだ浸透していない税効果会計

1999年4月から、税効果会計が導入されて早や15年。その間に、2012年の法人減税も経験済みのはずです。なのに、どうして、これほど世の中の理解が進まないのでしょうか。
当初、法人税は「現金主義」にもとづき、現金を支払った年度に、支払額ベースでP/Lに費用計上していました。それを、法人税も「発生主義」でP/Lに計上しようとして、税効果会計がスタートしています。
しかし、「取得原価主義」で将来の費用配分額トータルが決まっている棚卸資産や固定資産と違って、税金資産は、将来の見込み計算(税率の変更や将来減算一時差異を認識できるだけの十分な課税所得があることの見通しなど)に左右されるため、そもそも理解しにくい複雑さを持つ上に、計算結果も流動的です。
そんなに扱いに困っているなら、やめてしまえばいいのではないですか?
誰のためのディスクロージャー制度なのでしょうか?
ちなみに、ランキング表1位の東芝が抱えている「繰延税金資産」の中身を紹介しておきます。
経営管理会計トピック_繰延税金資産_FY14東芝
年金関係が36%、繰越欠損金が27%、2つ合わせて6割強。年金関係は、毎年のように制度が変わり、損金算入の認識も変動しており、いまいち安定性に欠けています。また、今回の税制大綱でも、繰越欠損金の控除割合が縮小されることが決定されました。
このことから、東芝の税引き後の当期純利益はますます変動要素を増すことでしょう。担当しているアナリストの皆さんのご苦労がかえってしのばれます。
最後に、会計の世界では、「収益」「費用」「利益」なのですが、税務の世界では、「益金」「損金」「所得」です。微妙に新聞記事内でも使い分けられていないのですが、、、
そんなことは大したことじゃない!?

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